Kuschel   作:小日向

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007 適合試験と同期の二人

1月13日

 

 指定された時刻に、指定された訓練場の扉を開ける。

 

 訓練場の広い空間の両脇には高台があり、壁には刀痕や弾痕が壁に刻まれていた。壁の傷跡を目で追うと、少し見上げたところにガラス貼りの部屋がある。そこからヨハネスと白衣を着た数人の研究者がミツハを見下ろしていた。

 

 昨日見た訓練場と違う点は、中央に鎮座されている赤い装置だ。ポールに支えられて上下に分かれており、台の上には剣の形状をした大きな武器が置かれている。

 

『ようこそ。今から、対アラガミ討伐部隊『ゴッドイーター』としての適正試験を始める。心の準備ができたら、中央のケースの前に立ち、神機を手にしてみてくれ』

 

 スピーカーからヨハネスの声が響く。天井の高い閉鎖空間にはよく反響した。ヨハネスの言葉に従い、ミツハは中央の赤い装置まで歩く。ソーマが持っていた神機より一回りほど小さい神機の柄を、握った。

 

 途端、ギロチンのように装置の上部がミツハの右手首を勢いよく挟む。

 

「――ッ!? 痛っ、――〜〜ッ!」

 

 激痛が身体を駆け巡り、神機から手を離そうとするが装置に挟まれ叶わない。右手首からは何やらぐちゃぐちゃと不快な音が聞こえ、全身から冷や汗が噴き出る。血が逆流し、身体の内側が逆立って細胞がチグハグになっているような錯覚に陥るが――

 

 存外にも、痛みはすぐに引いた。

 

「っ……え、あれ……?」

 

 装置が持ち上がる。解放された右手首を見れば――赤い腕輪が嵌められていた。

 

『――おめでとう。ゴッドイーターとして、これからの活躍に期待しているよ』

 

 スピーカーからは祝いの言葉が述べられる。どうやら試験は無事に合格したらしい。先ほどの激痛はなんだったのかと思うほど、身体に痛みは残っていなかった。

 

 神機の柄を握り直し、持ち上げてみると軽々とミツハの思いどおりに動いた。神機が軽いわけではない。その証拠に、地面に刃の先を置いてみるとズシンと重そうな音が鳴った。ミツハ自身が怪力を発揮しているのだった。

 

――これがゴッドイーターの力か〜!

 

 常人離れした力に胸を踊らせながら、エントランスで待機するよう指示されて訓練場を後にした。

 

 エレベーターで地上に上がり、エントランスのベンチに座る。右手首に装着された腕輪がどうなっているのか眺めていると、一人の少年がやって来た。

 

「あれっ、もしかして適合試験受けた人?」

「あ、はい。そうです」

 

 赤茶色の髪に黄色の帽子を被った少年の右手首には、ミツハと同じく赤い腕輪があった。幼さの残る顔立ちは中学生くらいの年齢だろうか。少年は明るい笑顔を見せ、ミツハの隣に腰掛けた。

 

「俺もさっき受けてきたんだ。あれめちゃくちゃ痛かったよね?」

「痛かったね〜……」

「よかった、俺だけじゃなかった。パッチテストだって聞いてたのに、あれ詐欺だよなー」

 

 少年は苦笑しながらポケットからガムを取り出す。ニッ、と人懐っこい笑顔を向けた。

 

「俺、藤木コウタ! ガム食べる?」

「食べる〜、ありがとね。私は井上ミツハだよ」

「ミツハかぁ、いくつ?」

「今年19だよ〜」

 

 『ノルン』と呼ばれるデータベースでは、極東支部に所属している神機使いの経歴等が閲覧できる。そこに開示される年齢は西暦のみで設定されるそうだ。2052年生まれということになったミツハは2071年では19歳なので、満年齢ではなくそちらの年齢を口にした。

 

 コウタはガムを噛みながら、驚いたように目を開いた。「見えない」とぽろりと零された言葉にミツハは苦笑する。童顔な上に身長も低いので、高校の制服を着ていないと中学生によく間違われていた。

 

「じゃあ滑り込みで適合試験受けられたんだね」

「滑り込み?」

「ほら、年齢が上がると適合率が下がるって聞くじゃん。適合候補者って13歳から18歳までなんだって」

「へ〜。まぁ2ヶ月前に18になったばかりだしね。藤木君っていくつになるの?」

「15! ってか、藤木君じゃなくてコウタでいいよ」

「じゃあそう呼ぶ〜」

 

