人類は移住しました 残され者たちは世界再生の旅に出ます   作:穴熊拾弐

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第13話 魔石鉱山

 

 

 

 深い森を抜け大陸東端に広がる岩山地帯にたどり着いた俺たちは、そこを通り抜けて更に奥へと向かっていく。

 

 隆起と侵食によって岩の回廊へと変化した地形は巨大な迷宮のようで、地図とルナの地形把握能力がなければとっくに迷っていただろう。

 

 そしてその中は魔獣だらけ。

 分厚い胴を持つ馬の魔獣やら、一振りで首がもげそうな爪を生やした四足獣などがそこら中を闊歩している。

 ルナの言った通り、ここにはとてもじゃないが拠点は建てられそうにもない。

 

 可能な限りそいつらを避け、それでも襲ってくる奴は蛇で蹴散らしつつ荒涼とした地形を進んで、しばらく。

 わずかに舗装の残る道を曲がった先に赤茶けた錆びだらけの建造物が姿を現した。

 まだ遠く、岩の隙間にちらりと見えただけだが、この地域に入って初めて見る人工物であった。

 

「あれが目的地……でいいのか?」

「恐らくは。もう少しはっきりと見えればわかるのですが……」

「なら上がるか。少し掴まってろ」

 

 近くの岩場に飛び乗ってから抱えていたルナを下ろしてやると、手にしていた魔紙の地図を広げて崖ギリギリまで走っていく。

 その後を追って進んでみると、岩に閉ざされていた視界が一気に開け、その先に居座るものを見せてくれる。

 

「……凄まじいな。あれが全て建物なのか?」

 

 その光景は、巨大の一言に尽きる。

 視界の端まで埋まる長大な建造物。

 城とも砦とも違う。丸みを帯びた錆びた巨大な円柱がいくつも並び、その間を入り組んだパイプや四角い筒が幾重にも走って鉄の生け垣のごとき異様さを見せている。

 

 その合間から見える天を衝くかのように伸びる煙突は、何も吐き出すことなく静かに佇んでいる。

 これまで見てきたどんな城よりも巨大で、どんな建造物よりも奇妙な姿をしていた。

 

「はい、間違いありません。あれが魔石鉱山跡地です」

 

 手元の地図と目の前の光景を見比べてから、ルナははっきりと頷いた。

 最早地形の変化であまり役に立たない筈のそれは、大まかな位置と方角の確認にはなる。

 何より、この地域であれほど巨大な建造物はあの鉱山だけなのだろう。

 

「ようやく着きましたね」

「……存外、綺麗に残っているもんだな」

 

 錆びや一部外壁の崩壊はあるが、ここから見る限り破壊されたような跡もなく、形はそのまま残っている。

 植木屋のような存在がいなければ、案外保存されているものなのだろうか。

 

「あれが目的地……でいいんだよな?」

「はい。ただ、正確にはあれはまだ施設の一部分でして、用があるのはあのもっと奥です」

「あれで一部なのか……」

 

 その途方もない規模に驚きつつも、これから先、こんなものをいくつも見ることになるのだろうなと理解する。

 一々驚いていては、こっちの身が持たないだろう。ならばいっそ、さっさとこちらから飛び込んでしまえばいいのだ。

 それがこの世界で生きるためのコツなのだと、そう思うことにする。

 

「行くぞ」

「……はい!」

 

 再びルナを担いで、鉱山跡地へと向けて飛び出した。

 

 

***

 

 

 それから一時間ほど駆け抜けて、ようやく建物の入口までやってきた。

 最早守る人もいなくなった巨大な門が、荒涼の中佇んでいる。

 

「……近くで見ると、より巨大だな」

 

 見上げる程の高さに築かれた金属の壁を見て思わず息がこぼれる。

 一体何のためにこれほどまでの防御壁が必要だったというのか。そこらの城よりもよほど強固で厳重な守りに思えてしまう。

 

「鉱山なのだろう? こんな巨大な壁が必要だったのか?」

「記録によると、人類史末期は相当な資源不足に陥っていました。そんな中、ここで採掘される高品質の魔石は非常に貴重なものだったようです」

「なるほど。俺の居た時代では、叩き売りされる程採れたものだが……それほど魔石が貴重な時代になったのか」

 

 ならばこの壁は、魔獣よりも対人を想定した防御壁だったのだろうな。

 だが、それも今は無用の長物。

 ぽっかりと開いたその門を潜って中へと入っていく。

 

