人類は移住しました 残され者たちは世界再生の旅に出ます   作:穴熊拾弐

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第35話 勇者対司書

 

 

 

 一方、放浪図書館内部。

 

 そこでは山と積まれた書籍に囲まれて、ルナとランバが顔を突き合わせていた。

 だが、その表情は苦々しいものであった。

 

「……やはり厳しいですか」

「ええ、残念ながら」

 

 重く吐き出すようなルナの問いかけに、ランバは頷いた。

 顔を下げた彼女の眼前にあるのは、『連邦竜種災害史』と題された重厚な書物が一冊。

 この世界における最大級の災害――竜種の観測記録だ。

 

 魔獣・霊獣の中でも最高峰の存在で、これまで戦ってきた鉱石獣竜やリザードの類の最上種。

 栄華を誇った人類でも早々勝てない、個の能力では世界最大級の怪物たちだ。

 当然覇者であった人類によって数多くの竜種が討伐されてきたが、中には人類にも協力的であった霊竜や強大すぎるために封印された獣竜もいる。

 空を飛べ、総じて巨大な体躯を持つ竜種なら我々を運ぶこともできるし、長命な彼らであればまだこの世界に残っているかと思っての調査だったのだが――。

 

「少なくともこの大陸南東部に封印、また隠居した竜種はいないようですな。勿論この状況です。移動は考えるべきではありますが……」

「そもそも、もし生きた竜がいるなら、そもそも我々が気が付いているはずですね」

 

 リヴラのある大陸南東部は、大陸の半分を侵略した魔獣戦役の発生源――歴史ある()の地である。

 当然数多の魔獣が生まれ大陸に出ていった場所ではあるのだが、不思議と竜の確認例は少ない。

 竜の報告例が最も多いのが大陸南西部。これからルナたちが向かおうとしている場所だ。

 

 移動方法を見つけたいのに、その希望があるのが移動した先だとは。

 他の場所――それこそ南西部の探索にももちろん役に立つだろうから、調べる価値はあるだろうが……。

 

「今求めている移動手段としては、難しいですな」

「……そう、ですね」

 

 呟きとともに、本を閉じる。

 竜の特異主が見つかれば、移動も輸送の問題も一気に解決できる。

 そう思い真っ先に調べたのだが、結果はこれだ。

 

「別の方法を探さなければいけませんね」

 

 まだ可能性のうちの一つ目だ。次を探せばいいだけ。

 ……なのだけれど。

 

「焦りは禁物ですよ。ルナ殿」

「ありがとうございます。分かってはいるんですが……」

 

 マナホールで発覚した世界の危機はすぐにどうこうなるものではない。

 まだ時間がある。あるのだが……。

 これまで無為に過ごしてきた長い時間が、ルナを焦らせていた。

 母に託された世界の再生。それを、どれだけ長い間放置してきたのか。

 思い出してしまったが故の苦しみに、ルナは追い込まれていた。

 

「竜がダメなら、航空機の発見と修復ですね。魔王さまたちの集めてくれた情報では……」

「ルナ殿」

 

 本を脇に避け、次の資料を手に取ろうと立ち上がるルナの肩を、ランバが抑える。

 

「まずは、お茶としましょう。それくらいの余裕はありますでしょう?」

「……はい。そうですね」

 

 確かに焦りすぎていたかもしれない。

 大人しく席に着いたルナに、ランバが紅茶を差し出した。

 

「ここは何でもありますね」

「ははは、数百年も引き籠れる、最高の環境ですぞ」

 

 そう言ってランバも向かいの席に座った。

 食事の必要はないけれど、味や香りはちゃんと分かる。

 出された琥珀色の紅茶を口に含み、その温かさをじんわりと感じる。

 そうして、確かに自分が焦っていたとルナはようやく落ち着いて考えることができた。

 

「ありがとうございます。ランバさん」

「いえいえ。研究には休息も必要ですからな」

 

 書き散らしたメモを丁寧に纏めつつ、ランバが微笑んだ。

 

 彼と図書館の存在は本当に有難い。

 これまで散々探しても少しずつしか見つからなかった歴史資料が大量に集積されていて、そのほとんどをランバは記憶している。

 竜について調べたいと言えば、必要な資料を直ぐに探してくれ、僅か数日でこの結論にたどり着くことができたのだ。

 その上ここは修復者にも魔獣にも侵されることはない。研究をするうえでこの上ない環境だろう。

 誰にも邪魔されることなく研究が続けられる、極上の場所だとランバは言っていた。

 

