九つの塔。救世の勇者。おまけに悪役面おじさん。   作:嶋野夕陽

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恐れ、憧れ、平常運転

 鎮圧にはそれほど時間はかからなかった。

 アプロムをはじめとするベッケルの街の探索者の奮戦はもちろんあったが、それ以上にジークの働きがすさまじかった。

 やってきて早々敵の中に切り込んでいったジークは、そのまま足を止めることなく魔物を屠り続けたのだ。時に一振りで魔物の数体の首を切り落とし、時に質量のある魔物を剣の先端にある鉤に引っ掛けて振り回す。

 どんなに腕の悪い探索者であろうと、その暴れぶりを一目見れば、あれにはかなわないと理解した。

 

「あいつには近づくな! 抜けようとするのから始末しろ!」

 

 アプロムの指示は的確だった。

 嵐のように暴れまわるジークに近付けば、足を引っ張るだけだ。

 魔物たちもジークの脅威が分かっているのか、徐々に塔から抜け出すことではなく、ジークを倒すことに専念するようになる。

 

 オーガを壁の端まで追い詰めて圧し切り、全身を岩の装甲で覆われた大虫を一刀両断。引き抜く際に弾き飛ばした大虫の装甲が、空を飛ぶ血吸い蝙蝠を翼だけ残して消し飛ばす。

 すべての動作が敵の命を奪うためだけに効率化されており、その刃がもし自分に向けられたらと考えてしまった探索者たちは、背筋をぞっとさせる。

 

 特に一度は敵対しかけたことのあるアプロムは、いつの間にか呼吸をすることも忘れて、ジークの動きに見入っていた。

 自分と相対した時のジークがどれだけ優しく、どれだけ手を抜いていたのかがはっきりとわかる。それほどの圧倒的な実力差だった。

 

 ジークが最後の魔物を切り伏せたところで、アプロムはようやく息を吸った。

 全身に血を浴びているというのに、戦闘に影響が出そうな手元、そして首から上には一切の返り血がない。

 功績だけ見ればまさに国王のいうような『英雄』なのかもしれない。

 しかしその図抜けた、得体の知れない強さは、そんな生ぬるいものではなかった。

 

 魔物を殺すためだけに生まれてきた化け物、とでも形容すべき恐ろしい存在であった。

 

 しかし同時にジークの強さは、一部の探索者たちの心を揺さぶった。

 探索者をしている以上思い描いたことのある最強。

 たどり着くべき境地。

 

 アプロムはブルリと体を震わせる。

 その心に芽生えた感情は憧れ。

 邪魔者で、敵対しようとした相手に対して、アプロムはいつの間にか憧れを抱いていた。

 ああありたいと願った。

 自分こそが英雄であると信じていた。

 いつか辿り着くべき場所に、既に到達している者がいた。

 

 ジークが振り返ると、探索者たちから歓声が上がる。

 一部の探索者は最強の男に対する称賛を我慢できなかったのだ。

 

 アプロムはしばし黙って俯いていたが、やがてこらえきれずに声を上げた。

 嫉妬も、敵対心も、今は投げ捨てて、ただ心が震えるほどの強さを、他のみんなと共に称賛したかった。 

 

 ジークはそれを魔物の侵攻に勝利したことへの勝鬨であると捉え、何一つ気にすることなくテルマの下へ向かった。

 

 ぐるりと見まわして全員が無事であることは確認している。

 致命傷を負ったものは見る限り一人もいない。

 テルマの目の前までやって来たジークは、間に合ったと、安堵のため息を吐く。

 

「すみません……、ジークさんが来ていなければどうなっていたか……」

 

 ため息を受けたテルマは、俯きながら謝罪する。

 任せろ、信じろと大口をたたいて出てきた結果がこれだ。

 そりゃあため息も出るだろうと、すっかり落ち込んでいたのだ。

 

「そうだな」

 

 実際危ないところだった。

 ジークは素直にテルマの言葉に同意してから、後方で待機しているはずのニコラの姿を探す。ドグラとカッツと横並びでいるのを確認して一安心。

 なんとなく今の対応に問題があったような気がして、もう一度テルマの方を見ると、なんだか元気がないようにも見える。

 

 ジークはしばし考えてから、肩にポンと手を乗せて言葉を付け足す。

 

「力の使い方が上手くなった」

 

 頑張ったなとか、無事でよかった、とかは出てこないが、土壇場でテルマの実力が向上したようであるのは見ればわかった。

 一言付け足したところで、テルマの表情が少しばかり明るくなったのを確認。

 これで問題ないかと勝手に納得したところへ、ヴァンツァーがやってくる。

 

「すまん、約束を破った」

「いやいや、思ったよりも魔物の動きが早かったから、むしろ助かったかも。ジークさんが来てなかったら、正直危うかったと思う」

「そうだな」

「それにしても……、何で出てきたの?」

「どうせばれたからもういいと思った」

「……どういうこと?」

「あれだ」

 

 ジークが顎で示した先を見たヴァンツァーは、そこに妹とカッツ、それに布を被ったドグラがいることに気が付いた。

 

「は……? カッツさんに、ばれたってこと?」

「そうだ」

「なんで、普通に一緒にいるの?」

「話し合った」

 

 あまりにも言葉が足りない。

 状況が全く理解できないヴァンツァーは、すぐにジークから話を聞き出すことを諦めて、賢明なる妹から詳細を聞くことに決めた。

 

「話はニコラから聞くからいいや」

 

 そんな話をしているうちに、疲れ切った様子のヴァンツァーの仲間たちも集まってきて、一行はニコラたちが待っている方へ歩き出す。

 もう少しで合流、というところで、一人の男がその行く手を遮った。

 

「英雄たちよ、素晴らしい戦いであった。特にそこの大剣を持った探索者よ……」

 

 国王の登場であった。

 質の良い服に、言葉遣い。

 副ギルド長と護衛がすぐ横に控えているのを見れば、その身分を察することは難しくない。

 

 しかし、それを察することができないものも当然いる。

 ジークはヴァンツァーが止める間もなく、口を開いていた。

 

「どけ、邪魔だ」

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