人類は移住しました 残され者たちは世界再生の旅に出ます   作:穴熊拾弐

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第31話 今更ながらの自己紹介

 

 

 ウミの生み出した水球に乗って、来た道を昇っていく。

 彼女の力によって、上から落ちてきた水は綺麗に絡み合う螺旋構造となっており、今は元からそうであったように美しく底へと流れていっている。

 底で水は溶けて消えて、ルナの直したこの装置によって、さらに深くへと送られていく。

 あのまま放置していればこの穴全体が水没していただろうから施設にとっても魔獣にとっても助かることになっただろう。

 

 他に行きと違う点としては、行きより乗員が一人増えていることだ。

 

「ししょー! ヤマたち頑張りました!」

「よくやったぞヤマ、ウミ! お前たち最高だー!」

「だー!」

 

 ロアとヤマが二人で元気に拳を掲げている。

 狭いので静かにしてほしいが、嬉しそうなので黙っておこう。

 ウミの能力で生み出されたエレベーターは、全員が余裕をもって座れるくらいには広さがある。

 俺たちとルナは、互いの見たもの聞いたことについて情報交換を行っていた。

 

「……そうなのですか。あの方が特異主、錬金術師ロアさんなのですね」

「そうらしい。あんなに幼いとは思わなかったが」

 

 楽し気に話している彼はまだ10代の少年のように見える。

 だが間違いなくその数倍の年齢はある筈だ。

 

 錬金術師ロア。本来人類には成しえない、金属魔法を編み出した男。

 彼は、恐らく世界でも最も有名な魔法使いの一人だろう。

 

 どの国でも歴史を学ぶ過程で必ず現れる、あまりにも有名なその男の伝承は、実は大して知られていない。

 妖精の集落でしかなかったこの湖に人間が訪ねてきた大開拓期。まだ人間が妖精や獣人との交流を始めたばかりで、ようやくいくつもの国ができ始めた古の時代。彼はその末期の生まれだ。

 

 人間でありながら金属の魔法を扱った至高の魔法使いでありながら、多くの獣人――当時の支配者層を殺め逃亡を続けたと言われる。

 彼は、あらゆる生物が持つ魔力生成臓器である『核』を奪って回った。その際に狙われたのが獣人たちだった。

 そう。彼は最も高名な魔法使いでありながら、世界最悪の犯罪人としても有名なのだ。

 

 俺のいた時代を越え、最期の人類史まで名が残った極悪人――その筈なのだが、目の前の彼はそんな危険人物には見えないし、数十年を生きた人間であの外見はあり得ない。

 

 俺やエリと同じように、何かしらの理由で不老になっているのだろう。

 

「本当にいるものなんだな。特異主というものは……」

「いや、アンタもエリも特異主でしょ、魔王様」

 

 俺と過去直接関りがあったという意味で、エリの存在は疑問に思っていなかった。

 だがこのロアの存在は改めて目の前にしても、俄かには信じられない。

 俺らよりも過去にいた存在がこうして生きているとは……。

 

 そして何より驚いたのは、ロアが告げたという循環の理論だ。

 

「世界がこうなっているのに、明確な原因があるとはな」

「はい……。人類が作った魔力掘削用の巨大施設、マナホール。それが今も機能していて、循環に不備が起こっていたんです」

 

 本来は世界の底から生まれた源素は、大地やそこに暮らす魔獣たちとなり、消費されて魔力へ姿を変える……らしい。

 そしてその魔力が数多くの生命体に消費され、空素になるという。

 最後は空素を精霊や霊獣といった存在が使い切り、完全に消費された源素は穴を通って世界へと還っていく。

 それがロアの提唱する循環だ。

 

 だが、今この世界では循環の最後の部分に問題が起きている。

 マナホールによって、還るべき源素がこの世界にとどまってしまっているのだ。

 むしろより多くの源素があふれ出ているために、大量の魔力が行き場を失くしてさまよっている。

 

「そうだ。だから外はやたら魔力が濃いし、植木屋なんてのもいるんだろ」

 

 ヤマを膝に抱えてわしわしとしながらロアが言う。

 イオが犬ジカによくやっているやつに似ているが……嬉しそうだからいいか。

 

「え? 植木屋って人類の文明を壊してるんじゃないの?」

「んな知能あるかよ。あれは人間や動物の代わりに源素――魔力を消費してるだけだ、多分な」

「なら装置や機械が動くたびに現れるのはその性質のせいか?」

 