 その恩恵をこうして得られた今なら、彼が図書館を選んで放浪していたのも――。

 

 そう頭の中で言葉にしかけて、止めた。

 頭の中でも、上辺だけでも、そう考えてはいけないと思ったから。

 だってそれは、とんでもない()()のはずだ。

 こんな何もない世界で、人ではなく書を選ぶということは。

 

 この荒廃した世界で生まれたルナでも、孤独は知っている。

 仲間のほとんどを失って、僅かに残った仲間たちとも離れて。

 人類の居なくなった仮初の都市で、自分は独りで長い時を過ごした。

 

 その時の記憶は決して忘れることはない。覚えて残すこと、それがルナの機能だ。

 ただ、残っているものは何もない。毎日同じことの繰り返しであった。

 動物たちを世話して、街を点検して、一日の記録を残す。

 外を探索できる装備はまだ残っていたけれど、外に出たら死ぬことは分かっていたからずっと都市の中にいた。

 本当に、長い空白だったと思う。

 

 自分は元々、大したものは持っていなかった。

 産み出されたばかりだったし、仲間たちも殆どが大した自我を持っていなかったから。

 だからこの長い長い空白を過ごすことができた。

 

 でも、このランバは違う。

 人として社会の中を生きてきたはずで、多くの縁が――繋がりがあったはずだ。

 その全てを捨てて、彼は書を選んだのだ。

 それは、途方もない選択のはずなのだ。常人には、決して選べない程の。

 

 ……今の自分に、同じことができるだろうか。

 魔王にエリ、イオにヤマたち。多くの出会いがあった。そのどれもが素晴らしいものだった。

 それを自ら断ち切れるほど、ルナは強くない。そう思うのだ。

 

 そう考えると、目の前のランバが恐ろしく思えてくる。

 どうして、彼は世界を捨てて、この図書館を選べたのだろう。

 何がそこまで彼を――。

 

「時にルナ殿」

「は、はい!」

 

 思考を遮るようなランバの言葉に、ルナが肩を跳ね上げる。

 その挙動を可笑しそうに見ながら、ランバが指を一本たてた。

 

「休憩がてら、一つお聞かせ願いたい」

「はい、なんでしょう?」

「あなた方の目的に関してです。いや、改めて驚く内容でしたからな。この世界の再生といいましたか」

 

 何を聞かれるかと身構えていたルナだったが、内容を聞いて安堵する。

 勿論ランバが仲間になった後に自分たちの目的は話している。その確認も兼ねたただの雑談なのだろう。

 彼の配慮に感謝しつつも、ルナは口を開く。

 

「はい。私が特異主を――魔王さまを目覚めさせたのは、この世界を再生するためです」

「再生……そう、随分と大それた目標だ」

 

 近くに置かれた金の装飾が美しい書籍を手に取りながら、ランバは続ける。

 

「一冊の書籍を読み解くのとは訳が違う。変化し、生きている自然の中で人類の痕跡を見つけ、再現する。それは途方もないことです。特に、この世界はもう我々の知るそれとはまったく違うものになっているのですからな。ルナ殿が特異主という手段に頼るのもよくわかる」

「……おっしゃる通りです。こうして続けられているのが奇跡だと思います」

「そうですな。とても細い糸を手繰って、あなたはこうしてここにいる。そしてそれをまだ続けるつもりだ」

「勿論です。それが私の使命ですから」

「――そう、その使命についてです。我輩がお聞きしたいのは」

 

 たてた指をルナに向け、ランバは尋ねる。

 

「ルナ殿の使命――それは何でしょうかな?」

「私の使命……」

 

 繰り返した問に、ランバは頷く。

 

「そもそもの話です。何故ルナ殿はこの世界を再生するのですかな? 他の誰でもない、あなたの使命として。他の方たちもそれを受け入れているようだ。ならば何かの理由があるのでしょう? 一つ、我輩にもお話しいただきたいのですよ」

「ああ、そういえばお話ししていませんでしたか」

 

 何せあまりに唐突の出会いだ。

 そしてこのランバの勢いに、詳細な理由まで話すのをすっかり忘れてしまっていた。

 

「私は……いえ、私とイオは人類によって造られました。この世界に残った最後の人類によって」

「ほう、つまり人造人間であると?」

「はい、その通りです。他にもいたのですが、今は私たちふたりだけです」

 

 人造人間であると告げても、ランバに驚いた様子はない。もしかしたら予想していたのかもしれない。

 手のひらを向けられ続きを促されたので、そのまま続ける。

 

