人類は移住しました 残され者たちは世界再生の旅に出ます   作:穴熊拾弐

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第43話 妖精と騎士

 

 

 

 ()()は、とある狂気の産物であった。

 

 人類史の末期。

 修復者と解体屋という、酷使した世界の手痛い反撃を受けた人類は衰退の一途にあった。

 人々は抵抗するか逃げ惑うか諦めるか。様々なやり方はあったが、人類はすべからく襲い来る自然に対し敵対する道をとった。

 だが、この教会にいた者たちは違った。

 

 彼らはこれまでと変わらず樹を崇め、樹に還ることを願った。

 荒ぶる自然を受け入れ、自ら神の下に、世界を飲み込む樹の一部になろうと望んだのだ。

 

 大陸南部にひっそりと建てられた巨大な神殿。

 その地下にはどこかから手に入れた世界最古の――実際はそう言われて高値で売りつけられただけの樹の株が植えられ、その周囲に融合を望む信者たちが集った。

 

 人類がないがしろにした自然が今、世界を飲み込もうとしている。

 植木屋と後に呼ばれる存在。

 意思を持つように文明を飲み込む怪物は、彼らからすれば自分たちを迎えに来た神の使徒であった。

 

 神殿の地下に集った人々に、植木屋たちを呼び込む術は分からなかった。

 だが、そんなことは構わない。

 どうせ世界は自然に還ろうとしているのだ。()()()()()樹に呑まれればいいのだから。

 

 

 来る日も来る日も、彼らは樹の周囲に集い祈った。

 碌に食事もとらず、その身が朽ちても構わずに、ただひたすらに。

 

 その時、地下教会に暮らしていた人の数は100を超えていた。

 強烈な、命を捨てるほどの願いを持った100の生命。それらが溶けて混ざり、その中心にいたまだ小さな『樹』へと乗り移る。

 それは、あまりにも強大で異質な呪いであった。

 

 そして彼らの期待とは裏腹に植木屋はこの地方を飲み込むことはしてくれなかった。

 マナホールによって循環の閉じられた世界。その中でも閉ざされた教会深部。

 集った呪いは何処にも逃れることはできず、結果として溶け固まった数多の命の残滓は、近くにあった樹を依り代に、一つの姿を形作る。

 全ての溶けた命に共通して、そして強烈にその記憶に刻み込まれた、とある架空の神の姿として。

 

 樹の神と一体になることを望んだ者たちは、図らずも彼らの崇める神を作り出してしまったのだった。

 そのことを知るものは、もはやこの時代には誰一人として残ってはいないけれど。

 

 だが、それで構わないのだろう。

 歪に生まれてしまったその偽りの樹神が望むのは、信仰でも崇拝でもない。

 

 

『――お願い、力を貸して。ヤマも一緒にたたかうから』

『――うん。分かった。君となら、頑張れる』

 

 孤独な自分と一緒に生きてくれる、家族なのだから。

 

 

***

 

 

 戦いを終えて、地下空間に残ったのはことごとく砕かれた木々――先ほどまで床や壁だったものの残骸と、蜘蛛の死骸で埋め尽くされた散々たる光景であった。

 元から歪に成長した木の蔦で全て覆われていた奇怪な姿ではあったが、この惨状は流石に辟易してしまう。

 

 そして何より、その中心に佇む巨大な樹人――。

 彼、と呼んでいいのか分からないその人型は、散々に蜘蛛の血と残骸で汚れた地面に膝をつき、巨大な右手を広げて差し出している。

 その太い指に触れているのは、木の妖精であるヤマだ。

 

 はっきりとは理解していなくても、全員が認識してはいた。

 あれを目覚めさせたのはヤマなのだと。

 

「ゆっくりはめてね?」

「はい……!! ……あれ?」

「ルナ? どうしたの? 流石のわたしも少しだけ不安よ?」

 

 そして、そこから少し離れた場所には生首と首無しボディ相手に格闘しているルナがいる。

 彼女の仲間であるという少女・カルメの身体は巨人の眠っていた球に絡めとられていたらしく、今は慌てて首を繋げているところだ。

 この場で繋げられるというのだから、それはそれでおかしな存在ではある。

 

「なんだこの状況は……」

 

 爆破の傷を癒すために休んでいる身としては、この異様な光景を見守っていることしかできない。

 

「はは……まあ、今更ではないですかな?」

 