 その先に広がるのは、通ってきた道と変わらない荒涼とした大地。以前は舗装されていたのかもしれないが、今は全てが砕けて自然へと還っている。

 違いがあるとすれば、打ち捨てられた金属の箱や建物の残骸があたりに散らばっている点だろう。

 民家の類は殆どなく、代わりにその数倍はあろうかという巨大な建造物が立ち並んでいるようだった。

 

「――静かだな」

「ここは、鳥も虫もほとんどいませんから。ここに暮らす動物たちも、大人しい種ばかりのようですね」

 

 魔獣が多くいるとは聞いていたが、鉱山設備内部に魔獣は見当たらない。

 代わりに、野生動物たちの住処になっているようだった。相変わらず、やたらデカかったり太かったりはするが……。

 あの巨大な壁は、今は彼らを外界から保護する役目を果たしているのかもしれない。

 

「案外、壁の魔獣除けがまだ生きているのかもしれないな」

 

 廃退しつつある都市を気ままに歩く動物たちを見ると、冷えた気候も相まって、不思議な感傷が湧いてくる。

 視界が塞がって景色がわからない森や回廊とは違って、ここでは周囲がよく見える。

 伽藍堂の廃墟。聞こえてくるのは風と動物の静かな音色だけ。

 人の姿も喧噪も、ここにはどこにも存在していない。

 こうしてみると、つくづく実感する。

 

 ――人類、本当にいなくなったんだなあ……。

 

 

「魔王さま、先へ進みましょう」

「……ああ」

 

 ちなみに実際の鉱山はここではなく、ここからさらに先に進んだ、街の奥に開かれた大穴の中だそうだ。

 山をくり抜き、地下へと掘り進めていた鉱山らしい。

 ルナいわく魔石は魔獣も好むらしいので、ここにはいなくても鉱山内部には何かがいるかもしれない、とのことだ。

 

 とはいえ、なにもあの中に入る必要はない。

 鉱石の採掘とともに、その加工や精錬もこの施設で行っていたという。

 それらの跡地でわずかでも加工済みの魔石が見つかれば、問題は解決だ。

 だから、まずは休憩がてら製錬所内部、続いて近くの倉庫跡地を探索してみたが……。

 

「魔石、ありませんね」

「原料の一つでもあれば楽だったんだがな……」

 

 ……そう簡単にはいかず、鉱石はどこにも見つからなかった。

 広すぎるので全てを探索できたわけではないが、ほとんど空の倉庫を見て早々に諦めた。

 そりゃあ、移住の際に持っていくか。

 

 ただその代わりにいろんなものが見つかった。

 資料室らしき場所に積まれた埃まみれの魔紙媒体だったり、錆びついて原型がよくわからない金属塊だったり。

 ルナは見つけるたびに興奮していたが……役に立つのか、これ?

 わからないが、次にいつ来られるかわからないからと、見つけたものは可能な限りバックパックへ突っ込んでいく。

 

 ルナがクレーンと呼んだ大型の滑車のついた装置などは、彼女が持ち込んだ小型の走査装置で調べられた。

 食料工場で使った装置のお仲間らしく、独りでに浮き上がって動き回るそいつは、建物や大型装置の構造を調べて記憶してくれる優れもの。

 

 他にも壊されたのか骨組みだらけになった部屋や、黒ずんだよくわからない何かが散乱する広間。肥大化ヤギの寝床と化した倉庫などを見つけては、必要そうなものを集めていく。

 そうして探索すること数時間ほど。

 

 やはりというか、鉱石は一つも見つからずに人類史の探索収集を終えた。

 

「やはりありませんね、魔石」

「欠片一つ見つからないとはな。結局、中に入るしかないか」

「そうですね。休んでから行きますか?」

「休息は不要だが……その前に、坑道の地図が欲しいな」

 

 長期間採掘されていた坑道が複雑な迷宮になることは門外漢の俺でも知っている。

 録に構造もわからない坑道に入るのは、あまりにも無謀だ。

 

「確かに。先ほど見つけた資料を調べてみましょう。中で何が起きるかわかりませんし」

 

 不吉なことを言うルナとともに、倉庫の中で見つけた魔紙を漁っていく。

 幸い、僅かな時間で鉱山内部の見取り図やら採掘量などの情報を集めることができた。

 俺にはほとんど、何が書いてあるのかわからないのだが、そこはルナにお任せである。

 

「やはり、ほとんどの鉱脈は採掘されきっているようですね」

 

