九つの塔。救世の勇者。おまけに悪役面おじさん。   作:嶋野夕陽

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84話

「塔の中はどうだった?」

 

 ヴァンツァーの質問で食事をしながらの話し合いが始まった。

 おいていかれたので少しばかり拗ねている顔をしてみるが、それを気にしてくれるのはヴァンツァーのパーティメンバーばかりで他は知らん顔である。

 本来はクエットが占領している大部屋での食事の予定だったのだが、あちらは占領されてしまったので次に大きな部屋での食事となった。

 お陰で宿に比べて少人数である一行にとって、広さは丁度いい具合になったけれど。

 

「侵蝕は随分と進んでいる感じはしました。一方で、この街の探索者もそれに適応しているのか、追い詰められて困っている人は見かけませんでしたね」

 

 黙々とジークが食事をすすめる中、テルマが代わりに必要なことを答えていく。

 ジークはいわば専門家であるから、必要な時にだけコメントがもらえればいいのだ。基本的な情報を聞き出すには、あまりにもコミュニケーション能力が低いので、同行者がいればそちらに聞くのが正しい。

 

「聞いたところによると、塔からあふれ出した魔物は比較的低階層のやつらだったって。その場にいた冒険者たちが協力して掃討。一応十階層くらいまでの掃除はすぐに済んだみたい。だからその辺りまでは比較的安全なのかも」

「今日は十階までしか行かなかったから安定していたんでしょうか?」

「どうかな。一応高位の探索者たちが、善意でそこから上の方も倒して回っているようだけどね。実際は高位階層も侵蝕されてるから、危険を察知した人から様子見に入っているって言うのが本当みたいだよ」

 

 ベッケルの探索者たちも、魔物が塔の外へ出る前から少しずつ塔の異常には気が付いていた。いつもの階層で探索をしているのに時折命を落とす者もいたし、時には命からがら逃げてくるものもいた。

 そういった経験を踏まえ、いよいよ今は自分の実力以上の階層に挑戦しなくなったのだろう。

 このまま放っておけばベッケルの塔は上から少しずつ強い魔物が下りてきて、いずれは取り返しのつかないほどの強い魔物が塔からあふれ出してくることになる。

 

「どうする」

 

 食事をする手を止めたジークが端的に尋ねると、ヴァンツァーは表情を引き締めて答える。

 

「僕たちは十階層以降をしらみつぶしに探索する。もし喋る魔物がいたら撤退。ジークさんはひたすらに上を目指す。向こうに探索者を探して殺す意思があるのなら、ジークさんを狙ってくると思うんだよね。そうだな……もし七十階層程度の敵が出てくるところにたどり着いても喋る魔物に遭わなければ、一度攻略を止めてそこから今度は降下しながらすべての階層を徹底的に浚って行く、って感じでどうかな」

「そうだな」

 

 大体の作戦内容を理解したジークにこれ以上語る言葉はない。

 また黙々と食事を再開するのを、隣に座っているニコラがニコニコと眺めている。

 自分の食事はあまり進んでいないが幸せそうだ。

 

「一応途中で出会った探索者からはできるだけ情報収集してほしいな。それでしゃべる魔物の情報が聞ければ、そこを重点的に探りたいから。これに関してはテルマさんにお願いしてもいい?」

「はい、頑張ります」

 

 本当は自分がジークと組みたいヴァンツァーだが、そこはパーティやこの依頼に対する責任がある。流石にそこでわがままを言うつもりはない。

 ジークが信頼して作戦の立案を任されている以上、その期待にはなんとしても応えるつもりだ。

 それにジークはテルマを相棒として選んでいるのだから、それを邪魔するつもりもなかった。

 

「他に何か伝えておくべきことがある人はいる?」

「あ、私からぁ」

 

 手を挙げたのはクエットで、この部屋に入ってからは仮面も取って顔の傷が全部見えるようになっている。食事の時は仮面をつけているわけにはいかないので当然だ。

 

「ポーションは持ってきた分も合わせて数日分は持つでしょう。それなりの工房準備ができたので、量産もできる態勢は整えました。前日までにあらかじめ必要な量を言っておいてくれれば準備しておきますよ」

「前日でいいのですか?」

 

 ざわつきながら尋ねたのはヴァンツァーのパーティメンバーの一人だ。

 前線に立つことの多い大剣使いの彼女は、怪我をすることも多く、それなりにポーションの世話になることがある。

 だからこそ品質の良いポーションの相場も知っているし、発注から手に入るまでにどれだけの時間がかかるかも知っている。

 ここ数年はヴァンツァーがポーション関係の消費物資をどこからか補充してくるのか不思議に思っていたのだが、つい最近このクエットから買っていたことを聞いたばかりだ。

 

「まぁ、数時間もあれば全員に十分いきわたる量は作れるつもりですねぇ。ジークさんのように何十個もできるだけ早く寄こせって言ってくるお客さんもいますし」

「非常識な……」

 

 へらへらと笑うクエットにも、それを当たり前のように注文するジークにも向けられた言葉であった。

 テルマにしても大量のポーションに世話になった日々は記憶に新しいので、あまりクエットに強く出られない。ジークが十分に金を支払って購入しているとはいえ、クエットがいなければ大量のポーションが用意されることなどなかったのだから。

 

 ある意味、もうちょっと能力が劣ってくれていれば、辛い思いをしなくてよかったということにもなるのだが。

 

「他にも変わった薬が欲しい場合もどうぞご遠慮なく。実験体になって下さる方もいれば教えてくださいな」

「いや、それは遠慮しておく」

 

 大剣使いの探索者が真顔で実験体の話は断る。

 すごいことをする奴は大体変人なのだ。

 こんな得体のしれない研究者に体を預けてただで済むとは思えなかった。

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