人類は移住しました 残され者たちは世界再生の旅に出ます   作:穴熊拾弐

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第56話 それは戦争

 

 

 合流したシンジュたちを見た瞬間、絶叫しひっくり返ってしまった骨老人ことヤザン。

 その、どうやって繋がっているのかわからない骨の身体を引っ張り起こして、遅すぎた自己紹介を済ませていく。

 

 勿論、最優先はこれから来る卵への対策だ。

 ルナにロア、イオの知識組には卵をどう封じるかについて話し合ってもらっている。

 ヤザンへの説明役は、今は何の役にも立たない俺たち戦闘組だ。

 ちなみにカルメは腕の換装中である。便利な身体だ。

 

「で、この南西部に来る直前で見つけたのがこのシンジュ。こいつは……見ての通り木でできた人型生物だ。多分、人造の樹神様、その模造体だ」

『―――!!』

「よろしくー! って言ってます!」

「……お、おお。よろしく頼む……」

 

 俺やルナから始まり、最後に合流したシンジュの紹介を今終えた。

 こうしてみると、本当に色物の集まりである。

 元人間、ハーフだが獣人、妖精に魔王に勇者に模造神に人造生命体までいる。

 そして今、生きた骨男まで加わった。

 研究者が見れば垂涎ものの珍種の見本市だろう。

 ここにはもうまともな人型種が生き残れるような世界ではない、という証明なのかもしれないが。

 

「悪いな、紹介をすっかり忘れてた。改めてよろしく頼むよ、ヤザン」

「……」

「ヤザン? どうした?」

「……はっはっはっ!」

 

 返答はなく、いきなり大笑いをし始めた。

 どうしよう。詰め込みすぎて壊れたか。

 ひとしきり大笑いした後、ヤザンは思い切り頭を振った。

 

「いや、すまぬな。あまりにお主らが常識外過ぎて、もう笑いしか出てこんわ! こんな身体になっておかしなもんだと思うとったが、お主らはそれ以上じゃな!」

「そうか? あんたの方が変だと思うぞ?」

「ワシはただの骸骨じゃよ。世界を相手に戦争もしとらんし、ましてや神様なんぞあり得んわ!」

『――――!!』

「おお、すまんすまん! お主のことを悪くは言っとらんよ。許しておくれ。……しかし、まさか妖精と人が共存しているとはの」

「ん?」

 

 そう告げる彼の視線は、楽し気に会話をするエリとウミに向けられていた。

 

「あれ、ウミちゃんその服どうしたの? わ、ぷにぷにしてる! 透明な宇宙服みたい」

『師匠とイオが作ってくれた』

「そうなんだ! かわいい! 熱くないの?」

『冷たくて気持ちいい』

「え、凄い。私も欲しい。ネックリングとか作れないかな……」

 

 ……何の話をしてるんだ?

 まあそれはともかく。

 

「意外か?」

「当たり前じゃ。人と妖精は相容れぬ存在じゃろう。……だが、世界が滅んだというのならそんなことは小さな問題なのかもしれんな」

「……相容れない、ね」

 

 それは大分()()()発言だ。

 人間と妖精が不倶戴天の敵として対立していた時代は俺の知る限りは二つ。

 大災厄「魔獣戦役」の起きる前、今は大穴になったトゥリハが行った妖精狩りによって勃発した最悪の種族間戦争・人妖大戦の時代。

 そして、勇者がもたらした文明の発達により妖精の住処である自然が消滅しつつあった「最新」の時代だ。

 

 ルナの道具を碌に知らなかった事から、恐らくは前者だろう。つまりヤザンはロアと俺の間に生まれた、歴史的にも古参組の可能性が高い。

 ……まあ、演技の可能性もあるし、分かった所で大した意味もないのだが。

 

「あんたの言う通り、今この時代じゃそんなもん無意味だ。見れば分かるが、いい奴らだぞ?」

 

 ちょっと賑やかすぎるところはあるが。

 

「……そうじゃの。そうじゃった! 安心せい。そういうもんはこの身体になった時に捨てたわ!」

「わー!」

『――――!』

「おお、ヤマ殿、シンジュ殿! 改めてよろしく頼むぞ!」

 

 賑やかな声が聞こえてくるなか、分厚い服と水で身体を覆い隠したウミが話しかけてくる。

 

『……これから、戦うんでしょ?』

「ああ。馬鹿デカイ魔獣がわんさか来るぞ。ウミは大丈夫なのか?」

『平気。師匠とイオが、戦えるようにしてくれた』

「そうか。心強いよ」

『……ん』

 

