Kuschel   作:小日向

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012 初陣

1月18日

 

 神機が収納された保護ケースを持って1階の装甲車格納庫へ向かう。オペレーターのヒバリに任務の確認をしたところ、第二部隊隊長の大森タツミと二人で赴く任務だった。

 

 任務内容は『鎮魂の廃寺』と呼ばれる場所にて『オウガテイル』の討伐。鎮魂の廃寺というのは贖罪の街と同じく極東支部を囲む防衛ラインの通称らしい。オウガテイルはアラガミの中でも小型に分類され、ホログラム演習で何度も戦った相手だ。

 

 極東支部はかつての藤沢市にあり、鎮魂の廃寺はかつての鎌倉市に位置している。ミツハの感覚では隣の市だ。そう距離が離れていないため、緊急時以外はヘリではなく車での移動が一般的らしい。

 

 格納庫に着いたが、整備士などは数人居るが腕輪を嵌めた神機使いは見当たらない。まだ来ていないのだろうと入り口付近で待っていると、赤いジャケットをを着た黒髪の男性がやって来た。右手首に腕輪をしており、ミツハと同じく神機ケースを手に持っている。

 

「よっ、お前が新入りのミツハだな?」

「初めまして、井上ミツハです! 大森隊長ですか?」

 

 ミツハの言葉に男性は吹き出して笑った。何か可笑しなことを言ったかと思ったが、「硬い硬い!」と背中を叩かれる。運動部のノリを思い出した。

 

「ははっ、大森隊長って初めて言われたわ。そうだな、俺が大森タツミだ。お前さんが配属された第二部隊の隊長をやってる。悪いな、他のヤツらからはもっと軽い感じに呼ばれてるから『大森隊長』なんて呼ばれてる自分が面白くてよ」

「そうなんですか? 意外と軍隊っぽくなくてフランクなんですね」

「まぁツバキ教官のスパルタ訓練を受けた直後ならそうなるか。うちは結構緩いぞー」

 

 あまり上官らしくなく、気の良さそうな青年にミツハは安堵した。怖そうな人が隊長だったらどうしようかと思ったものだ。

 

 軽く会話を交わし、タツミの運転する屋根の無い高機動車に乗り込む。出撃ゲートを通り、外部居住区を抜けて壁の外へ出た。屋上から眺めていたが、外の世界を間近で見るのは1週間前にこの世界へ来た日以来だ。ひび割れた道路は悪路となっており、ガタガタと車が揺れる。

 

 しばらく進むと、だんだんと気温が下がってきた。1月なのだから冬の気温をしているとはいえ、それにしたって寒い。

 

「なんか……寒くないですか?」

「そうか、ミツハは壁の外に出るのは初めてか?」

「えーと、ほぼ初めてですね」

「なら廃寺に着いたら驚くだろうな」

 

 そう言って笑ったタツミの言葉どおり――現場に到着して車を降りると、一面の()()()が広がっていた。

 

 中世に鎌倉幕府が置かれ政権の要の土地だった鎌倉市は、歴史的建造物が多く建ち並び撮影スポットも豊富なため、写真好きなミツハはよく訪れた土地だった。鎮魂の廃寺は、その面影が強く残っている。

 

 古い寺社仏閣の廃墟は、比較的原型を留めたまま密集していた。アラガミに捕喰された痕跡よりも、手入れがされなくなったために朽ちた建物が目立つ。そんな廃墟となった寺院に、雪が降り積もって真っ白になっているのだ。

 

「えっ、すごーい! なんで鎌倉にこんなに雪が積もってるんだろう!?」

「カマクラ?」

「あ、いえ、凄い雪ですね!」

「この辺りは局地的な異常気象で年中寒いんだよな。夜になるとオーロラが見れるぞ」

「オーロラ!?」

 

 タツミの言葉にミツハの瞳が輝く。日本でも北海道の陸別や稚内では観測できるらしいが、まさか関東でオーロラを見られるなんて夢にも思わなかった。

 

 興奮するミツハにタツミが苦笑した。

 

「おいおい、はしゃぐのは後にしろよ。まずは初陣だ」

「あっ、そうでしたね、すみません!」

 

 タツミにたしなめられ、緩んでいた気を引き締める。

 

――そうだった、実戦だった。

 

 今までのホログラムによる演習ではない、本物のアラガミと戦うのだった。

 

 ケースから神機を取り出して組み立てる。とは言っても、神機のコアと繋がっている柄を握り腕輪に接続すれば、オラクル規格の特殊なケースからパーツが自動的に接合されるので難しい操作は一切無い。ヴァリアントサイズがミツハの手に握られる。

