人類は移住しました 残され者たちは世界再生の旅に出ます   作:穴熊拾弐

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第48話 再びの旅立ち

 

 

 カルメの思いを知り、そしてマナホールへ至るための目的を手にした俺たちは早速都市征服へと乗り出した。

 混ざりものの魔獣の主がいるという首都イグトゥナへ。

 ルナがイオへのメッセージを作っている間に、残りの三人でその経路を地図で確かめる。

 

「さて、どう移動する?」

 

 首都イグトゥナまでは遠い。南西に飛び出した角地に位置しており、かつての整備された草原地帯だったとしても徒歩ならば20日はかかるだろう。

 ましてや今は大地の殆どが砂漠化しており、その間にはいくつもの都市がある。あの混獣種の巣と化したという都市が。

 

「そうねー。順番に、一番近い都市から西に向かっていくしかないんじゃないかしら」

 

 拠点から最も近い都市――かつての名をスルゥトという場所をカルメが指し示す。

 赤い線が拠点からスルゥトを通り、八つほどの都市を抜けてイグトゥナへとたどり着く。

 

「八つか……多いな。それらが今、やつらの巣になっているんだったな。なあ、巣っていうのはどういうものだ?」

「ええとね、巣って言っても鳥や虫の作る巣とは訳が違うわ。都市そのものが、彼らの巣になってるの。生息している魔獣の数も都市クラスの規模よ。だから、巣を破壊しない限りは休憩もできない」

「では都市を無視して進む、ということも視野に入れなければいけませんね」

 

 エリの言葉にカルメは否と首を振る。

 

「それもおススメはできないかな。砂漠には野良の混獣種が結構な数いるから野宿も危険よ。それに混獣種には不思議な交信手段があるみたいでね、もし巣の近くで見つかると、大群が来るの。何回か死にかけたわ」

「それは……」

「流石に、あれの大軍と砂漠で戦闘は……面倒だな」

 

 クアたちの様な巨大獣とは違う、異形の怪物。先ほど遭遇したのは『巣にも残れなかったはぐれもの』ということらしい。

 ここから先は、数も強さもそれ以上の化け物が待っていると思った方がいい。

 

「巣の一つならまだいいわ。でも複数の巣に囲まれた状態で見つかれば……」

「はあ……巣を壊さないと危険ってことだね」

「どのみち四方八方魔獣だらけの砂漠を休息なしで何十日も進むわけにもいかない、か。……このルートが最短なんだな?」

「ええ。他の都市とも距離があるから、巣を壊しても直ぐに他の魔獣は来ない。最適なはずよ」

 

 確信をもって頷くカルメを、今は信じるしかないだろう。

 それでも途方もなく長い道のりだ。だが、乗り越えなければ、マナホールには辿り着けない。

 イオ相手に楽し気に通信をしている我らがリーダを見てから、息を吐く。

 

「ではルナの通信が終わり次第、そのスルゥトへと向かおう。カルメ、案内を頼む」

「任されました! やっとね! 楽しみだわー!」

 

 さあ旅立とう。

 ここから先は、戦争だ。

 

 

***

 

 

 砂漠へと踏み出すと、もう夜明けが迫っていた。

 息が白く染まるほどに冷え切った広大な砂地を、僅かに差し込む明かりを頼りに進んでいく。

 風に流れる砂の音がさあさあと通り抜けていく。

 魔獣は付近にいないのか、奴らも夜は眠りにつくのか静寂があたりを支配している。

 

 その中を、カルメを先頭に進んでいく。

 直ぐ横にはエリが並び、何やら会話を行っている。

 時折聞こえてくる笑い声から、案外気が合うのだと不思議に思う。

 

 その少し後ろを、俺とルナが並んで歩く。

 蛇は肩に乗せ、念のため後ろだけ警戒をしている。あの怪物ならそれこそ地中から現れてもおかしくないからな。

 

「なあルナ。あの石の声、誰だと思う?」

 

 砂を防ぐフードを目深にかぶったルナが顔を上げる。

 長期間砂に晒されるのは危ないかららしいが、ならば素顔のままなカルメは大丈夫なんだろうか。

 まあそれはいいとして。

 俺の問いかけに、ルナはゆっくりと頷きを返す。

 

「……私もそれをずっと考えていました。我々以外でこの時代に生きている存在……特異主なのは間違いないかと」

「まあ、そうだろうな」

 

