3月16日
支部長のヨハネスが、出張で欧州に飛ぶという話を耳にした。どうやらサカキがヨハネスに偽の情報提供をして欧州に行くよう仕向けたらしい。サカキが言っていた、ヨハネスに切ろうとしていたカードとはこのことだったらしい。
ヨハネスが不在だということにミツハは安心感を覚えた。これでしばらくは呼び出されることもないだろう。先日のヨハネスとの一件はミツハの事情もあり、ソーマとサカキ以外に口外することはなかった。結局投与された偏食因子の種類はわからないままだが、数日経っても身体に異常は無く、ミツハは変わりなく過ごしている。
本日全休のミツハは部屋でお菓子作りに挑戦していた。カノンからマカロンのレシピを教えてもらったので試しに作っている。来週はアリサの誕生日があるので、プレゼントと一緒に菓子を渡そうと考えていた。ミツハは友人の誕生日を祝うのが好きだ。記念日にあやかって友人と盛り上がるのが楽しいのだ。
「ちょっと休憩〜……」
簡易オーブンで焼成している間、ベッドに横になってぐったりと脱力する。第一部隊の任務は大型の討伐が多く、まだまだ慣れないミツハはヘトヘトに疲れてしまう。
ソーマは一昨日から野営をしており、今日の朝も食堂には来なかった。数日前の鎮魂の廃寺での任務以来顔を合わせていない。
――特異点探し、かぁ。
以前から単独任務で何をしているのか気にはなっていたのだが、その内容はヨハネスからの『特務』であり、特異点を探しているらしい。姿形もわからない特異点の捜索は難航しており、その焦りが生み出した結果が先日の『実験』だとサカキが言っていた。
それからと言うものの、ソーマは以前に増して特異点探しに明け暮れているらしい。
特異点が見つかれば、ミツハの偏食因子を利用して人工的に特異点を生み出そうとする必要も無くなる。「ソーマなりに、ミツハ君を守ろうとしてるんだろうね」――と、サカキが目を細めながら言っていた。あくまでサカキの言葉なので、ソーマの真意がそのとおりなのかはわからないが。もしそのとおりならばソーマの気持ちは嬉しく思うが、あまり無理はしてほしくないとも思う。
――朝は一緒にご飯食べたいしな〜。
そんなことを考えていると、簡易オーブンが仕事の完了を告げる。
「うーん……微妙!」
焼き上がったマカロンは成功とは言えない出来だった。そもそもマカロンは難しい。材料が乏しい環境で作れるカノンが凄いのだ。彼女の腕の良さに感服しながら冷ましていると、携帯からメールの受信を知らせる音が鳴った。
画面をつけて確認してみれば、メールの差出人はペイラー・榊。研究室に来てほしいとのことだった。
――なんの用だろう?
週に一度の定期検査は明日のはずだ。突然の呼び出しにミツハは不思議に思いながら片付けを済ませる。まだほんのり温かいマカロンを一つ頬張ると、食感はイマイチだが味はまずまずだった。
部屋を出てエレベーターに乗る。研究区画へ向かう途中、ベテラン区画でエレベーターが停まった。開いた扉の先に居た顔を見てミツハはパッと顔を綻ばせた。
「あっ、ソーマさん! 帰って来てたんですか?」
「さっきな」
「そうなんですね、おかえりなさい。……なんていうか、お疲れさまです」
扉が開いた先に居たのは、先ほどまで頭に浮かべていたソーマだった。その表情を見るに、特異点の捜索は空振りだったようだ。
ソーマはフードの下に隈を隠しながらエレベーターに乗り込む。移動先のフロアボタンを押そうと手を伸ばしたが、既に点いているランプを見るとその手がピタリと止まった。
「……お前もサカキに呼ばれてんのか」
「『も』ということは、ソーマさんもですか? んー……何の用事でしょう。偏食因子絡みですかね?」
「ロクでもない予感しかしねぇな……」
壁に背凭れたソーマが苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる。そんな様子に苦笑しながらもエレベーターは進み、地下800メートルの研究区画へ着いた。
