九つの塔。救世の勇者。おまけに悪役面おじさん。   作:嶋野夕陽

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間に合え

 探索者たちをかき分けて、三人はちゃっかりとテルマたちの横に立った。

 腕を組んで集まっている探索者たちを睨みつけながら、怖い顔を作っている。

 

「で、何の騒ぎだ?」

 

 何もわからずに、とりあえず協力してくれるつもりでいるらしい。

 

「近く塔から魔物があふれ出す兆候があります。十分に対処しうると思いますが、できれば犠牲者を増やしたくありません。ヴァンツァーさんが今ギルドに連絡をしてくれています。何かしら動きがあるまで、探索者を新たに中に入れたくありません」

「なるほどな、それじゃあ俺たちも手伝うか」

「信じてくれるんですか?」

「どうせジークだろ? 付き合いは短いけど分かるぜ」

「あいつはきっと、あんな怖い顔して人助けが好きなんだろ。俺だってそれで助けられたんだ」

 

 三兄弟は笑ってテルマに言うと、三人そろってずいっと前に出て腕を組んだ。

 テルマたちの方が戦えば強いのだが、見た目の迫力で言えば三兄弟の方が圧倒的だ。

 実際元々拠点としていたシャンワラの塔では、六十階にも挑んでいた強者だ。

 少なくともこの場にいるテルマたち以外のどの探索者よりも実績はある。

 

「俺らはなぁ、よそ者扱いで助けてもらえなかったし、お前らの命なんてはっきり言ってどーでもいいんだよ」

「でもなぁ、心配してくれてる奴がいるんだから、素直に聞いたらどうだ」

「それでも行くってんなら俺たちを倒していきな。この街じゃあ嫌な思いばっかりだったから、いい憂さ晴らしだぜ」

 

 ジークには命を助けられた恩があるからこそ、あれだけ愛想も良い三兄弟であったが、仲良くしようとしてもずっと仲間はずれにしてきたこの街の探索者には義理などない。

 もし挑んでくるようであれば、真正面から堂々と相手をしてやるつもりだ。

 どうせこの街には馴染めないのだ。

 もし何かあっても、シーダイの塔にでも行けばいいと考えていた。

 

 三兄弟がやってきてからは一時文句を言うものは減ったが、イラついていることには変わらない。しばらくすると、探索者の一人が言いつけたのか、入り口から番人が三名ほどテルマたちの元へやってくる。

 

「入り口を封鎖していると聞いて来たのですが……、何が目的です。塔の勝手な封鎖は、法で禁じられています」

「すみませんが事情があります。上階の魔物が侵蝕し、塔から魔物があふれ出す兆候があります。探索者たちの命を守るために、今はここを通せません」

「そのような連絡は受けていませんが……、本当ですか?」

「本当です。今ギルドの方にも連絡をしているので、疑うようであればそちらにも確認をしてください」

 

 探索者たちはともかく、番人たちは以前侵蝕があったことを知っている。

 国が秘密裏に調査を進めていることを知っているし、テルマの言葉を嘘と断言するのは難しいところだった。ただ問題があるとすれば、テルマたちが皆、ここベッケルの住人ではないことである。

 

 どこかで情報が漏洩し、塔の中で何かを企んでいる可能性だって十分にあった。

 現時点でも塔の中には相当数の探索者が入り込んでいるのだ。

 

 しかしわざわざ目立つような真似をしてまで、どんな悪事を行おうとしているのかが分からない。やって来た番人たちもすっかり困って、どうしたものかと顔を見合わせてしまった。

 そうしてしばし話し合った結果「では……」と、ギルドに確認をしにいく旨を伝えようとしたその時だった。

 

「た、助けてくれ!」

 

 塔の一階奥から、複数人の探索者が転がるように走りながら逃げて来る。

 その背後に魔物の群れを引き連れながら。

 息を切らしている初級探索者の一部は、逃げ切る前に追いつかれてしまうことだろう。

 

「ここ、任せます!」

 

 瞬間、番人にそう言い放つと、テルマは剣を抜きながら走りだす。

 ジークだったら間違いなくそうする。

 この場を離れることにもためらいはなかった。

 

 逃げる探索者も必死だから、テルマのことなんか気も使わない。

 このままよけながら駆けつけては助けるのが間に合わないと判断したテルマは、「道を空けてください!」と叫ぶ。

 剣を抜いた探索者の言うことだ、何が起こるかわからないと思ったのだろう。

 探索者も何とかテルマが通る程度の道は空ける。

 これがジークであったら、皆がきっともっと素直に避けて通ったのだろう。

 怖い容姿もたまには役に立つことだってある。

 

 テルマの進む先には、ゴブリンに後ろから押し倒された探索者がいる。

 髪を掴まれ、今にも首筋に古びたナイフを突き立てられようとしているが、その隙を見て、我先にと他の探索者たちが逃げていく。

 このままでは間に合わない。

 手を貸せば助かるかもしれないのに。

 間に合うかもしれないのに。

 誰もがジークのような気持ちを持っていれば、間に合うかもしれないのに。

 

「誰か!!」

 

 間に合え、そう願いながらテルマは叫ぶ。

 誰でもいいのだ。

 ほんの少し時間を稼いでくれれば、それで助けられるのだ。

 全員が逃げていく中、たった一人、中年を迎えようとしている男性がその声に肩を震わせて振り返った。

 

「助けて……」

 

 倒れた拍子にぶつけたのか、鼻血をたらしている探索者が腕を伸ばす。

 その男性はボロボロの装備で、冴えない顔をしていた。

 しかし、腕を伸ばされ目が合ってしまった瞬間そのまま、今にも殺されようとしている探索者に向けて走り出す。

 

「あああああ!」

 

 手に持った剣を無茶苦茶に振っただけだった。

 どうにかナイフを持っているゴブリン一匹だけを仕留めたところで、周囲は他のゴブリンたちに囲まれていた。

 仲間を殺され怒り、奇声を上げながら威嚇してきている。

 そこで我に返った男性は、顔を真っ青にさせ、震える足のまま剣を構える。

 

「あ、ありがとう」

「は、はは、で、でも駄目かもしれない……」

 

 立ち上がったもう一人の探索者が、周囲を見回して顔をひきつらせたところで、また別の声がする。

 

「ありがとうございます!」

 

 やって来た少女、テルマは、瞬く間にゴブリン数体を切り伏せ、道を開き、二人の前で剣を構える。

 

「あ、ありが……」

「逃げて!」

「お、俺たちも」

「足手まといです!」

 

 本当はそんなことは言いたくない。

 しかし、テルマははっきりと二人の援助を切り捨てた。

 奥の方から、続々と魔物がやってきているのが見えたのだ。

 

 少しでもこの場にとどまろうものなら、守り切れなくなる可能性もある。

 テルマは思う。

 ああ、ジークはもしかしたらいつも、こんな気持ちで人助けをしているのだろうか、と。

 それから続けて思う。

 いや、きっとあの人のことだから、他人の気持ちなんてそんなに気にしていないんだろうな、と。

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