 この時代で遭遇した知性ある存在は、今のところクアの様な魔獣か特異主だけだ。

 この地方にいる魔獣があれなら、可能性があるのは特異主のみ。

 

「この地方の特異主で心当たりは?」

「有名な存在となると竜に騎士、妖精種もいますが……イグトゥナの地下監獄となると、正直候補が多すぎますね」

 

 イグトゥナ地下監獄。それは世界でも最大規模、そして最も悪名高い大監獄であった。

 騎士国家連邦は数多の国が集まって作られた連合体であり、それ故に競争も、戦争も多かった。数多の罪人が生まれ、その地下監獄に放り込まれたという。

 政治犯などの収監の都合上、一応公的には存在を隠されていたようだが、知らないのは他国の市民だけだろう。

 

「人類史の末期、人類の移住に監獄の住人たちが考慮されていたかと思うと……」

「あり得ないだろうな。それに一応は表舞台からは隠された場所だ。一々誰がいたかなんて細かい記録が残されているとも思えん」

 

 この人物が収監されていた、なんて情報そのものが危険な場合もある。あらゆる記録はそもそも作られないか、あっても廃棄されているだろう。

 

 人類の移住から数百年が経った。

 もし誰かが監獄に取り残されていたとしても、とても生きているとは思えない。

 だというのに、声の主はその地下監獄にいると言っている。そしてあの混ざりものの獣の主だという。一体、どんな生物だというのだろうか。

 

「間違いなく私たちの知らない存在だと思った方がいいでしょう。……あのような魔獣を生み出す原因となった力、一体どんなものなのでしょうか……」

「さあな。今の段階では何もわからん。強いて言えば、象形魔法に似ている気もするが」

「象形魔法? どういったものでしょうか?」

 

 ルナも知らないのか。まあそれも仕方ない。

 希少すぎて魔法の図録にも漏れることがある類の魔法だからな。

 

「そうだな、分かりやすく言うと『特定の生物を複製して使役する魔法』だ。魔力で編んだ生き物だからいくらでも生み出せて、術者によってはそこらの魔獣なんて軽く屠れる従者を大量に生み出せる。非常に強力な魔法だ」

「特定の生物……それは種族を指すのですか?」

「そうだ。分類における種を一つ。だからあの混獣種のような混ざり物は本来あり得ないんだが……」

 

 実在した例で言えば狼に育てられた少女が親である狼を生み出したり、竜と共に生きた一族には竜を呼び出した男がいたという。

 

「竜を、ですか? それはなんとも……」

「強力だろ? だからこの魔法は、英雄の魔法と呼ばれていたらしい」

 

 個人で大軍を相手取れる、一騎当千の破格の魔法だ。

 ただ非常に強力な分、象形魔法は一般的に広まっている魔法体系ではない。習得方法があまりにも特殊だからだ。

 術者の共通点は、生態や身体構造に至るまで、その生物を知り尽くしていること。

 そこまで到達できる存在は世界的にみても希少であり、この魔法を成熟してから後天的に取得するのは不可能だと言われている。

 あまりにも希少だが、それ故に強大な力を持つ魔法。それが象形魔法だ。

 

 そして、過去には『人間』を生み出す所へ到達した魔術師もいたという。

 

「そんな方が……。人間を生み出せるなんてそれは最早個人が軍隊になるということでは?」

「いや、実際は人間は生物としては弱く、そこまで危険視はされていなかったそうだ。それこそ軍隊として運用するには人間よりも手間と費用がかかるらしい」

「なるほど……」

「ちなみにその魔術師が、こいつの生みの親だ」

 

 そう言って蛇を一匹浮かび上がらせる。

 

「ランバが言っていただろう。『人間使い』の最高傑作だと」

「はい。確かにそう言っていました」

 

 人間の身体を材料とする体魔術を極めた男は、結果として人間を編み出せるほどに知り尽くしてしまったということだ。

 

「そんな恐ろしい方がいたのですね……」

「ああ。だが安心しろ。俺が生まれたときにはもう死んでいたそうだからな。今回とは別口だ」

 

 もう二度と、俺のような存在は生まれないだろう。

 禁術は禁術のまま、消えていって貰わなければ。

 そんなことを話しているうちに、日が輝き始めていた。

 直ぐに熱くなるだろうし、混獣種たちも活動を始める頃だろう。

 

