人類は移住しました 残され者たちは世界再生の旅に出ます   作:穴熊拾弐

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第3話 ようやく現状を知りました

 

 

 それから俺たちは都市の中を進みながら、銀髪娘の話を聞くことになったた。

 彼女が何故俺を起こしたのか。今この世界で何が起きているのかを知るために。

 

「まず、この世界がどうしてあんな姿になってしまったのか。そこからお話ししましょう」

「……そうだな。俺が殺された後に何が起きたのか、それを教えてもらおう」

 

 なにやら物々しい門を通り抜け、白亜の都市へと足を踏み入れる。

 ……静かすぎる。

 塩を固めたような真っ白の建造物群に、人の気配はなさそうだ。

 

「結論を言えば、人類はやりすぎてしまったのです」

「……?」 

「すべては、魔王さまを倒した勇者から始まりました」

 

 魔王という世界最大の危機を乗り越え、勇者という異界の頭脳を手に入れた人類には、大きな変革が訪れたという。

 その中核にいたのが、まさかの俺を殺した勇者ども。

 

「彼らは様々な異界の知識を有していました。どうやら彼らの世界に魔法なんて概念はなく、それ故に、別の系統の技術革新が行われたそうです」

「……あの、金属塊を飛ばしてくる筒とかか」

「はい。あれは銃。その技術が進んだ先に生まれた兵器ですね」

 

 奴らはこの世界には存在しない知識を持っていた。

 

「例えば、遥か地下から魔力を使わずに水を吸い上げる技術。魔法ではなく熱で、蒸気で物を動かす方法。指一本で人を殺せる兵器への発想――より正確には、何故それらが実現可能なのかの原理。彼らは、様々なものをもたらしたのです」

 

 湯水のごとく湧いてくるその異界の知識により、世界は著しい発展を遂げたのだそうだ。

 

 恐らく数百年はかかるはずだった発展を、ほんの短期間で奴らは成し遂げた。

 それは、とても心地よい時代だったのだろう。

 瞬く間に世界は変わり、昨日までの苦労が一切なくなっていく。

 人々は喜び、賛同し――いつしか歯止めが利かなくなった。

 

「ただ、その勇者様の知識も無限ではありませんでした。いつしか、その知識は枯れてしまったのです」

「……勇者(アレ)は若かった。1人、年かさの者がいたが……」

「ええ。大半の知識はその方からの提供だったと聞きますが、それ故に限度があったのでしょう」

 

 世界の技術水準が異界の勇者の知恵に追いついたのだろう。

 奴らは知識こそあるが、発明者でも魔術師でもなかった。

 自ら創り出すということを知らなかったのだ。

 知恵の泉は枯れ、その続きはこの世界の人類に引き継がれた。

 

「勇者さまの提供する知識の実現――云わば、先の決まっている研究から、自分たちで考え生み出す。……その様に、突如解き放たれた人々は、競うように技術開発を行うようになりました。自分たちこそが勇者の世界を超える、素晴らしい発明を生み出すのだと」

「その結果が……これか?」

 

 周囲の白亜の都市。

 そして先ほどまでいた、歩けば死ぬという恐ろしい大地。

 そのどちらにも人類の姿はない。

 

「……はい。戦争に等しい凄まじい開発競争の末に、世界の資源である魔力が枯渇したのです」

 

 世界の遥か地下深部には根源魔力と呼ばれる、世界が作りだすエネルギーが流れている。

 そこから幾つかの過程を経て、うすーくなった魔力が表層に出てくるのだが……それでは足らず、大本から吸い上げることを画策したそうだ。

 

「そのための知識と技術は、勇者様が提供してくれました」

 

 その試みは成功し、地下を流れる魔力を一滴残らず吸いつくした。

 だが、それは人から血液全てを抜くのと同じ。流れるものがなければ、新たな血液は作られない。

 

「……どおりで魔力が足りてないわけだ」

「……?」

「いや、こちらの話だ。……人類はやりすぎた。その言葉の通りということだな」

「……はい」

 

 草木は急速にやせ細り、海すら枯れ、唯一元気なのは新鮮な魔力(にく)を求めて彷徨う魔物たちくらい。

 文明に頼って鍛える努力を怠った人類が、魔物どもに勝てるはずもなく。

 世界はそのまま滅びるはずだった。

 

 だが、そこで一つの救済方法が告げられる。

 それは――。

 

「異世界に逃げちゃえばいーじゃん、です」

「……は?」

 

 間抜けな言葉に思わず首を傾げる。

 異世界に移住……確かに最初にあった時にそんなことを言っていたな。色々あってすっかり抜けていた。

 