 言動は全くもって不安だが、戦える連中だから心配は無用だろう……いや、ヤザンは無理か。

 兎も角、戦いの時は近い。

 カルメの換装も終わったようだし、急いで準備を整えなければ。

 幸い、その用意はイオがしてくれている。

 

「丁度いい。ウミ、手伝ってくれ。戦争の準備をするぞ」

 

 まだ日は高く、強烈な日差しが砂漠を焦がし始めている。

 この地方を再生するための戦いは、今ここから始まるのだ。

 

 

***

 

 

 樹と骨とが邂逅している間、魔王曰く知識組の3人――ロア・イオ・ルナは卵のあった建物の屋上に集まっていた。

 

「あっちは賑やかねー」

「本当に。ヤマさんたちの明るさにはいつも助けられています」

「あの骨の人……ヤザンだっけ? どうやって動いてるんだろうね?」

「さあ……こちらに来てからは、不思議なことばかりです」

 

 卵を破壊して九日。砕かれた肉泥は砂風に運ばれてもう殆どが残ってはいない。

 石壁の奥まで根を張ってこびり付いた一部が残っているだけだ。

 ルナが記録を送ってくれていなかったら、ここに巣があったことも分からなかっただろうとイオは思う。

 

 経緯はどうあれ、混獣種たちが百年以上をかけて作り上げ護ってきた巣も、あっという間に消えてしまった。

 南東部も同じ。どれだけ堅牢な都市を造ろうとも、壊れた瞬間に、自然というのは瞬く間に呑み込んでしまうのだ。

 

 その無慈悲さに少し感傷に浸るイオだったが、けだるげなロアの声にその思考は断ち切られる。

 

「そんなことは後で本人に聞け。で、ルナ。卵は何処にあったんだ」

「あ、はい。こちらです」

 

 卵のあった塔屋の上をルナが指し示すが、当然そこも何も残ってはいない。

 だが記録は残してある。念のためにと記録していた画像を塔屋上に投影して見せる。

 今見ていたものとまるで違う、赤黒い肉に包まれた台とその上に載った妖しく光る球体が映し出される。

 

「記録は見たけど、これ何なの? 周囲の赤いのも気持ち悪いし……」

「……核だ」

 

 ぽつりと、ロアが呟く。

 映された、分厚い肉泥に覆われたかつての卵へ手を伸ばしながら。

 

「核? 核って内臓の? でも、ここ外よ?」

「ああ、外に出てる。だから普通はあり得ない。だがこれは核だ。間違いねえ。……何なんだ、この土地は。何なんだ、こいつらは」

 

 吐き出すようにそう告げると、彼は腰に括りつけていた荷物入れから一抱え程の金属塊を取り出してイオに放った。

 鈍い金色の支柱が四辺を支え、中にある硝子の様な円筒には液体とともに大きな球体が浮かんでいる。

 

「これ見ろ」

「うわ、ナニコレ。中に入ってる球体、なに?」

「ひょっとして、これは核ですか……?」

「え、マジ?」

「そうだ。東にいたアルリザードの核……正確には、その核を使ったオレの発明品だが、まあそれは良い。で、こっちがお前らが送ってきた混獣種の核だ」

 

 続けて、同じ様な金属塊を取り出してくる。こちらはルナに手渡しで寄越す。

 今度はなんだと覗き込んだイオが顔を顰める。

 

「うげ、ナニコレ……。気持ち悪い」

「本当ですね。大きさも、色も全然違う……それに、動いてる?」

 

 アルリザードの方は形こそ所々凹凸が見えるものの、色は薄い黄色一色。

 一方混獣種の方は血管の様なものが浮き上がり、赤黒かったり一部は毒々しい緑が浮いたように染まっていたりと、兎に角気味の悪い外見。だが、確かに赤い部分は投影された卵に似ているようにも見える。

 そして、未だに生きているように脈動を続けていた。

 

「まさか、生きているんですか!?」

「そのまさかだ……多分だけどな。死んだ後に死体が動いた、何て話は聞くが、流石にこれは()()()()だ。なら生きてんだろ」

「そんな! だってこれはもう10日以上も前に死んだ生き物の核です! そんな筈は――」

 

 あり得ないと言いかけて、ルナは止める。

 同じことを考えていたのだろう、ロアは鼻で笑って顔を歪ませた。

 

「あり得ないことばっかり起きてんだろ、この時代は。オレからすりゃ、お前らが何で生きてんのかも分からん。人造生命体って、なんだそりゃ!」

「あははっ、確かに! ロアの1000年以上は後の生まれだからね、アタシたち」

 

 ルナから核を受け取って、陽に透かしながらイオは言う。

 