 人類の文明に反応していたのではなく、ただ魔力に反応していただけだというのか。

 

「ありえなくはないですね。確かに、これまでも文明というよりは稼働する装置に向かっていたようですから」

「……そうだな。それなら納得もできる」

 

 事実、破壊されずに残った街も多くある。

 やたら食い残しが多いなと思っていたが、その仮説ならば理解できる。

 

「循環が正常化して、動物や人間が増えればあいつらも消えるさ」

「時間がたてばあいつらは死ぬと?」

「恐らくは。そういう()()()なんだろ」

「ならこの辺りは安全になるな」

 

 この戦力ならもう並大抵の魔獣は怖くない。

 一発で街を飲み込む修復者さえいなければ周囲の探索は気楽に行えるだろう。

 というかもう、探索くらい気楽にさせてくれ……。

 

「ん? 何言ってんだ? 消えるにはまだまだかかるぞ。マナホールはまだあるんだから」

 

 なんだと、とルナを見れば気まずそうに頷きを返してくる。

 

「私に残ったデータでは少なくともあと三つマナホールはあるようです。それを全て直さないとダメかと……」

「三つ。あれを、後三回か……」

 

 正直、解体屋を倒せたのは偶然がそろった奇跡と言っていい。

 あれをあと三回やれと言われても無理だ。

 

「あー……それなんだが。他は多分大丈夫だ」

「? なぜそう言い切れる?」

 

 やけに気まずそうにロアが片手をあげる。

 

「あの装置起動したの、オレなんだわ」

「はあ?」

 

 ロア曰く、あのマナホールを見つけて調べている際にうっかり起動してしまったのだという。

 その結果周囲の修復者たちが集まり、あの解体屋も穴の底から現れたそうだ。

 

「だから他のホールは大丈夫なはずだ。誰かが活性化してない限りはな!」

 

 そういう場合、大体が活性化してるだろ、それ。

 

「いやお前、何してんだ。あんな見る限り危険な装置、動かすか?」

「だって未知の大型装置だぞ? 湖底の遺跡だぞ? そんなもんが地下深くに眠ってたらちょっと弄りたくなるだろ!」

「うっ……」

 

 ちょとわかるのが悔しい。

 ルナも横でうんうんと首を振っている。文明大好きだからな……。

 

「ししょー、だめですよ!」

「わかってるよ。お前ら、助かった。おかげでオレもこいつらも、無事に済んだ」

「ありがとうございました!」

「……ありがとう」

 

 三人がかしこまって頭を下げる。

 

「そんな! よしてください。私たちも必要だからここに来たんです」

「そうか? よし、じゃあこれでお互い言いっこなしだな!」

 

 ルナが慌てて腕を振って彼らを止めると、即座に笑みを浮かべて顔を上げてきた。

 ルナの性格を分かっててやってるなこいつ……。

 見た目通り大分強かな男のようだ。

 

「ルナ、師匠のあれはおふざけ。無視して。それより、もうすぐ衣類工場につくけど、そのまま行く?」

「あ、はい。お願いいたします」

「衣類工場……? そういやお前ら、何しにここに来たんだ?」

 

 そういえば話していなかったと、俺らの状況・目的を改めて伝える。

 ロアの救出が終わったので、本来の目的である衣料工場へと向かっているのだと。

 

「はー、人類史の復元ねぇ。随分壮大な目的だな」

 

 彼は衣類工場よりも、俺たちの大本の目的が気になるらしい。

 

「今日それにもっと大きな目標が追加されたがな」

「……あー、なんか悪いな」

「別に構わない。どうせ他にやることもないんだ。それに……」

 

 始めはこの世界で暮らしていくために必要なことだと思っていたけれど。

 こうして世界の不思議を解き明かし、修復していく作業を、俺は楽しいと感じ始めている。

 

「意外とこういうのも悪くない。だろ?」

「……そうだな。悪くない。むしろおもしれえ! オレたちの好きに世界を変えていくのも楽しそうだ」

 

 よし、とヤマを抱えてロアが立ち上がる。

 

「改めて、錬金術師のロアだ。これからよろしく頼む!」

「妖精のヤマです!」

「ウミ、よろしく」

「よろしくお願いします、皆さん」

 

