Kuschel   作:小日向

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073 壊された未来

 ミルクティーとココアを飲み終え、エリナをフォーゲルヴァイデの企業ビルまで送り届けて簡素なお茶会を終えた。

 

 任務の出撃の時間はもうすぐだ。そろそろ準備をしておいたほうがいいかもしれないとエントランスの2階に上がると、本日の同行メンバーであるユウとコウタが話をしていた。ブリーフィングを先に始めているのかと思いながら、ミツハは二人に声をかける。

 

「二人とも、何の話してるの? 私抜きでブリーフィングを始めてたら、ちょっと怒るんですけど〜」

「あっ、ミツハ! ちょうど良いところに来た!」

「なになに、どしたの」

「今コウタと昔の話をしててね」

「昔の話?」

 

 二人に混じってミツハも話の中に加わる。階段横の柵に肘をつきながら首を傾げれば、コウタは子供のように目を輝かせながらミツハに笑いかけた。

 

「この前ミツハが写真見せてくれただろ? それで昔の世界がどんな感じだったのか興味が湧いて、ノルンで調べてみたんだよ」

「ああ、昔ってそういう? 子供の頃の思い出話かと思っちゃった」

「ミツハの思い出話、聞きたいけどね」

「そうそう。ノルンに旧世代の動画がいっぱいストックされてるログがあってさ。バガラリーみたいな昔の番組もいっぱいアップされてるんだけど、ミツハってもしかしてリアルタイムで見てた?」

「ノルンのアーカイブって2030年以降のログが多いから、時代が被ってないんだよね~。アニメはたくさんあったけど、バガラリーはまだ放送されてなかったよ」

「ミツハの時代はもっと前か。でもさ、すげぇ平和だったのは同じなんだろ?」

「そうだね〜。海外では紛争してる国とかもあったけど、日本は平和だったよ」

 

 アラガミが出現する前の、平和な世界。ミツハが生まれ育った、本来の世界だ。

 コウタの言葉に頷く。すると眩しいものでも見るかのように、「いいなぁ」とコウタは目を細めた。

 

「ログの中にドラマがあったんだけど、それが学校が舞台の青春ドラマだったんだよ。それ見てたら、昔の人たちはどんな風に生きてたのか、想像しちゃってさ〜」

 

 エントランスの1階で行き交う人々を見下ろしながら、少年はまるで空想を描くように言葉を紡いだ。

 

「うちに帰ったら、家族が笑顔でお出迎えでさ。笑いながらご飯食べて、夜更かししてゲームで遊んじゃったりして」

「…………」

「寝るときは明日なにしようかなーとか楽しいことだけ考えて。そんでまた、当たり前に次の日が来るんだよ」

 

 コウタの空想に、ミツハの記憶が重なる。当たり前に次の日が来ると信じて疑わなかった。思い出に浸りながら、ミツハは沁み入るように頷いた。

 

「…………うん」

「お、合ってた?」

「合ってる。強いて言うなら、テスト勉強で夜更かしすることもあるけどね」

「げっ! 楽しいことだけじゃなかったか!」

「平和だからって遊んでばっかりじゃなかったね」

 

 講義の事を思い出したのか、コウタが苦い顔をして口を尖らせた。そんなコウタを見てユウとミツハが笑うと、コウタは尖らせていた口を横にさせる。

 

「……そんな平和な時代からしたらさ、こんな悲惨な未来なんて、想像もつかなかったんだろうなー」

 

 三人でひとしきり笑い合った後、コウタがそんなことを呟いた。

 うん、ともう一度ミツハは頷く。こんな未来は、想像もしていなかった。

 

「ミツハは……、どんな未来を想像してた?」

 

 少し遠慮がちにユウが問いかける。近くに人が居ないか確認しながら、ミツハは「うーん」と小首を傾げた。

 

 井上三葉は、どんな未来を想像していただろうか。

 

「……どんなって、そうだなぁ……普通に平和な世界が続くんだろうなって思ってたし、夢だったカメラマンになって色んな写真を撮りたいなぁ、みたいな未来? ……どんな未来かっていうより、自分の未来とか将来の想像しかしてなかったよ」

 

 今思えば、自分の未来を自由に描けるということは、とても幸福なことだったのだろう。当たり前に平和な世界が続くと信じて疑わなかったから、存分に自分の将来を考えられたのだ。

 

 こんな世界では、自分の将来の夢もそう簡単に描けない。生きるのに精一杯な世界で、自分の描ける未来はきっと限られている。

 