「私たちの役割は、人類が暮らすことのできる環境を取り戻すこと。いつか、異世界に移住した人類が戻ってこられるように、都市を、この世界を再生すること。それが、私の使命です」

「……ふむ?」

 

 告げた言葉に、ランバは首をかしげて応えた。

 そのまま彼は口元に手を当てて、しばらく考えるそぶりを見せた。

 なにかおかしなことを言っただろうかとルナが迷っていると、十分時間をおいてから、彼はゆっくりと口を開く。

 

「つまり、この再生は人類のため……そういうことですかな?」

「……はい。そうです」

「いつか戻ってくる……なるほど。だから……」

 

 呟くとともに、ランバはそれきり黙ってしまった。

 

「……ランバさん?」

「ああ、失礼いたしました。少し気になりましてな。さて、作業を再開するとしましょうか」

「はい」

 

 そこからは、普段通りのランバであった。

 僅かな違和感を覚えつつも、会話で気がまぎれたルナは再び作業へと没頭していくのであった。

 その姿を冷ややかな目で見つめるランバには気が付かずに。

 

 

***

 

 

「エリ殿、一つ、私と手合わせをお願いできないですかな?」

 

 翌日、再びみんなで集まっての食事中。

 何気ない会話の切れ目に、ランバがふと告げた。

 

「……はい?」

 

 その問いに困惑したのは、エリだけではなかった。

 その場にいたほとんど全員が、こいつは何を言っているのだとランバを見つめる。

 

「手合わせ? 私と、ですか?」

「はい、そう言いました」

「お前……死ぬ気か?」

 

 思わずそう言ってしまったが、離れた席でロアもぶんぶんと頭を振って同意している。

 だって、勇者だぞそいつ。

 単体であの解体屋と渡り合ってた化け物なんだが、ランバは気にしていないようにいつもの声量で話を続けている。

 

 その勢いにずるずると押し負けたエリが頷いて、探索前に模擬戦闘を行うことになってしまった。

 

 リヴラ中央部西側。チビルナたちの工房の並ぶ区域には、素材をためておくための空き地がある。

 元々が地下にある都市のため、雨風の心配をそこまでする必要がないからと、一部の素材は外に積んでいるのである。

 その一部を間借りして、エリとランバの模擬戦闘は行われることになった。

 

「あー……改めてルールを確認するぞ。武器は刃引きした模造品、どちらかが戦闘不能になったと判断したら終了。いいな?」

「ええ!」

「……はい」

 

 満面の笑みで頷くランバと、未だに困惑しているエリ。

 やたら対照的な反応だが、これはランバを殺さないためのルールなんだがな……。

 

「流石にあの聖剣を使われたら死にますからな! 充分です」

「いえ、これ普通に鉄製ですけど……」

 

 つまり、当たり所が悪ければ死ぬ。エリの膂力だと、恐らく全身が"悪い"。

 

「我輩も特製の籠手がありますので大丈夫ですよ」

 

 そう言うランバの手は、確かに金属製の籠手で覆われている。

 可動性を上げるためか、蛇腹状に指を覆う機構も備わっており、確かに普通に戦うよりは頑丈だろう。

 あれはリヴラ製ではなく、彼自身の持ち物。つまり相当な年代物だ。

 

 しかし、いきなりとんでもないことを言い出すものである。

 身軽そうに跳んでいるランバだが、その職業は自称、司書だ。

 魔法学園で戦っていたというからただの一般人ではないだろうが、相手は俺の時代の世界最高戦力である。

 何を思って戦いを申し込んだのやら……。

 

「頭は……ダメだよね。腕なら平気……?」

 

 見ろ、エリの顔を。どうやって殺さずに済ませるか、必死で考えているぞあれ。

 

「では始めましょうか! 魔王殿、合図を」

「……了解した。では、いくぞ」

 

 二人の間、少し離れた位置に立って、右手を上げる。

 ランバは半身に構え、エリは仕方なく剣を顔の右横に立てて構えた。

 

「――始め!」

 

 一呼吸を置いて、上げた手を振り下ろし、叫ぶ。

 

 直後、爆音を上げてエリの姿が消える。

 全速力の飛び込み。その勢いを乗せ、鉄塊が振り下ろされる。

 刃がなくても魔獣の胴体なら容易く切り飛ばす速度の一撃は広場の土を砕き、吹き飛ばした。

 常人なら――ランバが口だけの素人であるなら、この一撃で終いだろう。

 だがその直前に聞こえたのは、肉がちぎれる嫌な音ではなく、金属の擦過する甲高い音色であった。

 