 こうして、新たな特異主ロアと、妖精二人が仲間に加わったのだった。

 

 

***

 

 

 穴から脱出し、商業施設のすぐ下にある従業員用の点検路へと入り込む。

 ゆっくりと横移動をしたエレベーターの向こうには、穴に降りた直後のような鈍い銀の壁が映る。

 従業員が通っていただろう通路を抜けると、その先は水と海藻で埋もれた空間が広がっていた。

 

 魚たちがのんびりと泳ぐ下には、金属の机と巨大な機械の群れが並んでいる。

 それぞれがどういった機構なのかはわからないが、あれが衣料品を作る設備なのだろう。

 

「ウミさん、下へ降ろしてください。……はい、この辺りで大丈夫です」

 

 エレベーターが制止すると、ルナはまたあの白い箱を取り出した。

 それはルナの手に触れると一気に拡大し、空間の中を包み込んでいった。

 

 しばらく待つと、ルナの持つ箱の上に工場の縮小版が光で描かれていく。

 これで配置や空間、構成素材を調べているらしい。

 

「……はい、解析完了です。いくつか不可欠な部品だけ直接回収して戻りましょう」

「あ、じゃあ必要なものを教えて。私とウミさんで取ってきます」

「うん、任せて」

 

 泳げる二人がルナの指示のもと素材も回収して、バックパックに詰め込んでいく。

 そして一時間もかからずに素材収集は完了、そのまま地上へと戻り、今度こそ湖底探検は終了となった。

 

 元の広場へと戻ると、既に日は暮れていた。

 思っていた以上に長いこと地下へと潜っていたようだ。

 その日は商業施設に泊まり込むことになった。

 ロアやヤマたちは自身の部屋があるらしいのだが、妖精二人はルナ謹製のテントの中で、皆と仲良く眠ることにしたようだ。

 

 俺とロアは勿論別。

 リヴラ周辺とは違い夜は寒かったのだが、クアが寄り添ってくれたので暖かく眠ることができそうだ。

 

 

***

 

 

「……眠れん」

 

 だが、自然と目が覚めてしまった。

 まだ体が興奮しているらしい。

 

「戦いには慣れたはずなんだけどな」

 

 声に反応してクアが耳を上げる。

 大丈夫だと撫でてから、外へと抜けだした。

 

 俺が休んでいたのはヤマの商店があった場所のすぐ近くの広場にある空き部屋。

 扉の残骸であろう枠に布をかぶせ、簡易的な寝床にしたのだ。

 吹き抜けの廊下へと出ると、天井から降り注ぐ星明かりが施設を照らしている。

 人工の明かりは消えて久しいが、この世界の夜は意外と明るい。

 確か夜は天上の花が開いて闇が訪れ、木々に実った星が瞬く――だったか。もしかするとあの星たちも再生しているのかもしれないな。

 

 探索でもしようかと思ったが、残骸の多いこの場所で歩けばかなりの音が出る。

 諦めて眠くなるまでのんびりしていよう……と思ったら、砂利を踏む音が聞こえる。

 振り向くと、ルナの姿があった。

 

「どうした。眠れ……ないな。お前は」

「はい。皆さんが寝たので私は探検です。魔王さまは?」

「俺は眠れないだけだ。まだ身体が興奮してるらしい」

「すごい戦いでしたからね。無理もないです」

 

 ルナが俺の隣にやってきて、一緒になって空を見上げる。

 

「お前のおかげで助かったよ。ありがとうな」

「そんな。皆さんが戦ってくれたおかげです」

「でもきっかけを作ったのはお前だ。あの装置のこと、知ってたのか?」

「……それなんですが」

 

 ルナが自身によみがえったという映像について教えてくれる。

 

「それは間違いなくお前の記憶なんだろうな。封印されていたそれが、マナホールに触れたことで解除されたと」

「そのようです。でも、私がここに来なければ記憶は蘇らなかったわけですよね? いったいどうしてそんなことを……」

「お前を守るためだろう」

「え……?」

 

 驚いたようにルナが顔を上げる。

 

「力もないお前にその知識があったなら、行っていただろう。一人でも」

「それは……。否定できませんね」

 

 こいつは使命のために命を捨てようとする傾向がある。

 創造主だという女がそれを知っていたかはわからないが、危惧はしていたのだろう。

 

