3月19日
「コンゴウが群れを作って廃寺に住み着いてるんだって」
「…………コンゴウの群れ? しかも廃寺?」
「……そう」
神妙な顔をしてユウが頷いた。ミツハはサァッと青褪める。
「よりによって廃寺に……!?」
「うへぇ、あそこ狭くて戦いにくいんだよなー……」
「しかも群れですか。混戦は必至ですね……」
ブリーフィングルームには本日のアサインメンバー、ユウとコウタ、アリサとミツハが集まって隊長から本日の任務内容を聞いていた。しかしその内容に気分が重くなる。
群れを作って廃寺に住み着いたコンゴウの討伐――ミッション名『ピルグリム』。
入り組んでアラガミの抜け道の多い廃寺は、神機使いが戦いやすい広いフィールドが少ない。その上相手をするコンゴウは聴覚が鋭く、戦っているとすぐに寄ってくるため乱戦が避けられない。遠距離攻撃や突進攻撃と広範囲で動き回る豊富な攻撃。それが群れとなっている。ミツハは考えただけで恐ろしくなった。
「今日が命日かもしれない……」
「ちょっとミツハ! 縁起でも無いこと言わないでくださいよ!」
「今回はいつも以上に念入りに事前の作戦を組んでいこうか。調査隊によると、今のところ四体集まってるらしい」
「乱戦はしたくないよな。一人一体撃破するか?」
「中型種だから一体なら単独討伐でもいけそうだけど、場所が廃寺だから四人がそれぞれ戦える場所が少なくてかえって危ないと思う。それはやめておこう」
「良かった……! 私中型のソロ、ギリギリだから……!」
「なら二人一組に分かれて、二体同時に相手をするのはどうでしょう?」
「そうだね、アリサ。相手をしていないコンゴウが戦闘音を聞きつけて乱入されるより、最初から分断して引きつけておいたほうが良いだろうね」
二人で二体のコンゴウを相手にする。ミツハにとってはそれでもかなりハードに感じるが、頑張るしかない。なんていったって、今のミツハは討伐班なのだから。
「バレット勉強会の日程、早めるべきだったな〜……」
1週間後にベテラン狙撃手のサクヤとジーナを先生にした勉強会の開催が決定したのだが、危機はすぐ目の前にあった。
コンゴウ相手なら破砕火属性のバレットが有効なのはわかる。しかし転がり回るコンゴウは機動力に欠けるブラストではなかなか照準が合わない。
「追尾系とか方向を変える系のモジュールがこういうとき輝くんだろうけど、組み合わせ方がわからないんだよ〜……」
「バレットエディットは難しいですよね。でもとにかく、今あるバレットで今日を乗り越えないと……!」
「そうだね……頑張ろうね、アリサ……!」
激励を送るアリサに、ミツハはがっしりと手を合わせる。二人一組のペアは男女で分かれ、ミツハはアリサと一緒に戦うことになった。
そして本日の決戦の地、鎮魂の廃寺に四人は足を踏み入れた。まずは散開して、身を潜めながらコンゴウと開戦するタイミングを窺う。四人が同時にそれぞれコンゴウと交戦してコンゴウを引きつけ、ペアと合流して戦う流れだ。
『みんな、準備はいい? ――行くよ!』
インカムから聞こえたユウの合図を機に、コンゴウに神機を叩きつけた。怒り狂う金剛力士は襲撃者を追いかける。
アリサとの合流地点であるE地点までコンゴウと鬼ごっこをする。すぐにコンゴウを連れたアリサもやって来て、二体のコンゴウを相手にアリサと共に戦っていく。
二体の攻撃を躱しながら、片方を重点的に狙う。数箇所結合崩壊したコンゴウは捕喰のために逃げ出そうとするが、向かう先がユウたちが交戦している方向だ。乱入はさせまいと、アリサが逃げたコンゴウを追った。
ミツハは追いかけるアリサに向けてバレットを撃ち、リンクバーストさせる。新型神機ならば捕喰したオラクルを銃形態で味方に放つことで、捕喰せずともバースト状態にさせることができる。オラクル活性が上昇し動きが早くなったアリサはスライディングしながら捕喰し、コンゴウの尻尾に神機が喰らいついた。
「アリサ、ナイス!」
「援護お願いします!」
怯んだコンゴウからアリサはステップで距離を取り、射線を開ける。ミツハはバレットを対コンゴウ用の物に切り替えて放った。撃ち込むミツハに対し、もう一体のコンゴウが胸を張るような動きを見せる。ブラストは機動力が無く、動きながら撃つことはできない。
アリサと目が合い、頷いてミツハはそのまま撃ち続けた。もう一体のコンゴウはパイプから真空波を飛ばしてくる。しかし戻ってきたアリサがシールドを展開してそれを受け止め、コンゴウに斬りかかった。