「魔法でないとしたら、一体何なのか。正体を知るためにも、先ずは巣とやらに行かなければな」

「はい。気を引き締めてかかりましょう」

「ああ」

 

 白く輝き始めた砂漠の奥へと、俺たちは進んでいった。

 

 

***

 

 

 都市を目指して進んでいてしばらくが経った頃。

 先を行くカルメが手を挙げて合図を送ってきた。

 足音を消して近づくと、カルメが先を指し示す。砂山の向こうを見つめると、その先には混獣種と砂蟲が戦っている。

 そういえば、最初に戦った砂蟲は混獣種ではなかった。あいつら以外の魔獣も生き残ってはいるらしい。

 

「魔獣同士でも争うんですね」

「混獣種は見境がないから、それこそあいつら同士でも殺し合うわよ?」

「そうなんですね……。あ、見てください」

 

 視線の先では、砂蟲が長い頭を振って蜥蜴のような体躯を持った混獣種を吹き飛ばしていた。

 そのまま混獣種は動かなくなり、ワームは地中へと姿を消していった。

 

「驚きました。混獣種が負けることもあるんですね」

「ここは外縁部だから、この辺りにいる連中はまだ弱い個体ばかりよ。本番は、この先」

「巣ですね。どれほどの魔獣がいるのやら……」

「んー、多分だけど、4~50くらいはいるかな? わたしたちなら余裕よ」

「あれが50も……辛い戦いになりそうですね」

 

 げんなりとしてルナが言う。

 数だけなら南東部にいた腕鬼の群れと同じだろうが、今回は相手が全員別の種類の生物になる。生態も攻撃手段も違う集団相手と考えると厄介極まりないだろう。

 この先、無数の混獣種を相手にするとなると、何らかの対策はしておいた方がいいか。

 それなら……。

 

「カルメ、ルナ、ちょっと時間をもらっていいか。あの混獣種の核を抜き取りたいんだが」

「核を? 別に構わないけれど……何に使うの?」

「蛇に拠点まで運ばせる。ロアに渡せば、何か調べてくれるだろ」

「ああ、ロアさんなら確かに」

「あの男の子? へー、凄いのねー! それならぜひやりましょう」

「小型の飛行機械があります。それに運ばせましょう」

「助かる。エリ、手伝いを頼む」

「あ、はい!」

 

 二人の了承も得られたので、死体に向かって歩いていく。

 砂山を降りるのはまだ若干足元がおぼつかないが、蛇を使っての歩行にもようやく慣れてきた。

 

 ロアのために核を取るのは俺もエリもリヴラ周辺で散々やったので慣れたもの。熟練した連携で解体を終え、ルナへと手渡した。

 

「あとはこれを格納して、航路を決めて……お願いします」

 

 幾つか設定を終えると同時に、ルナの手元から小型の飛行機械が飛び立ち、来た道を素早く戻っていった。

 遅れでやって来るロアの下へと核を運んでくれるのだろう。

 

「何か分かるといいのですが……」

「ロアなら見つけてくれるさ」

 

 奴らの性質を一つでも見つけてくれれば十分だ。

 飛行機械を見送った俺たちは、今度こそ都市へ向けて先へと進んでいった。

 

 

***

 

 その後四度ほど魔獣に遭遇しつつ、問題なく退けて夜を迎えた。

 少し早めに休めそうな岩場を見つけていたので、周辺の探索を軽く行った後、夜営の準備を進めた。

 

 砂漠の夜は早く、気温があっという間に下がるために無理して動かないように決めた。

 残念ながら俺とエリに暗視の能力はなく、混獣種は目以外の感覚器官で襲い掛かってくる。

 砂漠という環境を無視しても夜は動かない方が安全なのだ。

 

 カルメやルナは睡眠が不要なため、見張りと火の番をしてもらう。

 その代わり、俺たちが眠るまでは休憩だ。テントの中で明日に向けた作戦会議やこれまでの思い出話なんかをしているらしい。

 

 俺は一人火の番をしながら、先程の混獣種の死体を調べていた。

 核はロアの下へと送ったが、抜き取った死骸を一つだけ持ってきていた。

 狼のような四肢に、頭は硬質な角が2本張り出している。背には翼とも毛ともいえない皮膚が垂れ下がっているが、これはどの生物の特徴なのか全く分からない。

 だが無理矢理つぎはぎされた身体をしていても、それぞれの部位の境目は縫われたわけでも焼き付けられたわけでもなさそうだ。

 自分の指や腕と同じく、綺麗に皮膚が繋がっている。

 

