Kuschel   作:小日向

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020 懐に入る

「シュナイダーさん、お願いしますっ!」

 

 神機の下部から排出したアンプル状のカートリッジを後方に居るカレルに放った。

 

 遠距離型の神機が銃身パーツから撃ち出すのは鉛玉ではなく、『オラクルバレット』と呼ばれるオラクルのエネルギー弾だ。

 

 しかし撃てばオラクルは減る。遠距離戦闘型の神機は近距離戦闘型と違って捕喰形態(プレデターフォーム)に変形ができないので、神機がオラクルを自己修復するのを待つか、『Oアンプル』と呼ばれるオラクルが凝縮されたカートリッジで補充するぐらいでしか充填ができない。

 

 自己修復は時間がかかる上に、Oアンプルは携行できる数が限られる。そもそも遠距離型の神機使いは一人で戦うことを想定しておらず、近距離型の神機使いとの共闘が前提だ。何故なら近距闘型の神機はアラガミを『斬る』という行為でアラガミから直接オラクルを奪取できるのだ。

 

 奪ったオラクルを遠距離型神機使いに渡すことで充填が可能となり、再びバレットを撃つことができる。そういった連携を上手にこなしていくことで、アラガミとの戦闘を有利にさせる。

 

「気が利くじゃねぇか」

 

 カレルは受け取ったオラクルを神機に充填し、シユウの下半身に向かってアサルトを連射させる。そしてボロリと硬い外皮が壊れた。

 

 鎌が当たりやすいシユウの下半身はその外皮のせいで切断に長けている鎌では攻撃が通りにくいが、結合崩壊を起こすことによって幾分か柔らかくなる。

 

 踏み込みを入れ、腰を低くして鎌を振りかざす。咬刃(こうじん)が壊れた下半身と翼の肉を一気に斬り裂いていく。今まで気にもしなかった生き物の肉を斬る感触も、これは夢ではなく現実なのだと思うと抵抗感があった。

 

 場所はエイジス島近郊。第三部隊が防衛している場所だ。復帰一発目の任務は、ミツハが怪我を負ったせいで予定が遅れてしまっていた第三部隊との合同任務だった。

 

「よっしゃ、とどめは俺がいただくぜ!」

 

 瀕死のシユウに、シュンが斬りかかる――が、それよりも早く頭に撃ち込まれたバレットによってシユウは鮮血を噴出させ、糸が切れたように沈んだ。

 

 振り向けばジーナがスナイパーを構え、恍惚とした表情を浮かべていた。

 

「ふふ……綺麗な花ね」

「ジーナ! 今のは俺がカッコよくキメるとこだったろーが!」

「あら、早い者勝ちでしょ?」

「おいシュン、喚いてないでさっさと捕喰して回収しろ」

 

――濃いなぁ、第三部隊。

 

 シユウの亡骸から目を逸らし、ヘリの要請を入れながらミツハは苦笑した。

 

 競り合いを続けているカレルとシュンと、それを微笑ましそうに見つめるジーナ。第三部隊と比べて第二部隊は和やかな雰囲気だが、だからといって第三部隊が第二部隊より険悪という雰囲気でもない。単に『喧嘩するほど仲が良い』というものなのだろう。

 

 防衛班は不思議なチームだった。一見バラバラに見えるが、確固とした強い絆がある。だからこそ、自分がその絆に加われるのか不安に思うことが時々ある。

 

 そんなミツハの心情を察してか、ジーナは柔らかく微笑んだ。

 

「ミツハ、お疲れさま。初めての連携だったけど、とても動きやすかったわ」

「本当ですか? ありがとうございます!」

「うちの男どもが迷惑かけるかもしれないけど、適当に流しといてね」

「あのノリ割と好きなので、大丈夫だと思います」

「あら、そう? なら良かったわ。カレルもシュンもあんな感じだけど、いい子なのよ」

 

 ジーナは言いながら、過去を振り返るように語る。

 

「ブレンダンたちと馬が合わなくて衝突することもあったけど、タツミがバラバラだった私たちをまとめてくれて。1年前にカノンが入った時は、逆にシュンが引っ張ってくれたりしてたわね」

「みなさん本当に、良いチームですよね」

「あら、他人行儀なのね。悲しいわ。ミツハだってもう防衛班よ? きっと今以上に良いチームになれると思うわ」

「……なれますかね」

「なれるわよ」

 

 ジーナが妙に自信有りげに笑った。ジーナの言葉は嬉しいが、その自信はどこからくるのだろうと不思議に思っていると、ぞくりと悪寒がした。

 

