例えば人間みたいにさ   作:泡沫

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多くの方が投票に参加いただけた様でありがとうございます。女先生の投票数が圧倒的で驚きました。

また、感想もありがとうございます。時間のある時に目を通し今後の励みとさせていただきます。

最近忙しいというのもあり、今回の話は短いです。


あまいろ

 

姉さんが懇意にしている友人の誕生日パーティーに同席した事があった。

 

何でも会話の最中にうっかり妹が居ることを溢してしまい、興味を持ったそのご友人に私を誘う様にお願いされたらしい。苦虫を噛み潰したような顔で招待状を手渡してきた姉さんに申し訳ない気持ちと、初めて私個人に宛てられた小さなプレゼントに落ち着かない気持ちになったのを覚えている。ただ姉さんからすれば大事な友人に私が粗相をするんじゃないかと気が気じゃなかったと思う。姉さんには悪いけど、その時の私は少し浮き足立っていて姉さんが鬱陶しそうに睨んでいたのを無視してしまった。

 

だって初めての自分の物だったから。両親伝に贈られてきた顔も知らない人たちからの既製品のプレゼントでもなく明らかな手作り感のある、所々可愛らしいシールなどで飾り付けられた招待状のカード。会うのを楽しみにしていると短く綴られたメッセージに夢中になって何度も読む。

 

嬉しかった。感じた事のない小さな喜びで忙しなく動く心臓が生きている実感をくれた。ああ、そうか。私は誰かに認めてほしくて、私の事を好きになってほしくて、こんな私を好きになってくれたその人を好きになりたいんだって気付いた。やっと人間になれた気がして嬉しかった。

 

それなのに。

 

 

 

「ナギちゃんの妹なのに全然似てないんだね」

 

ニコニコと笑顔で私に近付いてきて姉さんを押し除ける勢いでベッタリくっ付いて来たその子は、私を質問責めにしてきた癖に期待外れだなんだと溜息を吐いて、失望を滲ませた瞳で見下ろしてきた。その子が招待状の主だと知った時のショックは今でも上手く飲み干せない。

 

でも分かってはいたんだ。心の何処かでは「やっぱりな」という気持ちはあった。なに勝手に期待して、勝手に傷付いてるんだろうって。

 

 

それでもあの時の私はまだ幼くて、今より感情のコントロールが出来なかった。

 

沈殿していた、人に向けるべきではない感情が這い上がってしまって。

 

「好きで生まれて来た訳じゃない」

 

そんな事を言ってしまった。

ギョッとする姉やご友人の方々に自身の失態を悟り血の気が引いて直ぐに謝った。何をやっているんだろうって今すぐ死にたくなりながらただただ謝った。近くにいるご友人の方々が気を遣って場を和ませたり初対面の私を擁護したりしてくれて余計に申し訳なくて苦しかった。

 

けれど悪意に晒された当の本人はというときょとんとした顔で何処かキラキラした、花が咲く様な笑顔で「また来てね」と告げてきた。

 

けれど翌年も、翌々年も私の元へ招待状が届く事はなかった。

 

 

 

◼︎ ◻︎ ◻︎

 

 

 

「ようこそトリニティ総合学園へ。お待ちしておりました、先生。案内を任されている桐藤ヤナミと申します」

 

「”うん、はじめまして。今日はよろしくね”」

 

門の前で明らかに生徒ではない黒のスーツを着こなし肩まで揃えたアッシュブラウンの髪の毛先が少しカールしていて外見にも気を遣っている人なんだという印象を受けた。若い女性の胸元には身分を表す名札がぶら下がっていて、恐らくはこの方がシャーレの先生なのだろうと思い声を掛けた。

 

黒縁のメガネを掛けていても澄んだ青空のような瞳があまりにも真っ直ぐ私を見つめてくるものだから少し面を食らってしまった。ああ、いけないと直ぐに気を取り直し業務へと戻ると、先生はクールそうな外見に反して人懐っこい幼い笑顔で握手を求めてきた。

 

こういう人が人から好かれるんだろうな。

 

 

 

「──いな……」

 

「”……え?”」

 

「……いえ、何でもありません。応接室へ案内しますね。ホストが到着するまで暫くそちらでお待ちいただければと」

 

「”うん、分かった。お願いね”」

 

 

門から応接室は少し離れているため、かといって移動の合間に退屈させる訳にもいかないので軽く施設の説明やトリニティについて話したりしていると妙な視線を感じるなと思えば先生が少し難しい顔で私を見つめていた。

 

「すみません、……私が何か気に触るような事をしてしまいましたか?」

 