 同じく笑うしかないランバが慰めの言葉をかける。

 大陸の歴史を知る彼でも、ここまでおかしな存在が一堂に会している状況は全く知らない。

 

「分かってはいるんだが、流石にここまでおかしなことが続くとな……」

「……ふむ。確かにこの世界には全くもって不思議なことばかりですな!」

 

 そんな言葉を吐く魔王の傷は、もうわからない程に回復している。抱き起こした時は皮膚の一部が焼けてしまっていた筈だが。

 あなたもその一人ですよ、という言葉は飲み込んで、ランバは頷きを返すのであった。

 敵も味方も常識外れ。先ずは目の前の異常に立ち向かうため、ランバはヤマの下へと歩き出す。

 

 

***

 

 

「――そーなのですね。あなたはずっとここにいたのですね」

 

 巨大な木の指に触れながら、ヤマが一人会話をしていた。

 相手の言葉を聞くことはできないが、先程からずっとそうなので、恐らく彼女らの間では意思疎通ができているようだ。

 

 既に数十分が経過しているが話は尽きないようで、ランバは邪魔をしない様に傍に控えているロアへと近づいた。

 

「様子はどうですかな?」

「ん? おお、お前か。……ヤマの言葉しかわかんねえが、どうもあれは人造生物らしい」

「人造……?」

 

 ヤマと触れ合ったまま動かない巨人を見る。

 その身体はどう見ても木で編まれているが……。

 

「あれが、ですかな?」

「そうらしいぜ。どう見ても神や化け物の類だが、会話もできるしああして暴れることもない。要は味方ってやつだな」

「……だとすれば、とても心強いですな」

 

 確かにヤマと触れ合って動かない様子。

 戦った姿を見たのはほんのわずかだが、あれだけ苦戦した巨大蜘蛛を一撃で握りつぶし、他の蜘蛛を木ごと破壊した膂力はここにいる全員が良く知っている。

 

「で、今はオレ達がどうしてここに来たのかと、こいつが何で起きたのかを話してるらしい。あの様子じゃもうしばらくかかると思うぜ」

「ふむ。でしたら、今のうちに上の方々と連絡を取りますかな」

 

 恐らく今の戦いの余波は地上にまで届いている筈だ。

 安心させるという意味でも一旦戻ったほうがいいだろう。

 

「――それについてなのですが」

 

 罅の入った天井を見上げていると、ルナが近づいてきた。

 どうやらカルメの修復は済んだらしく、彼女は軽快な足取りでヤマの方へと向かっている。

 ……先程まで生首だった筈では?という疑問は飲み込んでおく。

 

「カルメがこの先に大陸西部に繋がる通路があるというのです」

「ほう?」

 

 我々が来た道の先。当然木に塞がれていたから調べることは出来なかったが……。

 確かにこの立地ならば北や西に通じる道があってもおかしくはない。

 特にこの場所は樹神教の建物だ。各地へ繋がる信徒用の通路がつくられていたのだろう。

 

「船を直すにも時間がかかりますし、我々は先行して南西部に入ってしまう、というのはどうでしょうか」

「……ふむ。いいのではないですかな? ただ、その説明のためにも一度全員で戻るべきかと思いますが」

「それは勿論です。ではヤマさんも、あちらの方も一緒に――」

 

 視線を向けると、復活したカルメによって会話が断ち切られたところだったようだ。

 丁度いいと、ロアが声を張り上げる。

 

「了解。おい、ヤマー! いったん上に上がるってよ!」

「はいー! だそうです。だいじょうぶですか?」

 

 ヤマが巨人を振り返り問いかけると、僅かに首肯したように見えた。

 戦う以外の初めての行動に、彼が意思を持っているのだと改めて思い知らされる。

 しかし、問題が一つ。

 

「で、あいつ、どうやって上げるんだ?」

 

 これまでの地下通路を通るには、彼はあまりにも巨大であるのだ。

 例え這っても通ることは不可能だろう。

 

「通路か天井を壊すか……?」

「それでは、この建物が持つかどうか」

「だよなあ……」

 

 だがカルメの言う出口も状況は変わらないだろう。

 どうにかして方法を探らなければならないのだが――。

 

「だいじょうぶです! この子が任せてって言ってます!」

 

 遮るようにヤマが言った。

 

『――――』

 

