Kuschel   作:小日向

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105 終わりへの序曲

4月14日

 

 いつものように、区画移動用エレベーターに乗って地下800メートルまで降りる。研究区画の廊下はいつも静かだ。時折扉が開けっ放しの部屋からは薬品の匂いが漂ったり、何やら小難しい話をしている研究員の声を耳にするが、それらを通り過ぎて奥の扉まで足を運ぶ。

 

 ミツハは慣れた動きで扉のロックを腕輪認証で解除し、辺りに人が居ないことを確認してから扉を開ける。いつもより、少しだけ緊張している。そんな緊張を解すように、部屋のど真ん中でシオが大の字になって寝ていた。

 

「おや、いらっしゃい。もうすぐソーマたちも来るはずだよ。予想ではあと780秒だ」

 

 四台のモニターに囲まれた赤い椅子に座るサカキが、やはりいつもどおりの顔でミツハを出迎えた。そんなサカキに、思わずミツハもいつものような軽い口調で返してしまった。

 

「今日はなんのアラガミ素材を依頼してるんですか?」

「ボルグ・カムランをね。ほら、漢方じゃサソリは頭痛やひきつけに効くって言うだろう?」

「確かにサソリ型ですけどぉ……アラガミを漢方にはできないと思うんですけどぉ……」

 

 サカキの言葉に苦笑しながらソファに座る。そして思い出したかのように、ミツハはむっと眉を寄せてサカキを睨んだ。

 

「ていうか! 私ちょっと怒ってるんですけど!」

「おや、何にかい」

「惚けないでください〜。なんでソーマさんにあんなこと聞いたんですか! それに、私が居るってわかって聞きましたよね!?」

「ははは、まさか奥の部屋に居たなんてねぇ」

 

 あっけらかんとサカキは笑った。どう見ても確信犯だ。

 

「ミツハ君にも言っただろう。アラガミであるシオへ、君たちがどう選択するのか私は知りたいんだ。……それに、ソーマの変化が気になってね」

「……ソーマさんの?」

「以前のソーマなら、あの場で答えが出せていたかもしれない。けどソーマは何も答えられなかった。……それが不思議と、少し嬉しいんだよ」

 

 そう言って、レンズの奥の目を細めて小さく笑みを零す。その姿にミツハの怒りはみるみるうちに萎んでいき、一つ溜息を吐いて肩の力を抜いた。

 

「……だからって、あーいう言い方はすっごく意地悪だと思うんですけど。そーういうところですよ博士〜」

「ははは、許しておくれよ。そういえば、あの後ソーマと何かあったのかい?」

「……内緒! です!」

「その間が気になるなぁ」

 

 くすくすと笑うサカキから目を逸らし、大の字になって寝ているシオを見下ろす。

 

 ここ最近は元気そうだったが、今日はどうだろうか。シオの体調は未だ不安定だ。

 

――早く元気にならないかなぁ。

――そしたら、また三人で廃寺に行って、写真を撮って……。

――オーロラもいいけど、満月も撮りたいな。

 

 今夜は満月だ。ここ数日は晴天続きのため、満月がよく見えるだろう。寝る前にカメラを持って屋上へ行こうかと考えていると、ブザーが鳴る。「ソーマとユウ君だ」サカキがモニターを見ながら言い、ミツハが扉を開けて出迎えた。

 

「ほらよ、頼まれてた素材だ」

「ああ、ありがとう。確かに受け取ったよ」

「……堕天種二体分の素材だぁ……お疲れさまです……」

 

 通常種のボルグ・カムラン一体の討伐ではなく、堕天種二体の討伐だったらしい。相変わらずサカキが依頼する任務は先日のディアウス・ピターといい、討伐難度の高いものばかりだ。

 

 苦笑するミツハの隣にユウが座る。存外けろりとした顔だ。

 

「ソーマと一緒だったから全然苦戦しなかったよ」

「よく言うぜ。お前一人でブッ倒す勢いだっただろうが」

「ひえぇ……流石リーダー……」

「大袈裟に言わないでよ、ソーマ」

 

 謙遜しているが、ソーマが嘘を言うはずがない。ミツハはつくづくユウの実力の高さに驚かされるばかりだ。

 

