人類は移住しました 残され者たちは世界再生の旅に出ます   作:穴熊拾弐

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第25話 終末ショッピング

 

 苦労の末にやっと辿り着いた湖上都市アルト。

 湖水面積20万㎢に及ぶ世界最大級の淡水湖上に築かれた大都市で、同時に水底には水妖精たちの一大コロニーがあることで知られた、水と商業の街。

 

 かつて栄華を誇り、人類史末期には人々で賑わったその都市も、二百年の時を経て朽ち果てている――はずだった。

 

 だが今目の前にある都市は、外観こそ錆びついているものの変わらず稼働を続けていた。

 

「おいイオ、どういうことだ。思いっきり稼働してるぞあれ」

「アタシにわかるわけないでしょ。都市がまだ生きてるなんて……」

 

 そんなこと誰が想像するか、とイオと同じことを思う。

 今まで見てきた都市やその残骸は、形こそなんとか保っていたが例外なくその機能は停止していた。

 当然だ。世界は一度魔力が枯渇しあらゆる機構は停止した。

 そして長い時間をかけた風化や、魔獣や修復者たちによる破壊も受けてきたはずだ。

 

 だからあり得ないのだ。都市が今もなお稼働を続けているなど。

 

「うわあ……すごいね、ルナさん!」

「とんでもないことですよ、エリさん! 生きた都市機構をこの目で見られるなんて!」

 

 頼りのはずのルナは子供のようにはしゃいでいる。

 廃墟を見るたびに興奮していた彼女だから、生きた都市を見てこうなるのはわかる。わかるのだが……。

 

「魔王さま、イオ! 入ってみましょう!」

「わかったから、もう少し落ち着け! ……なにが待ってるかわからないというのに」

 

 頼むからもう少しだけ警戒というものをしてほしい。

 戦闘では無敵のエリはいいとして、ルナはひ弱なのだから。

 水の中から狙撃とかされたらどうするんだ。もっと警戒を――。

 

「魔王様って、随分と妖精を警戒してるよね」

 

 ふと、隣のイオが尋ねてきた。

 

「ん? 当然だろう」

「当然なんだ……。それって、何か理由があるの?」

「……俺のいた時代、人類と妖精種の仲は決して良くなかったんだよ」

 

 俺が生きた時代の、その数十年ほど前。

 西のとある国が、愚かなことに妖精狩り――名前そのまま、若い妖精種を欲望のまま捕獲・殺害するという事件を起こした。

 

 そのことは当然妖精たちの逆鱗に触れ、妖精と人類のどちらかが滅ぶまで戦う、種族間大戦寸前の状態にまでなっていた。

 最終的に、その国は()()()()()()()()滅ぼされ、最悪の事態は回避されたが……人類と妖精の仲は最悪と言ってよかっただろう。

 次何か起きれば、間違いなく人型種族は殺し合いをしていた筈だ。

 

 だからこそ魔獣戦役による種族間の結託は、当時の世情を思えば奇跡だったのだ。

 ……その結果俺が造られたと思うと、複雑な気分ではあるが。

 

「ふうん……。そっか。生きた時代によって価値観って全然違うもんね。特異主を集めるなら、そういうところも気にしなきゃいけないのか」

 

 それこそ、当時の妖精が万が一生きていたら……「人類死すべし!」と襲い掛かってきてもおかしくはない。

 多分俺は、それをずっと警戒しているんだと思う。

 

 そのことを伝えると、イオは「でもさ」と笑みを浮かべた。

 

「ここまで来ちゃったんだから、行くしかないよ、魔王様」

「……わかってるさ」

 

 杞憂ならばそれでいいのだ。

 それに、俺も稼働した状態の都市が気にならない訳ではない。

 

 一体人類史の最後にはどんな文明が築かれていたのか。

 

 リヴラのような模倣や、ラムニスのような抜け殻でもない当時の姿。

 それが今、目の前にあるのだから。

 

 ……行くしかないか。

 諦めと覚悟を決めて、イオとクアとともに、先を行くルナたちの元へと向かう。

 二人はアルトの入口となる橋の手前で門を眺めているようだった。

 

「ふたりとも、こちらを見てください」

「んー? ……おお!」

「これは……まさか水か?」

 

