防衛任務の巡回を終え、第二部隊がアナグラへ帰投する。リンドウの捜索は打ち切りとなりKIA認定にもなってしまったが、第二部隊は未だ拡大した経路で巡回していた。
シャワーを浴び、共同区画の廊下を歩く。日が暮れ、任務に出ていた神機使いの多くが帰投している時間帯の共同区画は人が多い。当然人の声も多く聞こえ、会話にはやはりと言うべきかリンドウの名前が多く挙がる。
とっとと部屋へ戻ってしまおうとミツハがエレベーターへ向かうと、途中でツバキと鉢合わせた。顔を合わせるのは、第二部隊がリンドウの捜索を掛け合って以来だ。
「ツバキさん、お疲れさまです」
「ああ。……最近の防衛班は、随分巡回に時間がかかっているようだな」
――ギクリ。リンドウを捜索していることがバレている。
ミツハが笑顔のまま固まっていると、ツバキは少しからかうように口角を上げた。
「フッ……そう焦らなくていい。上官としては褒められたものじゃないが……姉としてはお前たちの気持ちを嬉しく思う」
ツバキはリンドウの姉だ。第二部隊がツバキに捜索を掛け合った際、元神機使いで昔からアナグラに居る百田ゲンにもたしなめられたが、一番飛び出して探しに行きたいのはツバキ自身のはずだ。だが親族だからといって、上官としての態度を変えられないのだろう。
何も見つからないまま弟の捜索が打ち切られてしまったツバキの心情を思うと、ミツハはやり切れなさを覚える。それでも強く振る舞い、弱さを見せないツバキの姿に、ソーマの姿と重なった。
「……ツバキさんも、無理はしないでくださいね」
「ふ。心配するな。私も器用なほうではないとは思うが……あいつほど不器用でもない」
誰を思い浮かべたのか、それは明白だった。リンドウとソーマが付き合いが長いのであれば、その姉であり元神機使いのツバキも付き合いは長いのだろう。
ツバキの視線が周囲を流し見て、ミツハに戻る。彼女の凜とした眼差しを向けられると、条件反射のように背筋が伸びた。研修中の名残だ。
「ミツハ、この後時間はあるか?」
「え? はい、ありますけど、どうしました?」
「なら場所を移して、少し話さないか? ここだと人が通るだろう」
つまり、人に聞かれてはマズい話。ミツハの秘密に関する話がしたいのだろう。
ミツハは頷き、二人はブリーフィングルームに移動した。
研修中の座学の時間でよく使用していた部屋だったが、ツバキは演台ではなくミツハと向き合うように椅子に座っている。
「ミツハ。お前がこの世界に来て1ヶ月を過ぎたが……ここでの生活には慣れたか?」
そう問いかけられ、ミツハは曖昧な笑顔を作った。
「慣れてきてるとは思うんですけど……でも、馴染んではない……って感じです。任務の場所が旧市街地だと聞いてまず思い浮かぶのが、私の世界の市街地ですから」
「まだ1ヶ月だからな。仕方ないだろう」
「……もう1ヶ月経ったのか、という気もします」
「……そうだな。すまない、配慮に欠けていたな」
「いえ……」
ミツハは目を伏せる。作っていた笑顔は意味が無かった。
これは避けていた話題だった。サカキとミツハの秘密に関する話をするときは偏食因子絡みが多い。ミツハの世界の話をするときもあるが、口が滑らない限り心情を話すことは無かった。
絶対に、この世界に対して否定的なことしか言えないのだから。
「……でも突然この世界に来たんですから、また突然戻れるかもしれないですし! それまで絶対死ねませんし、強いアラガミにも対処できるよう頑張りたいです!」
ぱっと顔を上げてミツハは笑顔を作る。ゴッドイーターの顔をしたミツハに対し、教官のツバキは頷いた。
「……そうだな。なんなら、また指導してやってもいいぞ」
「ツバキ教官の指導はスパルタすぎますよ〜! 腕立て千回とか耳を疑いましたからね!?」
「ふ、死にたくないなら甘ったれたことを言うんじゃない」
研修期間の訓練を思い出し、ミツハは大袈裟に怯えて見せて笑った。
「……それと、ソーマのことで礼を言いたくてな」
ツバキの表情が柔らかいものになる。
「あいつはあいつで色々あるが……、私はソーマのことを、もう一人の弟のように思っている」
――そうだ。ツバキさんもソーマさんのことを、知ってるのかな。
ソーマにはきっと、何か人には言えない『秘密』がある。それをリンドウは知っているような口ぶりだったが、リンドウの姉であるツバキもきっと知っているのだろう。そんな声色をしていた。
「こんな立場だからな。ろくにしてやれることはないが……リンドウのことでソーマが自分を責めているようなら、それこそリンドウが一番望んでいないことだ。……お前が居てくれて助かった」
「ツバキさん……」
「これからも――、……ソーマだけでなく、第一部隊は色々と慌ただしくなる。防衛班からも人員を借りて任務に当たってもらうことあるだろう。大型との戦闘にも慣れておくように。いいな?」
姉としての声は一度途切れたのを機に、教官のものへと切り替わる。ミツハは思わず背筋を伸ばして頷いた。
「はい! 大型相手の訓練、しておきますね。……大型、大型か〜……」
「何も一人で戦うわけじゃないんだ。仲間を頼れ。特にお前は仲間の動きを見るのに長けているからな。冷静に対処すれば問題ないだろう」
「……そうですよね、はい! 頑張ります!」
ミツハが力強く応える。「良い返事だ」とツバキは笑みを浮かべて頷いた。