 振り向けば、女性の身体と卵が融合したような奇怪な姿のアラガミ――『ザイゴート』が浮遊して甲高い耳鳴りのような鳴き声を発する。ミツハは咄嗟に神機を構え直す――

 

 ――よりも早く。ほんの一瞬のうちにザイゴートは真っ二つになり、びしゃびしゃとコンクリートの地面を血で濡らした。

 

 そんなザイゴートの骸を捕喰する神機は、第三部隊唯一の近距離型だ。血溜まりに一瞬怯んだが、シュンに礼を言う。すると彼はニヤリと口元に弧を描いて子供っぽく笑った。

 

「来月の嗜好品配給チケット、寄越せよ!」

「……あはは。善処しまーす」

「おいコラ」

 

 苦笑を漏らしながらシュンの催促を躱していると、ヘリの音が聞こえてくる。

 これ幸いとシュンから逃げるためにミツハはピックアップポイントまで走るが、シュンが追いかけて走ってきた。「ガキだな」とカレルが呆れたように吐き捨てれば、隣のジーナが楽しそうにクスクスと微笑んだ。

 

 

 

   ◇

 

 

 

「なぁ聞いたか? なんかまた新型が入ってくるらしいぜ」

 

 ヘリに乗り込み、アナグラへ帰還の最中にシュンが話題を振った。「らしいな」とカレルが相槌を打って会話を広げていく。どうやら近日、ユウと同じ近接と銃を切り替えられる新型神機使いがロシア支部から極東支部に転属されるらしい。

 

「どこの部隊に配属されるんでしょうね。人員的には第三部隊?」

「新型だからどうせ第一部隊だろ。チッ、割りの良い任務がまた持っていかれるな……」

「シュナイダーさんって本当ブレないですよね~」

 

 カレルはかなりお金にがめつい。通常の任務でもより多く稼ごうとアラガミの素材は余すところなく捕喰し、資材の回収も忘れない。参考になる点も多いのだが、アラガミの討伐数にこだわって深追いしすぎる面もあるらしい。過去に何かあったのか、大変だったとタツミが苦笑していた。

 

 ミツハたちはアナグラに帰投し、ヘリポートのある屋上から地上2階までエレベーターを降下させる。エントランスへ向かうと、2階のロビーラウンジに第一部隊が集まっていた。

 

 ぐったりとした様子でソファに座るリンドウと、その周りに立つ第一部隊のメンバー。どうやら彼らもミツハたちと同じように任務から帰還したばかりのようで、任務報告をしている。横を通り過ぎざまにユウと目が合い、小さく手を振った。

 

「第一部隊の任務ってどんな感じなんだろ……」

「そりゃ防衛班に渡される任務よりずっと高額報酬なんだろ」

「クソッ、支部長もなんで第一部隊にばっかデカい任務を回すんだよ!」

「高額なぶん強敵なんでしょうね〜」

「俺なら倒せるっつーの!」

「まったくだ」

 

 シュンとカレルは揃って口を尖らせ、ブツブツと文句を言いながら階段を下りる。「相変わらずね」と笑うジーナの隣でミツハは苦笑した。

 

「ディキンソンさんはお二人と違って気にしないですよね、報酬とか討伐数とか」

「私は地位や報酬なんてどうだっていいわ。ただアラガミを撃てればそれでいいの。そう、アラガミを撃ち抜いた瞬間、彼らは綺麗な花を咲かせるの。それが見られれば私は十分よ」

 

――うーん、やっぱり濃いな〜!

 

 うっとりとして微笑むジーナも二人に負けず劣らず曲者だ。アラガミとの戦いを『生と死の交流』『命のやり取り』と考えており、独自の哲学を持っている。大きく胸元が開いた服も彼女の考えを反映したもので、弱点の心臓を露出してアラガミとの命のやり取りを対等なものにしている――そうだ。第三部隊で一番濃いのはジーナだと、ミツハは密かに思っている。

 

 カレルがヒバリに帰投報告をしに受付へ行き、ジーナたちはベンチに腰掛けた。ミツハは近くにある自販機でジュースを買い、ふてぶてしくベンチに座るシュンに渡した。

 

「小川さん、今日のお礼です!」

「お、わかってんじゃねーか!」

 

 どうかこれで嗜好品配給チケットの件を忘れてくれ――と願いながら、ミツハもジーナの隣に座る。報告を終えたカレルもシュンの隣に座り、四人で今日の任務の振り返りや明日以降のアサインを確認していたのだが、その途中で放送が入った。