「そして、この核も……。そもそも混獣種の生態も全くわかんないんだよねー。どうして他の生き物を食べるとその一部を取り込めるんだろうね?」

「そうだ。何も分からん。だが、その混獣種の核は多分生きてるし、お前らの言う『卵』は、多分核だ。それはわかる。しかもとんでもなく巨大な、だ!」

「……そうですね。分からないことだらけです」

 

 その正体不明の獣だらけの土地を進まねばならないのだ。ルナ自身の目的のために。

 

 この先、何か一手間違えば全滅することもあり得る。

 否、ひょっとして、もう既に間違えているのではないか。

 自分が皆を死地に誘っているという、恐ろしい想像がルナの思考を蝕んでいく――が、その思考をロアの柏手が断ち切った。

 

「だが、相手が核ならオレの領域だ。ルナ、手伝え」

「え?」

「それと同じもんを造るぞ。それで卵を封じれば、多分巣作りは止められる」

「ほ、本当ですか!」

「当たり前だ。何でオレが錬金術師なんて呼ばれてると思ってる」

 

 そう言って、ロアは首にかけている金の首飾りを見せてくる。

 そこには最初に会った時からずっと三つの珠が飾られており――形こそ違うが、それは今、ルナが持っているものと同じものに見えた。

 

「そういえば、その球も――」

「ああ。これも核だ。……オレはずっと、核の研究をしてたんだ」

「はい、存じてます。これまでも魔王さまがロアさんのためにと魔獣の核を集めていました」

 

 その理由は誰も尋ねなかったが、何か意味があるのだろうとは理解していた。

 

「ああ、そういうことじゃねえよ。今もやってるが、生前――いや別に死んではねえんだが、オレの生きてた時代からやってたんだよ。その結果、他人の核を使って魔法を使う方法なんてものを見つけちまって、追われる羽目になっちまったんだが……オレのやりたかったことは()()()()だ」

「治療……?」

 

 凡そ錬金術師とは思えない単語だが、ロアは頭を掻きながら続ける。

 

「おかしくなった核を元に戻す。()()は、その治療の一環だった。オレは医者だったんだよ。今じゃ極悪人の錬金術師様だがな」

「……そんな、ことが?」

 

 錬金術師ロア。

 今いる仲間たちの中でもとびきり古い時代に生まれた彼の記録は殆ど残されていなかった。

 ただ人類で初めて金属魔法を編み出した偉人であり、同時に人――特に当時の最高権力層である獣人殺しの大悪人として、物語がほんの僅かに残っている程度。

 そんな彼が、伝承とは真逆の存在ともいえる医者だったとは、本人から聞いても信じられない言葉であった。

 

「医者がどうしたら犯罪人として歴史に残るのよ?」

「それは……色々あったんだよ! まあ今はどうでもいい。要は、オレは医者で核の専門家ってことだ! だからオレはこの核を許せねえ」

 

 ルナから混獣種の核を受け取って、ロアはそれを掲げて見せる。

 

「混獣種も、卵もそうだ。生物としてはとびきり歪! こいつらは本人の意思とは別で、無理矢理生かされているように見えて仕方ない。オレにはそれが許せねえ。……生命は、ちゃんと循環しなきゃいけねえんだよ」

「ロアさん……」

 

 医者として、人として。

 譲れない矜持が彼にはあるのだろう。

 

「卵はつぶしても新しいのが出てくんだろ? だったらこれで封じて、こっちで制御してやればいい。そうすりゃ巣は作られないはずだ」

「なるほど……それは名案かと! 直ぐに取り掛かりましょう!」

「頼む。構造は教えてやれるがこんだけデカいのは初めてなんだ。手伝ってくれ」

「はい!」

「じゃ、アタシが素材持ってくるよ。その後は見張りしてるわ」

「おう、頼む。……これは、生命への冒涜だ。誰がこんなことしてやがる?」

 

 首都があるという北西の空を睨み付けながら、ロアは吐き捨てた。

 

「……ねえ、ちなみにこれ、なんの装置なの?」

 

 不意に、イオが手に取ったアルリザードの核をくるくると回しながら尋ねる。

 

「あ? それは爆弾だな。建物一つくらいなら壊せるぞ」

「……は? ちょっと、なんてもの渡すのよ!?」

「オレが起動させなきゃ大丈夫だよ」

 

 慌ててしっかり握って固定する彼女にロアがからからと笑う。

 

「ということは、今から作る装置も……?」

「どんだけデカイ爆弾作る気?」

 

 目の前に浮かぶ卵の規模なら、街一つは吹き飛ばせそうな恐ろしさがある。

 

