例えば人間みたいにさ   作:泡沫

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本編に居るキャラクターと名前被りしてしまっていたので変更しました。


もう居ないひと

 

 

これは取るに足らない誰かさんの話。

 

トリニティの由緒正しき家の次女として生まれ、厳しくも愛情深い両親と賢く優しい姉に導かれるまま上に立つ者としての責任や尊い教えを胸に実に恵まれた人生を歩む筈だった誰かさんは、蓋を開けてみれば共感性に欠けた化け物だった。

 

所謂心の欠陥とも言えるものだった。綺麗なものを綺麗と思えず、誰かが傷付いてもそれを可哀想だとは思えない。

 

好きな食べ物を聞かれ咄嗟に答えられない。将来の夢も何処の学校に進学するのか、付き合う人間、これからどうするかさえ両親や姉が決めれば良いと、誰かさんは本気で思っていた。けれどそんな共感能力の著しい欠如と自我の希薄さを持って生まれてしまった化け物にも、罪悪感という辛うじて人間らしい部分だけは持って生まれて来れたらしい。

 

もちろん父には失望されたし、母にはちゃんと産んでやれなかった事を、顔を合わせる度に泣きながら何度も謝られた。

 

唯一姉さんだけは何も言わなかったっけ。

 

円滑な人間関係を築くには相互理解が必要不可欠で、それには共感能力が第一条件と言える。現にそれが備わっていない所為で家族との間には溝が出来てしまった。

 

大人になった後ならばきっと1人でも生きてはいけるだろうけど今は保護してくれる存在が必要だ。人間に擬態してでも親愛なる両親と尊敬する姉の望む様な『優しくて親切な少女』を演じなくてはいけない。

 

それからは努力を惜しまなかった。どうして私じゃ駄目なんだろうって最初こそ理不尽に思ってはいたけど、生きる為なら仕方のない事だからと無理やりに自分を納得させた。だって悍ましいのは本当だから。

 

笑って、優しく、親切に正しく人間みたいに子供ぶって無邪気に頬を染めて擦り寄って顔色を伺い観察して優しく笑顔で自然体に丁寧で適切な立派で正しい判断を相応しく常に忘れず──

 

ただ自我が芽生えるのが遅かっただけなのだと医者の診断に両親は大いに安堵し喜んでくれた。いつもは優しく穏やかな姉の刺すような視線に気付いてない振りをしながら心底楽しそうに笑う様になった。

 

 

◻︎ ◻︎ ◻︎

 

 

建物が倒壊したんだろう。

気付けば硬い地面に横たわっていて体に力が入らなかった。

雲一つない何処までも澄んだ青い空と、皮膚が捲れて肉が露出した肌を撫でるそよ風。

 

どうやら腕と翼が丁度片方ずつ千切れてしまったみたいで、まるで繋がってる感覚がない。

 

足から先は……まだ一応ある。

 

肌も黒焦げに焼けて痛いし、視界も片方途切れていた。まぁ爆撃の中心地だった訳だし当たり前なんだけどさ。

 

 

「かは…っ、ごぽ……、!」

 

漫画みたいな量の血を沢山吐いて少しだけ胃の辺りがスッキリした。このまま死んでいくんだろうなぁって思うと、何だか不思議と穏やかな気持ちになる。あんなに死ぬのが怖かったのに、どういう訳か今は少しも怖くなくて痛みも次第に薄れていった。

 

幸いやり残した事もやりたい事も特にない。

それってある意味幸せな事じゃない?とも思う。

 

意味のない死などではなく誰かを庇った名誉の負傷というやつだからかな。誰かの為になれたなら誰にも望まれず生まれた私なんかでも、今なら胸を張って誇れる気がする。これなら姉さんも、褒めてくれるかな。

 

「ぐっ、…はぁ、は、ぁ……ゲホゲホッ、!」

 

良くやった、偉いねって。

生まれた事に意味なんてなくても、死ぬ瞬間にはきっと意味はあるから。そうあってほしいと、私がそう思いたいから。

 

 

あはは……本当はちゃんと知ってるよ。

姉さんは私の事が大嫌いで、関心なんて少しもないんだって。ちゃんと知ってるから。もう最後かもしれないんだからさ夢くらい見させてよ。

 

 

「……くや、しぃ、…な゛、ぁ……、」

 

頭がぼーっとする。何日も徹夜した後の様に瞼が重くてもうそのまま寝ちゃおうかなって思っていたら、見慣れた亜麻色の髪が視界に広がった。

 

 

「ヤナミっ! いやっ、…どうして、……行かないで、置いていかないでください…っ」

 

 

 

あれ、

 

どうしたってそんな顔をしてるんだか。

あんなに私のこと嫌いそうだったじゃん。

 

 

「ね…、ぇ、…さん……」

 

 

やっぱりさ、こんな人間、生まれて来なければ良かったのにね?

 

 

先生の性別および年齢について

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