 ルナに誘われて見てみれば、なんと驚き。

 アルト全体の入り口であるその門は、全てが水でできていた。

 湖上を渡る橋。その両端から吹き上がった水はいくつかの浮遊魔法陣を通り抜け制御され、古代の城壁を思わせる分厚い構造物を浮かび上がらせている。

 

 それはそのまま湖岸を沿って、視界一面を埋め尽くす水の城壁を作り出していた。

 

「凄い、ずっと向こうまで続いてる……。これ、ひょっとして都市全体を覆ってるのかな?」

 

 エリの言葉に視線を向けると、確かに水の城壁は途切れずに続いている様だった。

 湖岸全てを覆っていても不思議ではない。

 

「むう……となると本当に都市が稼働してるのか? 一体どうやって……ん?」

 

 唸っていると、ルナがキラキラした瞳で袖を引っ張ってくる。……そうだな、お前なら知ってるよな。

 仕方なく頷くと、待ってましたと嬉しそうに口を開いた。

 

「ここの水は魔力量が豊富で、一度魔法陣を発動させれば半永久的に稼働し続けるのです。むしろ魔法陣の方が損耗によって、数十年に一度はメンテナンスをする必要があるようですが、それでも驚異的な技術力です。ちなみに夏期には凍らせたりもするようで、アルト氷祭りといえば有名なお祭りだったようです」

「なにそれ楽しそう! ルナ、動いてるなら今できないの?」

「そこまでは……中に入ればわかるかもしれません」

「ほんと? じゃあ徹底的に調べよー!」

「おい……」

 

 いつの間にかイオまでも楽しんでいる。

 少しは疑いをもって欲しいのだが……。

 

「――――」

 

 仕方ない、というようにクアが鳴く。

 こうなったらお前が頼りだからな、頼むぞ。

 

 ……しかし。

 いざ都市機構が稼働しているとなると、気になる点が一つ。

 

「問題は、これが誰によって整備されてるかってことだな」

 

 何せ二百年も経過しているのだ。数十年など幾度あったか。

 だというのにこうして稼働している。

 明らかに魔法陣を修理している存在がいる筈だ。

 

「いくらなんでも、これは自然の再生では起きないだろう?」

「そうですね。あり得ないと思います。……誰かがいる、ということでしょうか」

「……!! なら、気を付けないとね」

 

 ようやく我に返ったエリが剣の柄に手をかける。

 このメンバーであれば、よほどの相手だろうと問題はないだろうが、面倒ごとは可能な限り避けたい。

 

「そうらしい。せめて、協力的なやつであって欲しいが……」

 

 ともかく、ここにいても仕方がない。

 未だ解説を続けるルナの首根っこを掴んで、門へと歩き出す。

 さあ、この先にいるのは一体何者なのか。

 丁寧に開かれる水の門を通り抜け、中へと足を踏み入れると……。

 

 

「いらっしゃいませー! ようこそアルトへー」

 

 小さな、まるっこい人型生物が両手を上げてお出迎えしてくれた。

 

 

「……」

「……」

「いらっしゃいませー」

 

 諦めず、もう一回その生き物がそう言った。

 満面の笑みだ。

 

「……え、なにこいつ」

 

 思わず素の声が出た。

 

 目の前にいるのは緑の髪を伸ばした子供のような生物。

 ルナよりも小さく、俺の腰くらいの高さしかない。

 簡素な麻のワンピースを身に着け、その胸部分には花飾りが括り付けられている。明らかな人工物。着の身着のままで生きている野生人……というわけではなさそうだ。

 ぱっと見、外見は人間だが……まさか生き残りか? こんな子供がどうやって?

 

「……花?」

 

 ぽつりとイオが呟くのが聞こえ、ハッとしてもう一度少女を見つめて、気が付く。

 よく見れば、手のひらサイズの赤い花が頭頂部の右横から生えていた。

 

 これは木妖精の特徴だ。

 形ある自然と呼ばれる、妖精という人型種族。彼らは名を冠する自然に合った外見的特徴を持つ。

 

 木妖精の場合は緑の髪とそこから生える花が一輪。

 少し焦げた肌も同じく全て森に生きる妖精種――木妖精の特徴そのものだ。

 そのどちらも少女は持っている。

 ただ一点、やけに小さいことを除いては。

 

「妖精に見えるけど、ちっちゃいわね」

「小さいですね。妖精は幼い頃から頭身が高く……なんていうか、もっと細かったかと……」

 

