人類は移住しました 残され者たちは世界再生の旅に出ます   作:穴熊拾弐

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第51話 砂漠に落ちる影

 

 

 崩れかけた都市の中、俺たちはざあざあと降り注ぐ泥の音を聞いていた。

 この枯れた砂漠では碌に雨も降らないのだろうなと、砕かれた窓の外に見える赤黒いモノを眺めながらふと思った。

 

 あれから俺たちは砂漠を乗り越え、二つの巣を破壊した。

 今は二つ目――最初の都市から数えれば三つ目の巣の卵を砕き、都市が崩れるのを待っているところである。

 僅か六日ほどの強行軍であったが、巣自体はそこまで脅威ではなく短時間の戦闘だけで突破することができた。

 

 ここタウハも、前のスルゥトも、どちらも虫の巣であった。

 カルメの情報通り、巣にいる個体の素体は全て同じで、雑兵達は主の姿を模しているかのように統一された姿をしている。

 ひょっとすると『混獣種』と呼ぶべきものは主だけで、他の個体はその複製体なのかもしれない。

 

 ただ中には透明な羽をもつ飛行型や真っ黒な甲殻に覆われた甲虫型がいたりと、複製体にも幾つかのパターンがあるようだった。

 こちらは恐らく、元になった虫の生態に基づいているのだろう。雌雄の違いや役割によって、虫はその姿を大きく変える。

 

 そう思えば、案外バラバラに見える混獣種も分類が出来るのかもしれない。したいとは微塵も思わないが。

 そんなことを考えている内に、泥の音はゆっくりと静かになっていった。

 

「……止んだね」

「ええ。今回は短かったですね。外壁も城壁そのままでしたし、使われた泥が少なかったのでしょう」

 

 最後の泥が崩れる微かな音を聞きながらルナが言う。

 ここタウハは分厚い城壁に守られた都市だったようで、その上部に肉泥を積み重ねることで巣を覆う泥を少なく済ませたのだろう。

 それぐらいの知能というか、虫としての習性は残っているらしい。ちなみに主は頭が二つ生えた蜂のような虫であった。頭が重いのか一度も飛ぶことはなかったが。

 ますますよく分からない生物だ……。

 

「この辺りは城郭都市が多いみたいよー。ほらこれ」

 

 そう言ってカルメが見せてきたのは人類史収集で見つけたこの国の名所図録。そこに並ぶ都市外観は、殆どが城壁に囲まれていた。

 覗き込んだエリが関心の声を上げる。

 

「ほんとだ……。どこも凄い立派なお城」

「草原地帯だったから、城壁は必須だったんじゃない? 今後はどこの巣もこれくらいかもしれないわね。スルゥトは違ったけど。小さかったからかな?」

「ひょっとすると、巣を作れる特性を持つ生き物は小規模の街に、城郭都市はそれ以外の生き物が利用している、といったこともあるのかもしれません」

 

 外敵を恐れる虫の巣は天辺で肉泥で覆われているが、より強力な獣たちの巣ならばこの雨の枯れた地で屋根を作る理由もないだろう。

 

「或いは、巣を作らなければ身を守れない弱者程外側の都市にいるか」

 

 最初の巣にいた蟻のような虫よりも、今回の虫の方が間違いなく強かった。

 もしそれが事実ならば、この先どんどんと凶悪な主が出てくるのだろう。

 

「それもあるかな。多分、そろそろ虫以外の混獣種も出てくると思うわ」

「いよいよだな……強いのか?」

「もちろん! といっても、私もこの先の巣はよく知らないんだけどね」

「そうなのか?」

 

 意外だった。カルメなら手当たり次第戦いを挑んでそうなものだが。

 俺の問いに失礼な、と頬を膨らませながらカルメは続ける。

 

「わたしが一人で巣を突破したのは虫の巣、それも一つだけよ。他は巣の手前や途中で撤退してたわ。獣型――特に大型獣の混獣種になってくると、普通の個体でも虫の主より強いのよ?」

 