「ですから、異世界へと移住したのです。当時の人類、その殆どが」

 

 改めて言われても、全く意味がわからない。

 

「……魔王さま?」

「いや、すまん。あまりにもふざけた話過ぎて、理解が追いついていないだけだ」

 

 何度聞いても、そう簡単には理解できない。

 世界を支配したあの人類がこの世界を捨てるなど。

 だがその理由は今この少女に聞いた。そこを疑う必要は今はない。

 

「移住、移住な……それは、どうやったんだ?」

「幸い、勇者さまを呼んだ時の(ゲート)が残っていたそうです。彼らを逃がさないために封印してあったようですが、解くのは簡単だったみたいですね」

「偶然空いたものは、閉じ方も分からなかったと?」

「はい。……もし、世界が生存不能な程に大地が荒廃した時に、別の世界に繋がる穴があったら、魔王さまならどうしますか?」

「そりゃあ、行くだろうな」

 

 しかも、行き先は世界を発展させた英雄の生まれ故郷だ。

 当時の人類どもにも慣れ親しんだ世界が広がっていることだろう。

 

「はい。ですので『こんな使い果たした世界とはおさらば。新しい世界に旅立つぞー!!』……となったわけです」

「だから、人類は移住した、か」

「記録では当時生き残っていた人類のほぼ全員が移住を選択。指導者とともに、異世界に消えていきました」

 

 ほぼ全員? そんなことがある筈が……いや、考えてみれば当然なのだろう。

 詳しくは知らないが、この世界はちょっとした長話をしているだけで死ぬ危険があるような状況だという。

 好き好んで残った奴など、ほんの一握りだったのだろう。

 

「残った極僅かな人類はどうなった?」

「わかりません。少なくとも生き残りはいないと思われます。……何せ、大分昔のことですので」

 

 これも、納得がいく。

 だが、まだ足りない。結局のところ、俺はまだ肝心なところを聞いていないのだ。

 

「そうだな。俺が気になるのはそれだ」

 

 何故ならば、ここに至るまでに通ってきた場所は文明なんて欠片も残っていない原生林だったのだから。

 繁栄した人類の都市もなく、自然が枯れ果ててもいない。

 さっきまでの話とは真逆の姿。辻褄があっていないのだ。

 

 それはつまり。

 彼女の告げた話よりもずっと――途方もなく長い時間が経ったということになる。

 だから聞かねばならない。

 

「俺が死んでから、どれくらい経った?」

「少なくとも、1000年は経っているかと」

「……ははっ」

 

 思わず乾いた笑みが漏れる。

 まさか1000年ときた。想像より桁が一つ多かったぞ。

 

「せめて、100年だったらなあ……」

「そうすれば城は残ってましたね。観光資源ですが」

「……」

 

 人形みたいな見た目をしておきながら、さっきから表現豊かな奴だ。

 そう、次はこいつについて聞かねばならない。

 

「それで? そんな有り様の世界でお前は一人何をしてるんだ。いや、何をするつもりなんだ?」

 

 先程こいつは『生き残った人類はいない』と言った。ならば、こいつは何なのか。

 問いかけにまっすぐこちらを見つめ返し、少女は告げる。

 

「私たちはこの世界を旅立つ人類によって造られた自動人形(オートマトン)です。彼らが去ったこの世界を、本来の姿に再生することが、私に与えられた任務です」

「……オート……?」

 

 耳慣れない単語に首を捻る。その反応に驚くように口を開けて、銀髪娘は直ぐに納得したように手を叩く。

 

「魔王さまの時代にはない概念でした。……簡単に言えば、私たちは人工的に造られた人間なのです」

「人を造った……? 思いっきり禁呪じゃないか」

「それだけ緊急事態だったということです」

 

 彼女の言葉通りではあったが、まさか本当に人類ではなかったとは。

 しかも世界を滅茶苦茶にした自分たちは異世界にとんずらし、残ったこいつ一人に世界の再生とやらを任せたと。

 いくらなんでも無茶ではないか?

 魔獣すら碌に倒せなさそうな体躯だが……まあ、今はいい。

 急ぎ把握したかった事は分かった。一先ずこれが最後の質問だ。

 

「それで、その人造人間とやらがこの俺に何をしろと? わざわざ起こしたんだから、やることはあるんだろ?」

「勿論です。そうですね、まずは――」

 

 待ってましたと言わんばかりに、娘がうなずいた。

 何せ、この魔王をわざわざ起こしたのだ。

 俺にしか成せない困難が待っているのだろう――。

 

「動物たちのお世話をします」

 

 自信満々に、娘はそう告げた。

 

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