 壁一面に坑道図を広げてルナは言う。

 坑道は数十に渡り、長く、深く掘られたということはわかる。わかるが……複雑すぎる。

 この地図があっても迷う自信があるぞこれ……。

 

「俺らでも使えそうなものは?」

「どこかの鉱脈を探せば、わずかに残ったものは見つかるかもしれませんが……」

「時間がかかるな」

 

 そこまで急いでいるわけでもないが、何がいるかもわからない穴の中を長時間探索するのはご免だ。

 

「ですので、これを」

 

 そう言って、ルナは別の地図を表示させる。

 先ほどまでの坑道図に上書きされるように道が伸びていく。

 

「移住前に予定されていた、今後の採掘予定図です。この通りに掘り進めれば、鉱脈にたどり着ける可能性があります」

 

 道具なら持ってきています、とルナが胸を張る。

 それでも今から掘るとなると中々の時間がかかりそうだが……。

 

「大丈夫です。この装備であれば鉱脈一つなら一日もあれば掘り進められるはずです」

「……残りかすを探しまわるよりはましか。よし、それでいこう」

 

 最悪俺が爆破してもいいが、崩落の危険もある。出来る限りルナの道具とやらに頼るとしよう。

 その他僅かに見つけたものをルナのバックパックに詰め込み、鉱山内部へと踏み入れる。

 

 

「――この先が坑道のはずです」

「広いな……そして、暗いな」

 

 陽は高く上っているが、照らせているのは入り口のわずかな部分のみ。

 長い時間で光源もなくなった鉱山は、深淵に似た闇を眼前に広げている。

 

「ルナ、明かりは?」

「ありますが、燃料が必要です」

 

 そう言って、手を差し出してくる。

 出せということか……。すっかり体のいい燃料係だ。

 

「なら、俺がやったほうが早い」

 

 蛇を四匹程出し、魔法陣に変える。

 光球を生み出す下級魔法を発動させると、途端に周囲が外と同じくらいに照らされる。

 これならいつでも消せるし、緊急時は別の魔法にも切り替えられる。手もふさがらないといいことづくめだ。

 

「行くぞ」

「むう……新装備を試したかったのですが……」

 

 むくれるルナを差し置いて、そのまま奥へと進んでいく。

 鉱山は柔らかな石のようなものを壁面に吹き付けており、その上を黒い管がいくつも這って奥まで向かっているようだ。

 聞こえるのは風の通る音と、どこからか滴る水の音だけ。

 

「しかし、やけに広いな……こんなに広げる必要があったのか?」

 

 両端まで数十歩は軽く必要な坑道を歩みながら、呟く。

 俺の知る鉱山とはえらい違いだ。

 

「地下で採掘した鉱石を、大型車両で纏めて輸送していたようですから、その通路だったのでしょう」

「車両……?」

「自動で動く大型の馬車みたいなものです」

「馬のない馬車ということか……? そうか。それならこのような場所でも使用できるのか。考えたものだ」

 

 荷馬車として使えば鉱石も運び出せるというわけか。

 どうすればそんなことが可能になるかは知らないが、便利そうだ。

 

「ただ壊されたのか、一台も見つかりませんね」

「そうか。一目見てみたかったが……」

 

 それがあれば俺たちの移動もだいぶ楽になると思ったのだが、残念だ。

 

「街にはたまに放棄されていますから、今度お見せしますよ。記録だけならリヴラにもあります」

「そいつは再現しなかったのか? 便利そうだが」

「……道がありませんので」

「……そういえば、そうだな」

 

 などと会話をしながら進んでいく。

 坑道は複雑に分岐しており、時々通り道の鉱脈を探っては見たが、やはり鉱石は見つからなかった。

 

 否、わずかな鉱石はあった。

 鉱脈跡やその周辺に煌めく石があり、それが魔石だとわかった。

 だが、ルナが求めている純度の石はなかったし、数も足りない。

 やはりもっと奥まで潜る必要がありそうだった。

 

 そして――案の定、魔物たちが大量に潜んでいた。

 

 最初に見つけたのは、入り口近くの鉱脈のすぐそば。

 わずかに光を見かけ、近寄ってみたら石ではなく魔物だった。

 

「――――!!」

 

 虹色に輝くそれは、岩に似た堅い表皮を持つ小型の竜のような魔物だった。

 

鉱石獣竜(ジュエルドレイク)ですね。金属や鉱石を好んで喰らい、身を守る鎧とする竜種に属する魔獣です」

「……ひょっとしてこいつら、魔石を食ってるのか」

「恐らくは。外の倉庫に貯蔵がなかったのも、彼らが食べ尽くしたからかもしれません」

「ならば遠慮はいらないな」

 

