人類は移住しました 残され者たちは世界再生の旅に出ます   作:穴熊拾弐

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第11話 小さな仲間

 

 翌日。犬ジカに頬を突かれて目覚めた俺が外へ出ると、小さな黒いルナが立っていた。

 ……まだ寝ぼけているのだろうか。目の前の少女は、俺の腰の高さくらいしかないが。

 

『マオーサマ!』

 

 ぴん、と右腕を上げて小さなルナが叫ぶ。

 その声もやけに甲高く、肉声とは思えない奇妙なものだ。

 

「おい、犬ジカ。なんだこれは」

 

 試しに聞いてみるが、あん、と鳴き声が返ってくるだけだ。

 むしろそれに反応して小さいルナがまたマオーサマと叫ぶ。

 またか。またこういうのの相手をしなければならないのか……。

 

 溜息をついて顔をあげてみれば、このルナと同じ見た目をした奴が数体街を歩いているではないか。

 否、歩いているだけではない。資材と思われる木材を運んでいたり、崩れていた建物の修復をしている奴もいる。

 

「なんだ、こいつらは……」

 

 いや、何かはわからないが原因はわかる。

 

『マオーサマ! マオーサマ!』

 

 小さいルナと犬ジカが俺の腕を引っ張ることからも明らかだろう。

 

「わかったよ、行けばいいんだろう……」

 

 諦めてそのままずるずると引きずられていった。

 

 

***

 

 

「これは拠点管理用の自動人形たちです。その名もチビルナです!」

 

 犬ジカたちに連れられて向かった先は、最初にこの街に来た時に見たルナに似た少女たちが眠る建物だった。

 扉をくぐった先で、誇らしげに胸を張るルナと両手を上げるチビルナが俺を出迎えた。

 

「……はあ」

 

 思わず漏れた重たい息も気にせずに周囲を見回す。

 あの時と同じく彼女らの背後には無数の筒が並べられている。

 違うのは筒が淡く光を放っていることと、いくつかは空になっていることだ。

 そこにこのチビルナなる連中が入っていたのだろう。

 

「チビルナねえ……確かに可愛いらしい見た目だが……」

 

 外見はルナをそのまま10歳くらいにしたような姿。

 子どもサイズの少女が俺よりも重そうな石材やらを軽々運んでいる様子は、かなり不気味であった。

 そして、自動人形と言ったか。

 彼女たちもルナと同じ人造人間らしい。

 人造生命体は魔術で似た例を知っているから驚きはしないが、これだけ人と変わらない様に見える存在は流石に知らない。

 

「それにしても、なんで今更動き出したんだ。昨日まで眠っていたんだろう、そいつら」

 

 ルナの後ろの筒を見る。

 光が灯り、中に満たされた液体が僅かに流動しているのが見て取れる。

 その中の少女たちは傷が深かったように見えたが……。

 

「無事な子たちは今までは休眠モードにしていたのですよ。何せ、燃料がなかったので」

「燃料……ああ、蛇か」

 

 そう言えば昨日も三匹ほど毟られたな。

 また何か装備を作るのかと思ったが、あの小さい連中の動力源に使われたらしい。

 

「あの子たちの役割は、建物の補修や食料の管理です。犬ジカさまたちのお世話も任せましたから、これで丸一日探索に使えますよ」

『オマカセー!』

 

 ルナの言葉に、チビルナが両手を上げて応える。

 見た目が似ている以外は全く異なる個体らしいが、立ち振る舞いがどことなくルナに似ている気がする。

 まあいい、ともかく拠点の修理を勝手にやってくれる便利な存在だとは理解した。

 だが、俺の視線はルナの背後に向く。

 

「他の連中は起こさなくていいのか?」

 

 最初に俺が見た光景と変わりなく、ここにはチビルナ以外にもルナと同じ背丈の少女たちが眠りについている。

 てっきり彼女たちも稼働させるのかと思ったが。

 

「彼女たちを目覚めさせるには、魔王さまの蛇では足りません。高純度の魔石が必要なのですが、殆どはあのリザードなどの魔物に食べられてしまいました。……その時の傷も、直っていませんし」

 

 そう言って、ルナは近くにあった筒に触れる。

 わずかに細まった目は、悲しみの感情なのだろうか。

 

「治せないのか?」

「直そうにも、燃料も素材もありません」

「じゃあ、集めればいいんだな?」

 

 ルナが顔を上げてこちらを見る。

 わずかに目を見開いた、不思議そうな表情だ。

 

「資源を集めて文明を復元するのだろう? ならば、そいつらも一緒に復元できる。違うか?」

「そう、ですね。修復設備自体はありますから、資材さえ集められれば……」

「ならさっさと探索に行くぞ」

 

 わざわざ呼びつけたから何かと思えば、結局やることは変わらない。

 しかし、ここは足りないものだらけだ。

 せめて何かの燃料機関くらいはさっさと復元したいものだ。これ以上蛇を毟られたら叶わん。

 

「はい!」

 

 慌てて荷物を背負ったルナがついてくる。

 行き先は昨日と同じ街。

 森に呑まれる前に回収を続けなければな。

 

「……なあ、ルナ」

「はい?」

 

 お前はいつから一人だったのか、と聞こうとしたが止めた。

 そんなことを聞いたところで、俺の欲求が満たされるだけ。

 相手の過去を逆なでしてまで聞くことではないだろう。

 