事前に来ることはサカキも知っているので、定期検査のときのように扉の横にあるインターホンに腕輪をかざす。ピピッ、と音を鳴らしてロックが解除された。
「……腕輪認証させてんのか」
「検査の時間に行ったのに博士が居なくて待たされたことがあったので」
「一応統括責任者なんだがな、あのオッサン」
確かにただの神機使いが自由に出入りするには可笑しいかもしれないが、悲しいことにただの神機使いではないので仕方がない。そんな雑談をしながら扉を開き、研究室の中に足を踏み入れる。
定期検査の日以外に勝手に入るのは初めてだったが、インターホンを押さずに突然入室したことに特にお咎めは無かった。サカキは定位置である四台のモニターに囲まれた赤い椅子から立ち上がり、ミツハたちを笑顔で出迎えた。
「やぁ、呼び出してすまなかったね」
「今度はなんの用だ」
「災い転じて福と為す、雨降って地固まる……というふうには、いかないかい?」
「……何が言いたい?」
「まだこの中身を見てくれる気にはならないかな?」
不機嫌を隠さないソーマの言葉に、サカキは狐のように笑いながら懐から小さな黒いディスクを取り出した。どういう意味だろうとミツハが首を傾げると、隣のソーマは舌打ちを落として無言で背を向ける。
「えっ、ソーマさん?」
「いや、待ってくれ! すまなかった、本題は別なんだ」
サカキの慌てふためく声に、部屋から出ていこうとしていたソーマの足が止まる。肩越しに振り返ったソーマは射貫くような鋭い目つきでサカキを睨んだ。
「だったら最初からそう言いやがれ。……コイツの一件とその中身の件は別問題だろうが、混濁させるんじゃねえ」
「……そうだね、それは謝ろう。ただ、君がヨハンとアイーシャのことを誤解してるんじゃないかと思ってね。彼らは……」
「――くどいぞ!」
その先を聞きたくない、とでも言うようにソーマが一喝してサカキの言葉を遮る。その声色の鋭さに思わず驚くと、ソーマはばつが悪そうに顔を顰めた。
『ヨハンとアイーシャ』――ソーマとサカキの険悪な会話から、内容はなんとなく察することができた。察するからこそ、『誤解も何もないだろう』とミツハはサカキの言葉に反論したくなってしまう。
思い出すのは、ヨハネスの氷の瞳だ。
「……その中身って、マーナガルム計画に関係するものなんですか……?」
「ああ……19年前のマーナガルム計画に関する会議の記録だよ。ソーマ自身に関わることだからね、前々から見てほしいと頼んでいるんだけれど……このとおりでね」
「……チッ、やり方が気に入らねぇんだよ。ユウにそいつの中身を見せただろう。余計なことしやがって……」
「ああ、まさかこんな大事な物を落とすとは……不覚だったよ。拾ってくれたのがユウ君で、実に良かった。彼は信用できる。これからはユウ君も交えて、君たちに特異点について色々頼むことになると思うけど、よろしく頼むよ」
ニッコリとサカキは張り付けた笑顔で、まるで台本をなぞるかのように言葉を連ねた。辟易してしまいそうなその笑顔と口調に、ミツハは思わず苦笑を漏らした。
「いけしゃあしゃあと、よく言うぜ」
「博士ー……本当そういうのやめたほうがいいと思いますよー……」
ミツハが胡乱な眼差しをサカキに向けると、彼は悪びれた様子は無く肩を竦めてた。ソーマは眉を寄せたが、『特異点』の言葉を耳にして部屋から出て行こうとはしなかった。特異点に関してはミツハも気になることだった。
「本題ってのはなんなんだ。疲れてるんだ、早くしろ」
ソーマはサカキへと向き直る。面倒くさそうな態度を隠そうとしないまま、もったいぶっている『本題』へさっさと入るようにサカキを促した。連日の野営と先ほどのサカキとの会話で、どっと疲れてしまっているようだった。
するとサカキはニコリと笑い、モニターを回り込んでミツハたちの前にやって来た。