 そもそも虫は個体としては貧弱な種である。彼らの強みは、集団であることだ。

 外敵に対して集団で襲い掛かることでその強さを発揮するが、巣の中枢にいきなり潜入し、魔法で殲滅する俺たちの戦い方ではその特性は発揮できないのだろう。

 それが、単体でも強力な獣相手になるならばどうなるのか。全くもってこの先が恐ろしい。

 

 そんなことを話しているうちに、微かに響いていた瓦礫の音の残りも止んだ。

 屋根の下から卵の間まで出ていき、解放された空を眺める。

 まだ陽は高く、肌を焦がす熱が都市に流れ込んでいる。

 

「……さて、完全に崩壊は終わったようだし、今日はこのまま都市を調べるか?」

「はい。そうしましょう。その前に私はイオと通信をしてきます」

「じゃあその間にー、この後のルートについて話しちゃいましょうか」

 

 既に三つ目の都市ともなると動きが手慣れてきている。

 近くの石机だけを綺麗にして、いつもの地図を取り出した。

 

「ここから近いのは、ここかな? そろそろ国境を越えるね」

 

 人類史末期、この地方を支配したのは企業の支配する国家が集ってできた連邦制国家。

 各首長国の国境には簡易であるが検問所があり、軍が常駐した砦が残っているだろうと考えられる。

 そこもまた巣になっているのではないかというのが俺たちの予想だ。

 規模はこれまでで最小だからそこの突破自体は余裕だろう。だが、今は別の問題が出てきている。

 

「それに関してなんだが……そろそろ一旦戻らないか?」

 

 それは次の都市までの距離だ。

 国境線は遠く、これまでの三つの都市間移動よりも長期間の移動となるだろう。

 これまで先行調査という事で進んではいたが、イオたちが拠点に着いた今、改めて調査のための準備を進めた方がいいだろう。

 この先の都市もまだ多い。今はそのための戦力と資源を補強しておきたい。

 

「確かに、イオたちがいた方が戦いやすいし。カルメさん、どうかな?」

「……そうですね。ここまで強行軍でしたし、一度戻りましょうか」

 

 カルメ自身も、その問題は認識していた。

 カルメは戦闘個体の中でも、燃費が特別よく設計されていた。

 ルナのような精密な機構も、イオのような銃弾生成のための内燃機関も必要がない。

 単に武器を振り回して戦うだけ。自己修復機構すら備えていたから、もとより単独で行動する想定で設計されていたのだろう。

 

 だが他の皆は違う。なによりこれ以上凶悪になる戦地にルナを連れていくことは避けなければならない。

 通信を終えて戻って来たルナを一瞥してから、カルメはぱん、と手を叩く。

 

「皆さんの強さはよーく分かりました! 後は確実にイグトゥナに行けるよう、準備を整えるだけですね」

 

 止まることは悔しいが、魔王たちの戦力は彼女の想像以上であった

 これならば確実に目的は達成できる。

 

「本当に、とっても強い。悔しいくらい……」

「……カルメ?」

 

 不意のその呟きは、何故だかとても暗く響いて。

 驚くルナだったが、次の瞬間顔を上げて「帰りましょう!」と告げるカルメの表情は、生き生きとした活力に満ちていた。

 

「ああ。そうしてくれると助かる。よし、ならここの探索を終えたら一旦戻ろう。……戻るだけでもかなり時間がかかるからな」

「もう十日以上は経ってるからね。何か移動手段でもあればいいけど――」

 

 エリが言葉を言い終える寸前。大きな、鋭い風切り音が響いた。

 何かが羽ばたいたような擦過音。それもここまで大きいとなるとその元となった存在はかなり巨大だ。

 

 それを示すかのように、慌てて外へと飛び出した俺たちの視界は暗くなり、影が辺りを覆い隠す。

 

「なんだ? 何が起きて――」

 

 突然の変化に空を見あげる。

 その先には泥がなくなった、澄み渡る青の中に浮かぶ、一つの白い影があった。

 あれが音の発生源だろうか。

 

「あれは――」

「嘘、まさか、ここで?」

 

 雲にしてはやけにくっきりと映るその姿は横に広く、恐らく翼のある巨大な生物ということしか理解できなかった。

 何故なら。

 

