九つの塔。救世の勇者。おまけに悪役面おじさん。   作:嶋野夕陽

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 反省会は非常に有意義なものとなった。

 内容は殆んどテルマが反省点と改善点を述べているだけだったが、時折気になる箇所があるとジークも口を挟む。

 今まで母に相談するか、一人で試行錯誤を重ねてきたテルマとしては、それが新鮮で面白い。かといってジークの言うことは、テルマの考えと大きくずれているわけではなく、その延長線上にある様なものであることが多い。

 ジークとしてもテルマの考えは、自分が通って来た道の途中を見ているようで、アドバイスをしやすかった。これはジークが世話になっていたパーティから探索者としての生き方を教わり、テルマが同じく母親から探索者の心得を聞いて育ってきたからである。

 つまり、相性が良かった。

 

 一段落したところで、テルマはふと疑問に思ったことを口にする。

 

「そういえば、この街の塔では随分と上層階から魔物が下りてきますが、これは普通のことなのですか?」

 

 ジークが遺品を拾った場所にいたオーガ。

 それから今日であった下級妖精。

 今までのテルマの認識だとこんな体験をするのは本当に不運な探索者だけであるはずだった。宝くじを二回連続で引くような体験をしてしまうと、もしかしてこれ当たりくじばっかり入ってるのではないかと疑うのも無理はない。

 そして実際、十年ほど前から、塔の魔物の生態が入り乱れはじめて、最近ではその頻度がさらに増しているのは事実である。

 

「数カ月に一度くらいは出会うと思っておけ。最近はますます頻度が上がっているから、もっと警戒していてもいい」

「……頻度が上がっているんですか? 何か原因が?」

「わからん。他の塔でも報告例は上がっているらしい」

「私が登っていた塔では、ほとんどありませんでしたが」

「だから余計にわからん」

「どういうことです?」

「お前が登っていた塔以外では、どこでも起こっている現象らしいということだ」

 

 テルマは首をひねり、ジークが言っていることについて考える。

 残念ながらそれらしい答えは出なかったけれど、新たに浮かんできた質問を口にする。

 

「であるなら、もう少し探索者に注意喚起をするべきなのでは?」

「最低限出している。なんなら低階層の魔物が塔の外に漏れだすこともあった」

「……そんな話、聞いたことがありません」

「番人によって食い止められている。一般市民が混乱するため、原因がわかるまでは公表したくないらしい」

 

 話を整理しながら聞いていたテルマは、あっさりとその話の矛盾に気が付いて変な顔をしながらジークをじっと見る。

 

「……それって私に話してもいいことですか?」

「駄目だ。誰にも言うな」

「じゃあ話さないでください」

「聞いただろう」

「聞けば何でも答えるんですか?」

「大体のことはな」

 

 例えばジークとテルマの両親の関係とかは話せないが、テルマの身の安全に繋がることであれば、多少ギルドに注意されるくらいならばジークはどうでも良いと考えている。

 

「それが話せて他に何が言えないんですか」

 

 それに関しても黙秘がジークの回答である。

 しばらく待っても口を閉ざしたままのジークに、テルマはため息をついて話題を変える。

 

「もういいです。……でもわかりました、上層階の魔物も調べておいた方がいいですね。調べて分からないことがあれば教えていただけますか?」

「聞けば答える」

「わかりました、では来週は休んで再来週に六十階に挑戦します。七十階まで抜けるのには三日程度を想定しています。それよりも延長する場合は、引き返すことも視野に入れるつもりです」

「そうだな」

 

 ジークの肯定はそれが良いという意味である。

 テルマはこの短い付き合いの間にそれを理解していたから、満足して大きく頷き立ち上がった。

 

「では、私は今日はこれで休みます。次に会った時にはいくつか質問があるかもしれませんので、よろしくお願いします」

「わかった」

 

 テルマが颯爽とその場を立ち去ると、口さがのないものがジークの悪評と絡めてテルマの非難をする。

 だから言ったのだ、と思う反面、なぜだか無性にイライラしてきたジークは、木製のジョッキをテーブルに優しく優しく叩きつけた。

 結果はそれなりに響く音と、傷のない丈夫なテーブルに、粉砕されたジョッキだったもの。量産品のジョッキは何度も使い回すようなものではないが、壊してしまったのは事実である。

 ジークは破片を集めてゴミ箱へ放り込むと、立ち上がってギルド内に設けられた食堂の従業員に近寄り金を押し付けた。

 

「悪いが新しいのを買ってくれ」

 

