九つの塔。救世の勇者。おまけに悪役面おじさん。   作:嶋野夕陽

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85 連携

 翌日からは一斉に宿から出払って塔の探索が始まる。

 それぞれが必要数以上の数のポーションを持ち、準備は万端だ。

 

 ヴァンツァーたちは入り口からまたしらみつぶしに。

 ジークとテルマは十階から上を目指して進んで行く。

 五十階を越えるまでは塔ごとの特色も出てこないはずだが、場合によってはそれらも侵蝕してきているはずだ。警戒するに越したことはないだろう。

 

 とはいえこの辺りはまだまだ他と変わらぬ魔物しか出てこない。

 二人はひたすらに階段を目指して塔の中を進んでいく。

 低階層の地図はヴァンツァーがギルドから手に入れてきているので、丸一日かければ、特に問題が起こることなく三十階までたどり着くことができた。

 

 ヴァンツァーたちも流石上位の探索者だけあって、丸一日かければ十階までをくまなく探索することができたようだ。

 上の階に向かうにつれて一階が段々と広くなっていくので、ここから先は探索に少しずつ時間がかかることになっていくだろう。

 

 帰ってきて翌日。

 また探索に出ようという時にジークが珍しく自分から口を開く。

 

「泊りがけで上を目指した方が手っ取り早い」

「うーん、毎日帰ってきた方がいいなぁ」

 

 提案はヴァンツァーにあっさりと却下された。

 ヴァンツァーはジークのことを尊敬し憧れているが、だからと言ってなんでも承諾するわけではない。

 どうしてだという目線を受けてヴァンツァーは苦笑する。

 別にニコラが寂しがるからとか、テルマと二人きりで一晩を過ごさせたくないとか、そういった諸々の事情ではもちろんない。

 

「それをすると情報の共有ができないから。例えば僕たちがしゃべる個体を見つけて帰ってきたのに、ジークさんがそれから三日間戻ってこなかったらその間どうするって話になるでしょ」

「……そうだな」

 

 一人で探索ばかりしてきたジークには思いつかなかったが、当たり前の回答であった。かくして手分けして事に当たるという初めての経験をしながら、ジークは淡々と階を重ねていく。

 

 探索三日目の終盤。

 三十九階の探索中。

 もうすぐ四十階というところで、遠くから悲鳴が聞こえてきた。

 階段へ向かう通り道ではないが、ジークは無言で進路を変える。

 

 テルマとジークの間にはほとんど会話がないが、必要だと思ったときにはテルマの方から話しかける。

 

「なんでしょうね」

「わからん。だが行く」

 

 この階は三十階層の後半。

 今の状況を考えればある程度手慣れた冒険者ばかりがいるはずだ。

 悲鳴が聞こえてくるということは、侵蝕によって上から魔物が下りてきている可能性が高い。

 

 この塔の特色は洞窟だ。

 上階層になるにつれて、塔の中が炭坑や洞窟のように変化していき、それにふさわしい魔物が現れる。

 例えば吸血のコウモリであったり、地面を掘り進んで襲ってくるワームであったりがその代表だ。あちこちが消えない松明で照らされているそうだが、全体的に薄暗く、人にとっては厳しいフィールドであると言えよう。

 

 拾得物としては宝石や金属、それに武器が多い。

 各地から商人がよだれをたらして集まってくるのもこれが理由だ。

 探索者が使っている特殊な武器や防具の多くは、このベッケルの塔から手に入ったものである。

 

 大部屋を三つほど抜けて駆け付けると、探索者が二人、ジークたちの方に武器を向けて待ち構えていた。戦おうというわけではなく、何かがやってくるから身構えていたという形だ。

 ここで口論になると本当に殺し合いになりかねないので注意が必要だ。

 彼らの後ろには足から血をぶちまけて唸っている探索者がいる。

 

 ジークが一歩前へ出て、ポーションを使ってやるために『どけ』と言おうとしたところで、テルマがさらに一歩先に出て先に口を開く。

 

「ポーションがあります。そちらが持っていないのならば使いますが」

 

 ジークが一歩前へ出た時点でかなり警戒心を露わにしていた冒険者たちが、テルマの言葉に表情を崩す。

 

「本当か!?」

「頼む、助けてやってくれ!」

「わかりました、通してください」

 

 テルマが駆けだすと、すぐ後ろにジークもついていく。

 場合によっては探索者たちの動きが演技であり、テルマがポーションを使おうとしている間に襲ってくる可能性もあるからだ。

 

 しかし二人の探索者は、ジークを気味悪そうに見て大きく距離を取った。

 顔に傷跡のある強面の大男なんて、関わらないほうがいいに決まっている。

 塔の中では魔物と同じくらい、やばい探索者と関わるのは危険だ。

 この程度の反応で済んでいるのは、美少女と言って差し支えないテルマが一緒にいるからだろう。

 

 転がって苦しんでいる探索者は、足首から先がなくなっているようだった。

 

「待て」

 

 ポーションを取り出そうとしたテルマの手をジークが止める。

 

「なんですか?」

 

 意味もなくそんなことをするはずがないと知っているテルマは、普通に問い返したが、待機している探索者たちはにわかに色めき立った。

 この緊急時に、どさくさに紛れてとんでもない交渉をしてくるのかと思ったのだ。

 だとすれば怪我をした仲間に近付けたのは失敗だ。

 

 武器を強く握り直した探索者たちを無視して、ジークは荷物の中に手を突っ込み、何かを取り出すのであった。

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