Kuschel   作:小日向

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035 恋の自覚

2月15日

 

 翌日の朝6時半過ぎ。食堂へ足を運べば、ソーマの姿があった。

 

「ソーマさんって実はめちゃくちゃ優しいですよね」

「寝言は寝て言え」

 

 そう言いながらもソーマは食堂へ来てくれた。顔色は昨日よりも良くなっており、昨夜はきちんと眠れたようでミツハはほっとする。

 

 食事に手を付けながら、何か話題はないものかと思案する。

 ソーマは基本自分から話を振らないので会話がしたければミツハから切り出さなければならない。これが60年前であれば話題なんていくらでもある。しかしこの世界ではそうもいかず、一つ話題を振るのにもいちいち考えてしまう。相手がソーマであれば特にだ。

 

「昨日聴いた曲、どうでした?」

「……悪くはなかった」

 

 思いついたのは音楽の話題だ。ソーマの返事にミツハの表情は明るくなる。

 

「私あのバンドのアルバム結構持ってるんですよ〜! よかったら他の曲も聴きませんか? オススメあるんですけど」

「そもそもあんな昔の曲どこから拾ってきてんだ」

「え? …………ど、独自ルートがありまして」

「……ああ。お前、箱入りだったな」

 

 口を滑らせたが、富裕層という設定で上手く誤魔化すことができた。

 購入したCDをパソコン経由でスマホに入れてオフラインでも聴けるようにしているのだが、この時代のCDは旧時代の遺産であり貴重品だ。たまに壊れていない状態で発掘されると高値で取引されるとか何とか。

 

「もうそのルート無くなっちゃったので、今スマホにあるぶんしか聴けないんですけどね〜」

「…………」

「ソーマさん? え、何か顔についてます?」

「……なんでもねぇ」

 

 食事の手が止まりミツハを見ていたソーマが気になった。また何か口を滑らせてしまい、この世界には合わないこと言っただろうかと思い返す。そして『しまった』という顔をした。

 

 富裕層で独自のルートが使えたがもう使えないということは、家族が死んでしまったから上流階級から転落したという話になる。

 

 そしてミツハは今、自身の家族の死に関係する話を、非常に軽い調子で話してしまったことになる。

 

――朝からするような話じゃなくなっちゃったよ〜!

 

 慌ててミツハは別の話題へ舵を切った。

 

「そ、それより! ソーマさんがよく聴いてる曲も知りたいですっ!」

「知ってどうすんだ」

「私も聴きたいです」

「……テメェの好きな曲だけ聴いてりゃいいだろ」

「えー。じゃあいつか教えてくださいね」

 

 あまり乗り気ではないようなので、これ以上食い下がるのはやめておく。好きなものを他人に開示するのは、そう簡単にできるものじゃないのかもしれない。

 

 少し前のように、口数は少ないが時々会話を交わしながらソーマが食事を終える。先に席を立つソーマにいってらっしゃいと挨拶をして、ミツハも残りの食事に手を付ける。

 

 すると正面二つの空席が埋まる。

 

「おはよう、ミツハ」

「おっはよー!」

 

 同期二人がプレートを持ってミツハの正面に座る。寝癖が直っていないコウタにくすくす笑いながら挨拶を返した。

 

「さっきソーマとすれ違ったんだ。ソーマ、ちゃんと食堂に来てたみたいだね」

「なんか安心したよ。いけ好かねぇヤツだけど、最近のあいつ全然出てこなかったし。ミツハ、ソーマになんか言ったの?」

「うーん、内緒〜」

 

 流石に他言するようなものではないだろう。笑って誤魔化すと、二人は何やらニヤついた表情をする。「おやおや?」とコウタがわざとらしく声を上擦らせる。その様子は恋愛話が大好きな友人を連想させた。

 

「やっぱりミツハってソーマのこと好きなの?」

 

 予想どおり、話は恋愛方面にハンドルが切られた。興味津々といった様子のコウタは、15歳のお年頃の男の子なのだ。

 ミツハは食べる手を止めて苦笑する。予想はしていたので慌てることはなかった。

 

「……やっぱりって何、やっぱりって」

「だってソーマの時間に合わせてわざわざ早起きして朝飯食ってんじゃん」

「この前ソーマの様子聞いた時は明らかにがっかりしてたしね」

「で、そこんとこどうなんですか、ミツハさんっ」

 

 レポーターのようにマイクを向ける仕草をするコウタに、ミツハは笑う。流石にもう自覚はしていたが、改めて言葉にするのは初めてだ。

 

「うん、好きなんだと思うよ」

「……うええ」

 

 ミツハの答えに、後方から辟易したような声が聞こえた。振り向けば、席を探しているカレルがプレート片手に顔を顰めてミツハを見ていた。

 

「お前ほんっと悪趣味だよな。これは近いうち防衛班から二階級特進が出るな……」

「カレルさんはほんっと最低なこと言いますよね。もう怒りを通り越して笑いが出てきますよ。あはははは」

 

 カレルは舌打ちを一つしてそのままミツハの隣に座る。コウタは苦手な先輩に少し萎縮した様子を見せたが、ユウは特に気にした素振りは見せずにカレルに話しかける。

 

「ねぇカレル、ミツハって防衛班ではどんな感じ? あんまり防衛班と組む機会が無いから気になるんだよね」

「あ? 別に普通だ。しょっちゅう遠距離型にオラクル分ける点は褒めれるな」

「やだ照れる。カレルさんお礼にこのパッサパサしたパテあげますね」

「うわっ、要らねぇ……。つーかお前、アラガミの索敵が上手いのは良いが、数キロ先の大型アラガミまで見つけんのはマジでやめろ。討伐班に獲物が取られていい迷惑だ」

「うわっ、最低だこの人……」

「へー、俺もミツハと組んでみたいな。遠距離と相性良いの?」

「あ、うん。私の神機はあんまり敵に近づかなくても攻撃できるから、誤射されにくいの。私よりタツミさんのほうがカノンちゃんに誤射されるし」

「ショート使いの運命だからな。あとオラクル回収率良いだろ、お前の神機」

 

 ミツハとカレルの話を聞き、ユウが思い出したように納得した。

 

「咬刃展開……だっけ? あれ凄いよね、ショート並みに手数が増えるし」

「あー、訓練の時に見たあれか! なんかびょーんって鎌が伸びるやつ!」

「そうそう、びょーんって伸びるやつ。かっこいいでしょ~。見た目で選んじゃったけど、本当ヴァリアントサイズにして良かったって思うもん。誤射されにくいし」

「重要なポイントそこなの?」

「防衛班にとっては凄く重要」

「まったくだ」

 

 コウタの苦笑にミツハとカレルは力強く頷く。カノンの誤射をいかに避けるか。これが防衛班にとって最も重要なことであるのだ。

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