――それにしても、いつもどおりだなぁ。

 

 ちらりと横目でソーマを盗み見る。屋上でのやりとりを思い出してはミツハは恥ずかしくなるのだが、ソーマは特に変わった様子はない。

 

「……どうした」

「えっ、いえ、なんでもないです〜……」

 

 しばらく談笑をしていると、ずっと眠っていたシオが目を覚ました。琥珀色の瞳がぱちりと開かれ、少女らしからぬ大雑把な動きで体を起こす。

 

「おや、お目覚めだね」

 

 椅子から立ち上がり、サカキがシオの顔を覗き込む。寝起きのせいか、それとも体調がやはり本調子ではないのか、シオはぼんやりとしていた。

 

「……今の君は『シオ』かい? それとも星を喰らい尽くす『神』なのかい?」

 

 サカキが尋ねると、シオは首を傾げた。

 

「ほしは……おいしいのかな」

「さあな。こんな腐り切った地球(ホシ)なんか喰うヤツの気がしれないぜ」

 

 ソーマが苦笑しながら言う。その穏やかな声色に、ミツハは頬を緩ませた。

 

「そっか。でもなんでかな。たまに、きゅうに、タベタイー! って……ッ、!!」

「し、シオ!?」

 

 言葉の途中で突然シオが苦しみだし、全身に紋様が浮かび上がる。ぎょっと目を丸くし、ミツハとユウは思わずソファから立ち上がる。

 

 それと同時に、サカキが大慌ててで先ほどソーマから受け取った『食事』をシオに勧めた。するとそちらに気が向いたのか、シオの身体に浮かんでいた紋様はすっと消えた。

 

「治まったね……」

「アリサから話は聞いてたけど、初めて見た……」

 

 ほっとしてミツハは腰が抜けたようにソファに座り込んだ。無邪気にアラガミの素材を頬張るシオは、とてもつい数秒前まで苦しんでいたとは思えない。その急変する様子にますますミツハは不安になってしまう。

 

「……おい、いったいいつまでこの状態が続くんだ」

 

 ソーマが苦い顔をして唸った。サカキもお手上げだと言わんばかりの口調で言葉を紡ぐ。

 

「うーん、せっかく人らしさが出てきたところだったのに、あれ以来一気に不安定になってしまったね……。彼女の中で、二つの心が対立し合っているのかもしれない。一つは人としての心。そしてもう一つは……」

「『特異点』だろ」

「特異点……。それが支部長がやろうとしている、終末捕喰の鍵なんですか?」

 

 ソーマの言葉を聞き、隣に立っていたユウは確認するようにサカキへ尋ねる。

 

 特異点という言葉をユウが聞くのはおそらく初めてだろう。だが、シオがどういった存在であるのかはとっくに察しがついていたはずだ。「ああ」とサカキは頷く。

 

「ユウ君は支部長の特務もこなしていたから、気づいているよね。彼女のコアは『特異点』と呼ばれ、終末捕喰の発動に不可欠な要素だ。……もうわかっていると思うけど、私はまだ彼にそれを渡したくない。私は私で、彼女に感じているもう一つの可能性を、試していたいと思っているんだ」

「可能性……ですか?」

「ああ。ミツハ君にはだいぶ前に話したと思うけど、覚えているかな」

「えっ、だいぶ前って……」

 

 シオが来たのはここ1ヶ月月の話だ。それ以前に、サカキとシオに関わるような話をしただろうか。逡巡してみるが、ぱっと思い当たる節は見つからなかった。

 

「……あんたらがそれぞれ何を考えているか知らねぇが、俺はあんたの側についたなんて思っちゃいねぇ。俺たちやあいつをオモチャにするようならどっちも一緒だ」

 

 棘のある口調でソーマがサカキを睨む。サカキは少しの怯んだ様子もなく笑った。

 

「フフ、心配しないでいいよ。私は彼女に何もしちゃいない。こうしてみんなと一緒に居てもらえさえすればそれでいいんだよ。そう、それがいずれは――」

 

――あ。

――シオと私たちが一緒に居るって、それ――……。

 

 数ヶ月の記憶に手が届きそうな矢先――、

 