 そうだな、俺の記憶にある木妖精も、もっと細くて美しかった。

 妖精に『子供』という概念は存在しない。

 生まれた瞬間から、人間の成人と同じ背丈、姿で生まれてくる。

 この犬ジカを思い出させる三頭身生物では断じてなかったはずだ。

 

「いらっしゃいませー?」

 

 俺たちが一向に動かないのがおかしいのか、チビ妖精は首を傾げる。

 

「……可愛い」

 

 黙っていたエリがふらふらと近づいていく。

 危な……くはないか、あれなら。

 

「いらっしゃいませー?」

「いらっしゃいました! 可愛い妖精さん!」

 

 そのまま抱き締めて撫で回し始めた。

 可愛いものが好きなのだろうか。

 

「良かったですー、お客様じゃないのかとー」

「お客様です! 服を探しにきました!」

「おお、服ですかー! 勿論揃えてあります。こちらへー」

 

 エリの腕から降りると、ぽてぽてと湖の奥へと進んでいった。

 

「わかりましたー!」

「エリさん、お待ちください……!」

 

 嬉しそうに着いていくエリを追いかけて、ルナも歩き出す。

 まだ理解が追いつかないが、進むしかないか。

 ふと、イオが俺の横に立つ。

 

「魔王様、気をつけて。さっき、誰かがアタシたちを狙ってた」

「何?」

「エリが反応した直後に敵意は消えたから、大丈夫だと思うけど」

「……見た目通りの呑気な場所じゃないってことか」

 

 少なくとももう一人、誰かがいるということだ。

 あれが悪意ある何かには見えないが……。

 

「毎度ながら、休まらないな」

「いいじゃない、楽しくて」

 

 笑いながらルナの元へと走り出す。

 

「……確かに、のんびり暮らすよりはまし、なのか?」

 

 だがせめて、もっと穏便に進んでほしいと思うのは俺の我儘なのだろうか。

 

「――――」

 

 クアが肩に前足を置いてくれる。

 お前だけだ、俺に優しいのは……。

 

 

***

 

 

 先へと進んでしまったちび木妖精を追い、門を抜けて遠くに見える街へと向かう。

 道中は時折水が跳ね、複雑な水の動きが絵を表現している。

 観光客を楽しませる芸術……らしいのだが。

 

「これ、絵か? ミミズがのたくった跡にしか見えないが……」

 

 ぐちゃぐちゃの線の塊がいくつも流れてきて、はっきり言って怖い。

 

「おそらく、彼女なりのアートなのかと」

 

 見た目通りのポンコツ具合だった。

 設備は素晴らしいのに、勿体ない。

 

「これ、あなたが描いたの?」

「はいー、頑張りましたー!」

 

 エリの質問にチビ木妖精が頷いている。

 やはりこいつか。

 歩幅が小さいせいで彼女には直ぐに追いついた。

 なんとか先を行こうと必死に歩いていたが、俺たちが速度を落として彼女のペースに合わせてからはゆっくりと進んでいる。

 

 それでも早く進もうと――案内しようとそわそわしている辺り、悪いやつではないのだろう。

 

 ……本当にただの子供にしか見えない。が、そんなはずもあり得ない。

 もし彼女が見た目通りの存在なら、猶更だ。

 

 木妖精は形ある自然。

 姿こそ人間に似ているが、その価値観は全く異なる。

 木々を自在に操り多くの人類を殺してきた――文明を最も嫌う種族なのだから。

 

「あなた、ずっとここにいるの?」

「そうですー。気がついたときにはここにおりました」

「それはいつ頃だ?」

「いつ……。さー、覚えてないです!」

 

 妖精種は自然とともに暮らすためか時間間隔が人類よりも緩やかだ。

 てか、この様子だと暦の概念すら理解しているかも怪しいから、無理もないか。

 

「なあ、お前は一人か? 他の木妖精たちはいるのか?」

「……!!」

 

 俺の問いに、チビ妖精は足を止める。

 そして何故か、ばっと振り返って俺の目を見た。

 その瞳はわずかに濡れているように見える。

 

 しまった、不用意だったか――と思ったときには、そいつは俺の腹に飛び付いてきた。

 

「お兄さん、ヤマのこと知ってるですか?」

「……あー、お前はヤマというのか?」

「そーです! ヤマはヤマと言います」

 

