Kuschel   作:小日向

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067 大好きな人たち

3月12日

 

「打ち明けるとは言ったものの、一晩経って冷静になるとそもそも信じてもらえるのか不安になってきました」

「まぁ世迷言だと思われるだろうな」

 

 不味いレーションを食べながらミツハは頭を悩ませた。突然60年前の世界からタイムスリップしてきました、なんて言えば頭が可笑しくなったのかと思われてしまいそうだ。

 

 空席が目立つ朝早い食堂は話しているうちに人が増えていき、周囲の神機使いは怪訝なものでも見るようにミツハたちを一瞥する。死神の正面の空席が埋まったことがそんなにも意外らしい。「まじかよ」と引き攣った声が遠巻きから聞こえるが、二人は気にせず話を続けた。

 

「そもそもサカキたちにはなんて説明して納得させたんだよ」

「学生証見せたり、スマホやカメラの写真の日付とか……」

「なら同じように見せりゃいいだろ」

「そうですね、そうします。……なんかもう今から緊張してきた〜……」

 

 胃がキリキリする、と言ってミツハは完全に朝食を食べる手が止まってしまった。そんなミツハの様子をソーマは呆れながらに見ていると、見慣れた顔が食堂の扉を開けた。

 

 第一部隊隊長の神薙ユウはミツハとソーマの姿を見ると、眠たげな顔から一変してぱっと顔を綻ばせた。

 

「おはよう、二人とも! ……うん、やっぱり二人一緒にいるほうがしっくりくるよ」

「あはは……その、色々ご心配をおかけしました……」

「……世話をかけさせたな」

「いいよ、全然。安心した」

 

 「良かった」と柔らかくユウは笑った。きっとユウは気づいていたのだろう、ミツハが何度も言った『大丈夫』が大丈夫なんかじゃないことに。ユウは周りをよく見ているのだ。ミツハの嘘など、きっと感応現象なんてことが起こらずとも分かっていたに違いない。

 

 聡い少年は何があったのか深く聞いてくることはしなかった。『あとは二人でごゆっくり』とでも言うように離れた席で食事を取ろうとするユウをミツハは慌てて引き止める。

 

 ユウはミツハがソーマを好いていることを知っているため気を遣っているのかもしれないが、あからさまにされると割と恥ずかしい。それにユウと話したいこともあった。ユウはソーマの隣の席に座り、三人で食事をしながら会話を切り出す。

 

「今日の任務って、開始時刻結構遅めだったよね?」

「うん。コンゴウの堕天種が廃寺に近づいたタイミングで迎撃するんだって」

「じゃあ、任務の前にどこかで時間もらえないかな。その、……第一部隊と防衛班のみんなに、もう全部打ち明けようと思ってて。だから任務の前に、防衛班も呼んでちょっと話をさせてほしいの」

「……そっか。大丈夫なんだね、本当に」

「うん。……嘘を吐いて隠したままだと、みんなと上手く話せる気がしなくて」

 

 ミツハの言葉にユウは安堵の表情を浮かべる。そして大袈裟に胸を撫で下ろしてみせた。

 

「良かった……このままだと僕も胃に穴が空きそうだったから……」

「ごめん〜! 感じ悪かったよね……!」

「あはは、冗談だよ。でも普段ミツハがどれだけ会話をまわしてくれていたか実感したよ……」

 

 会話を意図的に終わらせていた自覚はあるので本当に申し訳ない。事情を知っていたユウは板挟みで大変な迷惑や気苦労をかけたに違いない。今度お詫びをしなきゃ……とミツハは自省した。

 

「第一部隊のみんなには僕が集合かけておくよ。時間は防衛班に合わせたほうがいいかな」

「そうだね、今日の防衛班の予定わからないしな……」

 

 防衛班から討伐班に異動してまだ5日だが、その5日の間で防衛班の面々とは話をしていないし顔も合わせていなかった。食堂には行かず、任務から帰投してもすぐに部屋に戻っていたので意図的に顔を合わせる機会を潰していたのだが。

 

 携帯を取り出し、防衛班班長のタツミにメールを送る。返信はプレートに盛られたレーションを食べ終える頃に届いた。

 

「防衛班はお昼から出撃だから、午前中なら空いてるって」

「じゃあ10時ぐらいにブリーフィングルームに集まろうか。コウタは起きてるかな……昨日溜めてたバガラリーを一気に観るって言ってたんだよね」

「徹夜で観てそう」

「多分そう」

 

 きっと寝不足で欠伸をしながら来るに違いない。ユウと二人で同じ想像をして、ふふっと笑い合った。

 ソーマはとっくにプレートを空にしていたが、黙って二人のやりとりを聞いていた。無理に笑った顔とはもう言われなかった。

 