 土煙が舞い上がり、直ぐに余波で吹き飛んだ。

 振り下ろされた剣は、ランバの籠手に軌道を逸らされ外されたらしい。

 その甲には、赤色に光る小さな魔法陣が浮かんでいる。

 

「……!!」

「まず、一つ」

 

 エリは驚いたのか、振り切った状態で止まっていた。

 その隙を闘士が逃すはずもなく。

 僅かに屈んだ姿勢だったランバの身体が跳ね上がり、エリの顎へと赤い魔法陣を纏った右腕が放たれる。

 

「……っ」

 

 驚きはしつつも、首を振って躱すエリだが、すぐさまランバの追撃が入る。

 そのまま、剣と拳による打ち合いが始まった。

 5秒、10秒と経っても、その音は止む気配がない。

 

「……やりあえてるな」

 

 いくらエリが刃引きした剣を使っているとはいえ、あの勇者と戦えている。

 剣を弾き、懐へ飛び込んで拳を打ち込む。

 普通なら骨が砕けて然るべき鈍い音が響いているが、その気配は微塵も感じられない。

 

 絡繰りは、あの魔法陣だろう。

 硬化か、滑らせているのか。何らかの効果をもった魔法を付与させ、エリの攻撃を防いでみせている。あの大砲のような剣戟を受けられる理由は他に考えられない。

 甲と指、それぞれに魔法陣があるのは、防御と攻撃で効果が違うのだろう。

 指側――前面の攻撃の方は、エリがまだ一度も受けていないためにその能力は不明だ。

 だがエリの反応を見るに、受けたくはない一撃なのは確かだ。

 あいつ、魔獣の魔法とか無視して突っ込む時があるからな……防御力も桁違いなのだ。

 

 一際激しい激突音が響き、二人の距離が開く。

 エリの一閃がランバを弾き飛ばし、奇しくも始まる前の立ち位置へと戻った。

 

「――凄いですね、ランバさん。ここまでとは」

「いやぁ、お褒めに与り光栄です……はは……」

 

 素直に称賛するエリに対し、ランバは僅かに息が上がっている。

 甲に浮かんだ魔法陣も、ひび割れ点滅し始めているようだ。

 

「ごめんなさい。私、あなたを見くびっていました。あなたなら、大丈夫そうですね」

「……何を、は無粋ですな。どんどこい、です!」

 

 拳を打ち鳴らし、笑うランバに、エリも笑みで応え、身体を沈み込ませる。

 居合の如く剣を腰の横に据え、力を溜めていくエリ。

 まるで空気が彼女の右手に集まり圧縮されるような、そんな威圧感が漂い始める。

 明らかに先程までとは違う、彼女の本気を放つつもりだ。……大丈夫だよな、死なないよな?

 

「――いざ」

 

 呟きとともに、再びエリの姿は掻き消えた。

 こちらに地面を蹴る音が届くのと、彼女がランバの前で剣を振りぬいたように見えたのは、ほぼ同時であった。

 

 嵐のような轟音が鳴り響き、次の瞬間に見えたのは砕け散る魔法陣と籠手。

 そして当然のように剣を振り上げ追撃をするエリの姿であった。

 

 一瞬遅れて舞い上がった砂埃が、二人の姿を覆い隠す。

 更にそこから噴きあがるように、撃ち抜かれた土砂が周囲へとまき散らされていった。

 

「わー!?」

「ちょっと……!?」

 

 見学していたヤマやイオたちが余波に倒れる。

 俺も思わずのけぞってしまうほどの衝撃が、二人の居た場所から放たれたのだった。

 

 それから数秒、煙は動くことなく漂っていた。

 突然の静寂。土埃の中でも動きはない。

 仕方ないと蛇から風を放って煙を吹き飛ばした。

 

「「……」」

 

 そこに広がっていたのは、撃ち砕かれ散々に掘り返され窪んだ地面と、その中で縺れる様に倒れていた二人の姿。

 血しぶきが舞っているわけではない……生きてるよな?

