人類は移住しました 残され者たちは世界再生の旅に出ます   作:穴熊拾弐

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第53話 骨

 

 

「――リさん、 れを――」

「はい――」

 

 

 僅かにもたげた意識の中、誰かの会話が聞こえてくる。

 

 重たい瞼を開くと、澄み渡る青空が広がっているのが見える。

 雲は撃ち抜かれて霧散したのだろう。空には雲一つもない。

 そしてそのどこにも、白い影も青い姿もない。

 

 ああ、戦いが終わったのだと、ぼんやりとした頭でそう思った。

 

「起きました?」

「……ああ」

 

 起き上がると、直ぐ真横の瓦礫にカルメが腰かけていた。

 衣服は着替えたのか真新しいものに変わっているが、髪には焦げた跡があり、直ぐ横には無残な姿の武器が立てかけられている。

 爆破で吹き飛ばしたから心配だったが、元気そうだ。

 

「無事か?」

「ええ、あなたのお陰でね。右手は潰れちゃったけど、こうして生きてるんだもの。充分よ」

 

 そう言って右手を上げると、長い袖に覆われていた先端部が露になる。

 白いゴムバンドに覆われていたそれは、明らかに短くなっていた。

 爆破で吹き飛んだのだろう。

 

「すまない。加減をしている暇がなかった」

「え? ああ、皮肉ってものじゃないわよ? ほら、わたしたちは身体を換装できるから拠点に戻れば元通りよ」

 

 少し慌てた風にそう告げる。

 

「だから、本当に感謝してるの。だって、お陰でまだわたしは戦えるもの。……でも、負けちゃった。勝ちたかったのに!」

「……なあカルメ、お前はあれを知っていたのか?」

 

 骨で武装した竜なんて聞いたことがない。

 これまで出会ってきた混獣種ともまた異なる生物の出現。……この先の危険度がとんでもなく上がってしまった。

 俺の問いには首を横に振ってカルメが応える。

 

「何年か前、砂漠を移動している時に一度見ただけ。その時は遠すぎてよく分からかったけど、あんな化け物だとは思わなかったわ。なんなのよあれ、卑怯だわ」

「本当にな」

 

 ただでさえ分厚い鱗を持つ竜がそれ以上に分厚い骨を纏っているのだ。

 あれを破れる威力の攻撃は俺らの中でも多くはない。

 

「――でも、戦えた」

 

 なくなった右手を見つめ、カルメは噛み締めるように呟く。

 そこに宿る感情が何かは分からないけれど。

 それでも彼女が何かを得られたのだったら、きっと良かったのだろう。

 

「それにしても、魔王様でも竜の相手は一苦労なのね? てっきり、一人でも倒しちゃうのかと思ったわ」

 

 だが不意に表情を崩すと、そんなことを言ってのける。

 ……本当に、感情豊かな奴だ。一言、いや二言は多いが。

 

「無理言うな。あんな奇襲を受けた後だぞ? 正直、あの青い竜が来なかったら危なかったさ。……なあ、あれについても何も知らないのか?」

「ええ。あの竜はわたしも初めて見たわ。あんな綺麗な竜だったら、遠くでも覚えているはずよ」

「……そうか」

 

 恐らくだが、あれは混獣種ではないだろう。奴ら特有の禍々しさや混ざりもの感が、あの竜にはなかった。

 もしかしたら、あれがルナの探していた本物の霊竜なのかもしれないな。

 

「ああ、それと」

「なにかしら?」

「お前も、来てくれて助かった」

「……え?」

 

 一人であの骨の竜を相手にするには、どうしても蛇が足りなかった。

 こうして戦い終えた今ならいくつか対抗手段は思いつくが、あの時あの状況は耐えるしか選択肢しかなかったのだ。

 だがそこにカルメが来てくれたことで、こちらから攻撃するという選択が生まれ、なんとか一矢報いることができた。

 

「ルナから膂力に特化していると聞いていたが、まさかあの骨を切り落とせるとは思わなかったぞ。……流石はルナの仲間だな」

「え? ……ええ?」

 