 

「それがポール型か。噂には聞いてたが見るのは初めてだ。デカい鎌だな」

「見た目かっこいいですよね。大森隊長は……ショート使いですか?」

「ああ。リーチは短いが手数があって攻撃の隙も少なくていいぞ」

 

 従来のブレード型神機はショート、ロング、バスターの三種類がある。タツミの持つショートブレードは他の刀身と比べて格段に小型かつ軽量に設計された刀身で、俊敏で小回りの利く扱いやすい刀身らしい。

 

 タツミは神機を構えて寺院の奥を見やる。耳を澄ますと、微かに獣の唸り声が聞こえた。そしてぞわりとした嫌な悪寒がする。アラガミの気配だろうか。

 

「任務は寺院内に巣くったオウガテイルの殲滅だ。偵察班の事前の調査によると、三体のオウガテイルが居るらしい。場所もばらけているし、ここは入り組んでいて死角が多い。オウガテイル相手なら各個撃破が可能だ。俺はバックアップに回るから、ミツハ。一人で倒してみろ」

「ひ、一人でですか?」

「なーに、オウガテイルは訓練で飽きるほど戦っただろ? 危険だと思ったらすぐに助けてやるから大丈夫だ」

 

 そう言ってタツミはミツハを安心させるように力強く笑う。確かに、オウガテイルはホログラム演習で何度も戦い、そしてミツハでも難無く倒せることのできたアラガミだ。一人でも問題無いだろう。

 

「訓練でも言われたと思うが、正面には立たないほうがいいからな。あと尻尾を振りかざしたら後ろに下がるか、装甲を展開したほうがいい。わかったか?」

「はい、大丈夫です」

「よし。さーて、おっ始めるか」

 

 降り積もった雪を踏みしめて山門を潜り、寺院の中を索敵する。階段を上り、朽ちた三重塔の裏手からオウガテイルが闊歩して来た。

 

 オウガテイル。鬼の顔のような巨大な尾を持つ小型アラガミであり、基本種だ。二足歩行竜の前足を切り落として鎧を着せた見た目をしており、象牙のような大きな牙を生やしている。獲物を前にして、オウガテイルは大口を開けてミツハを喰らわんと突撃してくる。その隙の多い突進をステップで避け、リーチを大きくするためにミツハは神機の柄頭へ持ち手を滑らせた。

 

 ヴァリアントサイズは、生体部分である刀身を変形させる能力がある。一言で言えば、鎌が伸びるのだ。伸びた鎌から『咬刃(こうじん)』と呼ばれるいくつもの小さな刃が派生し、それらで敵を薙ぎ払う。

 

 咬刃を大きく展開するとそのぶん体力も多く使うのだが、リーチが大幅に伸びるので敵の攻撃範囲外からの攻撃も可能となる。逆に間合いに入った場合は柄を短く握り、咬刃を展開しない至近距離での連撃もできる。

 

 先輩のヴァリアントサイズ使いが極東には居ないため、欧州の資料などをリッカから取り寄せてもらいミツハはこの数日間で猛特訓した。適合率が高いおかげが、変形も思いどおりに動いてくれる。

 

「当たっ、てっ!」

 

 腰を低く落とし、オウガテイルから少し離れた位置で咬刃を展開し、ヴァリアントサイズを振りかざす。ザシュッ、と肉を断つ音と共にオウガテイルの身体から血が噴出する。オラクル細胞の群体であるアラガミに血液は必要無いはずだが、捕喰した生き物の形質を取り込んで進化していった結果、血液も模倣するようになったらしい。

 

 耳障りな鳴き声を上げながらオウガテイルは痛みにのたうち、尻尾を大きく振りかぶる。

 

「下がれ!」

「っ、はい!」

 

 タツミの言葉に従って後方へステップする。尻尾の攻撃を躱した後、咬刃を最大まで展開させた。小さな刃がいくつも生まれた大鎌で目一杯に円を描く――『ラウンドファング』と呼ばれる、遠距離に特化した攻撃手法だ。かなり体力を使うため振りかざせる時間は限られるが、とんでもなくリーチが伸びるためだいぶ離れてしまったオウガイルにも刃先が届く。血が噴き出し、びしゃびしゃと辺りの地面を赤く染め上げた。

 

「今なら……!」

 

 怯んだオウガテイルに一歩踏み出し、捕喰形態(プレデターフォーム)に刀身を変形させ――神を、喰らう。

 

 その瞬間、身体中にみなぎる力を感じて熱くなり、そして軽くなる。アラガミを捕喰することで神機は強化される。神機と神経接続されている神機使い自身にも腕輪を通して捕喰したオラクルが身体に流れ込み、一定期間体内のオラクル細胞が活性化して体細胞が更に強化されるのだ。この状態をバーストモードといい、戦闘を有利に運ぶことができる。

 

 大きく飛び上がってオウガテイルの真上で鎌を振り下ろす。あちこちの肉を断たれたオウガテイルは悲痛な断末魔を上げて地面に沈んだ。血溜まりの上でオウガテイルはぴくりとも動かなくなっていた。

 

――倒した?