「お疲れのところ申し訳ないが、鎮魂の廃寺まで君たちに護衛をお願いしたいんだよ」
「護衛、ですか?」
「いったい誰をあんな所へ連れてけってんだ」
ミツハたちが首を傾げると、サカキは胸を張って答える。
「――私だよ!」
「……えっ、博士が外に出るんですか!?」
「ミツハ君、それじゃあまるで私が引き籠りみたいな言い草じゃないか」
「実際籠ってんだろうが。……あそこになんの用だ」
心外そうな表情を浮かべるサカキに、ソーマが訝しむ。
フェンリルの頭脳であるサカキは滅多なことでは装甲壁の外には出ない。研究に必要な素材なども神機使いや調査隊が回収している。そんなサカキが直々に現場に赴くということは、何か余程のことがあるのだろう。
サカキはソーマの問いに、やはりもったいぶるようにして笑った。
「行けばわかるさ。是非とも君たちと一緒に行ってほしいんだ。損はしないと思うよ」
「……博士っていつも重要なところを言いませんよね。慣れましたけど」
「お楽しみは直前まで知らないほうが良いものだろう?」
「死んでも知らねぇぞ」
「君たちが一緒なら大丈夫さ。それに、以前に比べて危険は少ないはずなんだ。そうなるようにユウ君たちに働いてもらったからね」
「え〜、ユウたちも巻き込んでるんですかー……?」
「フフフ」
サカキの物言いにミツハはじとりと探るような眼差しを向けたが、彼は狐のように目を細めるだけだった。どうやら追求することはできなさそうだ。サカキが何を考えているのかよくわからないが、教える気も無さそうなので考えても仕方がないだろう。
「じゃあ行きましょうか」とソーマと一緒に研究室から出ようとしたのだが、サカキが二人を呼び止める。
「待ってくれ。私がアナグラから出るところを誰かに見られるのはマズい」
「ああ? じゃあどうしろってんだ」
「ていうか、マズいってことは秘密裏に行くんですね……」
「元々私たちは秘密を共有した仲じゃないか。実はこの日のために、準備してきたものがあるんだ」
サカキが「こっちに来てくれ」と手招きしながら部屋の奥の右手の扉へ向かう。P53偏食因子の投与を試したときに使った、ベッドが一つ置かれてある真っ白な部屋だった。
そんな部屋に、大きなオラクル規格の密閉式コンテナが鎮座されている。膝を抱えてうずくまれば、大人一人は入れそうな大きさをしているコンテナだった
それを目にし、隣のソーマがひどく馬鹿馬鹿しそうに顔を顰めた。
「……なんだこりゃ。おい、まさか……」
「そう! このコンテナに私が入るから、装甲車まで運んでくれたまえ!」
「思った以上にストレートな方法ですね!? えっ、これって密閉ですよね? 息って大丈夫なんですか?」
「ふふふ、心配は無用だよ」
子供のような笑い顔を浮かべながら、サカキはコンテナのロックを外して蓋を開ける。そして中からオーストラリアだとかハワイだとかの海の魅力を伝えるテレビ番組ぐらいでしか見たことのない、スキューバダイビングで使うような器材を取り出した。
レギュレーターと呼ばれるらしいマウスピースのついた空気調整器からはV字型に小さなボンベが二つ後ろに伸びている。テレビで見たような形や大きさとは随分違っており、サカキのお手製だということがわかる。今日のためにわざわざ用意したらしい。
「このボンベひとつの容量は200ccだ。200気圧で空気が充填してある。さて、ミツハ君。二つで空気何リットルになるかな」
「え!? え、えーと、200ccが二つだから、0.4リットルが200気圧で……あれ、掛けるんだっけ、割るんだっけ……」
「……80リットルだろ」
「そう! 80リットルだ。ソーマは賢いね」
「馬鹿にしてんのか」
「こ、言葉が痛い……」
「じゃあ人間が1気圧下で1分間に消費する空気量はどれくらいか知ってるかい?」
「…………」
「そんなの体格や運動量でまちまちだろうが」
「成人男性の平均体格、安静時でいいよ。さてミツハ君、何リットルかな」
「……ソーマさんパス!」