「やっぱ、考え方っつーの? それが違うんだな。俺は子供の頃からゴッドイーターになって、家族を守ってやるんだ! ってことぐらいしか、自分の未来なんて描いてなかったしさ」

「それは素敵なことだと思うけどなぁ。この世界の人って本当、凄いと思うよ」

「でも、選択肢が無いんだよ。ゴッドイーターになるぐらいでしか、自分の未来は切り拓けないからね」

「……それもそっか。カメラマンとかそういう夢、描けないもんね」

「瓦礫しかないのに何を撮るんだよって話だよな」

 

 可笑しそうにコウタが笑う。コウタは家族を守りたいという夢を描いて、神機を握った。ミツハの時代では、『家族を守りたい』という夢自体、そうそう浮かばないだろう。守らなくとも平和に生きていけるのだから。それが当たり前の世界だった。

 

 コウタは何か思い出したように、ポケットに手を突っ込んだ。そして布製のキャラクターストラップのようなものを手のひらに乗せる。そのキャラクターは、コウタそっくりだった。

 

「見てよこれ! 妹が作ってくれたお守りなんだ」

「え、可愛い~! 妹ちゃん器用だね?」

「だろ~! うちのノゾミは世界一可愛いからな!」

 

 シスターコンプレックスのきらいがあるコウタは、妹のことになると言葉が熱っぽくなる。

 ミツハの言葉に気を良くしたコウタはへへっと笑い、お手製のお守りを大切そうにポケットにしまった。

 

「今度の休暇にはお返しにお土産いっぱい持って帰ってやるんだ!」

「コウタ、良いお兄ちゃんしてるよね」

「ねー。私一人っ子だったから、なんかそういうの憧れる〜」

「僕も。兄弟とか欲しかったなぁ」

「私がユウのお姉ちゃんになろうか? ほらほら1歳年上だし、お姉さんだし?」

「あはは……たまにミツハが年上ってこと、忘れるんだよね……」

「確かに! 俺と同い年に見えるもん」

「19になるんですけど〜!」

 

 けらけらと笑いながら雑談をしていたが、出撃の時間が近くなる。「そろそろ行こうか」と柵から手を離し、出撃ゲートに向かって歩き出した。

 

「あ。ねぇコウタ、よかったら妹ちゃんのお土産にさ、60年前の写真持って行かない?」

「え、いいの!? 60年前の写真ってすげぇ貴重じゃん!」

「写真現像するだけだし、全然いいよ。任務終わったら、私の部屋で写真選ぼっか。この前見せた写真以外にもスマホで撮った写真もあるから、結構選ぶの時間かかるかも」

「それ、僕も行っていい? 60年前の写真、もっと見てみたいんだ」

「もちろんいいよ〜。せっかくだしアリサも呼ぼっか!」

 

 ユウの言葉に頷き、ミツハは楽しそうに笑った。

 

――うん、話して良かったなぁ。

 

 こんなにも昔の世界の話で盛り上がれるとは思わなかった。今までずっとひた隠しにしていたぶん、『知ってもらいたい』という意識が強くなっていた。

 

――私が居た世界のことを、もっと知ってほしい。

 

 そんな平和な世界があったと、忘れてしまわれないように。

 

 

 

   ◇

 

 

 

 任務を終え、日が落ちてからアナグラに帰投する。『煉獄の地下街』と呼ばれるかつての戸塚駅地下街での任務だったのだが、茹だる暑さにミツハはすぐさま帰投後すぐにシャワールームへ駆け込んだ。

 

 煉獄の地下街はつい最近までは避難民や物資を流入する地下道として使われていたそうだ。しかし巨大なアラガミが地中深くまで潜った結果溶岩とぶち当たり、マグマが湧き出すようになったらしい。オラクル細胞により身体能力が向上している神機使いでなければ数分と居られない地獄のような場所であり、神機使いであっても嫌になるほどの暑さだった。

 

 シャワーを浴び、夕飯を食べてから部屋でデジカメを眺めているとインターホンが鳴った。扉を開けてみれば、ユウとコウタ、アリサがスナック菓子とジュースを持って立っていた。

 

「お邪魔します」

「いらっしゃ〜い。アリサも突然呼んだのにありがとね」

「全然! 誘ってくれてありがとうございます!」

「お菓子パーティだー!」

「趣旨変わってない!?」

 

 スナック菓子の封を切ったコウタ見ながらくすくす笑う。L字のソファに座り、テーブルを囲んで菓子をつまみながらカメラとスマホを三人に見せる。

 