 緊張しながらもかしこまった従業員を置いて、ジークはテーブルに戻る。その頃には噂話はわざとらしく別の話題へとすり替わっていたが、不愉快な気持ちには変わりなかった。

 もう宿へ戻って寝ようかと考えていると、正面から大男がやってきて、勝手にさっきまでテルマが座っていた椅子に座った。

 どうにも最近客が多い。

 

「何癇癪起こしてんだお前。何言われても黙りこくってたくせに、珍しい」

 

 地を這うようなガラガラ声で喋り始めたのは副ギルド長のウームであった。テルマとパーティを組むことになった元凶と言ってもいい。

 感謝をするべきか微妙な相手である。

 

「テルマと仲良くなったようだな。ああいう真面目そうな子が好みだったのか」

「殺すぞ」

「殺すな、面白くない冗談を言った。これは俺が悪い」

 

 いつもと違い本気が半分くらい混じっている威嚇に、ウームは手を挙げて降参した。そして先ほどジークがイラついていた原因にも大方当たりをつける。

 

「こんなところで一緒に食事をしていたら、気に食わないことになるに決まってるだろう。それがわからないほど馬鹿じゃあるまいし」

「やめろと言ったのにあいつが勝手に座る」

「おいおい、テルマのせいにするんじゃねぇよ。いつものお前ならそのまま席を立ってどこへでもいくだろうが。なんであの子ばかりにそんなに甘い」

 

 周りはともかく、まともにジークと触れ合ってきた人物ならばみんなわかることだ。

 ジークはテルマにだけ他と対応が違う。

 その原因が思い当たらないウームは、わざわざこうして足を運んできたというわけである。

 ギルドのテーブルにジークとウームが揃った時点で、周りに座っていた探索者はコソコソと逃亡を始めたので、今や会話に耳を傾けているものも誰もいない。

 いつもの部屋に篭らなくても、機密情報だって話し放題だ。

 ジークは答えないが、その反応にも慣れているウームは勝手に話を進める。

 

「ま、俺が頼んだことだし、お前が他人に関心を持つのが悪いことだとも思わん。だから邪魔はしないがな。ただ感情に振り回されすぎてあまり八つ当たりをするなよ。壊したから金払えば良いってもんじゃねぇんだ」

「わかってる。悪かった」

「俺に謝ってもしょうがねぇだろうが」

「誰に謝ればいい」

「そりゃあ、ジョッキ作ったやつとかだろ」

「どこにいるんだ」

「……これも俺が悪いな。冗談だ、量産品に思い入れがあるやつなんていねぇよ。ただ八つ当たりするなって話がしたかっただけだ」

 

 変な顔をして謝ってきたウームに、ジークは真顔で言う。

 

「冗談なのはわかっていた」

「嘘だろ、お前そう言うのわかるのかよ」

「昔、くだらないことばかり言って笑っている仲間がいた」

 

 ぽろりと漏れた言葉に、ウームは何度か瞬きをして身を乗り出した。

 

「意外だな。お前の育ての親ってやつか?」

「そうだな」

 

 ウームは続く言葉、つまりジークが当時の話を始めるのを待ち、それをする気がないジークは口を閉ざしたままだ。

 たっぷり三十秒は待ってから、ウームは眉間に皺を寄せる。

 

「昔話をする流れだろうが。そう言うのは教わらなかったのか? えぇ?」

「知らん。話さん」

 

 こうなると強情なのはいつものことだ。

 これ以上時間をかけるのは無駄である。

 

「それで、テルマは無事にやっていけそうかよ」

「悪くない。特別良くもない。聞いた通りだ」

 

 つまり七十階相当の実力者ということなのだが、非常に言い方が良くない。本人が聞いたら嫌な印象を受けることだろう。

 

「そうか。で、なんでテルマに甘いか話す気になったか?」

「ならん」

「この野郎、マジでたまに本気でぶん殴ってやろうかと思うぜ。俺が副ギルド長って地位にいることに感謝しろよ、テメェ」

「そうだな」

 

 面倒ごとを多少押し付けてはくるが、それ以上に好き勝手やらせてもらっている自覚があった。ジークはそれなりにウームに感謝しているし、これはその気持ちを込めての肯定の返事である。

 ただし話したくないことは話さないけれど。

 

「……ったく。かわいげのねぇ」

 

 それを受け取ってしまった察しのいいウームは、ブツクサと文句を言いながら立ち上がる。

 

「じゃ、有望な新人を頼んだぞ」

「わかった」

「問題を起こすんじゃねぇぞ」

 

 返事なし。

 

「もうちょっと他の奴らとも仲良くしろ。特にニコラとかな」

 

 やはり返事はないが、少しばかりジークの表情が変わった。それを確認したウームはふんっと鼻で笑い、上機嫌にギルドの奥へと引っ込んでいくのだった。

 

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