「7、8リットルってとこじゃねえのか」
「正解だ! およそ7.5リットルだよ。つまりこの装置で平均的な男性なら10分40秒呼吸できる。それだけあれば、このラボから格納庫まで行けるはずだ」
「はぁ……そうなんですね……」
一方的に殴られたクイズ大会は終了し、サカキはうきうきとした様子でコンテナに入り込んだ。呆れた様子でソーマが蓋を閉め、「なんで俺が……」と愚痴を漏らしながらソーマがコンテナを押して研究室から出ようとする。
「おい、さっさと行くぞ」
「……あのっ、違うんです! 私文系なんです! せいぜい1年の化学基礎ぐらいで、物理なんて高校受験以来だったので……! ていうか写真とか映像系の美術大学志望で! AOで筆記が無かったからテスト勉強以外する必要が無かったんです!」
「うるせぇ、置いてくぞ」
「わー! 待ってください!」
恥ずかしさで顔が赤くなるのを感じながら、先を行くソーマの隣に並ぶ。エレベーターに向かう最中にも、ミツハは理数系が駄目なだけで文系科目はいけるのだと弁明していたのだが、ソーマはどうでもよさそうに適当に相槌を打つだけだった。
うう、と羞恥に嘆きながら廊下を歩いていると、すれ違う職員たちが怪訝な顔をしたので慌てて平静を取り繕う。エレベーター前に着くと、ソーマは何を思ったのか勢いよくコンテナを押してドアにコンテナを追突させた。
ふごっ、と中からくぐもった悲鳴が聞こえ、ソーマは身を屈めて緊迫した声色でサカキに言葉をかける。
「保安部の連中だ。静かにしてろ」
「…………」
念のためミツハも辺りを見回してみるが、エレベーター前のスペースにはソーマとミツハ以外誰もいない。しばらく待ってエレベーターが到着し、乱暴にコンテナを押してわざとらしく壁にぶつけるソーマにミツハは笑いを堪えるのが大変だった。
「ふっ……ふふふっ……ソーマさんってそういうことするんだ……」
「散々迷惑かけられてんだ、これくらい構わねぇだろ」
「子供っぽーい、可愛い〜」
「あ?」
睨まれたが全然怖くなかった。珍しく見せたソーマの年相応な一面ににくつくつと笑っていると、そっぽ向かれてしまった。その姿すらミツハの目には可愛く映る。ソーマはミツハより一つ年下だったことを初めて実感した。
――高校2年生……や、もう3月だし、すぐに3年か。
――ソーマさんの制服姿とか見た〜い。
「…………おい、なんだその目」
「後輩のソーマさんを想像してました。ソーマさんはブレザーより学ランのほうが似合いそうですよね」
「はぁ?」
心底意味がわからないという顔をされた。ソーマがミツハの世界に生きていて、同じ学校に通っていたら――なんて、あり得ないことだが心が弾む妄想だった。
「言っておくが、さっきのAOだのなんだのも、話がよくわからねぇからな」
「あはは、ですよね……。でも口滑らしちゃっても大丈夫なんだなーって思うと、凄く話しやすくて楽しいです」
「……そうなのか」
「この世界でも可笑しくない話かなーって気にしながら話してたので。ほら、オーロラを撮りに行った時は、浮かれてたせいでうっかり口を滑らせちゃいましたし」
「ああ……確かにな」
「普通に使ってた言葉でもこの世界じゃ通じないことだってありますしね~」
アリサと化粧品などの話をした時、うっかり『プチプラ』なんて言葉を使ったが通じはしなかった。対照的な『デパコス』なんかも、そもそも百貨店やデパートがこの世界には無いので当然通じないだろう。この世界にはそういうものがたくさんある。
今まで色んなことを気にしながら話していたが、秘密を打ち明けた第一部隊と防衛班には口を滑らしてしまっても問題無いのだと思うと気がラクになった。
「まぁでも、よくわからないこと話されてもあんまり気分は良くないですよね。すみません」
「……別に、構わねぇだろ。むしろ平和な世界には何があったのか気になるヤツのほうが多いだろ」
「……そうですかね」
「お前は気を遣いすぎだ」