しかしアリサが今相対しているコンゴウはまともに攻撃を受けておらず、動きが俊敏だ。転がり回ったコンゴウはシールドを展開しても動きは止まらず、アリサを押しのけてミツハを突き飛ばした。
「きゃあっ!」
壁に衝突し、鈍い痛みがミツハの身体を襲う。追撃はアリサが止めてくれて無事に起き上がることができた。息を整えてコンゴウに向き直る。
ブラストのリザーブしているオラクル残量を確認する。オラクルはまだあるが、動き回るコンゴウ相手にはシールドが無いと不安だった。ミツハは神機をヴァリアントサイズに変形し、死にかけのコンゴウを捕喰する。大鎌を真上から振り下ろし斬りつけると、コンゴウは活動を停止した。
残り一体。アリサと前衛後衛を交代して戦う。二体一ならかなり余裕ができる。先にコンゴウ二体を片付けたユウとコウタが合流してからは決着は早かった。
「はぁ……はぁ……疲れた〜…………」
「この狭いとこでコンゴウ複数体はキッツイなー……」
コンゴウを倒し終え、ミツハはコウタと並んで雪の上に転がった。熱くなった身体が冷えて気持ち良いが、だんだん寒さが勝って慌てて起き上がる。「もう、何をしてるんですか」と笑ったアリサが服についた雪をはたいてくれた。
「アリサ、ありがと。お疲れさま〜」
「お疲れさまです、ミツハ」
「アリサのおかげで生き残れたよ〜! 盾役本当ありがとう!」
「こちらこそ援護助かりました! 上手く連携できて良かったです……! もう前のようにはなりませんから……!」
「あはは、気にしてないよ〜」
防衛任務でアリサと初めて連携した時とは大違いだった。その時のことを思い出すと、今回アリサと上手く連携して戦えて嬉しかった。
話をしていると、回収班と調査班がやってきた。今回の群れの原因などを調査するらしい。調査班の人間が境内の奥へ進んでいく中、回収班のうちの一人の女性がミツハたちに近づいてくる。
「私が運転するから、四人は後ろに乗って休んでな。お疲れさん」
「イリヤさん、よろしくお願いします」
回収班の運転手がミツハたちが行きに乗ってきた装甲車に乗り、後ろの兵員室に四人は乗り込む。硬いソファに座り、息を吐いて脱力した。
「なんとか終わったね〜……」
「みんな、お疲れさま」
「腹減ったー! でも夕食までまだ時間あるなー……」
「思ってたより早く終わりましたからね」
「分断が上手く行ったのが良かったね。四体合流されてたらもっと時間かかっただろうし」
「二人とも倒すの早かったね〜。応援来てくれて助かったよ」
「へへへ、俺とユウは最強コンビだからな!」
「ユウ、ちゃんと否定するのも優しさですよ?」
「なんだとぉー? 俺とユウの華麗な連携プレイ、見せてやりたかったぜ!」
アリサとコウタの軽口に笑いながら、四人は装甲車に揺られた。
「そういえば、昨日の夜廊下でミツハを見かけたんですけど、どこかに行ってたんですか?」
ガタガタと悪路に揺られながら、アリサにそう問われる。
装甲車の運転室と兵員室は区切られている。そもそも作戦を話したりするため防音になっており、会話は漏れないようになっている。回収班の運転手に聞かれることはないだろうと、ミツハは正直に答えた。
「シオのところに遊びに行ってたよ~」
「シオ……なぁ、やっぱノラミも良くない?」
「さっさと諦めてください。シオちゃんとどんな話をしてたんですか?」
「写真を見せたりしたんだけど、結構気に入ってくれてたよ。なんていうか、思い出という概念を理解してくれたり……」
「シオが? 凄いね、本当に頭が良いんだ……」
「昨日も結構話してたよなー」
「ダサい名前より可愛い名前のほうが良いっていう好みもあるみたいですしね」
「ノラミも可愛いだろ!」
ユウたちが感心したように驚く。捕喰されないとはいえアラガミであることに警戒していたようだが、シオと名付けられたことで『アラガミ』から『シオという少女』の印象が強まり、警戒よりも興味のほうが強まっているようだった。
シオの話をしていると、コウタが「そうだ!」と提案する。
「なぁなぁ、この後みんなでシオのところ遊びに行かね?」
「いいですね、それ」
「食堂開くまで博士の研究室でダラダラしよ〜」
「研究室を溜まり場にしていいのかな……」
「博士だし大丈夫大丈夫!」
ユウの懸念をミツハが笑い飛ばす。ミツハにとってサカキの研究室はもはやアナグラでの第二の部屋だ。遠慮などとうに無くなってしまっている。『今からみんなで行きまーす!』とサカキにメールを送れば、『いいよー(^-^)ノ』と短い返事が届く。まったくもって遠慮の必要の無い軽さである。「ね?」とミツハがしたり顔でメールの文面を見せれば、ユウは降参するように笑った。