「カメラのほうには作品として撮った写真が多いから、絵になるのはそっちかな。写真部の活動で撮った写真もカメラのほうにある。スマホのほうは気軽に撮った写真が多くて、食べ物とか学校生活の写真もあるよ」

「この前見せてもらった動物園の写真、もっかい見ていい? 色んな動物をノゾミに見せてやりたくてさ」

「いいよ〜。あ、でもカメラ触る前に手は拭いてね! それと写真を切り替える左右ボタン以外は触らないように!」

「ラジャ!」

「ミツハ、私は学校生活の写真が見てみたいです!」

「自由に見ていいよ〜! 多分見られて困る写真は無かったはず……」

 

 日頃から友人に写真を見せる機会が多かったので、カメラロールの写真はあらかじめ整理してあった。両隣に座るコウタとアリサにそれぞれカメラとスマホを渡し、ユウは隣のアリサが持つスマホの画面を覗き込む。近づいた距離にアリサが少し赤くなっている。ナイス席順。さりげなく誘導したミツハは心の中でガッツポーズした。

 

 三人は物珍しいものを見るように、目を輝かせながら平和な世界が映る画面を見ていた。

 

「これは何をしてるんですか?」

「体育祭だね。1年から3年までクラスごとに三つの団に分かれて、それぞれの団が色んな種目で競って優勝を決める学校行事。うちの学校は赤団と青団と黄団だったな~」

 

 アリサが見ていたのは体育祭の最終種目の団対抗リレーの写真だった。グラウンドのトラックを走る各団の各学年から選抜された生徒がバトンを持って全速力で走り、その周りで大勢の生徒が応援していた。

 

 ミツハの説明を聞いてアリサは驚いた様子だった。

 

「学校ってこんなに人が居るんですか!?」

「うちの高校はめちゃくちゃ多いってほどでもないかな。一学年が40人6クラスの240人で、全校生徒は700人ちょっとだし。割とよくある規模の高校だと思うよ。マンモス校だと千人以上居るし……」

「そんなに人が居たら、クラスメイトとか覚えられるんですか……?」

「クラスメイトは普通に全員覚えてるよ〜。他の学年は同じ部活の人とか目立つ人くらいしか覚えてなかったけど、同級生ならなんとなくわかるかな。話したことない人でも顔見たらどこのクラスの人かわかるし」

「……ミツハって同行したことも話したこともない偵察班や救護班の人たちのことも覚えてるよね。よく覚えられるなぁって思ってたんだけど、なんか納得したよ……」

 

 ユウが感心したように言った。

 

 アラガミ討伐の最前線である極東支部には他の支部より神機使いが多く集まっているが、それでも100人居るか居ないかという程度だ。3クラス以下の人数しか居ないので、ミツハは顔を見ればどの部隊の人なのかはなんとなくわかる。

 

 食事の時間がよく被って食堂で見かけることの多い神機使いは、話したことはないが聞こえてくる会話から名前やどんな人なのかも知っている。ミツハにとっては毎朝同じ電車に乗るが話したこともない『いつもの人』を覚えるのと同じような感覚だった。

 

「なぁなぁ、このでっかい建物見覚えあるんだけど、なんか似たようなのあったっけ?」

 

 カメラを見ていたコウタが一枚の写真を見て手を止めた。画面を覗き込んでみると、それは横浜駅近くの大きなビルが映り込んだ風景写真だった。ビルに空が反射して綺麗だったので撮った一枚だった。

 

「多分それ、贖罪の街から見える大きな穴が開いたビルだと思う」

「あれが!? てかこの写真ってあの辺なの!?」

「でも確かに、言われてみると面影ありますね……」

「あの建物って、なんの施設だったの?」

「施設っていうか、商業ビルかな? 30階建てくらいのビルに色んなお店とか会社のオフィスがあったり」

「そんなに店いる?」

 

 コウタの返しにミツハは思わず苦笑した。それもそうだ。ブランドの違いなど、物が溢れかえっているからこそできる『選択』なのだ。

 

 それから四人で顔を突き合わせて写真を見ていった。

 

 有名な展望台から一望した横浜の街並み。みなとみらいの観覧車。鎌倉の歴史的遺産と自然が調和した姿。動物園の写真。路地裏で集会をしていた猫たち。夕日が沈む海。

 

 汗を流しながらゴールを決めるバスケの試合の写真を見て、コウタが首を傾げた。

 