「いや、あとどれくらいであの街の回収は終わるだろうかと思ってな」

「魔獣の脅威もなくなりましたし、一週間もあれば終わるでしょう。……やりたいこともできましたし、ね」

「……そうだな」

 

 心なしかルナの足取りは軽い。

 元気が出たならば良かった。何せこれから、また危険な森の中に入るのだから。

 

 

***

 

 

 そうして、一週間が過ぎ。

 俺達は何事もなく呑まれた街の資源を回収することができた。

 

 食料工場がある以外は通常の住宅街であったらしく、確保できたのは当時の人類の日常生活に必要なものばかりであった。

 家具や武具。僅かな金物類に合成樹脂と呼ばれる異界由来の物質でできた品が複数。

 当時の魔道具や、科学とやらを魔術と組み合わせた魔導工学というものは興味深かったが、どれも日用品程度のモノばかりで俺としては価値の薄いものばかりだ。

 

 だが、ルナたちにとってはかなり有用であったようで、リヴラに持ち帰った今はチビルナたちの手によって解析が行われ、復元や構造情報の集積と忙しそうに作業をしている。

 

「これまでは歴史や文化などの風化しやすい情報面を主に集めていましたので、こういった実際の生活についての情報は新鮮なのですよ」

 

 と、ルナは興奮気味に語っていた。

 確かに魔獣や植木屋が闊歩する世界で食器とかを集めている余裕などなかったのだろうな……。

 

 ただ、お陰で俺にも恩恵があった。

 最初に見つけたキッチン用品のおかげで食事の種類が増えたのだ。

 暖かい香草のスープに採集した巨大鳥の卵料理、煮た豆……増えたのは極僅かだがそれでもありがたい。

 毎朝料理を運んできてくれるチビルナに感謝の礼をし続けている。

 僅かでも、進歩って大事。

 

「これであの街の回収は終わったようだが、次はどうする?」

「次は山に向かおうと思っています」

「……山?」

 

 そう言ってルナが指さした地図には、見慣れた形の大陸が描かれている。

 この世界は大きな一つの陸地で成り立っている。

 羽を広げた蝶に例えられるこの大陸は、大まかにいえば北に向かって広がる台形の形をしており、俺たちがいるのはその南東部だ。

 地図をみる限り、地形に関しては俺の居た時代と変わっていないように見える。

 ……いや、いくつか抉れてたり欠けていたりしている気もするが、大きくは変わってないはずだ、うん。

 

 その中でも嫌というほど目立つ巨大な山が映る。大陸の北側、東西の丁度真ん中部分にそれは位置している。

 地図でもやたらと面積を占め、大きく描かれたその山は俺も覚えている。

 雲を軽々と突き抜け、我々人類ではその先端は愚か、半ばにも到達することは叶わないといわれる、世界最高高度の秘境。

 天至山と呼ばれる霊峰だ。

 

「まさか天至山まで行くつもりか? いくらなんでもあそこに文明はないだろう」

「いえ、極地観測所などがあったようなのでなにもないわけではないのですが……」

 

 あるのか……。すごいな、人類は。

 後から聞いたら僅かな秘境を除いた大陸全てに生息圏が広まったため、世界中の謎の解明に勤しんでいたのだとか。

 わからないことは調べたくなる、と。そこは理解できる。

 

「今日行くのはそのもっと手前です。ここから東、大陸南東の沿岸部にある鉱山跡地です。そこでは様々な魔導製品の動力源となる、魔石が採掘されていました」

 

 そう言って指さしたのは、北ではなく東。

 大陸の東端、海岸線に沿って南北に走る山脈であった。確かに、当時も銅の鉱山として稼働していた。

 それが時代が変われば魔石の産地。技術が向上してより深部の鉱脈を掘り当てたのだろう。

 

「なるほど、それが手に入れば……」

「はい。私の仲間たちを再稼働させるための、第一歩です」

 

 嬉しそうに頷くルナ。

 仲間が増えれば復興はさらに加速する。

 食事のレパートリーもさらに増えることだろう。

 ……いかん。頭が食事に支配されている気がする。

 何か娯楽でも見つけなければ、その内食事のことしか考えなくなってしまう。

 

「ならば行こう。その廃坑とやらに」

「はい。ただ、徒歩では数日かかるでしょうから、遠征になります」

「遠征……それ、大丈夫なのか?」

 

 数日かかるなら間違いなく野宿になるだろう。

 あれほど外を危険視していたのに、いいのだろうか。

 

「一番危険な植木屋は動けませんし、主を倒せる魔王さまの力があればこの辺り一帯の魔物は対処できます。むしろ、今が一番安全だと思います」

 

 宿泊装備も作れましたしね、と何やら大きな箱を見せてくる。

 どうやらその箱がテントらしい。

 魔物除けの効果があるようで、夜間でも安全に寝泊まりができるようだ。

 

 装備品が使えるようになり、万が一の魔物の対処も俺がすれば問題ない、か。

 俺が納得したのを見て、ルナはパンと手を叩く。

 

「では行きましょう! 向かうは魔石鉱山です!」

『オー!』

 

 犬ジカとチビルナの声も後に続いて部屋に響く。

 ……君らはお留守番ね。すぐ死ぬからね。

 

 そして翌日。

 我々は一路鉱山地帯へ向けて旅立った。

 

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