 巨人の身体から緑の光があふれる。

 それは周囲の木に広がり、自在に形を変えていき――天井へと繋がる螺旋通路へと変化した。

 そして天井を覆っていた木が開き始め、地上への入口へと姿を変えた。

 本来ある筈の地上――こちらからすれば天井となる地盤は存在せず、木が避けただけで地上への穴が開いたのだ。

 この建物は、想像していた以上に木で構成されているらしかった。

 

「凄いわねー!」

 

 その一瞬の変化に唖然としている一行。

 唯一カルメだけは相変らず呑気な声で、歓声を上げているのだった。

 

 

***

 

 

 木の螺旋通路を上った先は、建物の裏側であった。

 きちんと調べてはいなかったが、どうも我々が地面だと思っていたものの一部は、あの木の塊であったらしい。

 とっくに地面は削り取られており、俺たちもこの建物も、地下より湧いた木の上に存在していたようだ。

 ヤマが通訳するにはこの建物の周辺のみということらしいが、それでもゾッとする。

 もし何かの間違いで木が制御を失くしていたら、俺たちは丸ごとあの地下空間に落下し埋もれてしまっていただろう。

 

 出来ればもう二度と潜りたくはないが、ルナやランバの話では直ぐにまた戻るらしい。

 勘弁してくれ……。

 

 幸い、別動隊は直ぐに見つかった。というよりはイオが俺たちを見つけた様で、建物の正面へと回った俺たちの前にエリが降り立った。

 

「早く戻ってこれたんだね。すごい揺れてたけど、大丈夫だった?」

「エリさん! 大丈夫です。障害は全て取り除かれました。……皆さんは?」

「本当? 良かった! 皆なら――」

 

 エリが言うにはこの直ぐ近くで待機しているらしい。

 岩壁の一部が抉れて出来た洞穴を見つけたので、運び出した資材を集めた簡易拠点を作っていたと言う。

 

「資材の一部は運び出せたし、魔物の姿は殆どなかったよ。これならしばらくここに滞在できそうだけど……」

 

 説明の途中で、エリは言葉を止める。

 明らかに見た事のない巨大な異形がそこにいたからだ。

 

「それで、その方は?」

「あー……なんて説明すればいいか……」

 

 起きたことがあまりにも多すぎて、どう説明をすればいいのやら。

 

「エリさん、魔王さま。先ずは皆と合流しましょう。話はその後で」

 

 ルナのその言葉で、先ずは仮拠点へと向かう。

 

「うみちゃーん!」

「ヤマ! ……なにそれ!!」

 

 イオやウミたちの残留組と合流は、ウミの絶叫から幕を開けるのであった。

 

 

***

 

 

 再び無事に集結できた我々は、まずはヤマが巨人から聞いた、彼の話を教えてもらった。

 彼曰く、やはりここは樹神教の教会だったということだ。

 

 樹神教――この世界を生み出したのは神なる樹であり、我ら生命はその神樹より零れ落ちた果実だと考え信じる人々の集まりだ。

 

 神は何処より生まれ出で、遥かなる大海を歩み進んでいた。

 だがある時安息の地を見つけ、そこで永き眠りについたという。

 大海に沈んだ神は、しかし背だけが浮かび、そこから神樹が芽生えた。

 

 その神樹より零れ落ちた、始まりの三族。

 天枝は天蓋を覆う枝葉の手入れを行い、地葉は舞い落ちた葉を積み上げ大地を整え、海根は流れ込む大海を根で制御し穏やかな海を作り出した。

 役目を終えた彼らはそれぞれ妖精、獣人、人間と姿を変えて、安定した世界には更に数多の生命が神樹から生まれ落ちていく。

 それが樹神教に伝わる創世神話である。

 

 そして現代の末期。

 世界の終わりを知った樹神教の信者たちは、ここでとある儀式を行ったのだという。

 詳細は分からない。ヤマが巨人と通じた時に見えた光景では、あの地下聖堂に多くの人間が集まって何かやっていた、ということだけだった。

 ただ、その謎の儀式の結果生まれたのがこの巨人なのだそうだ。

 

 

「そして、そのときに木がいっぱい出てきて、ああなったんです!」

 

 そう叫んだヤマが、背後にある教会を指さした。

 未だにあの食虫植物のような異形を見せる建物がそこにはある。

 

「暴走した、ということですかな」

「それにしてはちゃんと生まれてるぜ、こいつ」

 