「だから、お前がもしここにたどり着けるだけの力を身に付けたときに、目覚めるようにしていたんじゃないか?」

 

 全ては、ルナを、そしてその仲間を助けるために。

 それは母の愛情だと俺は思う。

 

「お母さん……」

 

 その思いを胸に抱え込むように、ルナは両手を左胸へと当てた。

 

「探すんだろ? 残りの三つも」

「……はい。やっと見つかったんです。世界の戻し方を。なら、私はそれをやり遂げます」

「そうか。ならやろう。こんなおっかない世界、さっさと戻してしまおう」

 

 どうせまたあの解体屋が出てくるのだろうが、この戦力なら何とかなるだろう。

 自身の中でも結論が出たのか、来た時とは違う笑みを浮かべてルナは欄干から体を離す。

 

「はい! ではおやすみなさい、魔王様」

「ああ、お休み」

 

 嬉しそうに帰っていくルナを見送り、俺もクアの待つ寝床へと戻る。

 その後は不思議と目をつぶった途端に眠りに落ちた。

 

 

***

 

 

 翌日は、まだ調べられていない商業施設の中を手分けして調べることになった。

 ロアは地下にかかりきりだったらしく、案内役をヤマがかって出たのだが、案の定迷ってむしろ時間がかかってしまったが、皆楽しんでいたので良しとした。

 かなりの広さがあったので、その日は探索だけで終えた。

 

 翌日の昼過ぎまで調べてめぼしいものを見つけられたので、リヴラへの帰還準備を整えることにした。

 今回はお店に必要な装置やら器具が主な収集物。

 幾つか書籍も見つかったようだが、そのほとんどは娯楽作品だという。

 懐かしいものもあるとエリが喜んでいたから、人気の作品なのだろう。

 

 妖精二人にロアの準備も整ったのでいざ出発……の前に、障害となる存在がまだ残っていることを思い出した。

 あの湖の主だ。

 障壁に幾度か体当たりしてきたが、ロアが戻ってきたので強化された壁は破れていない。

 だが俺たちがいなくなった後はこいつによって壊されてしまうだろう。

 だから離れる前に倒しておくことにしたのだ。

 

 とはいえ海中に潜るわけにもいかないのでどうしたもんかと思っていると、エリから提案があった。

 その方法は――釣りだ。

 

「――せーのっ!」

 

 掛け声とともに、エリが剣を湖面に背を向けて振り下ろす。

 直後、水面で爆発が起きたかのように水が噴きあがり、影が地面を覆うほどの巨体が現れる。

 ウミの誘導で海中の主に剣を巻き付け、その身体を一気に海中から引きずり出したのだ。

 

『――――』

 

 空中へ飛び出した主が悲鳴のような咆哮を上げる。

 釣り上げた先は、奴に壊された都市の一部だ。

 壁が壊され広場のようになったそこへ主が落下すると同時に、ロアが柏手を鳴らして周囲に障壁を張る。

 飛び跳ねても逃げられないようにしてから、俺の蛇とイオの銃撃で外から散々に撃ち砕いた。

 外皮も、中身も吹き飛ばして、露出した核をエリが切り裂いて主の討伐は無事に終わった。

 倒した途端に大量の水が溢れ出たが、障壁に穴を開けて湖に流してしまえば特に問題なく処置ができた。

 

 

「すごいですー!」

「いやあ、地下で見てたけどやっぱりつええな……」

「当然です。魔王さまたちですから」

 

 外野三人が喜んでいた。

 いや、ロアは参加していたか……。

 最初以外は外から騒いでいたからついつい忘れてしまう。

 

「ねえねえ魔王様、あのロアの魔法ってなんなの? 初めて見たんだけど」

 

 戦いを終えて一息ついているところにイオがやってくる。

 

「魔法って詠唱と魔法陣の二種類じゃなかったっけ?」

「ああ、あれか。……古い魔法だよ。俺やエリのいた時代よりもっと昔のものだ」

 

 詠唱魔法と呼ばれるものは、元は獣人たちが作り出したものだと聞いている。

 だがそれは、ある程度文明ができてからの話だ。

 それより以前、魔法は「音」や「所作」によって発動していたそうだ。

 代表的なものは楽器を使った魔法だろう。

 笛と呼ばれる多彩な音を鳴らす筒を用いて、詠唱の代わりをしていたらしい。

 