「えー、そんなことないですよ。割と自分本位ですよ」
そんな話をしながら、二人を乗せたエレベーターは地上1階に向かって上昇する。その途中、地下300メートル辺りの居住区でエレベーターが停まった。
「あ、おつかれー」
「……なんだそれは」
エレベーターの扉が開くと、第三部隊の三人が居た。ミツハが声をかけると、カレルがコンテナを見ながらぞんざいに尋ねてくる。
「なにって、コンテナ」
「中身を聞いてる」
「死体でも詰まってんじゃねーのか? なに手伝わされてんだよミツハ」
「うわっ、今の発言は流石に引くんだけど……」
「……乗らねぇなら手を離せ」
シュンがエレベーターのボタンを押し続けているため扉は閉まらない。第三部隊の男二人を相手にしているとついつい悪ノリを続けてしまうが、あまり長話をしていると酸素ボンベの中身が無くなってしまう。ジーナにどうするか窺うように目を向けてみると、いつものように少し呆れたように嘆息してエレベーターに足を踏み入れた。
「何が入っていても私たちには関係無いわ。出動まで時間がないのよ、行きましょう?」
「チッ……地獄行きでないことを祈るぜ」
「普通に地上1階行きなので安心してくださーい」
第三部隊が乗り込んで来たため、ミツハとソーマは脇へ詰める。大きなコンテナのせいで随分と手狭になってしまった。
「ったく、人の迷惑考えろよなぁ。邪魔くせぇ」
シュンが鬱陶しそうに踵でコンテナを蹴飛ばしてしまった。突然の衝撃に驚いたサカキのくぐもった声が中から響き、ミツハとソーマは肝を冷やす。狙撃のイメージトレーニングに夢中になっているであろうジーナは気づいていないようだったが、カレルとシュンは訝しげに顔を見合わせていた。
――マズい、とミツハは慌てて腰のポーチからスマホを取り出し、訝しむ二人の間に割って入った。
「ねぇ、カレル! この前旧世界の写真集がどうとか言ってたけど、音楽に興味ある!? ほら、この曲とかどう!?」
そう言いながら、ミツハはロックバンドの曲を大音量で流す。「うるせぇ!」とカレルに頭を軽く叩かれたが、不可解な音よりも金になるかもしれない音のほうに意識が向いたようだ。曲を聴きながら、カレルは考えるように顎に手を添えた。
「それ、アーカイブに残ってる曲か?」
「多分無いはず。前にアーカイブ漁ってみたことあるけど、2030年とか2040年のデータが多いじゃん」
「なるほどな……金になりそうだな」
ニヤリとカレルは口元に弧を描かせる。「うわー悪い顔してるー」と辟易しながら軽口を叩けば、黙ってろとでも言いたげにもう一度頭を軽く叩かれた。そんなやりとりにシュンがケタケタと笑いながら曲に耳を傾けた。
「つーかミツハ、お前こういう曲聴くんだな。恋愛ソング聴いてそうな面してんのに、意外すぎだろ」
「えー何それー、つまり可愛いってことー?」
「キッショ」
「頭大丈夫かよ」
「この失礼な男ども、どう思いますかジーナさん」
「ふふっ……撃ち抜きたいときは私に言ってちょうだい。綺麗な華を咲かせてあげるわ……」
「流石ジーナさん! じゃあジーナさんはシュンをお願いしますね! 私はブラストでカレルをぶち抜きますから!」
「その前にテメェを蜂の巣にするぞ」
「近接だけの俺が不利だろーが!」
ソーマやコンテナのことなどもはや興味が無いのか、そちらに話題が移ることはなかった。第三部隊と軽口の応酬をしているうちに地上1階に着く。
足早にカレルたちと別れ、ミツハとソーマは格納庫へと向かった。途中にある神機保管庫で神機が収納されたケースを受け取り、装甲車の兵員室にケースを積み込む。
エレベーターを出てからも無言を貫いているソーマにミツハは反省した。ミツハは空気を読むことが得意だ。そして若干、ソーマの纏う空気が重い。サカキの入ったコンテナに触れさせぬためとはいえ、流石に騒がしかっただろうか。
「うるさくしちゃってすみません……」