 にへら、と笑うヤマ。

 緑の髪を乱雑に伸ばし、髪の毛には木の実やら枝が絡みついている。

 森を駆ける木妖精の子供らしい姿。

 

 瞳の色は緑で、これも木妖精の特徴だ。

 何より彼女が妖精であることを示す、頭部に生えた一輪の赤い花。

 飾りではないかどうか確かめようと触れようと手を伸ばした時。

 

「魔王!」

 

 エリが剣を引き抜き、不可視の速度で振るう。

 銀の剣は、飛来したものを切り裂いたのだが。

 

「冷たっ……これ、水?」

 

 それは水だった。

 圧縮して撃ち出された水弾だったらしい。

 

「ちょっと、そこの男! 今すぐヤマから離れろー!」

 

 同時に、湖から声が響いた。

 目を向けると、青い髪をした少女が、水の中から顔を出していた。

 遠くて分かりにくいが、ヤマのように顔が丸く見える。多分、小さい。

 

「ひょっとして……あれ水妖精?」

「何だと?」

 

 木妖精に続き、二人目の妖精種がいるということか。

 そうだ。妖精種なのだ。

 世界が再生されるならばもしかして、と思った連中がこうして存在している。

 ……ちょっと、いやかなり想像とは違う姿だけれど。

 

「うみちゃーん、お客様つれてきたよー」

「さっさと離れる! そいつは危険ー!」

 

 水面を叩きながらキーキーと叫んでいる。

 何故だろう、あいつもヤマと同じ臭いがする。

 

「……あいつもそう言ってるし、さっさと案内してくれ。後で好きなだけ教えてやるから」

「約束ですからねー!」

 

 そう言ってようやく離れたヤマが走って奥へと向かっていった。

 ウミと呼ばれた少女の方も、待ってなさいと叫んだあと水の中に消えていった。

 だがすぐに、目の前でヤマが転んだ。

 

「あっ」

 

 ゆっくりと起き上がって、こちらを見る。

 さっきより明確に瞳が濡れている。まずい。あれは、泣くぞ。

 

「クア、頼む」

「――――」

 

 クアがふわりと彼女の横に跳躍し、鼻先で彼女に触れる。

 

「……ふわふわです……」

 

 どうやら踏みとどまってくれたらしく、すぐにクアを撫でまわして笑顔に変わる。

 あっという間に感情がころころと変わる。まさしく子供だ。

 ……妖精に、子供はいないというのに……?

 

 もう、訳が分からない。

 一旦考えるのを辞めよう……。

 そのままクアの上に乗ってもらい、商業施設の方へと向かっていった。

 

 

***

 

 

 それからしばらく歩いて、ようやく巨大な建物の下へたどり着く。

 入口は円形の広場になっており、そこを囲むようにして高層の建造物が聳えたつ。

 多くの客が訪れたであろう商業施設の最初の棟は分厚い塔の一面を切り取ったかのような構造で、内側部分が吹き曝しになっているようだ。

 

「おー、建物も大きいねー」

「はい! 大きいです!」

「ホントにね。これで商業施設だったんでしょ? 何売ってたのよ」

「そりゃ服とか化粧品とか……これだと足りないくらいだよ?」

「マジ?」

 

 信じられないとイオが首を傾げる。

 だが切り立った壁面には幾つもの大きな穴が空いており、そこには幾つもの店があったのだと物語っている。

 

「大マジ。でも勇者の時は来られなかったから、嬉しいな。ちょっと、いえかなり、ぼろぼろだけど……」

 

 流石にこちらは変色や、植物による侵食が進んでいるらしい。どう見ても綺麗とは言えない、見慣れた廃墟の姿があった。

 

 異なる部分と言えば、入口で見た水の門と、もう一つ。施設の天蓋に浮かぶ巨大な光――魔法陣だろう。

 

「……」

「……」

 

 問題は、そのもう一つであった。

 元気に会話する三人娘を余所に、俺とルナは空のそれを見つめたまま固まっていた。

 

「まさか……基盤式まで残っているとは……」

 

 ルナの声が驚愕に震える。俺もまた驚き、呆然と見上げてしまっている。

 

「基盤式? なにそれ?」

「え……?」

「お前……仮にも勇者か……」

「魔法は苦手なので……」

 