「だから極めた連中は、簡単な音で魔法を発動していたと聞く。達人は武器を振る音で魔法を発動させられたとか」

「何それ……化け物じゃん」

「もちろん今でも通用するぐらい強いだろうな。だが、普遍性という意味では弱かった。多くの人が使えるという意味で、詠唱魔法が広まったんだろう」

「確かに、アタシじゃ無理だわー」

 

 あのロアの魔法もその一種だろう。

 拍手、指を鳴らす――所作と音の組み合わせで奴は魔法を発動させている。

 勿論壁を出した時のように詠唱も混ぜていたから、そのハイブリッドだろう。

 

「あいつが特異主だと信じられる理由は、あの魔法を見たからだな。……あいつの場合、あの胸飾りも絡繰りなのだろうが」

「あの光る珠ね。……魔法にも、いろんな種類があるんだねー」

「山程な。それを集めるのも楽しいかもしれないぞ?」

「うへー、アタシはパス。そういうのはニクスに任せるわ」

 

 心底嫌そうに手をぶんぶんと振っている。そんなに嫌か……。

 

「ニクス?」

「ああ。アタシと同じ戦闘型の子。ニクスとカルメ。そのニクスが魔法好きでね。……本人は使えないんだけど」

 

 そういえば、後二人いるんだったか。

 探索を続けているうちにその二人にも会えるのだろうか。

 

「でも、心強い味方よね。ロアも、あの二人も」

 

 ヤマとウミは互いの手を握って喜んでいる。

 二人とも主に怯えていたから、感動もひとしおなのだろう。

 この広い世界に二人ぼっちだった彼女たちも、こうして笑顔にすることができた。

 やはり、この途方もない戦いにも意味はあるのだと、そう思える。

 

「みんながいれば、ルナの望みも叶えられる。そうだよね、魔王様」

「……ああ。間違いなく叶えられる」

 

 あの解体屋を倒せたのだ。

 もう何が出ようと怖いものはないだろう。

 

「ならよし! じゃ、帰ろっか、魔王様」

「ああ。帰ろう。俺たちのリヴラに」

 

 こうして、俺たちの遠征は新たな仲間も得て大成功に終わったのだった。

 

 

 ***

 

 

 皆が帰りの支度を進めていく中、ルナがいないことに気が付く。

 

「もうすぐ片付けも終わるってのに……何処に行ったのやら」

 

 皆に聞いても心当たりがないというので、仕方なく都市の中を歩いて回る。

 陽光を受けて朽ちた水上都市は鈍い輝きを放っている。

 僅かに残っていた文明の欠片も俺たちが回収してしまったから、本当にここには残骸しか残されてはいない。

 十数年もすれば基盤式も止まる。そうなればもうここは朽ちていくだけの場所になるだろう。

 

 文明のために都市を探り漁っていく俺たちは、死骸を貪る獣の様だとふと思う。

 それが悪いことだとも思わないが、せめてこの光景を覚えておこうと、心に誓う。

 新たに世界を作り替えようとする俺たちには、きっとその義務がある。

 

 ルナは直ぐに見つかった。

 師匠を探しに湖底へと潜ったエレベーターの入口部分で、彼女は座り込んで湖面を見つめていた。

 

「……ルナ」

「あっ、魔王さま」

「もう皆準備を終えるぞ」

「そうですか。……直ぐに行きます」

 

 彼女は直ぐに立ち上がると、もう一度だけ湖面を見つめてからこちらへと歩いてくる。

 

「お待たせしました。行きましょう」

「ああ」

 

 理由は聞かなかった。聞かなくても何となくわかったから。

 俺がピアパライカで墓に行ったのと理由は同じだろう。

 別れか、決意か、或いは感謝か。きっと何かの挨拶をしていたのだろうから。

 

「なあルナ」

「はい」

「……これから、忙しくなるな」

「……はいっ!」

 

 勇者に殺され、いきなり目覚めた未来の世界。

 化け物も未知も危険も山ほど存在するとんでもない時代だが、それ以上の楽しみも待っていた。

 これから始まる長い大陸を巡る旅。

 その先にはいったい何が待っているのだろう。

 

 ふたりぼっちから始めた世界再生の旅路。

 どうやらまだまだ続いていく様だ。

 




今日はここまで。そしてこれで一章が終わりです。
明日からは二章。現状その完結の80話まで投稿していきます。二章、倍以上あるな……。
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