 ぽん、とロアが巨人の足を叩く。

 巨人は膝を抱えて地面に座り込んでおり、その膝の上にはヤマとウミが乗っている。

 最初は怯え怖がっていたウミも直ぐに慣れ、俺たちが状況の確認をしている間、巨人に撫でられたり持ち上げられたりして遊び始めた。

 表情はないが遊んでいる間に口が自在に動き目が点滅しているのを見て、恐らく彼もまだ幼い存在なのだとその場にいた全員が理解する。

 

 気が付けばロアもこうして気軽に触れるようになっている。

 あれだけの巨体でも、仕草で幼いとわかるのは不思議なものだ。

 

「変な儀式、ねえ。どんなことしてたんだろうね?」

「ふむ。話を聞く限りで思い当たるとすれば、神の再臨……ではないですかな?」

「再臨って、神様って呼べるの?」

 

 ランバの仮説に、イオが首を傾げる。

 創世神話では、神様は大地となって眠っている筈だ。起きたら大変な事になる。

 

「間違いなく不可能でしょうな。ただ、数十を超える人間が集まって命を捧げれば、それは儀式足り得る規模でしょう。……その結果生命が生まれたとしても不思議ではありますまい。神話の再演……樹神を崇める彼らならば、願ったとしてもおかしくはないでしょう」

 

 そして今、彼の記憶を垣間見、彼からも話を聞いたヤマが経緯を話したのだが、それは経緯というよりは神話の類であった。

 この異様な景色と、この巨体がどうやって作られたのかは分かったが、話を聞いたとて理解できるものでもない。

 

「創世神話の再演かぁ……そんなことできるの?」

「どうでしょう……。少なくともそんな文献見たことはありませんが」

「わたしも知らないわー」

 

 人造娘三人組も首を傾げている。

 ちなみにイオとカルメの再会は軽く挨拶をしただけのあっけないものだった。思えばルナとの再会もあっさりしていたか。

 仲が悪いわけではなく、わざわざ話し合わなくても通じ合っているということなのだろう。

 ぼんやりと眺めていると、カルメの顔がこちらを向いた。

 

「魔王様は何か知ってるー?」

「……いや、知らんな。俺は造られた存在だが、どちらかといえば加工に近い。人造生命体ならそれこそお前らの方が詳しいだろ?」

「それが、わたしたちは自分たちがどうやってできたかは知らないのよねー」

 

 のんびりとしたカルメの声が返ってくる。

 確かに、作り方を知っていればとっくに量産しているか。

 そして知っていれば材料さえあれば人間を超える群体を造れる可能性もある。それを危惧して、伝えていなかったのかもしれない。

 

「まあいいじゃないですか。特に害はないみたいだし……それで、問題はこれからよね」

 

 そう言ってエリが両手を合わせる。

 

「これからカルメさんのいう通路を通るんでしょ? 先ずはその話をしないと。せっかく持ってきた資材だけど、船に戻す?」

「あ、いえ。できればその資材はそのまま運びたいのです。船はチビルナに任せて、ここで修理をしましょう」

「地下の先にある通路……だよね。資材はあの鞄を使えばある程度は運べると思うけど、全員で行くの?」

 

 一応、あの建物の脅威は排除できた筈だ。

 だが地下空間にはそこそこの数がいた。巨人が解放されて、あの木はもう動かないということだから、今後は魔物たちも外に出てくるだろう。

 チビルナだけという訳にはいかない。

 

「なら、オレたちはそのまま一緒に残るわ。悪いけどもうクタクタだ……」

「この子運ぶの、船しか無理」

『――――』

「せまくてむりー、って言ってますー!」

 

 ロアたち四人組が休息を訴える。

 まあ彼らは頑張ってくれたし、徒歩での長距離移動に妖精二人を連れていくのも心苦しいか。

 

「……そうですね。ではまた二手に分かれましょうか」

 

 ルナも同じ結論に至ったのか、頷いた。

 そうと決まれば早速準備だ。

 

「じゃあまたアタシは残るわ。カルメ、ルナをお願いね」

「任されましたー!」

 

 ルナ、俺、エリ、カルメが先行組として大陸南西部に。

 他のメンバーは船の修理が済み次第海路で合流となった。

 