 この世界では必須知識だと思うのだが、数百年引き籠もっていた異世界の勇者に常識を期待しても仕方ない。

 今も同じく何もわかっていないヤマと二人で首をかしげている。……仕方ない。

 

「ルナ、頼む」

「はい、お任せを。基盤式……それは簡単に言うと、都市全体を覆い様々な事象を管理する大きな魔法陣のことです」

 

 基盤式大規模魔法陣。俺の時代にはそう呼ばれていた。

 そもそもの話だが、魔法には二つの大きな系統が存在する。

 一つが音声による「詠唱魔法」。もう一つが紋様――魔法陣を用いる「陣式魔法」。

 前者は利便性と速度。後者は精度や規模、再現性を求めて作られた系統だ。

 

 この二大魔法系統の内、陣式魔法は文明の発達と共に衰退しつつあった。

 陣式は構成するのに時間も知識も必要であり、特にその遅さが理由で戦闘においては詠唱魔法に立場を奪われていた。

 陣式は国と学者の為の、埃臭い魔法だと笑われていたという。

 

「そんな頃発明されたのが、この基盤式です」

 

 都市などの上空に、魔力を流し維持するというそれだけの効果を持つ巨大な魔法陣を敷き、その上に多種多様の魔法陣を貼ることで、様々な魔法を長期間、常時発動することを可能にしたものだ。

 

「例えば気温操作、天候調整に、街を保護する結界魔法など。この発明により、街はより快適に、安全に暮らすことができるようになったのです!」

「「おおー」」

 

 ルナ渾身の演説に、観客であるエリ、ヤマが拍手をしている。

 

 その言葉の通り、この基盤式のお陰で陣式魔法は再び注目されることになる。

 だがその技術拡大に最も貢献したのは、攻撃魔法を敷くことで侵入させた敵を殲滅したり、防御魔法を敷くことでどんな街でも強固な要塞に変える戦争用の使用方法だったりするのだが。

 

「まさかこの時代まで残っているとはな」

「勿論魔力効率などの進歩はありました。ただ、単純故に変化もなかったのでしょうね」

「……それもそうか」

 

 多くの発展はあったが、基盤式自体はただ魔力を流すだけのもの。大きく変わることもないか。

 

「まあ、ここの基盤式は気候管理の他にもショーなどの娯楽目的もあったようですが……残っていても害はないでしょう」

「そうか。……流石に商業施設に攻撃魔法陣は敷いていないか」

 

 ならばいきなり上空から火や雷が降り注ぐといったことはなさそうだな。一安心だ

 

「当たり前でしょ!? 客皆殺しにしてどうするの!?」

「……それもそうだな」

 

 実は一度、小規模な街でやられたことがある。街ごと焼却する勢いの逃げ場のない全方位砲撃は流石の俺も死にかけた。それ以来基盤式がトラウマになった。あんなのは二度と御免だ。

 

「はは……あ、あとは結界ですね。この湖には多くの魔物も生息していたようですし」

「そうか」

 

 しかし、こうなるとますます誰かがここにいる可能性が上がった。

 暴発防止の為、基盤式を動かすには幾つかの手順を踏む必要があるからだ。

 

「なあヤマ、あれはいつごろから稼働していた?」

「ヤマが目覚めたときにはもうありました! そんなすごいものだったのですね!」

 

 両手を振り上げて喜びを表現している。

 激しく身体を揺らされてクアが迷惑そうな顔をしているが、我慢、我慢だ。

 分かってはいたが、ヤマが動かした訳では無い、と。

 

「なるほど、だから……」

「? どうしたエリ」

「ここに入ってから、やけに涼しくありません?」

「そういえば……」

 

 うだるような暑さだった筈が、今は汗一つかいていない。

 この基盤式のおかげで快適な気温に保たれているのだろう。

 

 魔力さえあれば、定期的なメンテナンスだけで都市を安全に、快適にするのが基盤式のメリットだ。

 それが遺憾なく発揮されているのだろうが、そうなるとやはり気になるのは()()()()この基盤式を管理しているのかということだ。

 ヤマではないなら先ほどの水妖精か……それも怪しいところだ。

 

 気を取り直して、ヤマの指示する方へと進み、建物に空いた大穴の一つに入る。

 通路になっていたその先には、光豊かな商業施設……ではなく、拙い木造の掘っ立て小屋が待っていた。

 クアの上から飛び降りたヤマがその掘っ立て小屋へ走りこんでいく。

 

