九つの塔。救世の勇者。おまけに悪役面おじさん。   作:嶋野夕陽

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ちょっとずつの成長

 ヴァンツァーは三兄弟の言葉を全て信じたわけではなかったが、状況に対する同情はしたし、共感も覚えた。少なくともシャンワラの街の情報は貴重であるし、昨今の状況を考えれば嘘をついているとは思えない。

 街に味方を作れないのならば、はみ出し者であるとはいえ実力者である三兄弟は自分たち側につけておくべきだ。

 

 ヴァンツァーは自分の知っている、語れる限りの情報を三人に伝えて、今後新たな情報を手にすることがあれば共有するという約束を取り付けた。

 

 三兄弟がようやく街に探索者の知り合いができたと喜んで帰っていくのを見送ると、ヴァンツァーはすぐにジークに謝罪をする。

 

「ジークさん、大口叩いて出かけて言ったのに、手に入れた情報はさっき三人に伝えたものだけで……」

 

 やや俯き気味のヴァンツァーに向かって、ジークはぼそっと一言だけ返す。

 

「そうか」

 

 それから随分と間が空いてから、テルマが何やら難しい顔をしているのを見て、なぜだかハンナのしかめ面を思い出す。なんとなくだけど、ハンナがいたらこのまま済ませたら怒られるような気がして、付け足しで一言。

 

「気にするな」

 

 ジークからすれば、そもそも情報を手に入れようとして手に入れたことなどほとんどない。仲間のために奔走するヴァンツァーを責める理由はないし、手に入れた情報が重要なのかどうかも今ひとつわからなかった。

 とにかくアプロムという若い探索者を中心に、あまり仲良くできそうにないということだけが分かれば十分だ。

 つまり今まで何も変わらないということなのだから。

 

 ついでに口下手なジークの代わりに、あの三兄弟が今日あったことのほぼすべてをヴァンツァーに伝えてくれた。モグラのような魔物をどう説明したらいいものか考えて、ややおっくうになり始めていたので、そういった意味であの三兄弟は大変役に立った。

 

 ジークの口から珍しく出てきた優しい言葉に目を丸くしていたヴァンツァーは、こちらも随分と間を置いてから立ち直って話を続ける。

 

「……カッツさんが言ってた魔物がしゃべる魔物だとしたら、今日ジークさんが倒した魔物は、喋る魔物じゃない、ってことになるのかな」

「どうだろうな」

「……喋る魔物の可能性があるってこと?」

「知らんが、そうだとしてもおかしくない」

 

 ヴァンツァーは再び黙り込んでジークの言葉の意味を深く考える。

 もともと喋る魔物というのは、他の魔物の個体差がほぼないのと同じように、似たような行動をしてくる動物的なものだと勝手に思い込んでいた。

 しかし、よく考えてみれば相手は言語を解するのだ。

 一体一体、まるっきり違う行動をしてきたっておかしくない。

 

 すっかり忘れていたが、ヴァンツァーがウームから貰った情報の中には、ジークが『喋っている奴らを殺すと人を殺してるようで気分が悪い』と言っているというものがあった。

 また『姿かたちが違うだけで、塔の中で自分たちと似たような生活を営んでいる可能性もある』と。

 

「……地面から出てきた魔物は、髭を生やした背の小さな人の様な姿をしていましたか?」

「モグラのように見えたが、土が盛り上がった瞬間に殺したからわからん」

「なるほど……、わかりました」

 

 とりあえず喋る魔物に対する認識を更新しつつ、ヴァンツァーは明日以降の計画を立てる。情報収集はもう難しそうだから、こうなれば実際に現地へ行って足で情報を稼ぐしかない。

 

「……明日以降は今までと同じように、僕たちが下層を徹底的に洗いながら上がって、ジークさんは攻略を進める、って感じかな。他の探索者にあってもあまり構わなくていいから」

「わかった」

 

 それはジークにとっては好都合だ。

 危なければ声をかけたり助けたりはするが、意味もなく知らないやつと会話をしたいとも思わない。

 ジークは別に喧嘩が好きなわけではなく、相手が相当気にくわないことを言ってきたり、注意したらなぜか激昂されたりして、結果的に喧嘩になるだけなのだから。

 

 

 翌朝から、ジークはまたテルマを連れて塔の探索に戻る。

 テルマに魔物を慣れさせるのと、力の使い方の訓練がてら、五十階から六十階にかけてはたっぷり三日ほどかけて上る。

 おかげで地形や、ベッケルの塔特有の魔物についての知見を得ることもできた。

 毎日探索上がりには、三兄弟も宿へ立ち寄って魔物の情報を共有しながら、少しずつ塔の攻略を進めていく。

 

 そうして街の探索者たちとの仲違いをしてから、一週間。

 ジークは七十階手前までやってきていた。

 毎日テルマの力加減の訓練も並行して行っているためか、テルマは随分と腕を上げた。

 というより、加減できていなかった力のコントロールがうまくなり、ようやく技術的な部分の発展へと至ることへできたのだ。

 今までは単純な膂力の不足や、移動速度の不足によって採用できなかった理想的な動きを、実戦に取り込むことができるようになってきている。

 

 まだまだ粗削りなところはあるが、ジークから見ても、八十階くらいまでは何とか通用しそうな程度に仕上がっている。

 ジークはそれを褒めたりしない。

 普通だったら拗ねてやる気をなくしているところだろうが、すっかりジークの言動に慣れたテルマは違った。

 テルマはジークからまだ、『ここから先はお前にはまだ早い』と言われていない。

 初めての塔で、七十階が近くなってもだ。

 それすなわち、慣れた塔であれば八十階くらいまでは登れる実力がついたのだろうと、正確にジークの心中を分析していた。

 これぞ以心伝心というやつだ。

 ただしジークの方の察しは悪いので、いまだ一方通行でしかないのだけれど。

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