 

「よくやったな、上出来だ」

 

 タツミの言葉にハッとして振り向く。後方でずっと見ていたタツミに労われるよう肩を叩かれた。

 

「良い動きだったぞ。神機の扱いもよくわかってるしな。すげぇ伸びるんだな、その鎌」

「えへへ……ありがとうございます」

「ほら、捕喰してコアを回収するの忘れんなよ」

「あっ、はい!」

 

 そう促され、沈黙するオウガテイルを捕喰してコアを取り出す。するとオウガテイルの身体は霧散し、黒い靄となって空気に溶けた。

 

 コア――正式名称は『オラクルCNS』。オラクル細胞の群体を制御する司令細胞群のことであり、コアがあるからこそアラガミとしての形をしているらしい。

 

 コアを捕喰して取り出してみると、青黒く濁った小さなコアが出てきた。神機に使用されている加工された人工コアは琥珀色をしているが、アラガミの体内から摘出したばかりのコアは黒光りするオパールのような色をしている。

 

 また、コアとは違う物も神機は捕喰していた。

 

「お、ビギナーズラックってやつか? レアなヤツだぞ、それ」

「こういうのって確か素材になるんでしたっけ?」

「おう。まぁオウガテイルは数が多いから、オウガテイルにしちゃ比較的レアな素材って感じだけどな」

 

 コアを摘出する際に神機で食い千切った部位はコアから離れても霧散せずに形を保つことがあり、オウガテイルの兜部分を神機は吐き出した。こうして取れるアラガミの一部分は素材となり、さまざまな用途で活用されるそうだ。

 

 神機を振るって鎌にこびりついた鮮血を払い、残り二体のオウガテイルを探し出す。一体目と戦っている間に移動していたのか、事前情報とは違い二体固まって行動していた。

 

「予定変更だ。連携して討伐するぞ」

 

 タツミの指示どおり、二体のオウガテイルを二人で相手する。咬刃を展開した長いリーチで二体を巻き込んで一気に薙ぎ払い、怯んだところをタツミが踏み込んで手数で圧倒する。

 

 小さな引っ掻き傷や擦り傷などはあるものの、怪我という怪我は特に無いまま初陣は無事に終了した。

 

「よーし、お疲れさん!」

「お疲れさまです!」

「良い戦いっぷりだったぞ。新人特有の堅苦しい動きも無かったし、初陣としては満点だ」

「オウガテイルは訓練でいっぱい倒しましたから! あのホログラム演習凄いですよね」

「まぁ演習と実戦じゃ勝手が違うことも多いから、気をつけろよ」

「はーい!」

「明日はもう一人別の近距離型と一緒に出てもらうからまだ大丈夫だが、遠距離型と組むときは射線に入らないよう注意しろよ。……特にカノンの射線には気をつけてくれ」

「? わかりました」

 

 妙に神妙な顔をしてタツミが言う。そういえばシュンも同じようなことを言っていた。

 

――誤射がなんとか言ってたっけ。外しやすいのかなぁ。

 

 不思議に思いつつも頷くと、タツミは苦笑した。

 

「まぁ、実際に体験してもらうのが一番か……。よし、今日は帰るか!」

 

 倒したオウガテイルのコアを回収し、話をしながら高機動車を停めてある寺院の入り口まで戻る。ケースに神機を収納して車に乗り込み、アナグラへ向かって発車する。

 

「ミツハ、この後の予定は決まってるか?」

 

 運転しながらタツミが問う。

 

「サカキ博士の講義があるくらいですね。どうしたんですか?」

「そうか。じゃあ夕食の前にラウンジに来てくれ。防衛班のメンバーを紹介したいからな。詳しい時間と場所は後でメールする」

「わかりました」

 

 車が鎮魂の廃寺から離れていくにつれて雪は溶けていき、気温も上がっていく。

 

――オーロラ、いつか撮りたいな〜。

 

 遠ざかっていく寺院を見ながらそんなことを思った。

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