『――――!!』

 

 発せられた咆哮が大気を揺らし、そのまま何の予備動作も見せず、異形はこちらへと降下を開始したからだ。

 

「みんな、逃げて――!!」

 

 カルメの叫びを掻き消す爆音が響き渡り、その直後。

 異形が凄まじい圧と共に、崩れた都市跡に激突した。

 

 

***

 

 

 吹き荒れる砂塵と衝撃。

 白の巨影が卵のあった建造物に激突し、天井階は一瞬で崩壊した。

 卵の間に積もっていた肉泥は瓦礫とともに吹き飛び、破壊の雨が都市へと降り注ぐ。

 その瓦礫を足蹴にして、ルナを抱えたエリは落ちながらも移動していた。

 

「なんなのですか、今のは!?」

 

 悲鳴の困惑を叫びながらルナは事態の理解をしようと頭を必死に動かしていく。

 動体視力こそないルナだが、それでも自身の目で見えた事だけははっきり覚えている。

 白い異形が飛び込んでくる直前、魔王が放った蛇が巨大な円を描いたのが見えた。

 その直後にはエリに抱えられて視界はぶれて、気づけば今ここだ。

 

 脇に抱えられた故に背後を見ていたルナの視界には今、都市を一直線にくり抜く破壊の後が見えた。

 あの異形がそのまま建造物を突き抜けて行ってしまったのだろう。途方もない威力である。

 直ぐにエリが着地して、ルナも地面へとへたり込む。

 

「ルナさん、大丈夫!?」

「わ、私はなんとか……エリさんは無事ですか? 他のお二人は?」

「私も平気。魔王が壁を作ってくれたから」

「魔王さまが……っ!? そうです、魔王さま……」

 

 咄嗟に先程の破壊跡を見る。

 見える範囲には彼の姿は見当たらなかった。

 遅れてカルメが、直ぐ横へと降り立つ。

 

「良かった、二人は無事なのね」

「カルメ!」

「カルメさん、良かった。貴女も無事だったんですね」

「魔王様のお陰でね。一瞬止めてくれなかったら危なかったわ」

「本当に。……あれが何か、知っていますか?」

「ううん、詳しくは。でも、一度遭遇したことはあるわ。その時は――って、今はそれより、急がないと」

「うん、行かないとね」

 

 二人がこちらを一瞬気にする気配があったので、ルナは構わず頷く。

 

「行ってください。私は一人でも大丈夫です」

 

 既に巣は壊された。

 あの巨影以外に魔獣はいないだろう。

 ルナの表情を見て直ぐに頷きを返して、二人は巨大な破壊跡へと駆け出していった。

 

 

***

 

 

 深く粘ついた微睡の中に魔王は居た。

 目が、鼻が、耳が。あらゆる五感が地の底へと落ち込んでいく感覚。

 その縁になんとかしがみ付き、気絶しそうな意識を保ちながら何が起きたのかを必死に整理する。

 

 理解できたのは巨大な化け物が突っ込んできたこと。攻撃を受けたということだけだ。

 ……うん、よく分からん。だが、生きてはいる。

 

 まさかあの蜘蛛との戦いがここで活きるとは思わなかった。

 先の戦いで蜘蛛の投射物にやられたのはあまりにも不甲斐ない出来事だった。

 混獣種でも竜でもない、ただの蜘蛛相手にやられたのだ。もしシンジュが居なければどうなっていたか。

 もう二度と倒れない様にと、いつでも放てる蛇を仕込んでいたのだが、そのおかげで助かった。

 

 だが今回は蜘蛛の糸など軽く数百は吹き飛ばせるほどの威力の突撃。

 蛇の盾で咄嗟に射線をずらしたことで、脇道へ吹き飛ばされただけで済んだが、それでもこのざまだ。

 

「……くそっ、一体なんなんだ」

 

 ようやく焦点のあった視線を上げれば、都市に開いた大穴が見える。十を超す建造物の跡の向こう、巨大な白い塊が城壁で止まっているのが見える。

 

「……化け物め」

 

