九つの塔。救世の勇者。おまけに悪役面おじさん。   作:嶋野夕陽

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魔物の氾濫

 テルマは二人が逃げていくのを確認しつつ、目の前の敵を斬り捨てていく。

 襲い掛かってくるものはまだ良いのだが、そのまま塔の出口へ向かおうとする魔物もいるので厄介だ。それらに追いすがり斬り捨て、振り返り襲い掛かってくる魔物を斬り捨てと繰り返せば、いずれは出口に追い詰められていくことになるだろう。

 

「襲ってくる奴だけ相手するんだな!」

 

 横を抜けていった魔物を目で追いかけたところで、すぐ近くから三兄弟の一人の声がしてくる。いつの間にかヴァンツァーの仲間たちの女探索者も、三兄弟も、テルマと同じ横のラインで戦闘に加わっていた。

 これだけの人数がいると、魔物たちが隙間から抜けていくことは難しい。

 あとはこの横の一列を維持しながら、魔物が尽きるまで粘るばかりだ。

 

 テルマは魔物を斬り捨てながら塔の奥へと目を凝らす。

 奥の通路にひしめいている魔物の中には、ちらほらと上の階層の魔物も見えてきており、それらが手前に入る魔物を丸呑みしたり、踏みつぶしたりしながら進んできている。

 

 数分もすれば、少しずつ疲労がたまってくる。

 本来戦いというのは、そんなに絶えまなく続くものではないのだ。

 テルマの心の中で、不安が少しずつ鎌首を持ち上げてくる。

 どのくらいの強さの魔物までやってくるのか。

 ただでさえ命懸けの戦いというのは疲労が大きいのに、先が見えないというのはそれだけで精神と体力を消耗していく。

 

 まだまだ弱い敵を相手にしている段階でこれなのだから、段々と相手の強さが上がって来た時にどうなるのか。

 

 目の前の敵を斬り捨てた瞬間に、一瞬後ろを振り返る。

 せめて後方にたまっている探索者たちが手を貸してくれればいいのだが、直前まで対立していたせいなのか、どうしていいかわからないようで、武器を抜いたままその場で立ち止まっているようだ。

 流石に番人たちは動き出してくれているようだが、今のところまだ戻ってくる気配はない。

 

「あぶねぇ!」

 

 まだ敵との距離はあったはずなのだが、突然目の前に三兄弟の一人が割り込んでくる。テルマは瞬間的に誰だか認識できていないが、それはジークとテルマに助けられたリャンであった。

 リャンが一刀両断にしたのは、関節をぐちゃぐちゃにされたゴブリン。

 油断していたテルマに向けて、オーガが丸めて投擲してきたのだ。

 ぶつかれば体勢を崩して、そのまま群がられてしまう可能性もあっただろう。

 

 テルマを庇ったリャンに向けて、近寄ってきていた大蛙の舌が伸びる。

 テルマはそれがリャンの体に巻き付く前に斬り捨て、「すみません!」と謝罪をしつつ、そのまま先ほどまでリャンがいた場所を抜けようとしていた魔物を一体切り伏せた。

 一体はそのまま抜けてしまっていたが、その額にストンと矢が生え、その場にばたりと倒れる。

 

「抜けたのは気にしないで! 前だけに集中して!」

 

 ヴァンツァーの仲間である女探索者による援護だ。

 魔法使いと弓使い。

 二人が抜けてしまった魔物に関しては始末してくれているようだ。

 

「そりゃ助かる……!」

 

 テルマを助けたリャンが了解の声を上げる。

 仲間内では暗黙の了解であったようだが、三兄弟とテルマは、彼女たちと共に戦うことには慣れていない。意思の疎通を図れたことで、ここにきてようやく魔物の取り逃しを気にする必要がないと分かって、正面に集中できるようになった。

 後衛の二人にしても、声をかける機会を窺っていたのだろう。

 

 十五分。

 テルマは疲労をかなり強く感じてきていた。

 相対する敵の多くがオーガ以上。

 つまり四十階相当のものに変わってきている。

 少し前に番人たちもやってきて、数人がかりでオーガたちを始末してくれているので何とかなっているが、問題はこの先だ。

 

 ベッケルの塔の特徴の一つに、五十階より先に現れる特殊な魔物が、全体的に丈夫である点がある。その分動きが鈍かったり、数が少なかったりする部分もあり、攻略自体は時間を掛ければ難しくはない。

 ただ、こうして魔物が溢れてくるような状況であると、一体一体に時間をかけることが、そのままリスクになるのだ。

 

 そういった階層の魔物が溢れてくるようになれば、きっと番人たちにも被害が出始めることだろう。

 ベッケルの街の問題点は、六十から七十階辺りを主な探索層としている、上位の探索者の数が少なくなっているところだ。元々は他の街と変わらぬ程度いたのだが、以前に街を挙げて塔の攻略に乗り出した際に、ドワーフたちに返り討ちにされてしまっているのだ。

 今となってはアプロムが率いる一行が、この街での最も強い探索者の集団である。

 

 ここまで魔物が強くなってしまえば、入り口で溜まっている探索者たちが戦いに加わっても、それこそ足を引っ張るような結果になりかねない。

 

 どこまでの魔物が来るのか。

 さきほど一瞬脳裏に浮かんだ疑問が、身体の疲労がたまり、敵の強さが上がっていくごとに現実的な心配になってくる。

 

 それでも前線で戦うテルマたちは、目の前の敵を打倒し続けるしかない。

 こん棒をくぐり、できるだけ一撃で敵を仕留めるよう意識しながら、少しでも数を減らすしかない。

 

 増援の声は、まだ聞こえてこない。

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