「……いや、助かった。……おいオッサン、着いたぞ」
ガンッとソーマが乱暴にコンテナを蹴る。コンテナの中で何かぶつかる音がした後、頭を抑えながらサカキが出てきた。
「あいたたた……何かトラブルがあったようだね……? でも無事にここまで来れば後はもう安泰だろう!」
ずっと蹲っていたサカキは大きく身体を伸ばし、神機のケースと一緒に兵員室に乗り込んだ。上げ切った後部ハッチは背伸びでは届かず、ミツハはジャンプして勢いよくハッチを閉めて助手席に座る。
「それでは今回も運転お願いします!」
「講習行っとけっつったろ」
「余裕ができたら行きます……」
動き出した装甲車に揺られながら、ミツハは苦笑を漏らした。以前ソーマとその話をして間も無くミツハは元の世界に帰り、戻ってきたかと思えば部隊異動に続いて先日のヨハネスとの一件だ。気持ちの整理がついても第一部隊での任務は未だに慣れず、休日に訓練や講習へ行ける余裕が残念ながら無かった。
鎮魂の廃寺に着くまでの間、静かな装甲車内にBGMとしてスマホで音楽を鳴らす。先ほどエレベーター内でも流したロックバンドの曲だ。
しばらくはその音楽しか響かない車内だったが、不意にソーマが口を開いた。
「……第三部隊のヤツらの前では猫被らねぇんだな」
「別にソーマさんの前でも被ってないですよ!?」
むしろソーマには一番曝け出してしまっているというのに! という思いも込めて強く否定した。何を思ってそんなことを言っているのだろうか。
「遠慮がねぇだろ」
「ソーマさんにも遠慮無く突撃しに行ってると思うんですけど」
「…………」
そう反論しても無言で返されてしまった。これは『そういうことじゃない』と言いたげだ。
おそらくソーマの先ほどの言葉は、カレルたちと軽口の応酬をしていたことを指している。確かにあのノリをソーマとはしないが、だからといって遠慮しているというわけでもない。
「カレルたちとのアレは特有のノリというか……。……仮にあのノリをソーマさんにして、鬱陶しがらずに同じようなノリで打ち返せます?」
「…………うぜぇな」
「ソーマさんはそういうの嫌いでしょう。あと、んー……アリサって真面目で丁寧ですけど、コウタには結構辛辣じゃないですか。じゃあコウタのことを嫌ってるかっていうと、違いますよね。むしろコウタは天然さでアリサに打ち返してるというか、それがわかっているからアリサも遠慮が無いみたいな」
「なんの話だ」
「会話ってキャッチボールですし、相手によって投げ方も変わってくるって話です。カレルたちにしてるノリを他の人にしないからって、遠慮してるってわけじゃないですよ」
「お前、そんな小難しいこと考えながら話してんのか」
「その言い方は何か語弊があるような……別に何も考えてない……は、バカっぽいので考えてます、はい」
その言い方がバカっぽかったのかソーマが鼻で笑った。話をする相手に合わせてノリを変えているが、それを意識してやっているかというとそうでもない場合が多い。自然とそうなるし、そういう人が大半だと思うのだが。
――ソーマさんのほうが難しく考えてる気がするな〜。
人付き合いに不慣れなソーマらしいといえばらしいが。
「……お前は防衛班のほうが性に合ってるんじゃねぇのか」
それを言われてしまうと、ミツハはすぐに言葉を返せなかった。第一部隊も居心地が良くて大好きだが、神機使いになってからずっと所属していた防衛班はやはり特別だった。
「……そうかもしれません」
「そうか」
そんなことはない、とは取り繕わずに素直に答えた。ソーマも咎めるような声色ではなく、まるでそう答えるだろうとわかっていたかのような吐息まじりの穏やかな声だった。その声色にミツハは安堵し、笑みを浮かべた。
「でも第一部隊にも早く馴染みたいので、大型相手にも早く慣れたいです!」
「足手纏いにはなるなよ」
「もちろんですっ!」
「あとたまに爆発系のバレットで味方巻き込んでんだろ」
「うっ……気をつけます……」