 

 慌てて近づいてみるが、二人とも無事だ。どこもちぎれても欠けてもいない。

 良かった……!! 片腕くらい吹き飛んでいてもおかしくない威力だったが、流石はエリ。上手い事外していたらしい。

 下になって倒れるランバの顔のすぐ横にエリの剣が突き立てられている。

 ……いや正確には埋まっている。もう刀身はほとんど見えていない。

 

 一方のランバの右腕は、二人の顔の間――何もない空間で停止していた。

 その手を覆う籠手はもう壊れて存在せず、僅かな光を明滅させる魔法陣がむなしく浮かぶのみであった。

 

「我輩の負けですな」

「……はい、そうですね」

 

 ゆっくりとエリが立ち上がり、ランバを助け起こす。

 彼は身体の埃を落とすこともせず、大きく息を吐きだした。

 

「お前、大丈夫か? 怪我は?」

「……」

 

 声をかけるも、ランバは自分の右腕を見つめたまま動かない。

 

「おい、ランバ?」

「ああ! すみません、少し呆けておりました。我輩は問題ありません。エリ殿も手加減してくださいましたから」

 

 そう言って笑う姿は、いつもの彼だ。

 

「いえ、最後は割と本気でしたよ。ランバさん、強いですね」

「ああ。正直驚いた。魔法学園で戦っていたというのは本当らしいな」

 

 疲れを全く見せていないエリが言っても説得力はないが、彼女とあれだけ打ち合えたのは紛れもない事実だ。

 彼がいたという学園も、相当な実力者揃いだったに違いない。

 

「勇者殿にそう言っていただけるのなら安心ですな! どうでしょう? 我輩はこの時代に通用しますかな?」

「……ああ、そういうことか」

 

 ランバの問いに、ようやくこの模擬戦に納得がいった。

 そういえばこいつはずっと図書館に閉じこもっていたのだったな。

 自分の力がこの世界に、ルナの目的に役立つのか確かめたかったのか。

 エリも理解できたのか、ようやく笑みを浮かべて頷いた。

 

「勿論。この辺りの魔獣なら、問題なく倒せるはずですよ」

「それは良き哉。では、折を見て外で試してみることにしましょう。その時は頼みますぞ、エリ殿」

「はい。また模擬戦もやりましょう」

「……ええ、それは、是非」

 

 一瞬躊躇ったが、頷いてランバは図書館へと戻っていた。

 その足取りは僅かにふらついており、彼の疲労が伝わってくるようであった。

 見世物が終わったと、見学していたヤマたちも散り散りにそれぞれの持ち場へと戻っていく。

 残ったのは俺と、地面から剣を引き抜いているエリだけだ。

 

「で、実際はどうなんだ? ランバの実力は」

「……本気は出していなかったと、思います」

 

 何やら含みがあるような言い回しをする。

 

「ランバがか?」

「ええ。……最後の一撃。あの魔法陣で何かしようとして、止めていました」

「あれか。てっきり間に合わなかったのかと思ったが……」

 

 俺の言葉に首を振るエリ。

 

「私が位置をずらしたのを察知して、彼も止めたんです。彼が本気だったら、何をする気だったのか……」

「まだ何か隠してるってことか。まあ、当然か」

 

 奴も武芸者である以上、奥の手は何かしら持っているだろう。

 だが、驚くのはそこよりもエリの言葉。エリの動きを察知したということは、彼女の動きに反応出来ていたということだ。

 あの化け物みたいな速度についていったということ。

 近接戦闘能力だけを言えば、エリに次いで高いかもしれないな。

 ……本当に、何で司書なんだ、あいつ。

 

「では、準備して探索に行きましょうか」

「ああ、そうしよう」

 

 剣を鞘に納めたエリに促され、今度こそ今日の探索へと向かっていった。

 

 

***

 

 

「ただいま戻りました」

「おかえりなさい、ランバさん……お疲れですね?」

 

 一方、放浪図書館へと戻ってきたランバを迎えたのはルナであった。

 彼女とロアだけは自身の仕事を優先させ、模擬戦を見ていなかったのだ。

 

「いやはや、流石は時代を作った英雄ですな。圧倒的な力の差でしたよ」

「エリさんは……なんというか、その、規格外な方ですからね……」

「まさにその通り。身をもって体験しました! はっはっはっはっ」

 

 陽気に笑うランバに、ルナも笑みを浮かべて頷く。

 この突如現れた翼人が、皆に馴染み始めているようで一安心だ。

 あと、無事に帰ってきてくれて何よりだ。そこだけは切実にそう思う。

 

「しかし、ルナ殿。なにやら嬉しそうなご様子ですな」

「はい、実は……」

 

 ランバの問いに頷くと、ルナは机に広げていた本を広げて見せる。

 

「移動手段、見つかったかもしれません……!!」

「……ほう?」

 

 模擬戦の疲れもなんのその。

 二人はその日遅くまで放浪図書館に引きこもっていた。

 

 

 




(後で消します)前の話と同時に公開しちゃったので、2話更新になってます…。
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