人類は移住しました 残され者たちは世界再生の旅に出ます   作:穴熊拾弐

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第55話 合流

 

 

 夜の帳が下りた砂漠を、一つの巨体が駆け抜ける。

 分厚い四つの車輪を回転させ、砂に沈まぬように滑り進んでいくそれは、ルナが見つけ再生した砂上用の走行車両。

 複雑な砂の起伏の衝撃を上下する車輪が吸収し、あれだけ踏破に時間のかかった砂丘を軽々と飛び越え進んでいく。

 

「はっはっはっ! こりゃ凄いのー!」

「揺れが……きついな……」

「なんだか昔を思い出す……うっ、気持ち悪い……」

 

 三者三様の感想を呟きながら、砂上走行車に乗って砂漠を突き進んでいく。

 一方運転席のカルメとその横に座るルナは黙って前方を見つめている。

 その先は、殆ど何も見えない暗闇が広がっている。

 そう、今は一切の明かりを灯さずに走っているのだ。

 

 地下洞窟で知ったのだが、ルナたちは全員が暗視能力を有している。

 見える色は実際と違うしそこまで遠くまでは見通せないようだが、彼女たちの目には明かりの下と変わらない範囲が見えているらしい。

 

 俺たちが一緒にいなければ、本来夜間に明かりを出す必要すらないのだ。

 彼女たちがこの魔獣だらけの世界で生き残れたのも、その能力の寄与するところが大きかったのかもしれない。

 

 更に彼女たちの脳内には歩んできた地図が刻み込まれている。

 動体視力に優れるカルメが運転を担当し、ルナが最速ルートを指示し駆け抜ける。

 それをやってようやく、三日以内に最初の拠点へと戻ることができるのだ。

 右手を壊されているカルメだが、舵――ハンドルに右手を突っ込んで器用に操作している。

 

「で、戻ってどうするんだ!?」

 

 最早蛇を飛ばす余裕もないので、諦めてヤザンとの会話に専念する。

 移動時間はあるとはいえ、のんびり座っているだけではいられない状況だ。

 何故なら――。

 

「卵を孵化させなければよい! そうすれば、しばらくの間は都市を巣にすることを防げるんじゃ!」

「どう、やって!」

 

 飛び跳ねる車体にしがみ付きながら、お互い吼えるように会話をしてく。

 ――単純に、会話をするだけで一苦労なのだ!

 

「言ったじゃろう! 卵が都市に運ばれた後、最初に食った奴が主になり巣を作ると!」

「ああ!」

「なら簡単じゃ。誰も食えない様に封じてしまえばよい!」

「――できるのか?」

 

 それは、言われてみればその通りだろう。

 だが、俺たちは混獣種の生態をまるでよく知らない。

 問いかけに、ヤザンはガタガタ骨を鳴らしながら笑う。

 

「具体的な方法は知らん! だが、お前さんらならできるじゃろ? あの骨竜の死骸を封じたように!」

「――肝心なところは人任せか!」

「やったことがないんじゃ! 知るわけがなかろう! だが、それさえできれば巣にすることは防げる。それは保証しよう!」

「ちっ……やるしかないか……!! ルナ!」

「聞こえています! 急ぎ戻って検討せねばですね……!!」

「よし! じゃあもっとスピードアップよー!」

「「「それは、やめろ(て)!」」」

 

 だが懇願空しく、カルメによってさらなるアクセルが踏まれ砂の丘を猛スピードで飛び越えていくのだった。

 

 

***

 

 

 それから丸一日をかけて、俺たちは最初の都市スルゥトへと戻ってきた。

 

「死ぬかと思った……」

「同感です……」

「腰骨が外れた……」

 

 ただ乗っていただけだったのに全身ボロボロになった俺たちは砂の上に倒れこんだ。

 人類は何故こんな過酷な乗り物を……いや、使い方がおかしいだけか。

 下らないことを考えて気を紛らわせていると、カルメが覗き込んできた。

 

