九つの塔。救世の勇者。おまけに悪役面おじさん。   作:嶋野夕陽

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 テルマがヴァンツァーを捕まえているうちに、あの場を抜け出すつもりだったジークの作戦は、ものの見事に失敗した。あれで高層階の探索者だから、人の視線が集まればジークがいることくらい気が付いてしまうのだ。

 ジークはヴァンツァーのことが特別嫌いというわけではないのだが、諸々の事情から話さなくていいのならば話したくない、くらいに考えている。

 早足で退散したはいいものの、あの男は結局街に滞在しているうちのどこかでジークを捕まえて、満足するまで好き勝手に話していく。ジークの事情なんてお構いなしの男で、どうしても捕まらない場合は、塔についてくることすらあるくらいだ。

 パーティを組んでいる仲間たちにとってはいい迷惑だが、彼女たちはそこでヴァンツァーに文句を言うのではなく、ジークを睨みつけてくるのだからたちが悪い。

 あの男の面倒なところは、とにかく街で人気があることである。

 それは探索者だけに関わらず、老若男女も問わずで、ジークの行動範囲にいる人の全ての視線がヴァンツァーの目のようなものだ。ヴァンツァーがにっこり笑って『ジークさんが今どこにいるか知ってる?』と聞けば、ぽろりと情報が落ちてくる。

 つまり逃げるのは無駄である。

 それこそ塔の中にこもり続けるのが一番いいのだが、そうすると危険を冒してでもそのうち会いにやってきそうなので、現状ジークが取れる手はなかった。

 

 なぜかテルマまで引き連れてやってきたヴァンツァーは、苦り切った表情のパーティメンバーのことを気にせずにジークの背中に声をかける。

 

「お待たせ、どこか食事がとれる店へ行こう」

「ここで話せ。俺は帰る」

「そういわずに、ね」

 

 先に歩きだしたヴァンツァーの背を見ながら歩き出さずにいると、テルマが近寄ってきて小声で話しかけてくる。

 

「ヴァンツァーさんと仲が良かったのですね」

「良くない」

「ヴァンツァーさんは私の父ではないというのですが、どう思いますか? これでは私の調査がまた振り出しに戻ってしまうのですが……」

「知らん」

 

 ジークがこんな態度ばかり取っているせいで、周りには自分の意見を押し付けてくる、とにかく我の強い奴ばかりが揃っている。

 止まっていてもテルマの相談に乗らなければいけないことに気づいたジークは、仕方なく毎度のイベントをこなすためにヴァンツァーの後を追いかけることにした。

 

 店へ着くとヴァンツァーだけが立っていて、パーティメンバーはすでに腰を下ろして待っていた。

 

「テルマさんはこっち。ジークさんはこっち」

 

 流れ作業のように場所を決めたヴァンツァーは、そうしてテルマの対面、つまりジークを席の中へ押し込んで蓋をするような形で座った。咄嗟に立ち上がって帰り難いポジションである。

 テルマは特に気にもせずにメニューをとったが、それを見たヴァンツァーが声をかける。

 

「あ、特別食べたいものがなければ頼まなくていいよ。もう僕が頼んであるからね」

 

 とても手際がいい。

 どうも椅子の位置が悪いのかしきりにジークの方へ寄っていき、肩が触れ合うほどの位置までやってきたところでようやく動きを止めて身を乗り出した。

 

「ところで、テルマさんはジークさんと仲がいいの?」

 

 先ほどまでと変わらぬ笑顔だ。

 しかしどこか妙な雰囲気が漂っている。

 ヴァンツァーとの話に今一つ納得のいっていなかったテルマは、ついて行ってもいいかと先ほど自分からお願いをしたのである。図々しいお願いだが、その時もやっぱりパーティメンバーは気にした様子はなかったが、逆にヴァンツァーは一瞬眉を顰め「ジークさんがいるのに?」と尋ねてきた。

 テルマが迫力に押されて黙って頷くと、ヴァンツァーは「ふぅん」と値踏みするような目をテルマに向けてから「ま、いいよ?」と言って許可を出したのだ。

 この質問はその続きということになるだろう。

 

「仲がいい……、のでしょうか」

 

 テルマが曖昧にジークに視線を向けると、帰ってきた答えはいつもと変わらぬ「知らん」というものだった。なぜだか少しむっとしたテルマは、ジークに目を向けたまま「一応パーティを組ませてもらっています」と答える。

 