 この個体は毒は薄いのか、皮膚からあの汚濁した液体は分泌されていない。

 だが爪を引っ張り出してみれば紫に変色している。ここも個体差があるらしい。

 

「共通点が何もない……なんなんだこいつらは」

 

 大して魔獣の知識があるわけではないが、素人でも分かるほどの特徴は見当たらない。

 やはりロアの調査結果を待つしかなさそうだが、最初の都市攻略には間に合わないだろう。

 中心――恐らくはイグトゥナから離れていると個体は弱いと言っていたから、問題はないだろうが……。

 

 ふと砂の擦れる音が聞こえた。

 顔を上げると、いつの間にか対面にエリが座っていた。

 

「眠れないか?」

「……ええ。少し、考え事をしていて」

「そうか」

 

 それで会話は終わる。最近の、エリとの会話はこんな感じだ。

 最初の頃のような緊張は消えたが、ここ最近は探索中も思い悩み黙ることが多かった。

 だからこちらからは特に話しかけないようにしていたのだが、わざわざ向こうから来るということは……。

 

「どうした?」

「……魔王は、この砂漠化の原因、なんだと思いますか?」

 

 しばらく黙っていたかと思えば、囁くようにそう呟いた。

 ふむ、砂漠化の原因と来たか。混獣種でも、カルメのことでもないとは想像外だったが……。

 

「確か、人類史末期には砂漠だったんだろう?」

「ルナさんがそう言ってましたね」

「なら、そこから直らなかったというのが正しいのだと思う。また砂漠化したんじゃなくて、草原に戻らなかった、だな」

「直らなかった……?」

 

 困惑した声が聞こえてくる。

 だが、その顔は見ずに仄かに赤く照らされた空を眺める。

 

「修復者がいる筈では?」

「いる筈なんだがな……。この土地では生まれない理由があるのか、或いは……調べてみないと何ともわからんな」

「そう、ですよね……」

「気になるのか?」

 

 今度は勇者の顔を真っすぐに見つめる。

 瞳は揺れ、縋るような表情を浮かべている。

 

「……はい。それを知らなければいけないと、そう思っています」

「なら良いんじゃないか? 調べてみれば。俺たちがすべきことは、マナホール修理のために首都イグトゥナに行くことだけだ。カルメもあんな調子だし、ついでに好きなことをやればいいさ」

「……いいんでしょうか」

「構わないだろ。というか、本来お前に俺たちを助ける義務なんてないんだ。好きにすればいいさ」

 

 カルメを見ろ。あんな自由に生きてはいるが、目標は同じだ。

 この砂漠化した大地ならば、目的にする場所なんて都市以外ないだろ。

 

「……そうですか。そうですよね。ありがとうございます、魔王」

「俺は何もしてないさ」

「いえ、少し話せてすっきりしました。では、また明日」

 

 満足そうな笑みを浮かべて、エリはテントへと帰っていった。

 

「はあ……」

 

 どいつもこいつも好き勝手なさることで。

 まあ元々同じ目標のない連中だ。今後、別れることも出てくるのだろう。

 その時はせめて穏便に終わることを祈るばかりだ。

 

「……今日はここまでだな。後はロア、頼んだぞ」

 

 少し離れた場所に穴を開けて死体を燃やして埋める。

 万が一、血の匂いに奴らが集まってくるとも限らないからな。

 これでやることは終わった。

 明日に備えて、寝ることにしよう。

 

 夜が明ければ本番、カルメの言う戦争が始まるのだから。

 

 

***

 

 

 一方、テントで休憩していたルナとカルメ。

 ルナは仮拠点で集めたほんの僅かな書物やガラクタの確認を行っていた。

 大容量とはいえバックパックは無制限ではない。沢山の人類史を集められるように、定期的な整理整頓が不可欠なのだ。

 

 ……書物を整理していると、たまに読みふけってしまうのがこのやり方の問題ではあるが。

 

『――――』

 

 そんな作業の中に流れてくる声があった。

 仮拠点で聞いた、あの音鳴石の音色だろう。

 顔を上げれば、対面の壁側で膝を抱えて座るカルメが青く光る石を握りしめている。

 先程までは武器の手入れをしていた筈だが、終わったらしい。

 