 今回は当たりどころが悪く結果不利になってしまったが、生き残ることはできた。

 そうなれば――。

 

「今回はあいつに防がれたが、首に当てられれば間違いなく両断できていた筈だ。今度はエリやイオもいる……次は殺せるぞ」

「――――あ」

 

 もう、俺たちの敵ではない。

 流石はルナの仲間――『人類史最新』の存在だ。

 次は俺や他の連中が動きを止められれば、あの竜を倒せるだろう。

 それがわかっただけでも、この戦いには意味があった。

 

「……ふふ」

「……?」

「ふふっ、あははは!」

 

 だが、返ってきたのはカルメの笑い声であった。

 俺の言葉が心底おかしいとでもいうように、消失した右手も構わず腹を抱えていた。

 

「……冗談を言ったつもりはなかったんだが」

「ははは……ああ、いえ、ごめんなさい。ちょっと、自分の馬鹿さ加減がおかしくて。そもそもわたしって、一人で戦うように設計なんてされてなかったわ!」

「……? 当たり前だろう……?」

 

 前衛をカルメが務め、後ろからイオが援護する。ニクスや他の個体は知らないが、どう考えてもルナたちは集団で戦うために作られた存在のはずだ。でなければ、性能が極端すぎるのだ。

 むしろ一撃必殺をコンセプトとする個体が、一人で巣を壊滅できるほどに()()したのだ。誇るべき成長だと思うのだが。

 それが、何を今更。

 

「そうね、当たり前だったわ。ごめんなさい。ただの戯言よ。忘れて?」

「……そうか、なら、いい。次は勝つぞ」

「ええ、もちろん! あ、それとわたしが倒れていた間に何が起きたのか、詳しく教えてねー?」

 

 そう言って笑う表情に陰りは全くない。

 俺はリヴラで修復されたルナの仲間たちを知っているから、換装できるというのも事実だろう。

 

 つまりは、本当に全員が無事に生き残ることができたのだ。

 その事実を認識して、腹の底から大きく息を吐いた。

 本当に、この世界は少しの油断もしてはならない。

 

「後で、いくらでもな」

「ええ! さあ、魔王様、行きましょう? ルナが待ってるわ」

 

 そう言って、カルメは駆けていってしまった。

 こっちはさっきまで倒れていたというのに。

 まあ、この身体はその短い時間で体力を殆ど回復しているのだから、構わないのだが。

 それでも重い体を起こして、カルメの後を追っていく。

 

 頬を熱を持った風が通り抜けていく。

 竜の空けた大穴のせいで、数百年せき止めていた時間の流れが、砂とともに都市に流れ込み始めていた。

 

 

***

 

 

 魔王の先を進むカルメは、唯一無事な左手で首に下げていた紐を掴む。

 そこに繋がっていた音鳴石は、半ばから砕け、二度と光ることはない。

 骨竜の熱線か、それから自分を守ろうとした蛇の爆破のどちらか――あるいは両方を受けて、壊れてしまっていた。

 

 少し前の自分なら、とても落ち込んでいただろう。

 もしかしたら立ち直ることもできず、この砂漠で朽ち果てていたかもしれない。

 この石の声に、わたしはずっと助けられていた。一人ではないと、この声に縋っていたから。

 

 でも、わたしは仲間に会えた。

 だから、あなたの声はもういらない。

 

 ――代わりに、今度は、わたしの声をあなたに届けよう。

 大切な、仲間たちと一緒に。

 

『――どうか、どうか僕を殺して欲しい。君が今倒した彼らを止められる手段は、それだけだ』

「……ええ。任されました」

 

 眩い程の砂漠の光を見つめながら、カルメはもう一度強く、砕けた石を握りしめた。

 

「あ、そうだ魔王様」

「なんだ?」

 

 追いついた魔王様に、思い出した事を聞いてみる。

 

「魔王様、砂漠に来てから直ぐに戦えてたじゃない? どうやって砂の上で動けてるの? 何か歩法でもあるの?」

「ああ、それは――」

 

 そう言って、魔王様は足の裏を見せてくれた。

 そこにはあの蛇が貼り付いていて、まるで小さな足場のように円を描いていたのだ。

 

「これで安定させてるだけだ」

「……何それ! ズルじゃない!」

「ズルではない。立派な技だ。エリじゃないんだ。砂の上で満足に歩けるわけないだろう」

「……」

 

 伝説の魔王様でも、砂漠は満足に歩けない?