 しばらくコウタとガムを噛みながら他愛もない世間話をしていると、ミツハたちの座っているベンチに近づく足音が聞こえた。

 

 足音へ目を向けると、同じく赤い腕輪を嵌めた線の細い容姿の少年が居た。歳はミツハと同じくらいだろうか。整った顔には温和そうな表情を浮かべ、金色がかった茶色の髪と碧い瞳が印象的だ。

 

「初めまして〜」

「よっす! ねぇ、ガム食べる?」

 

 どうやらコウタ流のコミュニケーションらしい。コウタは少年の返事を待たずにポケットを探るが、すぐにばつが悪そうな顔をした。

 

「ごめん、切れてた。ミツハにあげたのが最後だったみたい」

「いいよ、気にしないで」

「ごめんな! あんたも適合者なの?」

「うん、僕は神薙ユウ。よろしくね」

「よろしく〜。私は井上ミツハだよ」

「俺は藤木コウタ。俺と同じか少し年上っぽいけど、一瞬とはいえ俺のほうが先輩ってことで! よろしく!」

「じゃあ私はコウタの先輩ってこと〜? 二人も後輩できちゃった」

「やっぱ同期! 俺ら同期な!」

 

 調子のいいやりとりにユウが可笑しそうに笑った。コウタの隣にユウが座る。

 

「今日適合試験を受ける人って、僕ら三人で終わりなのかな?」

「うん、三人って聞いてるよ」

「同じ日にゴッドイーターになったのも何かの縁だしさ。仲良くしようぜ!」

 

 コウタは無邪気に白い歯を見せて笑い、ミツハとユウもつられて笑った。

 

 ユウは今年18歳らしく、三人の中ではミツハが一番年上だった。案内の人間が来るまでベンチに並んで座り、雑談に興じる。どうやらコウタとユウは外部居住区に住んでいるらしい。

 

「ミツハはどの辺に住んでんの?」

「えーっとねー……」

「――立て」

 

 返答に迷っていると、いつの間にか来ていたツバキの鋭い声が降ってくる。

 

「へ?」

「立てと言っている。立たんか!」

 

 ツバキの声に慌てて三人は立ち上がる。見事に全員背筋が伸びていた。

 

 自己紹介をしたツバキはこれからの予定について説明していく。

 メディカルチェックを済ませた後、異常がなければ明日から基礎体力の強化、基本戦術の習得、各種兵装等のカリキュラムをこなしていくとのことだ。そういった研修期間を終わらせた後に実戦に出ると説明された。

 

「今までは守られる側だったかもしれんが、これからは守る側だ。つまらないことで死にたくなければ、私の命令には全てイエスで答えろ。いいな?」

 

――凄い、軍隊みたいだ!

 

 鬼教官のように厳しい声のツバキに驚いていると、「わかったら返事をしろ!」と怒られてしまった。三人は慌てて返事をする。

 メディカルチェックはユウから開始されミツハが最後らしい。指定された時刻まで時間があるのでアナグラ内を見て回るようツバキは言い、必要事項を告げた後は颯爽と去っていった。

 

「なんか……すげぇ緊張したぁ〜……」

「厳しそうな人だったね」

 

 大きく息を吐いてコウタが猫背になる。ユウは早くアナグラ内を見て回りたいらしく、エントランスをそわそわしながら見渡していた。

 

「二人とも、よかったら時間まで一緒にアナグラを見て回らない?」

「お、いいね! ミツハはどうする?」

「行く行く〜。てか案内しようか?」

「あれ、ミツハ詳しいの?」

「内部居住区に住んでたから〜」

 

 実際は昨日サカキに案内されたばかりで記憶に新しいだけだ。「じゃあナビよろしく!」とコウタは親指を立て、三人は区画移動用エレベーターの到着を待った。

 

 すると唐突に、「あ!」とコウタが声を上げてミツハとユウを驚かせた。

 

「コウタ、どうかした?」

「ツバキ教官が来た時、焦ってガム飲み込んじまった……!」

「…………私もだ!」

 

 いつの間にか口内から消えていたガムの存在をすっかり忘れていた。慌てる二人の様子にユウは吹き出し、「ガム貰わなくて良かったよ」なんて軽口を言いながら三人で笑った。

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