「魔王様でも乗り物には弱いのねー」

「昔から馬車は苦手でな……これは、更に酷かったが」

「でもおかげで間に合ったでしょ? 感謝してねー?」

「ああ、助かったよ……」

 

 カルメの手を借りて起き上がると、同じく元気なルナが周囲の都市を調べているのが見える。

 彼女なら、以前訪れた時の都市の姿を正確に記憶している。その時との違いがないかを確かめているのだろう。

 

「ルナ、どうだ?」

「都市に異変はありません。まだ卵は来ていないようですね」

「そうか」

 

 カルメの言う通り、おかげで何とか間に合ったらしい。

 だがまだ間に合っただけ。安心しては居られないと、未だに砂の上で寝転んでいる骨男の下へと近づいていく。

 

「で、ヤザン。具体的にはどうすればいい?」

「あたた……少しは休ませんかい」

「お前が急げと言ったんだろうが。寝たままでいいから、さっさと言え」

「人使いの荒い男じゃな……まあいい。骨竜が卵を落とす場所は大体決まっとる。奴らは細かい仕事はできん。だから卵を置けるくらいの広さがあって、奴らが留まれる高い場所――要はこの都市で一番高い建物に放り込んで終いじゃ」

 

 そして、と続ける。

 

「そんな場所は大抵都市に一つじゃ。つまりは、前と同じ場所に置かれると思っていい」

「となると、あそこか」

 

 以前に卵のあった、巨大建築物へと視線を向ける。

 

「骨竜が卵を運ぶときは、むき出しのままじゃ。だから周囲の巣に属さない奴らや、巣からたまたま外に出ていた連中を引き連れてやってくる。卵を封じるにしても、先ずはそいつらを潰さないと始まらん」

「落とした瞬間封印するっていうのは無理か?」

「封印しても臭いが直ぐに消える訳でもあるまい。周囲の混獣種どもはその残り香を追い求めてやってくるじゃろうな。それに、骨竜もおる」

 

 卵の運び手は直ぐにいなくなるわけではなく、巣ができるまで見守る場合もあるという。

 その状態で卵に手を出せば襲ってくる可能性が高い。……いや、間違いなく戦闘へ発展するだろう。

 むしろ、骨竜との戦いを本番と考えたほうがいい。

 

「結局、戦いは避けられないか」

「ですがここで勝てばしばらく都市は安全です。このスルゥトはともかく、この先の都市は拠点として必ず確保したいです」

「それに、本当に卵を封印できるか確かめないとね。ここなら、船で来たみんなも手伝ってくれるし。だよね? ルナさん」

「はい。出発前に連絡をしておきました。全員は無理ですが何人かは来てくれるようです」

「……やるしかないか」

 

 例え骨竜や押し寄せる混獣種どもに勝ったとしても、卵が封印できるかは賭けだ。

 ルナとランバ、あとはロア辺りに何とかできなければ、取れる手段は一つだけ――周囲のあぶれた混獣種を全て撃滅して、誰も卵を食べれない様に殲滅するしかないだろう。

 だがそれにはどれだけの労力と時間がかかるか全くもって分からない。

 この巣に固執した結果、セムルに卵が落とされれるなんて事になれば元も子もない。

 だから、我らが頭脳班が素晴らしい答えを導いてくれることに期待しよう。

 

「あ、来たみたいよー」

 

 屋根に上って周囲を警戒していたカルメが声を上げる。

 そちらを向けば、南側から砂埃が上がってくるのが見えた。

 

「あれは?」

「イオに頼んで、向こうでも砂上走行車を作ってもらったんです。あちらは大人数が収容できる大型を」

「なんと、いつの間に! お主らの技術は本当にすごいのー」

「……?」

 