 自室に戻り、ずっとしまわれたままだった通学鞄を久しぶりに出す。学生証の髪の長い顔写真を見ると、随分と昔のことに思えて少し笑ってしまう。

 

 そしてミツハは何気なしに、クローゼットを開ける。そこにはもうずっと着ていない、高校の制服がハンガーに掛けられてた。

 

 

 

   ◇

 

 

 

 どう説明しようかうんうんと悩んでいるうちに、集合時間が近づいていた。慌てて着替え、鞄を持ってブリーフィングルームに急いだ。

 

 時間には間に合ったが、既に第一部隊と防衛班はブリーフィングルームに集まっていた。部隊ごとに固まって席に座り、各々雑談をしていた。

 

 コウタはやはり徹夜でバガラリーを見たのか眠そうにしていて、アリサとサクヤは談笑している。ソーマは少し離れたところに居た。ユウとタツミは隊長同士話しており、カノンとブレンダンはタツミたちが話していることを聞いていた。シュンとカレルは任務前に呼び出されて少々不服そうで、そんな二人をジーナが嗜めている。

 

 そんな彼らの中へ混じるように、扉を開けて中に入ると視線が集まった。

 

「言い出しっぺなのに最後に来ちゃってすみません! 来てくれてありがとうございます!」

 

 そう告げて入室してきたミツハを見ると、一同は不思議そうな顔をしていた。

 

「お前、なんだその格好は。コスプレか?」

 

 カレルがからかうように鼻で笑った。不思議に思うのも当然だ。ミツハは高校の制服を身に纏っていたのだ。

 

 紺色のブレザーにベージュ色のセーター。深い赤のチェックのリボンに、リボンと同じ柄の赤いプリーツスカート。

 

 少し前は毎日のように着ていた制服だが、いざ久々に袖を通すと懐かしさもあるが恥ずかしさが勝ってしまう。

 

「えっと……その……実は、ずっとみんなに隠していたことが、あって……」

 

 どうしても歯切れが悪くなってしまう。どう説明しようか考えていても、いざみんなの前で喋ろうとすると言葉に詰まってしまった。

 

 緊張で震える手を誤魔化すように、通学鞄の持ち手をぎゅっと強く握った。

 

「……私、この世界の人間じゃないんです。――60年前の世界から、タイムスリップして来たんです」

 

 言葉にすると、あまりに現実味が無くて安っぽく聞こえてしまう。突然妙なことを言い出したミツハに一同は呆気に取られ、部屋は静まり返る。

 

――この静けさ、苦手だ。

 

 学生生活でも誰かが的外れな言動をして静まり返った空気が苦手で、ミツハは場を回す役割になることが多かった。だが今はミツハがその的外れな言動をする立場である。『普通』から逸脱した瞬間が、ひどく恐ろしい。

 

 次は何を言うんだっけ。ミツハの頭が真っ白になりそうだった時――

 

 ――明るい声が、静かな空気を切り裂いた。

 

 

「えっ! じゃあサカキ博士が言ってたサーカスとか、実際に見たことあんの!?」

 

 

 先ほどまで眠そうにしていたはずのコウタが、興味津々で聞いていた。そのあまりにも真っ直ぐな反応に、今度はミツハのほうが呆気に取られる番だった。

 

「あ……えーっと、うん。子供の頃に見たことあるよ。サーカスの写真は無いけど、動物園のライオンの写真ならあるけど……見る?」

「マジで? 見る見る!」

 

 事前に考えていた話の流れから大きく逸脱し、ミツハは鞄からカメラを取り出した。動物園に行った時に撮った写真を探し、コウタに見せる。コウタ以外も気になるのか、カメラの周りには人が集まって来た。

 

 多種多様な動物たちと、一緒に来ていた友人の姿がカメラに映る。撮影ばかりしていたのでミツハが映る写真は少ないが、時折友人が撮ってくれた写真がある。髪を切る前の、ただの女子高生の井上三葉が笑っていた。

 

「本当に……ミツハなんですね……」

 

 写真の撮影日は2009年。開園10周年の動物園へ遊びに行った時の写真だった。60年以上前の日付の写真に映るミツハに、アリサは沁み入るように呟いた。

 

「前は髪、長かったものね。その服も初めて会ったときを思い出すわね……。……それよりこの写真、本当に極東なの? すっごく緑が豊かじゃない」

 

 動物園の風景を見てサクヤが驚く。荒廃してしまったこの世界では、確かにそうそうお目にかかれないほど自然豊かな風景がカメラの画面には映っていた。

 