 都市中心部にあった卵の間から、街の端まで一気にぶち抜いたということだ。

 折角虫が保護してくれた貴重な歴史資産が、大きくくり抜かれている。なんと勿体ない。

 

 流石に距離があるからか、()()はまだこちらには気づいていないらしい。

 ありがたい。今のうちに近づいておくとしよう。

 蛇を固めて杖代わりに立ち上がると、ゆっくりと道へと歩き出す。

 

 

 ――この魔王の身体は特別製だ。

 かつての人間使いの秘術によって、周囲の魔力を吸ってこの身体は修復されていく。

 もちろん限度はある。腕が吹き飛べばそう簡単には治らないし、頭が吹き飛べばどうなるかは俺も知らない。

 

 かつての魔王計画の産物。永い間を人類の外敵として戦えるよう、幾つかの素体が用意されていた。

 魔王が倒されれば、別の素体に蛇が宿り起動する――そう言う風に設計されていた。

 俺が複製体として利用したのはその内の一つ。本来は別人格が目覚めるだろう所を細工させてもらった。

 ちなみに他の素体は全て破壊したから、正真正銘、これが俺の最後の身体となる。

 

 だから、そう簡単に死ぬわけにはいかないのだ。

 

 

『――今度こそ、世界を手にしませんか? 古の魔王さま』

『――ここが私たちの国だよ。世界なんて、大それたものはいらない。誰にも邪魔されない、侵されない場所を作るの。あなたならそれができるでしょう? 魔王さま』

 

 

 約束を、したからな。

 目的も夢もない空っぽの魔王だが、子供たちとルナ。かつて結んだ二つの約束は守らなければならない。

 それに、せっかくルナの夢が動き出したのだ。こんなアホなところで捨てるわけにもいくまい。

 

 そんなことを考えている間に身体は修復され、建物の跡を五つ越えた頃には、こちらは走り出し、そして気付いた巨体がこちらへと振り向いていた。

 

『――――』

「……竜、か」

 

 揺らめく熱気を吐き出すそれは、竜のような姿をしていた。

 ()()()と言ったのは、それの姿が生物としてはあまりにもかけ離れていたからだ。

 

 ――骨。それが目の前の竜を見た印象だった。

 肉がないわけではなく、むしろその逆。

 

 やけに膨れた胴体に、大木の如く太い巨大な二本足。そして広げられた翼はそれらを支えて飛ぶためかこれまた分厚く巨大。

 恐らく竜だと思われるそのシルエット全身が、分厚い骨に覆われているのだ。

 

 まるで騎士が纏う鎧のように、その竜は骨を全身に纏っていた。

 

「どうりで痛いわけだ……」

 

 あんな巨体でその硬さ。我ながらよく生きていたと呆れるほどだ。

 だが事実、生きている。

 そして、タネがわかれば戦える。

 

 蛇を剣に変え、更に蛇を纏わせていく。螺旋状に纏めた刃は、あの巨体を撃ち砕くのに必要な硬さと威力を確保するため。

 ルナの持っていた切削具に似た形状に蛇を整え、魔力を限界まで吸わせていく。

 

「飛竜狩りは初めてだが……まあなんとかなるだろ」

 

 一方竜はその巨大な顎を開き、魔力を収束させていく。

 竜は熱線を吐くという。その予備動作だろう。

 それもやけに早い。あれでは辿り着く前に発せられる。

 蛇を展開しながら全速力で駆け抜ける。

 

『――――!!』

 

 だが、続いて現れたのは奇妙な光。

 竜の開かれた顎へと、空中から七色の光の粒子が集まり始めた。

 魔法では本来あり得ない極彩色の光が、今眼前に顕現しつつある。

 

「何をする気だ……?」

 

 そこだけ景色が歪んだような、力の収束が見える。

 光すら歪ませる力の収束。間違いなくまずい。

 後ろには恐らくルナたちがいる。

 絶対に放たせるわけにはいかない。

 

「化け物が……!!」

 

 手に持っていた蛇を放つ。

 竜ではなく地面へと。蛇はばらけ地面へと潜り、竜へと滑り込んでいく。

 