 

『――業務連絡。本日、第七部隊がウロヴォロスのコアの剥離に成功。技術部員は第五開発室に集合してください。繰り返します――……』

 

 途端にアナグラ内がざわめきだす。それはミツハたちも同様だった。

 

 ターミナルのノルンにはアラガミの情報が多数掲載されている。ミツハはアラガミに関して人一倍無知なため、座学以外の時間でもアラガミに関する知識を勉強していた。

 

 その中で『ウロヴォロス』の情報を見た時、ミツハは唖然とした。無数の眼を持ち、触手が集まってできたかのような身体は山のように巨大だという。超弩級アラガミとも呼ばれ、こんなに大きく、そして禍々しいアラガミが居るのかと絶句したほどだ。

 

 そんなウロヴォロスが討伐され、コアを取り出したらしい。放送を聞いたシュンが思わずといった様子で声を荒らげた。

 

「ウロヴォロス!? チッ、支部長の野郎、俺にはショボい任務しか回さねぇくせに、またデカい任務をリンドウさんに回しやがったな……!」

「コンゴウにだって苦戦するくせに、口だけは達者だな」

「ンだとカレル!」

「えっ? 倒したの雨宮少尉なんですか? 放送じゃ第七部隊って言ってましたけど」

「ぶっは、お前! リンドウさんのこと『雨宮少尉』って呼んでんのかよ!」

 

 シュンがジュースを吹き出して笑う。隣のカレルが迷惑そうな顔をしてシュンの脇腹に肘鉄を食らわせ、それにまたシュンが咽せた。

 

 「何しやがんだ!」とシュンとカレルが何度目かわからない小競り合いを始める。そんな二人を横目に、「そうねぇ」とジーナは人差し指を顎に当てた。

 

「ミツハは硬いわよね。もっと打ち解けてもいいんじゃないかしら?」

「つーか正直ディキンソンとかシュナイダーって言い難いだろ」

「うっ」

「たまに噛んでるよな」

「ううっ」

 

 シュンとカレルにグサグサと刺される。事実であった。

 

「もっと砕けた感じでいいんじゃない? 同年代でしょ、あなたたち」

「いやでも先輩ですし」

「そうだぞ、先輩を敬うのはいいことだぞ!」

「一番年下のくせにな」

「一歳しか変わんねーだろ!」

 

 軽口を叩き合うのも彼らにとってのコミュニケーションなのだろう。ウロヴォロスの話題からすっかり逸れ、いつの間にかミツハの口調の硬さについての話になっていた。

 

 ファミリーネームではなくファーストネームで呼んでみようという流れになり、呼ぶまで帰らせないと男二人の悪ノリが始まってしまった。

 

「まさか名前が分からねぇとかじゃないよな?」

「流石に覚えてますよ」

「じゃあ言え、ほらサンニーイチ」

「……シュンさんカレルさんジーナさん!」

「やっつけ感が酷い、やり直し」

 

 ダメ出しをされてしまった。じろりとカレルを見やれば、意地の悪い顔をして笑われた。目つきの悪さが三割増だ。

 

「うっわ……悪役の顔すぎる……」

「あ? 言うようになったじゃねぇか」

「後輩イジメやめてくださーい」

 

 捨て台詞を吐いてベンチを立つ。そんなミツハに対して、隣のジーナが目を細めた。

 

「ふふ、それぐらいがちょうど良いわね」

「……お疲れさまです! ジーナさん!」

「ええ、お疲れさま」

「俺らは無視かよ」

「お疲れさまでーす!」

 

 クラスの男友達とするような、雑で軽い調子が露呈してしまい少々気恥ずかしかった。ミツハが見せた新たな一面にジーナは微笑ましそうにしており、その反応で恥ずかしさに拍車がかかったミツハは退散した。

 

 階段を上り、2階にあるエレベーターへ向かう。アナグラ内は未だウロヴォロスの話でざわついており、第一部隊は既に解散していた。

 

 傷が治ってすぐの任務だったため、傷の経過を見せるよう看護師に言われていたので医療区画へエレベーターを移動させる。医療区画はエントランスや共同区画と違って静かなことが多いが、怪我人が出るとそうでもない。ちょうどミツハの横を、慌ただしくストレッチャーを押す看護師が通り過ぎていった。

 