「上白根町だから……贖罪の街から北西に10キロくらい? のところです。国内最大級の動物園だったので、動物の生息域ごとのエリアとかもあって異国情緒味わえたんですよね」

「嘘、あの辺りなの? 今じゃ見る影もないわね……」

「博士は猛獣って言ってたけど、全然可愛いじゃん。大きさも小型アラガミくらいだし」

「私も感覚麻痺してきたけど、小型アラガミって全然小さくないからね……!?」

 

 コウタの言葉にミツハはツッコミを入れる。小型アラガミでも、オウガテイルなどは大型陸上哺乳類ほどの大きさをしているのだ。

 

 写真を見ながら話をしていると、空気が軽くなった。ほっと小さく息を吐くと、頬杖をつくカレルがカメラからミツハへ視線を移した。

 

「手の込んだドッキリとかじゃないんだよな?」

「……うん。……ていうか、こんなに人呼んでドッキリするわけないじゃん、シュンさんとカレルさん以外も居るんだし」

「俺らだけだったらドッキリしてんのかよ!」

「ふふ、やるなら私も手伝うわよ」

 

 いつものやりとりに防衛班は一緒になって笑った。ミツハは落ち着きを取り戻し、カメラを机の上に置く。

 

 話の続きをしなくてはいけない。

 

「……オラクル細胞って、本来2046年に発見されるんですよね。けど、2011年の私の身体に突然変異で発生しちゃって……博士が言うには、タイムパラドックスの修正のためにタイムスリップしたみたいなんです。……つい2ヶ月前までは、アラガミのこととかなんにも知らない女子高生やってました。これ、学校の制服なんです。贖罪の街の近くに私が通ってた高校があったんですよ〜」

 

 制服を見せびらかすようにブレザーを広げた。声は震えておらず、悲壮感も無く明るく話すことができた。「だからボケっとしてんのか」などとカレルからは納得されたが、その普段通りの嫌味が今はとてもありがたく感じる。

 

「それで……偏食因子も普通とは違うんです。P15偏食因子なんですけど、どうもこの偏食因子はP53とは違って定期的に適合率とオラクル活性が下がるみたいで。1ヶ月前は任務中にご迷惑をおかけしました……」

「ああ……あの時か。気にするな。むしろ原因がわかって安心したくらいだ」

「ブレンダンさん……」

 

 優しく受け入れられている。涙ぐみそうになるが、まだ話さなければいけないことはある。

 

 ミツハはごくりと生唾を飲み込み、少し俯きがちに言葉を続ける。

 

「……少し前に、行方不明になってたじゃないですか、私。あの時、私の身体の中からオラクル細胞が一時的に消失して……元の世界に帰っていたんです。だけど、また私の身体の中にオラクル細胞が発生したのでこの世界に戻ってきたんですけど……この世界にまた戻ってきたことを、喜べなくて」

 

 このことを打ち明けるのは、やはり怖い。それでも言わなければいけない。スカートの裾を握りしめ、一思いに告げた。

 

「行方不明の原因も本当のことを言えなかったですし、この世界の人に対して無神経なことを思ってしまって……。そのせいで今まで失礼な態度を取ったり、避けてしまったり、嘘を吐いたりして……すみませんでした」

 

 謝罪を最後に独白は終わり、沈黙が落ちる。防衛班とは思えないほどの静けさだった。ガタリと椅子から立ち上がる音が響き、静寂を打ち破った。

 

「ミツハ」

「……はい」

 

 防衛班班長のタツミがミツハの前に立つ。目を伏せるミツハに対し、励ますようにタツミはミツハの肩を軽く叩いた。

 

「話してくれて、ありがとな」

 

 そう言ってタツミは笑った。疑いも戸惑いも何も無い笑い顔だった。その言葉に、その顔に、ミツハはじわりと目頭が熱くなる。

 

「こ、んな、わけわかんないこと、信じてくれるんですか……」

 

 零れ落ちそうな涙を我慢しながら、未だ心の隅にある不安を問いかける。するとタツミは至極当然のように、むしろそんな問いをするミツハを呆れるように、ただ笑った。

 

「仲間のことを信じてやれないで、どうするんだよ」

 

 ――敵わないなと痛感した。今まで向き合うことから逃げ続けていた自分が本当に馬鹿だと思えるくらいだった。そうだ、防衛班とはこういうチームだった。一見バラバラに見えるが、その根っこは深く固い絆で結ばれている。だからこそ、ミツハは彼らのことが大切で、大好きになったのだ。

 

 ガタンッ、と椅子が倒れる音が響いた。今までずっと黙って聞いていたカノンが、しゃくりを上げながら涙を零していた。

 