「では決まりですね! そしたら船を下ろしたいのですが……」

『――――!!』

「任せろー! って言ってます」

「ありがとうございます! ……でもその前に、この方の名前を決めなければなりませんね」

「それはいいわねー! 名前がないと不便だもん」

 

 そういえば、ドタバタとしていてすっかり抜け落ちていた。

 名前も付けられる前に制作者たちは全滅しただろうから、巨人自身も自分の名は知らない筈だ。

 

「ヤマ、お前が決めろ」

 

 ルナが頭を抱えていると、ロアがそれに待ったをかける。

 

 

「ヤマが決めていいんですか?」

「むしろお前以外適任はいねえよ。なあ?」

『――――!!』

 

 肯定、と巨人の目が瞬く。

 

「……わかりました! かんがえます!」

 

 むーんとウミの手を握りながら考え始めたヤマだが、直ぐに首を傾げてしまう。

 まあ、難しいよなと思う。俺も城に押し掛けてきた孤児たちの名前を付けたことがあるが、結構な時間がかかったことを覚えている。

 助け船でも出そうかと、ヤマの元へと近づいていく。

 

「うーん……?」

 

 ロアに手を挙げて任せろと合図を送ってから、ヤマに声をかける。

 

「難しいか?」

「はいー。だって、名前ってじゅうようだと思うんです」

「だよな。……なあ、ヤマ。お前とウミの名前はどうやって決めたんだ? ロアがつけたのか?」

 

 ハッと顔を上げてこちらを見ると、ヤマがゆっくりと首を振る。

 

「……いいえ、ふたりでつけました。ヤマが起きた後、歩いていたらウミちゃんに出会ったんです。ふたりとも自分がだれか分からなくて、でも、おぼえていたものがあったんです」

「それが、山と海だった?」

 

 問いかけにはゆっくりと、頷きが返ってくる。

 

 

 ――ヤマがこの世界で目覚めたとき、彼女は森の中にいた。

 

 あたりを見回すと、やけに大きな木があって、でも自分が何なのかはよくわからなくて。

 とりあえず気になった方へと歩いていくと、大きな水溜りと、そこに浮かぶ大きな建物があった。

 なんだろうかと進んでいたら、水の傍に誰かが立っていた。

 同じくらいの背丈。美しい青色の髪をしたその子は、何故だか直ぐに自分と同じような存在なんだと理解した。

 

『あなた、どこから来たの?』

『わたしは――あそこのやまから。……あなたは?』

『この海から。……ねえ、一緒に行く?』

 

 ――彼女も同じことを考えていたらしい。

 

 一人ぼっちだと思ったけれど、仲間がいた。

 そのことが何故かとっても嬉しくて。

 一緒に行こうと差し出してくれたその手を、強く握った。

 

『はい、ウミちゃん!』

『ウミちゃん……?』

『はい! 海から来たなら、ウミちゃんです!』

『なにそれ。……でも、いいか。じゃあ、あなたはヤマね?』

『ヤマ……はい! ヤマは、ヤマです!』

『うん。じゃ、行きましょ、ヤマ』

『はい!』

 

 

 

「――だから、ヤマはヤマ。ウミちゃんはウミちゃんになったんです」

 

 これが、ヤマとウミの出会いで、名前を付けた経緯だ。

 思い出してみればとても呆気ないもので、しかもウミのいたそこは海ではなく湖だったのだけれど、それでも今の自分たちにとって大切な名前になっている。

 

「なら、こいつも同じように名前を付けてあげたらいい」

「同じように……」

 

 そうだ、それならきっとできる。

 彼と触れ合った時に流れてきたイメージを思い出す。

 いろんな人たちに祈られ生み出され、けれどずっと一人ぼっちだったこの子。

 でも、彼が、彼を生み出した人たちが望んだことは――。

 

「――シンジュ」

「シンジュ? ……神樹か。確かに、奴らが崇めていたのは 神の樹か」

 

 そうだ。この子を、神様を作るために人たちは祈りをささげた。

 なら、この子の名前はきっとこれだ。

 

「……シンジュ。あなたの名前は、シンジュです。いいですか……?」

『――――!!』

 

 応えるように、緑の光が濃厚に瞬いた。

 

「どうやら、気に入ってくれたらしいな」

「……はい! よろしくお願いしますね、シンジュ!」

『――――!!』

 

 こうして、人造の神らしい巨人、シンジュが仲間となった。

 

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