 だがそれよりも早く光は集まり巨大に膨れ上がった。

 間に合わないか――。

 

「カルメさん!」

「ええ!」

 

 上から声が聞こえ、二人が竜の下へと降ってくる。

 聖剣と薙刀、二つの刃が竜の首へと振り下ろされるが、鈍い音だけが響き渡る。

 

「硬い――っ!」

 

 あの二人でも、骨を断つことは叶わなかった。

 だがその剛力で竜の巨体は僅かに沈み、光が少しだけ霧散した。

 直ぐに収束が始まるが、その時間稼ぎで十分だ。

 

「上がれ、蛇――!!」

 

 潜り込ませていた蛇が集まり、巨大な黒の杭となって立ち上がった。

 それは竜の顎を下から撃ち、顎を空へと跳ね上げた。

 その直後――。

 

 一切の音が消えた。

 

「――は?」

 

 馬鹿みたいな自分の呟きが脳内を揺らした、その瞬間。

 一条の光が空に突き抜け、それは一瞬ののちに巨大な光の束へと姿を変えた。

 

 迸る閃光。

 空を焼く熱。

 視界は焼け焦げたように黒く染まって。

 俺たちの身体は、塵芥の如くはるか遠くへと弾き飛ばされた。

 

「――ッ!!」

 

 数瞬の後、意識が現実に追いつき慌てて蛇を突き立て身体を止める。

 ようやく勢いがなくなった時、俺は建物を二つ程通り過ぎた場所にいた。

 

「……は、はは……」

 

 思わず乾いた笑いが漏れる。

 さっきの突進は、ただの挨拶代わりに過ぎなかったらしい。

 なんだ、あの熱線は。あんなもの、俺が見たどんな魔法よりも強力だ。

 

 否、アルトの地下で会った解体屋がいたか。あれの放った光も似たような威力であった。

 つまりは、世界の破壊をするために生まれた規格外の怪物と同等の力を有しているということだ。

 

「虫は、まさに虫か……」

 

 今まで戦っていた混獣種など、ただの木っ端だったのだ。

 生態系の頂点である竜種が混獣種となれば、それは最悪の災害になり果てる。

 そしてこちらは、長期間の遠征で疲労した状態。

 ――うん、どう考えても勝てるわけがない。

 

「よし、逃げるか」

 

 その一撃だけで、俺は撤退を決めた。

 少なくとも今この状況で戦って勝てる相手では、絶対にない。

 

 だが、相手は竜。空を自由に舞う覇者だ。

 移動手段が徒歩の俺たちでは、あの生物相手に逃げられるはずもない。

 

「――蛇よ」

 

 竜の顎を打ち上げた蛇を解き、そのまま全身を縛る縄へと変える。

 特にその顎は、何重にも蛇を巻き付けて硬く閉じる。

 

『――!!』

 

 響くうなり声を上げて、骨竜はその巨体を捩る。

 それだけで幾つかの蛇は断ち切れてしまう。抑えられる時間は短い。

 ――そうだ、逃げるための時間はない。

 

「エリ、カルメ! 生きてるか!」

 

 故に、もっと時間を稼ぐ。

 ここにいる全員が生き延びるために。

 

「ルナを連れて退却しろ! そして増援を連れてこい! それまで、俺はこいつを足止めする!」

 

 もう一度、蛇の切削具を作り出す。

 あの熱線を見た後だ。効くかは正直分からないが、効かないのならそれまでだ。

 今できる、全力を。

 

「――行け!」

 

 その叫びの直後、二つの音が背後から響き、遠ざかっていく。

 あの二人はこと戦闘に余計な私情を挟まない。だからこそ信頼できる。

 そして、同時に竜を拘束していた最後の蛇が千切れ消えた。

 唯一、顎だけは硬く閉じたまま。

 くぐもった、それでも思わず竦みそうになる唸りが周囲に響き渡る。

 

『――――!!』

「……さあ、続きをしよう」

 

 ああ、素体、残しておけばよかった。

 そんなことを思いながら、全力で魔力を吸わせた蛇を構え、骨竜へと飛び込んでいった。

 

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