「み、みつっ、ミツハちゃん〜……!」

「えっ、カノンちゃん!? もう、なんでカノンちゃんが、泣いちゃ……う、うぅ〜……カノンちゃん〜……!」

 

 ぐずぐずに泣きながら、カノンがミツハに抱きついた。つられてミツハの瞳に溜まった涙もついに溢れ出し、上擦った声で互いの名前を呼び合った。

 

「ミツハちゃん、いっぱいお話しましょうね。私、聞きたいことがたくさんあります。ミツハちゃんがどんな世界で生きていたのか、知りたいです。一緒にお菓子を作って、一緒に食べて、いっぱい、お話しましょうね」

 

 目尻の涙をきらきらとさせながら、カノンが花のように笑う。おかえりなさい、と屋上でミツハを迎えて笑った姿が重なった。

 

「……あの日、この世界に戻った日。屋上で言えなかったから……今更だけど、言わせてね」

 

 涙を滲ませながら、ミツハはカノンの手を握った。

 

「――ただいま、カノンちゃん」

「……はい。おかえりなさい、ミツハちゃんっ!」

 

 手を握り返してカノンが笑う。その笑顔に、決壊した涙腺は最早壊れた蛇口と化した。

 

「…………やばい、泣く〜! 涙腺がバカになっちゃう〜!」

「お前は元からバカだろ」

「あーあ、もうこれ収集つかねぇだろ……」

 

 第三部隊の男二人が呆れた声を出した。カレルはいつの間にかカメラを手にしており、ピッ、ピッ、と操作する電子音が聞こえる。写真を見ているのだろうが、勝手に見られるのは流石に恥ずかしい。ミツハは鼻を啜りながら涙を拭ってカレルに近づいた。

 

「……ちょっと、何見てるの」

「この写真、今で言うとどの辺りだ?」

「えー? 確か廃寺辺りかな……。鎌倉は手軽に行ける有名観光地で良い撮影スポットだったんだよね」

「昔の廃寺の写真もあるの?」

 

 鎌倉の明月院で咲き誇る紫陽花の写真を見ていると、興味を惹かれたのかサクヤがひょっこりと顔を覗かせた。

 

「あ、はい。鎌倉の大仏とか神社とか、あと普通に町並みとか色々撮ってますよ」

「良かったら見せてくれないかしら? 私、あの辺りの出身だから気になっちゃって」

「そうなんですか!? どうぞどうぞ!」

「あ、テメッ」

 

 カレルの手から丁重に、しかし素早くカメラを奪い取ってサクヤに渡す。懐かしそうに、けれど新鮮そうに写真を見るサクヤの顔に、ミツハは嬉しくなった。

 

 自分の撮った写真で誰かの心を動かすことができる。時代を超えて伝えることができる。カメラマンとしてこれほど嬉しいことはなかった。

 

「……あのカメラに入ってる写真、売ったら金になりそうだよな。貴重な旧世界の写真集、需要あるんじゃないか?」

 

 写真の良さを実感していると、カレルが大真面目な顔で水を差した。

 

「ヤバ。ブレなさすぎて涙引っ込んじゃった」

「金は大事だろうが」

 

 カレル・シュナイダーという男はこういう男だった。呆れるミツハに対し、カレルは心外そうに鼻を鳴らした。

 

「少なくとも金があれば、生きやすくはなるだろうが。配給の飯が不味いなら、金を払って美味い飯を買えばいい。戦うのが嫌になったんなら、大金積んで逃げりゃいい」

「…………」

「60年前の物が溢れた時代に比べればさぞ不便だろうな、このご時世は。ならせめて、こんな世界でも生きやすいようにしておくんだな。金で解決できる問題は金で解決するべきだと思わないか?」

「……初めて良いこと言ったなって感動しちゃった」

「おいコラ」

「あはは。でも、確かにそのとおりかも……」

「なら投資でも初めてみるか? 良い儲け話があるんだ。俺の知り合いが今度闇市で……」

「絶対ヤダーッ! ジーナさん助けて! カレルが闇に引きずり込もうとするー!」

 

 大きく首を振ってジーナに助けを求める。そのやりとりをタツミたちは可笑しそうに笑って見ていた。

 

 息がしやすかった。ようやく、胸のつかえが取れた気がした。

 

 

 

   ◇

 

 

 

 任務の準備があるため防衛班は先に帰っていった。第一部隊だけがブリーフィングルームに残る。

 

「えへへ、お騒がせしました……」

 

 防衛班とのやりとりは温かい目で見守られていた。少し恥ずかしくて、ミツハは誤魔化すようにはにかむ。するとコウタは朗らかに笑ってくれた。

 