 ――鈍い衝撃が部屋を揺らし、暗闇に包まれた。

 

「なんだ!?」

「――爆発!?」

「えっ、嘘っ、何が起こったの!?」

 

 地下深くにある施設は停電が起こってしまえば光源がどこにも無く、一寸先すら何も見えないほどの暗闇だ。

 

 軽くパニックになるミツハだが、サカキの落ち着いた声が暗闇の先からした。

 

「……わからない。だけど心配ない。もうすぐ中央管理の補助電源が復旧するはず――」

 

 そこまで言ってサカキが絶句したと同時に、まるで見計らったかのようにスピーカーから―― ――ヨハネス声が響いた。

 

『やはりそこか、博士』

「――ぐわああああ! しまったああああ!」

「えっ、は、博士!?」

「な、ど……どうしたんだ」

 

 滅多に声を荒げないサカキの絶叫が部屋に木霊する。未だに暗闇は晴れず、ミツハは下手に身動きすることもできず声の先を見つめた。

 

「……やられたよ。この緊急時の補助電源だけは中央管理なんだ。この部屋の情報セキュリティもごっそり持っていかれてしまう」

 

 その言葉に三人は愕然とする。暗闇の中、息を呑む音が揃った。

 

「……ってことは……まさか親父の野郎!」

「ああ……完全にバレたね」

「そんな……」

 

 どうしよう――全身の血の気が一気に引いた。焦る思考を更に掻き乱すように、今度はけたたましい警報が鳴り響く。

 

『――緊急警報! 極東支部装甲ビル内に外部から識別不明のアラガミの侵入を確認! 偏食場反応複数! 全ゴッドイーターは至急防衛出動、保安部、調査部以外の全職員はセーフルームに避難せよ! 繰り返す――……』

「あ、アラガミだって!? まさかヨハン、欧州からあの技術を持ち帰ってきたのか!?」

「なんだ、あのってのは!」

「ユウ君やアリサ君たち新型が、感応波でお互い接触交感できるのは知っているだろう? 新型神機の可変機構にも導入されている技術さ。本部にそれを応用してアラガミを操る研究をしている科学者が居るんだよ」

「なんだと……」

 

 放送を聞き、サカキは驚きのあまりその場に尻餅をついた。それがわかるほどに暗闇に目が慣れ、ミツハはサカキとソーマの話をやりとりを聞きながらソファから立ち上がる。

 

――ビルの外部からアラガミが来たってことは、外部居住区も危ないんじゃ……!

 

 そう不安に駆られるが、アラガミの気配を意識してみても悪寒は感じなかった。だがここは地下深くだ。地上付近でアラガミが現れたのなら、遠すぎてミツハには感じなかったのかもしれない。

 

 扉のほうへ足を向けると、既にユウが非常レバーに手をかけ、自動ドアを手動で開こうとしていた。

 

「二人とも、神機を取りに行こう!」

「うん! 外部居住区も心配だし……!」

 

 重たい金属製の扉をユウと共に押す。一拍遅れてソーマがそれに加わると扉はこじ開けられ、完全に開く手前にソーマは振り返って叫んだ。

 

「博士、シオ! 俺たちが出たらロックして奥の部屋に隠れてろ!」

「よく見えないんだが、やってみるよ。君たちも気をつけてくれ!」

 

 サカキの返事を聞き、ミツハたちは廊下へ出た。そこは騒然としており、職員たちが避難しようと走り回っていた。

 外から中を覗かれはマズいと、急いで扉を閉めて走り出す。いつまで経っても非常灯のままということは、エレベーターも動いていないだろう。逃げ惑う職員たちを掻き分け、三人は非常階段を駆け上がった。

 

――まだ、しないな。

 

 100メートルほど駆け上がっても、未だにアラガミの気配は感じなかった。防衛班からの連絡も無い。

 形容し難い妙な不安が募る中、再び微かな爆発音が聞こえてきた。

 

「下……?」

 

 怪訝そうにソーマが呟く。その言葉どおり、爆発音は下から聞こえてきた。

 

「あの、ソーマさん」

 

 踊り場で立ち止まり、目を凝らすようにして足元を見下ろすソーマに声をかける。

 