「これも体育祭の写真? 屋内でもやんの?」

「それは中総体のバスケの試合……って総体わかんないか。中学でも高校でも部活っていって放課後に運動部とか文化部の活動があって、総体は運動部の大会みたいな? 最終的に全国一位を決める大会。中学はバスケ部に入ってたから、後輩の試合観に行ったときの写真だよ〜」

「ミツハって球技スポーツやってたんですか!?」

「意外すぎる……」

 

 アリサとコウタが驚く。身長が低いのでバスケ部に入っていたことを言うと高校でも大抵驚かれていた。

 

「ミツハがバスケしてる写真はないの? 見てみたいな」

「クラスマッチはバスケ選んだから、スマホのほうに写真あると思う」

 

 ユウに聞かれ、アリサの手の中にあるスマホを横からスクロールさせた。流れていく写真を目で追いながら、アリサが問いかける。

 

「クラスマッチというのも学校行事なんですか?」

「うん、クラス対抗の球技大会。種目はバスケとバレー、あとサッカーと卓球があって、どれに出るか選んで戦う感じ」

「なんだ、学校って勉強ばっかじゃないんだな。楽しそうじゃん」

「コウタが居たら絶対学校行事盛り上がったと思う」

 

 体育祭やクラスマッチ、文化祭もコウタが居たら、きっとみんなの中心に居てムードメーカーになっていただろう。だがテスト前は消沈していそうだ。想像するだけで楽しくなってくる。

 

 スマホのアルバムをスクロールする。友人が撮ってくれた写真にはコートの中を走る髪の長いミツハの姿があった。

 

 試合の後、汗だくのまま撮られた写真。青春っぽくピースを合わせて星を作った写真。カメラロールにはかつての日常が詰め込まれていた。放課後の教室で突然トランプタワーを作り出した友人が居たので見守ったり。駅の電光掲示板の一部が壊れて変な文字になっていたり。

 

 地元の公園。家族の写真。クラスメイトの写真。下校中になんとなく撮った空。遊びに行ったときに食べたフードやスイーツ。夏祭りで浴衣を着たときに自撮りしたり、冬に駅前がイルミネーションで飾り付けされて撮ってみたり。

 

「なんか、すげーな」

 

 写真を見ながら、コウタが呟く。

 

「こんな平和な世界、本当にあったんだな。そしてミツハは、そんな世界で本当に生きてたんだな」

 

 60年。数字で見れば半世紀と少し。歴史の教科書を開いてみれば数行で済むような年数が、まるで遥か昔であるかのように思えてしまう。

 

 それぐらいに、60年前と60年後では違い過ぎていた。

 

 スナック菓子をつまむ。美味しくはない。60年前のコンビニにこの商品が並んでいたら、ミツハは絶対に買わないだろう。口の中の水分が一気に吸われてしまうそんな菓子を、ごくんと飲み込んだ。

 

「……帰りたいなって、正直、思う」

「思って当たり前じゃん」

 

 そう、迷いなく即答された。

 

「だって、ミツハの家族も友達も居るんだろ? そりゃ、誰だって帰りたいって思うっしょ」

「そうですよ、ミツハ。負い目を感じることなんてありません」

「だから無理に隠そうとしなくて良かったんだよ、ミツハ」

「…………やばい涙出そう」

「そういうところだよな〜、ミツハが年上に見えないの!」

 

 三人の言葉に目頭が熱くなり、そんなミツハの姿にコウタがししっと笑う。からかうコウタを詰るようにじとりと見るが、年上の威厳なんてものがないミツハには対した威力もなかったらしい。

 

「……僕たちはきっと、今ある光景に対して鈍感になっちゃ駄目なんだろうね」

「鈍感?」

「そう」

 

 聞き返したミツハにユウは頷き、画面に映る写真に目を落とした。

 

「僕たちは生まれたときからアラガミが世界に居て、アラガミに世界が捕喰されていくのが当たり前だった。だけど、それを当たり前だと思ったらきっと、そこから前には進めない。捕喰され尽くされた世界は、かつてミツハたちが生きてた……希望に満ちた世界だったんだ」

 

 『旧』市街地とみんなは呼ぶ。アラガミに捕喰され尽くされ、廃墟となったかつての街並みの成れの果てを。

 

 その街並みが生きていた頃を覚えている人は、どれほど居るのだろうか。

 

「……写真、見せてくれて本当にありがとう。僕たちはきっと、いつかの希望を信じていられるから戦っていけるんだ。いつか、希望に満ちた世界を取り戻すためにも。少なくとも、僕はそうかな」

「ユウ……」

 