 ヤザンのその反応に、ふと疑問が浮かぶ。

 ルナが今告げた技術――遠隔地へ情報を送る通信装置は今でこそ希少だが、人類史末期には当たり前のものだった筈。もっと簡易的なものならば俺の時代にも存在したものだ。

 そう言えばさっきも車に乗ったことがなさそうな反応をしていなかったか。

 

「……アンタ、いつの時代の人間なんだ?」

「ん? さあの。そんなもん覚えとらんわ」

「……そうか」

 

 気にはなるが、今はそんな暇はなさそうだ。

 直後、真っ黒な車体が滑るように都市に走りこんでくる。

 猛スピードのそれは砂をまき散らして、俺たちの眼前でその動きを止めた。

 俺たちの砂上走行車の倍はある巨体で、車輪だけでルナの背丈を軽く超えている。

 

「ルナー! お待たせ! カルメー、腕持ってきたわよー!」

「やったー! イオ大好きー!」

 

 扉が開かれ、運転席からイオが現れる。何故か真っ黒の眼鏡を付けていた。

 彼女は車体の横にある足場に軽やかに飛び降りると、並んだ3つの扉の一つを開けた。

 

「ほら、着いたよ! 起きて!」

「待て……ちょっと休ませろ……死ぬ……」

 

 そんな彼女が引っ張り出したのは、鳶色の毛の塊――ではなく、ぶっ倒れたロアだった。

 

「もう、これくらいでだらしないなあ!」

「うるせえ……こんなもん人が乗るもんじゃねえ……」

 

 わかる。わかるぞ、ロア……。

 同じ目に遭ったこちら側三人も深く頷いている。

 しかし――。

 

「二人だけか?」

「これで来たのはね。安心して、この中に必要そうな資材をたっぷり詰めてきたから。それに――」

 

 ずん、と揺れが響いた。

 音の方を見れば、外の砂漠から飛び込んでくる影が一つ。

 あれは――。

 

「みなさーん!」

 

 子どもらしい甲高い声とともに、巨大な影が都市に降り立った。

 木で編まれた巨人の姿のそれは、シンジュである。

 その両肩にはヤマとウミが腰かけていた。

 

「連れてきたのか?」

「仕方ねえだろ。シンジュはでかいからあっちの仮拠点に入れねえんだよ。あいつらから離れねえし、ならこっちにいた方がいいだろ。あっちはランバに任せて連れてきた」

「こっちは安全ではないぞ?」

「あ? お前らいるんだから平気だろ?」

 

 いや、と言いかけて口をつぐむ。

 確かに少数しかいない拠点にシンジュたちを置いておくよりは、戦力の居るこちらの方が安全か。ランバ一人なら、チビルナたちを回収して図書館に逃げ込む事もできるから大丈夫だろう。

 何より当然負けるつもりもない。シンジュの戦闘力ならばむしろいてくれた方が心強くはある。

 

「それにあいつらもただ守られるガキは嫌なんだと」

「……そうか」

 

 見た目は幼い彼女たちを戦わせることにどこかまだ抵抗のある自分がいるのだが、それは彼女たちにも失礼なのだろう。

 それに二人の強さはよく知っている。虫程度には負けはしないか。

 

「シンジュ、またあとでジャンプしましょう!」

『楽しい……』

『――――!!』

 

 ……精神年齢もまだ子どもなようだが、強いことは確かだな、うん。

 

「……お、お、おお……」

 

「あ? なんだ、あんた――」

 

 現れた全員を見て、ヤザンが口をあんぐりと開けている。

 そして、それでようやく拠点組も、ヤザンを――なぜか自立する骨の男を初めて認識したのだった。

 

「何じゃお主らー!」

「骨が喋ってるー!?」

「……ああ、そう言えば。俺たちの紹介、忘れてたな」

 

 マナホールの説明こそしたが、俺たちが何者なのかは言い忘れていた。

 

 賑やかな絶叫が響く砂漠の都市。

 そこには、白亜の巨竜が迫っていた。

 

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