「”え? ……ああ、いや。そんな事はないよ。ただちょっと考え事をしていたんだ。私の方こそごめんね”」

 

「い、いえ、大丈夫です!」

 

何か粗相をしてしまったらどうしようと気が気じゃなかったけれど、そうではなかったようで安心した。

 

 

「”あ、そうだ。ヤナミちゃんさえ良ければモモトークを交換しない?”」

 

「え、……あ、はい。全然大丈夫ですけど…宜しいんですか?」

 

「”え? ……まずいかな?”」

 

「い、いえ……先生が問題ないなら大丈夫だと、思います」

 

先生が一生徒と仲良くなるのは果たして良い事なのか良くない事なのかどうにも判断が付かず、かと言って断る理由も全くない。せっかくの機会を無碍にするのも向こうの心象にも良くないし。ここは無難にと了承を伝えると、出会ったばかりの時の様に私の手を握りあの人懐っこそうな笑顔を浮かべた。

 

「”ありがとう。……あ、少し馴れ馴れしかったかな? ヤナミちゃんと仲良くなりたくて強引になっちゃった。嫌じゃなかった?”」

 

「いえ、そんな事はありません。私も、嬉しかったですし、改めて今後ともよろしくお願いします」

 

「”良かったぁ……! あ、今更だけどヤナミちゃんって呼んでも大丈夫かな?”」

 

「問題ありません。初めて呼ばれて驚きはましたが、……嫌ではありません」

 

本心だ。確かにトリニティではあり得ないような距離感の近さに少し面を食らったが、不快ではない……筈だ。たぶん。

 

 

 

 

 

「──こほん」

 

「”?”」

「……」

 

 

「随分待たせてしまった様ですね。応接室の中へ案内するよう事付けた筈が、どうしてか廊下で談笑してしまうくらいには退屈させてしまったみたいですし」

 

「”えっと、……えへ”」

 

マイナス40℃と見紛うほど冷ややかな視線が初対面である筈の先生へ突き刺さる。気不味そうに視線を明後日の方へ飛ばしては、現ホストであるフィリウス派閥のトップ、突然現れた桐藤ナギサへと謝罪した。

 

 

「──いいえ、先生に落ち度はありません。応接室へ案内しなければいけなかったのに私が呼び止めてしまったんです。申し訳ありませんでした」

 

 

「……何か誤解している様ですが、別に怒っていませんよ」

 

そうは言うけど含みのある言い方だった様にも思ったけど。

 

「ヤナミ?」

 

「何も言っていません!」

 

鋭い視線が今度は私の方へ向けられ一気に酸素が薄くなった気がした。なんでわかるの。怖いよ。

 

「……はぁ、まぁ良いでしょう。では先生。こちらへ」

 

「”うん。……あ、ちょっと待ってね。まだヤナミちゃんとモモトークの交換してないか「どうぞ、こちらへ」……はい”」

 

ポケットから取り出したスマホを姉さんの笑顔の圧に負けポケットにしまい直した先生はとぼとぼと応接室へと入っていった。

 

 

 

◻︎ ◻︎ ◻︎

 

 

 

「”……流石に疲れたかな”」

 

「お疲れ様です先生!」

 

「”ありがとう、アロナ”」

 

今日ばかりは背を丸めて現存私しか入れない空間へ入ると、いの一番にアロナが元気良く出迎えてくれた。タイミングによってはうたた寝している場面に出くわすこともあるが、今日は起きている日らしい。元気そうなアロナに和んでいると、ふと今日出会ったあの子の事を思い出した。

 

 

「”そういえば今日、不思議な子に出会ったんだ。不憫なくらい他人の顔色を窺うような子でね、きっと無意識なんだろうけど。私の仕草を真似したり、視線を合わせるのも苦手みたいだった」

 

丁寧な口調も他人を怒らせないようにする為かな。常に何かに怯えている印象を受けた。

 

 

「”充分な愛情を受けられなかった子供が陥る状況に似ていてね……どうにも”」

 

「先生はその生徒さんが心配なんですね」

 

「”……うん”」

 

今のヤナミちゃんはギリギリの所まで張り詰めた細い糸の様に思えて仕方がない。ふとした拍子にぷつんと千切れては決定的に駄目になる気がして心配だった。結局あの後モモトークも交換できなかったし。

 

恐らくは無意識だろうけど、何度か試し行動と思われる行動をしていた様に感じた。大抵は成長すると共にいつの間にか収まるものだけど。

 

 

 

「”ヤナミちゃんは誰の気を引きたかったのかな”」

 

先生の性別および年齢について

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