「んなもん作るわけねぇだろ。今から作るのは別口だ。……ちょっと、いいことを思いついてな」

「いいこと、ですか?」

「ああ。拠点を造るんだろ? せっかくこんなデカい核があるんだ。使わせて貰おうぜ?」

 

 そう言って、ロアはいつも通りの凶悪な笑みを浮かべるのであった。

 

 

***

 

 

 そして、それからしばらくが経ち。

 空が暗くなり始めた頃。

 

「……来たよ」

 

 スコープ越しに空を眺めていたイオが告げる。

 狙撃用の迷彩布――骨竜を隠すのに使用したものと同じ素材のそれを被って隠れるイオだけが周囲を監視し、他はそれぞれの場所に待機している。

 外見上はスルゥトは無人であり、それ故に骨竜は無警戒で都市上空へと到達した。

 

 巨躯を包む分厚い骨の殻は、第三の都市セムルで遭遇した個体とほとんど変わらない姿をしている。しかし、よく観察すれば細かな違いがあるのがわかるのだろう。

 だが、それを知ることは叶わない。

 

 骨竜はその足で巨大な球体を掴んでおり、速度を落として高層ビル残骸へと近付くと、それを半ば放るようにして屋上部分に置いた。

 

 ――その、瞬間。

 

「いま!!」

 

 響いた号令と共に、あらゆる事が同時に起きた。

 鳴り響く柏手の音と炸裂音。

 建物から幾つもの黒い線が竜に伸び、近くにある別の建物から巨大な影が飛び上がった。

 

 瞬きする程度の時間の後、それらは連続で結実していく。

 

 隠れたイオの銃撃で放たれた紫色の光は、骨の眼孔に叩き込まれ、仕込まれたロアの金属魔法が頭蓋骨内部を埋め尽くし眼孔から金属が花開く。

 その後を追って伸びたいくつもの蛇が骨竜の全身に纏わりつき、骨竜の顎と脚と翼を縛りつける。

 

 視界を奪われ、動きも封じられた骨竜。制御を失くしたその身体に、跳びこんだ巨影――シンジュが上から激突した。

 

『――――!!』

 

 自身と同じ規模の質量の衝突に、流石の骨竜も制御を失って地面へとたたきつけられた。

 墜落先はかつての大通り、その交差地点。

 

『ヤマ!』

「はい、ウミちゃん!」

 

 地響きを上げて落ちてきた骨竜とシンジュへと向けて、隠れていたヤマとウミが手のひらを向け力を込める。

 持ち込んだ資材である木と水を操って、蛇とともにその巨体を大地へと縛り付けた。

 

 これで、骨竜は抵抗することなく大地に括りつけられた。

 長い首を――急所を無様にも晒したまま。

 

「固定完了――カルメ、エリ」

「うん」

「はいはーい」

 

 イオの声を受け、彼女の横に最後の一手――カルメとエリが降り立つ。

 

「この手順であなたを殺すのは不本意だけれど……皆のため。次はわたし一人で、ね?」

 

 ふらりと屋上の縁から飛び降りると、一直線に骨竜へと飛び込み、聖剣と薙刀の全力の振り抜きで骨竜の首を骨ごと断ち切った。

 

「首、切れたよ。ルナさん、そっちは?」

「……大丈夫です。卵、確保できました!」

 

 一方の屋上では、ルナとロア、ヤザンの3人で卵の確保を進めていた。

 ロア謹製の核保護装置を使い、放り込まれた核を封印することに成功した。

 

「これでこの都市は守られました。良かった……!」

「いや、まだだろ」

 

 骨竜はあくまで第一段階。

 封じたとはいえ臭いにつられてやってきた混獣種たちは残っている。

 

「そうよー! 周囲からゾロソロ来てる! みんな、後は手はず通りに!」

 

 だが、巣にもいられないはぐれものなら大した敵ではない。

 その後僅かな時間で、魔獣たちは全て殲滅が完了し。

 第一の都市スルゥトは今度こそ混獣種の支配から脱することができたのであった。

 

 

***

 

 

 戦いの後、全員で大量に積まれた混獣種の死骸を片付けていた。

 

 特にロアは忙しなく動き回り、奴らの核を集めていく。

 そんな中、一人立ち尽くす男がいた。

 骨の男ヤザンである。

 

「本当に、倒してしまいおった……」

 

 強いとは思っていたが、まさか骨竜に何もさせずに殺し切るとは思わなかった。

 そして卵も見事封じてみせたのだ。

 魔王だ神だと言われたときは訳が分からなかったが、こうして目の前で見れば納得する他ない。

 

「こいつらなら、成し遂げるかもしれんぞ?」

 

 かすかな呟きは、誰に聞こえることもなく砂漠の中へと消えていった。

 

 

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