 神機使いは大怪我を負うことも多いのだろう。つい先日、ミツハも世話になったばかりだ。今後、世話になる機会は少なくあってほしいものだ。

 

 そのためにも強くならないとなぁ、と思いながら医務室に入ると、そこに看護師の姿は無く、代わりにリンドウがベッドに腰掛けていた。

 

「あ、雨宮少尉。お疲れさまです」

「相っ変わらずお前さんは硬いな」

 

 つい先ほどカレルたちにも言われた言葉に、ミツハは思わず苦笑した。

 

 リンドウに対する呼び方は、正直『軍隊っぽい』という理由で呼んでいた。この世界が漫画やゲームのような世界の夢だと思っていたから、夢の中で『ごっこ遊び』をしていたのだ。

 

 ベッドの傍にある椅子に座り、おずおずといった様子でミツハは名前を呼んでみた。

 

「えっと、じゃあ……リンドウさん」

「お、どういう心境の変化だ? 髪もバッサリ切ってるしよ」

「色々ありまして……」

「まぁ、死にかけてみりゃ色々心持ちも変わるかもんか」

 

 リンドウは笑みを浮かべながら、「生き延びただけでも上出来だ」と労うようにミツハの肩を叩いた。

 

「ところでミツハ、怪我でもしたのか? 大怪我じゃなけりゃ俺が手当てしてやるよ」

「あ、いえ。塞がった傷の経過を看護師さんに診てもらいに来たんですけど、いらっしゃらなくて」

「それならちっと待つことになるぞ。さっき緊急の怪我人が運ばれてきたからな」

「ああ、さっきの……。……リンドウさんはどこか怪我でもされたんですか?」

「いや、まー、ちょっとな。サクヤたちには内緒にしておいてくれるか? あいつにバレるとうるせぇから」

 

 困ったように苦笑したリンドウに素直に頷いた。先ほどウロヴォロスを討伐した第七部隊の正体はリンドウだとシュンは言っていた。もしそれが本当なら、彼は第一部隊と別行動でウロヴォロスを討伐した任務の後だ。

 

 追求してほしくなさそうだったので、ミツハもそれ以上聞かなかった。椅子に座って看護師を待ちながら、以前リンドウとした会話を思い出す。

 

「……前に、ソーマさんのことを話してくれたじゃないですか」

「ああ、あったな」

「リンドウさんに言われたばかりなのに、ソーマさんにまたご迷惑をおかけしてしまい……。もっと、こう、強くなりたいな〜って思いました」

 

 リンドウからソーマのことを聞いたあの時。あの時ミツハは、ソーマに悲しまれるほど仲間とも思われていなさそうだ――などと思っていたが、そんなことは関係無かった。ソーマは誰であろうと、目の前で人が死に、助けられないことを恐れているようだった。応急処置の慣れた手つきが、ソーマがどれだけ助けようとしていたのかを如実に語っていた。

 

 リンドウは少し目を丸くして、そして嬉しそうに破顔した。

 

「ははは。そうだな、強くなってあいつを安心させてやれ。ああ、それと……今朝ソーマと一緒に飯食ってたんだってな?」

「えっ、なんで知ってるんですか」

「なんでってそりゃ、噂になってたからな」

「噂に!?」

 

 どうしてそうなっているのだ! とミツハは思わず声が大きくなった。

 

「一緒にご飯……ですらなかったですよ!? 正面の席に座って食べてただけで、全然話してませんでしたし……!」

「ソーマは目立ちやすいからなぁ……。周りのヤツらが何か言うかもしれんが、よかったらあいつと仲良くしてやってくれ」

 

 リンドウの声色にからかいの色はどこにも無い。ソーマを語る時のリンドウはまるで兄のようで、親身に彼のことを案じていた。

 

 そんなリンドウに、ミツハは深く頷いた。

 

「……そのつもりです。仲良くなれならいいなって、思います。ていうかなりたいです!」

「はは、よろしく頼むわ。根気よくアイツの懐に入っていってくれや」

「懐に入るって、あんまり良い意味じゃないですよ〜……」

「ありゃ、そうか?」

 

 困ったようにリンドウは笑う。「ま、頑張れよ」とリンドウはぐしゃりとミツハの髪を乱雑に撫でた。「セクハラですよ~」と軽口を叩けば可笑しそうにリンドウは笑い、ベッドから立ち上がり病室の扉を開けた。

 

「だいぶ防衛班に染まってきたな、お前」

 

 去り際に言ったリンドウの言葉が妙に嬉しく、ミツハは目一杯に笑って見せた。

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