 壁面からとびかかってくる竜を蛇の剣で打ち払う。

 鉱石やら金属をまとっているだけあって、森のリザードよりも小さいのに堅く、重い。

 爆破は通じる可能性があるが……。

 ルナを見ると、首を横に振る。

 

「できれば石は傷をつけずに倒してください」

「そうなるよな……なら」

 

 蛇を三匹引き抜くと、その体を絡ませ合いながら引き伸ばす。

 三叉の槍となった蛇に直に魔力を注ぎ込み、その刀身を硬く、硬く仕上げていく。

 

「――!!」

 

 小型とはいえ流石は獣竜。槍に気が付き、後ずさりを始める。

 地の利は向こうにあるだろうが、それでも逃がさない。

 

 獣竜が呼吸のために口を開いた瞬間を狙い、槍を放つ。

 絡む槍の構造に従い回転を始めた槍が、空気を穿ちながら竜へと突き進む。

 獣竜が槍に反応し横に跳ぶが――それを待っていたかのように槍は元の三匹に分かれる。

 

「――ギッ!?」

 

 弧を描きながら分離した槍のうち、一つが竜の口へと飛び込み――体内を貫いて坑道の壁へと突き刺さった。

 断末魔を上げることなく、鉱石獣竜は死んでいった。

 

「本当に何でもできるんですね、その蛇紋は……」

 

 呆れたように息を吐いてルナが言った。

 

「竜といっても、小型の幼体なら問題ない」

 

 蛇を解き、落ちてきた鉱石獣竜に近づく。

 一部を貫通したのみなので、鉱石にほとんど傷はない。

 死体を掴み上げてルナに掲げて見せる。

 

「こいつの鉱石は使えるか?」

「ふむふむ、他の金属と入り混じってますから純度は低いですが、精錬できれば大丈夫です。これなら基準範囲内かと」

 

 ルナの許可を得たので、バックパックに詰め込んでおく。

 そんな調子で、鉱脈跡地には何匹もあの鉱石獣竜がおり、討伐してはルナのバックパックに詰め込んでいった。

 

 否、跡地だけではない。

 坑道の至る所に竜はおり、その近くには純度の低い鉱石溜まりが存在していた。

 どれも、先ほど見た地図にはなかったものばかり。

 流石に当時の人類が見落とすはずもない。長い年月で新たな鉱脈ができているのだろうか。

 

「いくら何でも多すぎないか? この竜、すべての鉱脈にいるぞ」

 

 俺の言葉にルナが頷く。

 先ほどから、鉱石溜まりを見つけるたびに地図と睨めっこをして首をひねっているのだ。

 いくら時間が経っているとはいえ、この数はおかしい。

 

「確かにこの数は異常です。それに、もう一つ」

 

 竜をバックパックにしまう俺を他所に、ルナは目の前の鉱脈を見つめている。そこは地図には記載がされていなかったものだが、それはどちらかといえば記載する必要がないほどに小規模の脈だったから。

 ルナはそこから小さな石を拾い上げると、俺に向かって掲げてみせる。

 

「これを見てください」

「鉱石か? これは……濁りが全くないな。随分と純度が高いんじゃないか?」

 

 透き通る青の鉱石は、魔石の中でも上から数えたほうが早いものに見える。

 物によって、時代によっては家が建つ高級品だ。

 俺の問いにルナは頷く。

 

「十分です。このサイズの鉱石が後100個もあれば、皆の治療も可能でしょう。しかし何故なのか……ここはまだ浅い場所です。当の昔に採掘された筈ですが……」

 

 もちろん、この程度の小さな石であれば見逃され、残っていた可能性はある。

 だが、もっと確かな可能性が示されている。

 

「掘りつくしたんだろう? ()()()()()()()()()

 

 ルナの背中に回り石をバックパックに押し込みながら、俺は応える。

 

「その後で、この鉱石が造られた。そう考えるのが自然だろう」

「しかし……」

「鉱石が造られるくらいの時間は経っているんじゃないか?」

 

 鉱山が生まれるプロセスなど知らないが、時間だけはたっぷり経ったのだ。

 よく考えてみれば、それくらい起きていてもおかしくはない。

 それに――

 

「植木屋の例もある。石が復活していても不思議ではないさ」

「……そうですね」

「なに、これで鉱石の当てができたんだ。ありがたく使わせてもらおう」

 

 他にもいくつか使えそうな石を詰め込むと、俺はルナのバックパックをぽんと叩く。

 