 なんだ、そうなんだ。

 ならわたしの修行はちゃんと意味があって。

 わたしはずっと、いもしない敵と戦っていただけだったんだ。

 

「……ふふっ、ふふふっ」

 

 ああ、さっさと聞いておけば良かった。

 やっぱりわたしは、独りで戦う個体ではないらしい。

 性能でも、考え方でも。

 

 でももういいのだ。

 わたしは家族と、新たな、とっても頼りになる仲間たちに出会えたのだから。

 やけに軽くなった足取りで、わたしはルナの下へと進んでいくのだった。

 

 

***

 

 

「それよりあれは何をしてるんだ?」

 

 追いついたと思ったらスキップしてまた先へと進みだしたカルメにようやく追いついて、尋ねる。

 行く先ではルナとエリが何やら忙しく作業している様子が見える。

 廃教会で見たあの青い光が周囲を照らし、それを前に素材を積み上げているようだった。

 

「車を作ってるんですって」

「くるま……? ああ、確か移動手段だったか」

 

 確か鉱山に入った時に聞いた気がする。

 その時は自動で走る馬車のようなものだと言っていたか。

 

「そう。砂上走行用の車をルナが見つけていたみたいでね、それを直して使おうって」

「砂の上を走るのか? ……確かに、あれば大分楽になる」

 

 ここしばらく旅をしてきて、いかに砂漠の移動が大変かを思い知った。

 原生林よりも気温の変動が激しく、砂は足を絡めとって体力を削る。なにより混獣種が鬱陶しくて仕方がない。

 馬車以上の速度で移動できるというのならとてもありがたい。

 ……が。

 

「あの大きさだと、こいつは運べそうにないな」

 

 俺たちの背後には、あの骨竜の死骸が転がっている。

 これを移動させるには、それこそリヴラ号を持ってくるしか手段はないだろう。

 

「えー、運ぶの?」

「できれば調べたい」

 

 これは他の混獣種とは違う。あの光をどうやって出したのか、この骨は何なのか……知っておかなければ。

 

「考えてもみろ。もしこいつが、この化け物が巣を作っているなら……」

「……それは、恐ろしいわね」

 

 虫の巣の数を思い出し、カルメが身震いする。

 

「これから先の巣の全てをわたしは知っているわけじゃない。獣の魔獣は強いけど、あの竜ほどではなかったわ。……首都イグトゥナの周囲には、一体何が待ってるのかしら」

 

 妖艶な笑みを浮かべ、カルメが呟く。身震いは武者震いへと変わり、高揚しているようだ。

 あれだけの戦いの後だというのにな……。

 カルメはさておき、あの数の骨竜がいるのだとしたら、今いる戦力どころか、全戦力を引っ張ってきても勝てるかは怪しい。

 だからこそ、こいつを調べて対策を立てなければならないのだが……。

 

「この大きさではな……」

「それなのよねー」

 

 ルナの作っている砂上走行車は精々混獣種一体分。骨竜は、その十倍は優にある。

 ……運ぶのは無理だな、これ。

 

「解体するしかないかしら?」

「するにしても時間も、人も足りないさ。ここであれの血を垂れ流して他の混獣種が寄ってくるのは避けたい」

「わたしが――は、無理か」

 

 カルメがゴムバンドに覆われた右手を見て笑う。

 

「せめて核でも調べておきたいが……あの骨を割るのも一苦労だろう」

 