「……ずっと聞いているんですか? その声」

 

 声をかけると、まるで眠りから覚めたかのように眼を瞬いてルナを見つめた。

 いつもの彼女らしくない、ルナがそこにいることすら一瞬忘却していた様な表情だった。

 

「ああ……ええ。もう内容なんて全部覚えてしまってるんだけれど。休んでいると、不思議と聞いてしまうの」

 

 すっかり日課ね、とカルメは笑う。

 その笑顔はルナの知らないモノであった。

 いつも優しく朗らかなルナの知る彼女のそれとは違って。どこか、寂しさを覚えるような……。

 だからだろうか。その先を深く聞くことはできなかった。

 

「わかります。私も、独りの夜は魔王さまの絵物語を、何度も読み返しました。内容なんて、全て覚えているはずなのに」

「ルナも? ……不思議ね。わたしたち、記憶力だけは確かなはずなのにね」

「本当に」

 

 そう言って、二人で笑いあう。

 良かった。そこにいるのはいつもの彼女だ。

 カルメもきっと疲れているのだろうと、ルナはそう思うことにした。

 

「さて、わたしは少し修行をしてくるわ。直ぐに戻るから、その間はお願いね?」

「はい」

 

 武器を手にカルメが出ていき、その直ぐ後にエリが中へと入ってきた。

 

「あれ? カルメさんは?」

「少し外に出ているそうです。エリさんはお休みですか?」

「うん。魔王も直に休むと思うから、見張りをお願いしていい?」

「はい。勿論です」

 

 整理をしていた――正確にはその途中で読んでいた本を纏めて鞄に戻していく。

 見張り場所に風避けは設置しているが、流石に砂風のある外で読むわけにもいかない。

 その作業を見守りながら、エリが口を開く。

 

「ねえ、ルナさん。カルメさんってどんな人?」

「カルメですか?」

「そう。イオのことはよく知ってるけど、カルメさんのことはあまりよく知らないから」

 

 これから危険な都市攻略に挑むことになる。

 仲間のこと、特に前線で並ぶことになる相手のことをよく知っておきたいというエリの気持ちもよくわかった。

 特に隠すことでもないので、ルナは素直に話し始める。

 

「そうですね……カルメは、私たちをいつも元気づけてくれました。何かをしようって言い出すのは、大体カルメだったんですよ」

 

 本を一つ一つ手に取りながら、ルナは嬉しそうにそう言った。

 

「私が焦ってしまったり、混乱してしまったときは、いつもカルメが代わって皆に指示をしてくれました。……明るくて、頼もしくて。いつも皆を助けてくれたんです」

 

 前線で戦う役目であったカルメは、魔獣たちと戦いながら、皆を鼓舞し続けた。

 その背中に守られたからこそ、ルナたちはこの危険な世界を探索することができたのだ。

 だからこそ、皆を失ったとき一番傷ついていたのは彼女だっただろう。

 仮拠点でルナを戒めた時も、そのことを二人とも思い出していた。

 

 仲間を失って、生き残った4人が自由に行動しようと言い出したのもカルメだった。

 別れることは悲しかったけれど、今までとは違う小さな彼女の背中を見た後では、何も言うことはできなかった。

 

 でも、再会した彼女は自分のよく知る優しくて明るいカルメであった。

 ルナの迷いも断ち、やるべきことを教えてくれた。ルナ自身の成長を見せることはできなかったけれど、成果を見せることはできた。

 ……あの時別れて良かったと、今この時は思うのだ。

 

「だから、カルメは私の、皆のお姉さんの様な存在だと思います」

 

 最初の問いに自信をもってそう答えるルナの声を聞き、エリはそっか、と満足そうに頷きを返す。

 

「お姉ちゃんか。ならイオは口うるさい妹かな?」

「えっと……そうかも、しれませんね」

 

 どちらかというと、口うるさいのはエリ相手だけなのだけれど。

 その言葉を飲み込んで、ルナは本をしまい終えたバックパックを閉じて立ち上がる。

 

 そうだ。皆、大事な家族なのだ。

 だから守るために、できることをしなければならない。

 先ずは、明日の戦いのために魔王とエリには休んでもらわなければ。

 エリと挨拶を交わしてから、ルナは魔王と交代するべく、テントの外へと向かっていくのだった。

 

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