「さっさと石を集めて帰るとしよう」

「はい!」

 

 そのあとも近くの鉱脈を調べてみたが、やはり僅かだが鉱石が確認された。

 多くは獣竜に食われてしまっていたが、復活してるなら話は早い。

 俺とルナは当初の目的を変更し、未発掘の鉱脈ではなくこの鉱山最大の鉱脈――通称『瀑布』へと向かうことにした。

 

 ほとんどの鉱脈に分岐する根元部分である瀑布は、その幅10mを優に超えていたと聞く。

 恐らくはそこも復活しているだろうから、必要な量をさっさと回収して帰還してしまおうと、そう思い地下へと向かった。

 

 

***

 

 

 数十分の下降の後、俺達は瀑布鉱脈へとたどり着いた。

 資料にたがわず、否、それ以上の鉱石量を有していた瀑布は、見上げるほどの空間を埋め尽くす石の要塞と化していた。

 

「これは……すごいな」

「綺麗です、とても」

 

 育ちすぎて空間が足りなかったのか、手前にいくつも飛び出した水晶のような青い鉱石たち。

 蛇の放つ光を受け、それらは海の中にいるような幻想的な光景を作りだしていた。

 

「早速調べてみます!」

 

 そう言ってルナが瀑布へと駆け出していく。

 予想通り、鉱石は何らかの理由で再生成されているらしい。

 この量は少なくとも数十年はなくなりそうもなく、人類がこれを放棄して移住したとはとても思えない。

 

「純度も最高品質です。これならば問題なく使えそうです」

「良かった。ならさっさと――」

 

 嬉しそうなルナに近寄ろうとした瞬間。ばきり、と何かが砕ける音がした。

 俺が初めてこの場の脅威に気が付いたのは、その時だった。

 

「――ルナ、こちらへ跳べ!」

 

 叫ぶと同時に腕から蛇を引き抜き、ルナの背後へと解き放つ。

 ルナは迷うことなく俺の指示に従い、故に助かった。

 

 ルナの立っていた丁度真横の鉱石が突如弾け飛んだ。

 否、正確には石が()()()のだ。

 それは、鉱石をまとった腕であり、俺の蛇に触れ爆発を起こした。

 

「魔獣――!!」

 

 爆風で飛んできたルナを受け止め、俺も背後へ跳ぶ。

 大事な鉱石が砕け散っているが、今は仕方がない。

 

「ここにも魔獣がいたのですね……!!」

「みたいだな。寝ていた所を起こしたらしい」

 

 だが、今見た腕はこれまで倒してきたどの魔獣よりも大きかった。

 腕だけで俺の身体よりも太く巨大に見えた。

 

 油断した。これだけ大きな鉱脈だ。魔獣が住み着いていてもおかしくはない。

 己の不覚を呪いつつ、ルナを背後において敵に備える。

 所詮は蛇一匹の爆撃だ。あのサイズの魔獣ではそう大した攻撃にはならない。

 案の定、煙の向こうで影が蠢く。

 さて、どんな化け物が潜んでいたのか――。

 

「――――!!」

 

 直後、咆哮。

 音だけではなく吐き出された息をたたきつけられ、身動きが封じられる。

 煙も同時に吹き飛ばされ、魔獣の姿があらわとなった。

 

「鉱石獣竜……!! でも、あんな大きな……?」

 

 そこにいたのは、体高五mはあろうかという、巨竜。

 全身を虹色の鉱石に覆われ、額には鋭く角のように突き出た青い鉱石がある。

 自然の競争で磨かれたのか、長大な剣を思わせる威容があった。

 ……俺でも、あれに突かれたらどうなるかはわからんな。

 

「どうやら、ここの主はこいつらしい」

 

 迂闊であった。

 こいつに見つかった以上、鉱石の採取は難しくなる。

 逃げようにも、ここの坑道は竜が余裕で通り抜けられる幅がある。

 人間の体で竜から走って逃げるのは、現実的ではない。

 

「なるべく離れてろ、ルナ」

「は、はい!」

 

 俺は蛇を四匹ほどルナに与え、下がらせる。

 何せ、あのサイズの竜が相手だ。

 下手したら瀑布――否、この鉱山自体を破壊しかねない。

 

「――――!!」

 

 幸い竜も俺に狙いを定めてくれている。

 なら、存分に相手をしてやろう。

 

「行くぞ……!!」

 

 蛇を解き放ちながら、俺は竜に向かって飛び出した。

 

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