「アラガミの気配……私はいつまで経っても感じないんですけど、ソーマさんはします?」

 

 その問いに、ミツハより遥かに感覚の鋭いソーマでさえも――首を横に振った。

 

「……だとすると、あの警報は陽動……?」

 

 ユウが言葉を落とす。そうだろう、という確信があった。

 

「戻るぞ!」

「分かった!」

「はい!」

 

 上ってきたばかりの階段を駆け下りる。職員たちは既に上階へ行っていたため、サカキの研究室がある階へはすぐに辿り着けた。薄暗い非常灯が三人の影を作る。

 

「扉、開いてる……」

 

 研究室の扉は半分ほど開きっぱなしになっていた。

 扉に近づく。隙間から、微かな煙と刺激臭が漏れた。

 

 ――何かがあったのは間違いない。

 

「シオ!」

 

 ソーマが研究室に飛び込む。中にサカキとシオの姿は居ない。

 

 それどころか、シオの部屋の扉が開いており――窓などあるはずも無いのに、ぴゅうぴゅうと風の音が聞こえた

 

「なに、これ……」

 

 シオの部屋を覗き、ミツハは眉を潜めた。

 

 部屋の壁に、人が通れそうな大穴が綺麗に開いていた。地下に張り巡らされる通風管ダスクが丸見えになっており、風の音はそこからする。大穴にソーマが駆け寄り、中を覗き込んだ。

 

「シオ! 博士!」

 

 名前を叫ぶが、虚しく木霊するだけだった。

 

「クソッ、上に行ったのか下に行ったのかすらわからねぇ……!」

「そんな……」

 

 あまりに突然の出来事に、ミツハはくらくらと目眩がしそうだった。

 

 つい先ほどまで、いつもどおりだったというのに。シオを心配しながら、元気になったら何をしたい、あれをしたいと考えていたというのに――もう叶わないのだろうか、と弱気になってしまう。

 

――いつもどおりが終わるのは、いつも突然だ。

 

 この世界へタイムスリップした日のように。現実はいつだって突然だった。

 

 用は済んだとでも言いたげに、電源が回復したのか部屋の照明が点いた。半開きだった扉が自動で閉まり、ユウが閉じた扉を見つめた。

 

「どうして表のドアが開いてたんだろう」

「……シオと一緒に博士が連れ去られてなければ……避難したのかな」

「そう考えるのが妥当だろうが、今はシオを取り返すほうが先決だ。上か下かどっちに行ったのかはわからねぇが、行き先はあそこしかない」

 

 ソーマが拳を強く握りしめながら言う。三人の頭には同じ単語が浮かんだ。

 

「エイジス……」

「ああ。だがどうすりゃ入り込める……。ミツハ、エイジスの防衛の時、どこか入り込めそうな道は見なかったか」

「見てないですね……。空路にしろ海路にしろ、どうやっても外からじゃ入り込めませんよ、あそこ」

 

 防衛任務に赴く際は常にヘリで移動していたが、パイロットが通信で上陸の許可を常に取っていた。そうしなければ撃ち落とされてしまうのだ。

 

 海路にしても、外周に大砲が取り付けられているのを知っている。攻め込まれないために設計してあるアーコロジーなのだから当然だ。

 

 打開策は何も浮かばない。しかしここに留まっていても仕方がないと、ミツハたちは通路へ出た。

 

 エレベーターへ向かうとその扉が開き、予想外の人物が出てきた。

 

「シオが連れて行かれたのね」

「サクヤさん! アリサ……!」

 

 以前と変わらぬ、凛とした態度のサクヤとアリサがそこには居た。夜遅くの通信以来音信不通で心配していたが、怪我はどこにも無さそうだ。

 

「お前ら……! ……勝手に縁を切ったんじゃなかったのかよ」

 

 皮肉めいてソーマが言う。だが声色は穏やかで、ミツハとユウも二人が無事に来てくれたことに安堵した。

 

 ソーマのぶっきらぼうな物言いに、アリサは髪を手で払い口を尖らせる。

 

「どうせ、あなたたちだけじゃ心細いだろうと思って戻ったんですよ」

「……実は、外部居住区に潜伏しながら、エイジスへの再進入の方法を探ってたんだけどね。アーク計画の発動を前に、外周は完全にシャットアウトされてて……正直、打つ手無しなの」