 その言葉に、胸が熱くなる。

 

 ミツハにとって壁の外の光景は、決して当たり前なんかではなかった。旧市街地と聞いて思い浮かぶのはかつての横浜の姿で、街の残骸に面影を感じて苦しくなる。

 

 覚えていてほしい。知ってほしい。かつて、ミツハが生きていた世界があったことを。食べ残しの残骸を、当たり前だと思わないでほしい。

 

「……ありがとう。そう思ってくれて、本当に嬉しい……。……そんなこと言われたら、もっと私の世界のこと色々知ってほしくなっちゃうな〜!」

 

 感謝の言葉を述べて、湿っぽい空気を変えるべく明るい声を出した。だがそれは強がりではなく、本心からそう思った。

 

 ユウは柔らかく微笑んで頷き、コウタとアリサも綻ぶように笑った。

 

「なんだよー、だったらもっといっぱい聞かせろよ〜」

「ミツハの友達の話も聞かせてほしいです! この人、よく映ってますよね。仲が良かったんですか?」

「仲が良いっていうか、小学校の頃からの親友〜! 紹介していい?」

「聞きたいです!」

 

 スマホの画面にはアシンメトリーショートボブの女子高生が映っていた。凛とした顔つきをしており、明るい栗毛の髪と長身も相まって人目を惹く少女だった。

 

千夏(ちなつ)っていう子でね、家が近くで家族ぐるみの付き合いしてたんだ〜。私がバスケを始めたのも、小4のときに千夏にバスケクラブ入ろって誘われたからなんだよね。中学も一緒にバスケ部に入って、2年の夏からは千夏が部長して私は副部長してたよ」

「幼馴染じゃないですか〜! 千夏さんは高校でもバスケ部だったんですか?」

「千夏も高校からはバスケやめたんだよね。部活には入んなくて、他校の人と一緒にバンド組んでた」

「カメラにバンドのライブっぽい写真あったけど、もしかしてそれ?」

「えっ、写真あるんですか? 見せてください!」

 

 カメラを取り、小さなライブハウスでの写真を映した。千夏が組んでいるバンドが出るためライブハウスに足を運んだが、初めてのライブハウスにドキドキしたことを覚えている。

 

「凄い、プロみたい。かっこいいね」

「でしょー。でも千夏は小さくて可愛いものが好きでね、飼ってるポメラニアン溺愛してるんだよ」

「ぽ、ぽめ? にあん?」

「ポメラニアン。犬の品種! ちっちゃくて可愛いんだよ〜!」

 

 カメラの写真を切り替え、慣れない横文字に首を傾げるコウタに画面を見せる。毛玉のような真っ白い小さな犬を抱き抱える千夏の写真だ。

 

 ポメラニアンを初めて見た三人は、愛くるしい白い毛玉に釘付けになっていた。

 

「可愛いじゃないですか〜!」

「たまに外部居住区で犬は見かけるけど、姿が全然違うね」

「ノゾミが見たら喜びそうだな〜! これ現像してもらっていい?」

「いいよ〜、他に何か欲しい写真あった?」

「んっとなー……」

 

 横浜の街並みや観覧車の写真を選び、スナック菓子をつまみながら思い出話を広げていく。髪の長いミツハの写真を見ては「懐かしい」とユウとコウタは笑い、そんな髪の長い少女が生きた平和な世界を目に焼き付けていた。

 

 スナック菓子の中身が空になった頃合でお開きとなり、その頃にはすっかり夜も更けていた。日中の任務が場所も相まってなかなかハードだったためか、思わずあくびをするとコウタにも伝染ったらしく、大きなあくびをしていた。その隣でアリサはあくびを噛み殺しており、そんな三人の様子にユウはくすくす笑った。

 

「そろそろ寝るかぁ」

「遅くまでお邪魔しちゃってごめんね」

「色々見せてもらってありがとうございます、楽しかったです」

「全然いいよ。私も楽しかったよ〜」

 

 おやすみ、と三人が出て行き、部屋にはミツハ一人となる。カメラの電源を落とし、ミツハはベッドに寝転がった。

 

――千夏、どうしてるかなあ。

 

 親友の顔を思い浮かべ、彼女が好きなバンドの曲を流す。スマホやカメラに残る写真には、確かに千夏が写るものが多かった。それだけ一緒に居たのだ。自慢の親友をユウたちに紹介できたことが、なんだか嬉しかった。

 

 懐かしさに胸をいっぱいにしながら、ミツハはそのまま眠りに落ちる。ギターの音が心地良かった。

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