 頬骨を削るのにあれだけの労力を要したのだ。全身をとなると途方もない。

 一体どうしたものかと呆然としながら二人で骨竜を眺めていると、ルナが背後からやってきた。

 

「一旦、置いておくしかないと思います。これを運ぶのは現状不可能ですから、後でチビルナを呼んで解体しましょう」

「呼ぶのか?」

 

 それこそかなりの時間がかかってしまいそうだが。

 

「はい。これから先に向かうには、中継地点が必要ですから。……ここは丁度、大きな空き地ができました。拠点を築くには丁度良いかと」

「そうか。……そうだな」

 

 本来の目的通り、一度戻って立て直しを図るということだ。

 皆を連れてくれば解体も地方攻略も楽になるはずだ。

 問題となる移動時間を、今作っている車とやらで解決するのだろう。

 

「イオにデータを送って、向こうでも車を作ってもらっています。移動時間は大幅に短縮できるはずです」

「流石リーダー。任せるよ」

「はい! ……考えていたんです。お二人が戦っている間に、私に何ができるかを」

 

 戦えないリーダーにできること。

 それは戦い以外を迅速に、円滑に対応することだとルナは決めた。

 今自分が作っているものを、イオたちは既に製造し始めている筈だ。

 それもより大型のもの――みんなを運べるようなものを。

 

「ふふーん。うちのルナは凄いのよ?」

「なんでお前が自慢げなんだ……まあいい。とりあえずは移動するってことだな。そしたら、これはこのままか?」

「そうするしかないと思うけど……そしたら他の混獣種に食われるのがオチね」

 

 あれ、食べられるのかしら?と呑気にカルメが呟く。

 分からないが、あの化け物たちなら気にせず食べられそうだ。

 

「せめてどこかに隠しておこう。ルナ、方法はあるか?」

「……そうですね。では保管用の倉庫を作りましょう。壊れた建物を使えば簡易的なものができる筈です。手伝ってもらえますか?」

「ええ!」

「了解した」

 

 会話している内に体力も大分回復してきた。

 ルナの指示の下、ようやく静かになった都市の中を動き出す。

 

「倉庫は俺とカルメでやろう。ルナ、お前は車をそのままやってくれ」

「ありがとうございます。倉庫はどこか一面、開いた建物を利用して下さい。壊してもいいかと。そして、これを」

 

 そう言ってルナが大きな筒状のものを取り出してきた。

 

「これは?」

「魔獣の皮を使った遮蔽材です。テントに使っているもので、遮光、防音、匂いもある程度は防いでくれます。これで死骸も、建物も覆えれば簡易的な倉庫にできるかと」

「なるほど、それなら大丈夫そうだ。助かるよ」

 

 ルナから遮蔽材を受け取ろうとして――その紙を他の誰かに掻っ攫われた。

 やたら真っ白で細いその手は……骨だった。

 

「ほお! こんな便利なものがあるとは! 技術進歩とはすごいのぉ」

「……は?」

 

 そして聞こえる知らない声。

 地の底から響いてくるようなしわがれた声に導かれて振り向けば。

 

「で、お主ら、一体ナニモンじゃ?」

 そこには襤褸切れのような布を纏った、骸骨が立っていた。

 

 

***

 

 

 突如として現れた骸骨人間。

 土色の外套を身にまとい、隙間からは真っ白な骨が覗いている。

 本来肉に覆われているはずの空隙には黒い靄のようなものが詰まっており、特に眼孔には怪しく灯る紫の光が揺らいでいた。

 

 どう考えても常識外の生物の登場に身構えるが、心に占めるのは先ほどの問いへの回答だ。

 お主らいったい何者か?

 

 ――それは、こっちの、台詞だ!!