「……この騒動も、どうやらアーク計画の搭乗者をエイジスに行かせるためのカモフラージュみたいですよ。おかげで、捕まることなくここに戻ってこれたわけなんですけど」

「そうなんだ……エイジスに……」

 

 途端、防衛班の顔が浮かんだ。アーク計画に乗るのは防衛班のうち、三人だ。カレルたちはあのエイジスに、既に居るのだろうか。

 

 それどころではないと言うのに、余計なことを考えてしまっている。頭の隅に追いやっていると、ユウが顎に手を当てて唸った。

 

「……その人たちは、どうやってエイジスに行ったんだろうね」

「きっと――アナグラの地下に……エイジスへの道はあるよ」

 

 ユウの疑問に、聞き慣れた声が答えた。

 

 全員が一斉に非常階段へ振り向く。

 

 赤茶色の髪に黄色い帽子を被り、薄いマフラーを巻いた第一部隊のムードメーカー――

 

「コウタ!」

「……ふふ。久しぶりだね、コウタ」

 

 ユウが一番に名前を呼び、続けてミツハは穏やかに笑った。サクヤたちから通信が来た夜、ユウの部屋で話をして以来だ。

 

 少しだけ居心地が悪そうにしながら、コウタも小さく笑った。

 

「……あなたは、アーク計画に乗ったんじゃなかったんですか……?」

 

 青い瞳をまんまるにして、アリサが思わずと言ったように言葉を零す。だが、すぐに驚きの表情は柔らかいものになった。

 

「……ううん。戻ってきてくれて、……ありがとう」

 

 真っ直ぐにコウタを見つめ、優しく微笑む。

 

「……行こう! 多分こっちだよ!」

 

 久しぶりに聞くコウタの元気な声に、沈んでいた気持ちが明るくなる。コウタは先導してエレベーターへ乗り込んだ。ミツハたちもその後へ続く。エレベーターはひとまず神機保管庫のある階へ向かった。

 

「外部居住区も一瞬だったけど停電になってさ」

 

 神機が収納されたアタッシュケースを手にし、再びエレベーターに乗り込み最下層を目指す道すがら、コウタが口を開いた。

 

「そしたらテレビでアナグラが襲撃されたって速報やってて……俺、ユウたちにも連絡したんだぜ? でも繋がんなくてさ……唯一繋がったのがサカキ博士だったんだ。それで、シオが拐われたって聞いてさ」

「それで戻ってきたのか。どいつもこいつも馬鹿なヤツらだ」

 

 ソーマは苦笑を零しながら、仲間たちを見回した。相変わらずな素直ではない言い方だと、ミツハはくすりと笑う。そんなミツハに頷くように、アリサも可笑しそうに微笑んだ。

 

「クールなふりして、一番血の気が多い人に言われたくないんですけど」

「アリサは人のこと言えないんじゃないかなー」

「そんな! それを言ったらサクヤさんだって、一人でエイジスに忍び込もうとしてたじゃないですか」

「ええっ、一人で!? そうなんですか!? 第一部隊の人ってみんな凄いなぁ……」

「なんで他人事みたいなんですか、ミツハ。そういうミツハだって、血の気が多いとは違いますけど、すっごく熱い人だなって思ってますからね、私」

「それは何に対して熱いのかなぁ……」

「あらぁ? 言ってほしいんですかぁ?」

 

 狭い箱の中でくだらない言い合いをしていると、コウタが呆れたように肩を竦めた。

 

「なんかもーあれでしょ。みんなしいたけの背比べってやつだよ」

「コウタ、それどんぐり」

 

 間違ったことわざに、すかさずユウが訂正を入れる。女三人は噴き出し、こんな状況だというのに笑い声で満ちた。

 

「いいんじゃない、みんなおんなじで」

 

 みんなを見ながら、ユウがはにかんで言った。「そうだね」ミツハは頷いた。ソーマもまた、呆れながらに蒼い瞳を穏やかに細めていた。

 

 地下へ進む、最下層につくそれまでの間。扉が開かれる、そのもうすぐまで。

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