「はは、塔の中で会って助けてあげたの?」

「違う」

 

 ヴァンツァーはジークの肩に頭を預けて、テルマにではなくジークに尋ねる。

 ジークは鬱陶しそうに身動きしたが、どういうバランスなのかぴったりとくっついた側頭部が離れる様子はなかった。

 

「あー、心配でついて行ってあげた? ジークさんがパーティ組むわけないもんね」

「あの、私ちゃんとジークさんとパーティを組んでいますが……」

 

 テルマにヴァンツァーの視線がむく。

 表情は笑顔のままだが、目が完全にかっぴらかれておりハイライトがない。

 

「ジークさん、ホント?」

「本当だ」

「なんで?」

「うるさい」

「僕ともパーティ組も?」

「嫌だ」

 

 先ほどまでのスムーズな動きが噓のように、ぎこちなく首の位置を元に戻したヴァンツァーは、立ち上がって椅子を横に向けて体ごとジークの方を向くと、たくましい腕にぺたりと両手をのせてにっこりと笑う。

 

「ジークさん、わかった、パーティはいいよ。誰とも組むつもりはないから僕とも組まないって言ってたのに、パーティを組んだのはいいよ。嘘をつかれてショックだなぁ、でもいいよ」

「噓は」

 

 ヴァンツァーは嘘はついていないというジークの言葉を待つつもりはなかった。

 

「それはいいから、こうなったら僕のものになろう。大丈夫、僕、結構可愛らしい顔してるから、真面目に化粧して女性ものの服を着ればそう見えるから。これで全部解決。塔でこの子とパーティを組んでても僕は何も文句言わないよ。お金も持ってるし、夜の営みも得意だ、断る理由はないね?」

「うるせぇ」

「結婚しよう」

「嫌だ」

 

 取り付く島もないとはこのことだろう。

 テルマはすでに目が点になって話についていけてない。

 今日はテルマの件があったからいつもよりも少々派手であるが、似たようなやり取りはこれまでも何度も行われてきたことだ。パーティの女性たちは苦り切った表情を崩さないが、改めて口を挟むほどのことでないことを知っているから、黙って話が終わるのを待っている。

 

「なんでかなぁ!」

「男だからでは……?」

 

 慣れていないテルマが動揺しながらも突っ込みを入れると、子供の様に拗ねた顔をしたヴァンツァーから反論される。

 

「噓だね! 僕、男にもよく告白されるもの!」

「あ、そうですか」

 

 それなのにヴァンツァーのハーレムに男性がいないのは、たいていの男性が、ヴァンツァーを独占したがるからだ。それではパーティの約束が成立しないので、それなりに気に入った相手であっても、一晩相手をすることで忘れてもらうようにしているヴァンツァーである。

 この価値観のぶっ飛びと、ジークにやたらと執着していることをのぞけば、本当に何一つとして欠けた部分のない完璧な男なのだ。最近のパーティメンバーは、ジークに一生懸命アピールをしているヴァンツァーの姿も、かわいらしい頑張りとして受け入れるように努力している。

 それはそうと断り続けるジークのことは気に食わないのだが。

 彼女たちにしてみれば、うちのヴァンツァーの誘いをなぜ断り続けるのだという気持ちがある。ただし、ジークのためならば自分たちとのパーティ関係もあっさりと解消するであろうから、受け入れられても困る。

 どっちにしても彼女たちにとってジークというのは存在しているだけで都合が悪いのだ。

 とはいえ、彼女たちは皆ヴァンツァーにベタぼれであるから、ヴァンツァーが大好きなジークのことを排除しようという気も起きない。胸中複雑である。

 

「ねぇ! 一回! お試しだけでいいから!」

「嫌だ」

 

 もはや何の話をしているのかよくわからなくなっているが、十五分ほど粘った末、料理が揃ったところでヴァンツァーは椅子を元の位置に戻す。

 

「くそぅ、ライバルはニコラだけだと思ってたのに……」

 

 一言愚痴をこぼして、とりあえず食事を優先することにしたヴァンツァーである。

 いったんこの求愛モードが終われば、ヴァンツァーも落ち着いて面倒なことをしばらく言わなくなる。

 いつもより少しばかり長かった恒例行事を乗り越えて、ジークは深くため息を吐くのであった。




書き溜めなくなったので、一日一話更新になる気がします。
皆さんの応援のお陰でランキングに乗ることもできて、本当に感謝しております。
ありがとありがと
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