Kuschel   作:小日向

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033 捜索の打ち切り

2月14日

 

 リンドウが行方不明になって1週間が経とうとしていた。未だリンドウは帰ってきておらず、ソーマとも顔を合わせていない。

 

 第二部隊は引き続き、通常の巡回経路を拡大してリンドウの捜索を続けていた。本日も装甲壁周辺のアラガミを討伐しつつ、拡大した巡回経路を通ってリンドウの手掛かりを探す。だが、何も見つからない。成果を挙げられないまま時間だけが過ぎていき、日が暮れ始めた。

 

「リンドウさん、見つかんねえなぁ……」

「……そろそろ戻らなければな」

 

 ブレンダンが運転する高機動車に乗り込み、真っ赤に染まる空を見ながらミツハたちはアナグラへ帰投する。

 

 リンドウが行方不明になってから1週間、アナグラはどんよりと灰色の雲がかかったような空気だったが、帰投したアナグラの空気は一段と重かった。そして騒がしい。どこかで啜り泣くような声も聞こえてくる。

 

 そして、聞こえてきた会話に足が止まった。

 

「またソーマのチームから殉職者が出たな」

「エリックに続きリンドウさんだろ? 洒落になってねぇよ……」

「――あの、ナオさん。リンドウさんのこと、何か進展あったんですか?」

 

 ミツハは思わず話しかける。話をしていたのは偵察班の神機使いたちだ。そのうちの一人は部屋の階層が同じで、廊下でよくすれ違う人だった。

 

「ああ、まだ知らねぇのか? リンドウさん、KIA認定されて捜索打ち切りだってよ」

「KIA!? 腕輪か何か見つかったのか!?」

 

 男の言葉を聞き、驚いたタツミが割って入ってきた。

 

 KIA――それは作戦行動中死亡(戦死)を意味する言葉だ。

 

 愕然とする第二部隊に男も気まずそうな顔をした。

 

「詳しいことはターミナル見てみろよ……情報更新されるはずだから」

 

 簡単に帰投報告だけを済ませ、2階のロビーラウンジのテーブルに置いたタブレットを第二部隊の全員で覗き見る。

 

 リンドウの捜索記録は、1週間前からあまり変わっていない。リンドウが取り残された数時間後には第一部隊が遭遇した接触禁忌種の群れは姿を消し、調査隊により捜索が開始された。しかし最後にリンドウの姿を見た教会の中には、死体はおろか神機や腕輪すら無かった。代わりに残されていたのはリンドウのDNAと一致する大量の血痕だけ。

 

 この1週間はその記録だけだったが、本日、追記されていた。

 

 ――腕輪の位置を示すビーコンと所有者の生体信号(バイタルサイン)が消失した。生きている可能性は限りなくゼロに等しいと判断し、KIAと認定。雨宮リンドウ大尉の捜索を打ち切る――

 

 リンドウの階級は少尉ではなく、二階級特進の大尉となっていた。

 

 画面に表示される文章を読み、沈黙が落ちた。エントランスの雑然とした音が、遠巻きに聞こえる。

 タツミがひどく重苦しい溜息を吐いた。

 

「腕輪も神機も見つかってないのに捜索打ち切りか……」

「でも……何も見つかっていないってことは、リンドウさんが死んでしまった証拠だって見つかってないってことですよね!?」

 

 カノンが前向きに考えると、「そうだな」とタツミが励まされていた。

 

「……何も見つかってないのに打ち切られることって、よくあるんですか?」

「いや。神機使いが任務中に行方不明になった場合、神機が回収されるまで捜索されるのが通例だが……未確認アラガミが活性化している状況というのが、打ち切りの原因かもしれんな」

 

 ミツハの問いにブレンダンが答える。確かに1週間前に第一部隊が接触禁忌種の群れと遭遇して以降、接触禁忌種や未確認アラガミの遭遇報告が増えているのだ。

 

 人が行き交うエントランスでは、耳を傾ければすぐにリンドウの話が耳に入る。

 

 ――なぁ、まじで死んじまったと思う?――

 ――だってもう1週間だぜ? 生体信号も消えてんなら絶望的だろ――

 ――やっぱソーマとは組みたくねぇなぁ……――

 

 エリックが殉職した日、訓練場で見たソーマの背中が思い浮かぶ。

 あの日、自分を責めているソーマにリンドウが声を掛けていた。

 そして、リンドウに言われた言葉を思い出す。

 

「…………」

 

 最後に見たソーマは、手負の獣のようだった。心の内に踏み込むことを拒み、ミツハを拒絶していた。朝の食堂にも来ない。避けられているのは明白だった。

 

 だけど――

 

 思案して俯くミツハに、まるで気合でも入れるかのようにタツミが背中を叩く。

 

「たっ、タツミさん!?」

「ミツハは先に上がっていいぞ、デブリーフィングは俺たちでやっとくからな。あー、そうそうヒバリちゃん! 今日の報告書、こっちで見てもらっていい!?」

「――はい。少々お待ちくださいね」

 

 タツミが2階から身を乗り出して階下を見下ろし、受付のヒバリに声をかける。ヒバリは受付で画面を確認したのち、第二部隊の座る2階のロビーラウンジまでやって来た。

 

 先に上がっていいと言われて戸惑うミツハに、ヒバリが真面目な顔で話しかける。

 

「現在第一訓練場をソーマさんが使用しています。……ここ数日、任務から帰投すると長時間使用していて……あまり休まれていないようなので、様子を見に行っていただけませんか?」

 

 タツミとヒバリがミツハの背中を押す。カノンとブレンダンも異論はないようで、ミツハの顔を見て頷いていた。

 

「あ――ありがとうございます!」

 

 ソーマは今、第一訓練所に居る。エリックが殉職した後のように、やり場のない思いをアラガミにぶつけているに違いない。一心不乱に神機を振るい、『出来損ないの化け物』を責めているのだろう。

 

 タツミたちの気遣いに感謝し、ミツハは席を立つ。エレベーターに向かうが、すぐに足は止まってしまう。ミツハは困ったように笑いながら振り返った。

 

「……葡萄味の缶ジュースって、どこの自販機で売ってますか?」

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