九つの塔。救世の勇者。おまけに悪役面おじさん。   作:嶋野夕陽

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87 手分けしての情報収集

 そこから先の行軍はちょっとばかり面倒くさくなった。

 彼らは然程情報を持っておらず、転がってきた石が爆発するという話も、聞いたことはあれど体験するのは初めてだったそうだ。

 いつも以上に足元に警戒をする必要があるというのに、この塔はちょっとばかり明かりが薄暗い。

 環境としては最悪であった。

 

 とにかく足元を気にしながら先へ進んだ二人は、四十階へ到達すると、転移の宝玉を使って帰還することにした。

「さっきの話、結構、厄介ですね」

「そうだな」

 

 テルマがぽつりと漏らすと、ジークも同意する。

 二人して同じことを考えていたのだ。

 

 何が厄介かというと、戦闘中にその石に気を払わなければいけない点である。

 黒っぽい色をしているので多少目立つそうだが、それでも目まぐるしく動く戦場では見逃しがちだ。

 最初から落ちているのならばともかく、途中で出現された日なんかたまったものではない。

 

「この街の探索者はどう対応しているんでしょうか?」

「わからん。慎重に進むしかない」

 

 この塔の特色は、その模様が洞窟や廃坑を再現したものであるという点だ。

 ちょっと変わった石ころが一つ転がっていたところで、見分けることは困難だろう。

 変わった魔物の対策に関しては、おそらく脳筋型の二人より、経験豊富なヴァンツァーたちに聞いたほうがいいだろう。

 

 途中で風呂屋に立ち寄ってから宿に戻ったジークたちは、夕食時にさっそく問題についての相談をすることにした。

 

「……それは確かに危ないな。ちょっと明日は探索を休みにして、ギルドに情報収集に行こうか。……あ、ジークさんは大丈夫そうなら探索に行ってもいいけど、どうする?」

「行く」

「そういうと思った」

 

 別にジーク一人ならば好きにやればいいだろうという謎の信頼もある。

 ニコラは流石に心配そうにしていたが、それもジークの実力を疑うというよりは、どうしたって危ない塔の話を、こうして帰って聞くしかできないことによるものである。

 

「……私は控えたほうがいいですか?」

「うん」

 

 テルマの質問にヴァンツァーはあっさりと頷いた。

 悔しさはあるが、作戦の立案はヴァンツァーがすると決まっている。

 テルマもこれに逆らうつもりはなかった。

 

「あ、テルマさんの実力を疑ってるわけじゃないよ。もし僕が一緒にいたとしても、いったん情報収集すると思うからそう言ってるだけ。悪いんだけど、そっちの方に協力してもらえるかな」

「わかりました、必要とあらば」

 

 しっかりとフォローを入れる辺り、流石の人格者でありリーダーシップだ。

 エースは間違いなくジークだが、この集団をまとめているのはやはりヴァンツァーであった。

 

「ふーん、小石が衝撃で爆発ねぇ、私の方でも何かできないか考えておきましょうかねぇ」

「うん、クエットさんは僕たちが思いつかないようなこともしてくれそうだからね。何かいい案があったら遠慮なく言って」

「ふぅむ、なかなか太っ腹ですねぇ」

 

 昔研究室に所属していた頃は、何を発言しても警戒して内容を問いただされたものだ。

 最近は一人で好き勝手していたが、同じ枠で活動しながらも自由裁量を貰えるというのは大層気持ちの良いものだった。

 クエットは機嫌よくそのよくわからない爆発物への対応を考え始める。

 その場で足を組んでやや俯けばあっという間に自分の世界である。

 

 

 翌日、ヴァンツァーたちがギルドへ向かうよりも先に、ジークは一人で塔へ向かう。やっぱり今日も外へ出る前に一度足を止めて、ニコラの部屋の前に立ち止まった。

 部屋をノックしようとすると、中に人の気配がない。

 どうやら留守にしているようだ。

 どこへ出かけたのだろうと止まっていると、廊下の奥から人がやってくる足音が聞こえた。

 ジークには、床の鳴る音からしてそれがニコラのものであることが分かる。

 クエットならばもう少し騒がしいし、テルマならばもう少し歩幅が狭い。

 

「あ、ジーク。もう行くの?」

 

 現れるのを待っていると、廊下の角からニコラが顔を出した。

 手には包みのようなものを持っている。

 

「これ、お昼にどうかと思って作ったのだけど」

「そうか、貰う」

 

 ジークは渡された包みをそのまま他の荷物と同じく、揺れないように腰のベルトに括り付ける。初めからそうすることを想定していたのか、大きさはぴったりであった。

 

「気を付けて」

「おう」

「他の探索者を見つけてもあまり関わらないほうがいいわよ、多分」

「そうか? 情報がいるだろう」

「だけど関わると喧嘩になるかもしれないじゃない」

「普通に話してるだけだ」

「それでもよく喧嘩になるなら、関わらないほうがいいんじゃないかしら……?」

 

 ジークは天井を睨みつけて怖い顔をした。

 怒っているわけではなく、至極もっともであると納得していた。

 

 近頃皆によく注意をされているが、ジークとしては別に自分から喧嘩を売っているつもりはそれほどない。注意するべきことがあるので仕方なく伝えていると、いつの間にか喧嘩になっているだけなのだ。

 端的に必要なことを伝えているつもりである。

 言葉が多くなるとどうしたって荒っぽいから、余計に喧嘩になりそうな自覚もある。

 

「元気に帰ってきてくれれば別に喧嘩したっていいけどね」

「そうか? しないほうがいいだろ」

「無理に我慢してジークらしくなくなるくらいなら、いつも通りでいいと思うの」

 

 ジークは変な顔をしてから「そうか」と呟いて、大きな手のひらをポンとニコラの頭に乗せてから、大きな体に似合わぬしなやかな動きで、するりと宿の外へ出て行った。

 昔仲間たちが、何かいいことをしたときに、こうしてジークの頭を軽くたたくことがあった。思い出して真似をしてみたが、なんだか胸だか顔の辺りが熱くなるような妙な感覚があって、不思議に思いながらさっさとその場を立ち去った。

 

「んふ」

 

 残されたニコラが表情を緩めて笑う。

 珍しくジークの方からのスキンシップだ。

 ヴァンツァーからは出かける前に改めて喧嘩をしないように伝えておいてくれと言われたけれど、やっぱり自分の思ったことを素直に伝えておいてよかったとニコラは思う。

 

 感情を我慢しながら自分の部屋へと飛び込むと、窓からジークが出かけていくのを見送って、ベッドに飛び込んで身もだえるのであった。

 

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