 

「……俺たちは旅の者だ。砂漠を渡っていたんだが、ここでこの竜と、もう一体の竜に襲われたんだ」

 

 だがその叫びは心の中で呑み込んで、当たり障りない回答をひねり出す。

 この時代に生きていて、しかも集団で活動している俺たちにとってそんな回答があるのかは知らないが。

 この男?は突如音もなく、念のため放っていた周囲の蛇をすり抜けて現れた。見た目は骨だが、今後ろに倒れている竜も骨に覆われている。決して、油断はできない。

 だがこちらの不安を他所に、動く骨はこちらを眺めてはほうほうと呑気に頷いている。

 

「ほお! それは難儀じゃったの。……その竜は死んでおるようだが、お主らがやったのか?」

「いや、今言った別の竜の仕業だ。そいつはこれを燃やした後、どっかへ消えていったよ」

「ほう。……それは、青い竜ではなかったかな?」

「――――!!」

 

 骨の男の言葉に、全員が固まった。

 

「知っているのか」

「そりゃあ、ここに住むものは全員知っとる。あれは、霊竜じゃ」

「霊竜……やはり、いましたか」

 

 ルナの呟きが微かに聞こえてくる。南東部に竜がいなかったからこそ、リヴラ号が作られたと聞く。

 長い時を生きる竜の中でも頂点とされる霊竜。

 混獣種だろうと、文字通り一撃で殺していった怪物としては納得の答えだ。

 

「あれは何者だ?」

 

 ああ、違う。それも知りたいが、聞きたいのはそれじゃない。

 もどかしい問いかけを笑うように、骨の男は快活に答える。

 

「昔からこの地域に暮らす竜じゃよ。あの魔獣どもが支配するより、ずっと前からな。ここから北東の岩山地帯に住処がある。ああして出てくるのは、随分と珍しい」

「よく知っているな。……なあ」

 

 ああ、よかった。やっと聞くことができる。

 安堵と共に、目の前の謎の骸骨男へと、その問いを投げかけた。

 

「あの竜以前に、アンタはいったい何者なんだ?」

「ん? おお、すまんすまん。すっかり名乗るのを忘れておったわ!」

 

 そう言って、骨は白と黒の右手を挙げた。

 

「ワシはヤザンという。見ての通り、骨じゃ」

「いや、骨って……なんだ?」

「はっはっはっ! なんじゃろうな。自分でもようわからん。わからんが、ようはただの死にぞこないよ。何の因果かこうして生き残って、この砂漠を彷徨っておる。知っておるか? あの魔獣たち、骨は喰わないんじゃよ」

 

 そう言って再び骨が笑い始める。

 我らと大して変わらないこの声量は一体どこから響いてきているのやら。

 しかしこの男、死にぞこないと言ったか。

 確かに見た目はその言葉通りだが……。

 

「ねえねえルナ、あんな種族、いるの?」

「……流石に、動く骨がいるとは聞いたことがありませんが……」

 

 こそこそとルナたちの会話が聞こえてくる。

 いつの間にかエリも合流しており、俺たちの会話に聞き耳を立てている。

 僅かな好奇と大きな不安の視線を背に受けながら、目の前の骸骨と慎重に会話を続けていく。

 

「ヤザンか、アンタはこの砂漠にずっと?」

「ああ。もう長いことな。……正直、今どれくらいの時間が経ったのかさえ分からんほどには生きとるよ」

 

 長い時が経ったと、骨ことヤザンは都市を振り返る。

 元は虫の混獣種に。今は俺らとあの竜に破壊され無残な姿になったこの街を。

 

 彼がどんな人間……存在かは知らない。

 だがもし俺のように、元々はただの一般人で、この都市で生きていた人間だとしたら。

 唯一生き残った彼の心情は、一体どんなものなのだろうか。

 

「だが、ワシにも分かることもある」

 

 そう言ってこちらへ振り向いた骸骨の顔は大きく開かれていた。

 多分、あれが笑っている顔なのだろう。

 黒い靄を纏った指を立て、笑う骸骨は告げる。

 

「事情は知らんが、お前さんら、この国に何か用があるのだろう? ワシが教えてやろう――あいつらの殺し方を」

 

 砂漠に突如現れた生きる骸骨。

 彼がもたらすものは一体何か。

 壊れた都市の中に、乾いた砂風が通り抜けていった。

 

 

 

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