「驚いたけど、なんか納得したよ」

「納得?」

「なんていうかさ……俺らと雰囲気違うなって感じるときはあったんだよね。内部居住区に住んでたからだと思ってたけど」

「……そうですね。この時代には似合わないくらい、ミツハって凄く柔和でしたし」

「にゅーわ?」

「辞書でも引いて足りない頭を補ったらどうですか」

 

 首を傾げるコウタにアリサが呆れたような冷たい目を向けた。少し前の刺々しい雰囲気を彷彿とさせて、少し笑ってしまった。

 

 笑って、ミツハはきゅっと唇を結ぶ。アクアマリンのような大きな瞳を見つめると、アリサが少したじろいだ。

 

「……アリサ、ごめん。感応現象で知られるのが怖くて、今までずっと、避けてました。……本当に、ごめんなさい」

 

 話をしようとミツハに歩み寄ってくれていたアリサから逃げていた。そうすることでアリサがどう思うか察しながら、目を逸らしていた。

 

 謝罪を口にしたミツハに、アリサは柔らかく微笑んだ。

 

「――いいんです。誰だって、知られたくないことってあると思います。この世界で自分がたったひとりだって思ったら、怖くて動けませんよね」

「アリサ……」

「確かにちょっと悲しかったですけど、おあいこです! 以前の私のほうがもっと酷かったですし!」

「俺に対しては今でも結構酷いと思うんだけど」

「コウタは黙っててください」

「ほら〜! 聞いたかよミツハ!」

 

 よよよ、とわざとらしく泣く仕草をするコウタとアリサが再び言い合いを始める。その賑やかさにミツハはふふっと二人を見ながら笑った。

 

「それで、ずっと黙ってたそこの二人はいつから知ってたのかしら?」

 

 サクヤがからかうように、ずっと見守っていたユウとソーマを見やった。驚いた様子も無かったため、既に知っていたのだと察したのだろう。

 

 視線を浴びたユウは苦笑を浮かべた。

 

「僕は1週間前にミツハを助けたときに、感応現象で勝手に知ってしまったので……ミツハからしたら不本意な形だったと思います」

「そうだったの。ならソーマが抜け駆けしてたのね」

「……人伝てに聞いただけだ」

 

 ばつが悪そうに顔を逸らしてソーマが言った。事実、ソーマはヨハネスから話を聞いて知ったので嘘ではないのだが、誤魔化していると思われていそうだった。

 

 実際、アリサは含みを持った眼差しでソーマを見た後、じろりとミツハにも視線を向けた。

 

「……ミツハ」

「な、なにかなアリサ」

「絶対何かありましたよね!? ソーマばっかりズルいです!」

「ズルいって何が〜!?」

 

 アリサは可愛らしく顔をムッとさせながら、ミツハとの距離を詰める。アリサが防衛班に謝りに来た日、ミツハとカノンがアリサの腕に抱きついたように、今度はアリサがミツハの腕に抱きついた。

 

「ミツハだってもう第一部隊の一員なんですから、私にも頼ってくださいね!」

「……うん! お茶会も勉強会もしようね〜!」

 

 笑って頷き、アリサを抱き締め返した。女子同士特有の近い距離感に、空気が浮ついたものになる。それに便乗するように、コウタが主張するように手を挙げた。

 

「ていうかさ、ミツハが行方不明になったりしてそれどころじゃなくなってたユウのリーダー就任パーティ、ミツハの歓迎会も合わせてやろうぜ?」

「ナイスアイデアです、コウタ! たまには良いこと言うじゃないですか〜!」

「へっへー、だろ? ちょうど明日休みだしやろうぜ、ユウ」

「僕は構わないけど……サクヤさんはどうしますか?」

「あら、いいじゃない。張り切って料理作っちゃおうかしら。ソーマも来る?」

「……断る」

「ええ〜! 来ないんですかソーマさん!」

「お前らで勝手にやってろ……」

「ざんねーん」

 

 言いながらミツハはくすくすと笑った。ソーマが不参加なのは確かに残念だったが、この場に居てくれただけで嬉しかったから十分だ。ミツハが打ち明けた話を既に知っているソーマはこの場に居る必要は無い。それでも居てくれたのだ。見届けてくれていたのかもしれない。

 

 和気藹々とした雰囲気の中、パーティに何を持ち寄るか話していると、不参加のソーマが席を立った。先に戻るのだろう。

 

 無言で立ち去ろうとするソーマに、ミツハは笑顔で手を振った。一瞥だけされ、顔を逸らされる。フードに隠れたその奥で、少し笑いかけられた気がした。

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