「さあいらっしゃいませー! ヤマのお店へようこそ!」

 

 小屋の前でヤマが両手を上げている。

 冗談ではなく、本気でそう言っているらしい。

 

「流石に、街まで復活してる訳じゃないみたいね」

 

 イオの言葉に奥の方を見ると、通路を埋め尽くすように配置された空洞――これが全てかつての店舗跡なのだろう――は荒れ果て、かろうじて机やら棚の一部が判別できる程度だ。

 外観とは異なり、中は殆どが空っぽの廃墟だ。

 大量の店が集まったマーケットと聞いているが、地上にも地下にもこのように店舗を敷き詰めていたのだとしたら、その数は100を優に超えていたのではないだろうか。

 

 世界最大規模の商業都市……それが今や、チビ妖精の木造店舗がひとつだけだ。

 

「このお店もヤマさんが作ったのですか?」

「そーです! 頑張りましたー!」

 

 むふんと胸を張るヤマ。

 折角なので店の中に入ってみると、どうにかして昔の店舗を参考にしたのか中は意外とまともな作りだった。

 

 右手側には何処かから持ってきた箱が積んであり、カウンターの様になっている。恐らくは会計場なのだろう。

 壁に取り付けられた木製の棚に、商品らしきものが数点陳列されている。

 ちなみにその商品だが……。

 

「みなさまは服をお探しでしたねー」

「はい、そうですね」

「ではこちらはどうでしょうー? 私も着てます」

「麻の服だね。凄い、ちゃんとしてる……ヤマちゃんサイズだけど」

 

 小さかったり。

 

「こちらは橋で見たヤマの絵が描かれたボードです! ここでしか買えないとくべつ品ですよー」

「あの絵ですか……」

「ただの木のいた……」

「ちょっと魔王! だめです……!!」

「どうしよう、アタシちょっと欲しいかも」

 

 判別不能だったり。

 

「りゅーこーのドレスです。うみちゃんも喜んで着てくれました。葉っぱで作りました!」

「これも完璧なドレスです。やはり小さく、葉っぱですが……」

 

 小さかったり。

 後は木の実やら花やら拾ってきたものが並べられている。

 想像以上のクオリティであったが、今の俺たちに必要なものはなさそうだ。

 

「あー、みなさんおおきいですもんねー」

 

 そっかー、大きさかーと納得しているヤマ。

 

「次回までにご用意しておきますねー」

「はい、お願いしますね」

 

 何でかちゃんと商人をしている。一体どこで覚えてきたのやら。

 驚きつつも、そろそろ放置していた本題に戻らなければ。

 

「さてヤマ、お前に聞きたい事がある」

「なんでしょー? ……あっ! 絵のだいざいですか!?」

「……それはまた後で頼む」

 

 正直、まだ色々と聞いておきたい事が山ほどあるが、我慢して続ける。

 

「俺たちは、ここに過去の機械……服を作れる物を探しに来たんだ。お前なら、その在処をしらないか?」

「服を作るきかい、ですかー?」

「ああ、そうだ。ちなみに、その服はどうやって作ったんだ?」

「これはこの先に飾ってあったものをヤマが真似して作ったのですよ! ヤマ、葉っぱを使うのは得意なのでー」

「そうか」

 

 機械を使って作っていたわけではないと。

 では、やはり探すしかないか。

 山の言葉では奥にはまだ残っているものもあるようだし。

 

「その機械の場所、知ってる」

 

 入り口から聞こえた声に振り返ると、先程の青髪の少女がいた。

 深く濃く、紺に近い髪の色に、瞳の色は透き通る水色。

 急いで来たのだろう。緑のドレスは濡れており、その周囲には、美しく光を散らす水の球体が浮かんでいる。

 

「本当ですか?」

「ええ。案内してもいい。その代わり、ヤマの疑問に答えて」

 

 それは、先程の質問のことだろうか。

 

「うみちゃん!」

「ヤマ、無事で良かった。その人に聞きたいこと、あるでしょ?」

「……はい」

 

 ヤマへと振り替えると、こちらをじっと見つめ、同じ疑問を投げかけてくる。

 

 

「教えてください。ヤマは、ヤマたちはなんなのでしょう?」

 

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