人類は移住しました 残され者たちは世界再生の旅に出ます   作:穴熊拾弐

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第58話 襲撃者

 

 

 降り注いだ木の矢の雨。

 完全に側面を突かれる形となったのだが、幸いヤザンのお陰で一瞬速く気づくことができた。

 

 肩の蛇で視界を確保し、直ぐに矢の方へと蛇を一匹飛ばした。

 着弾するその寸前に、狙いも定めず爆破する。

 大した魔力は吸えなかったがそれで充分。

 

「うわっ――!?」

「くっ!?」

 

 突然の爆風に全員がよろめくが、それが皆を守ってくれた。

 矢は風を受けて逸れ、俺たちの周囲に突き刺さることで事なきを得た。

 

「何だ、一体……?」

 

 突然の出来事に驚くも、呆然としている暇はない。

 直ぐに蛇を飛ばして前方を塞ぐ壁を作り出す。第二射はこれで防げる筈だ。

 その上で直ぐに周囲を見渡すが、視界に映る影は見えなかった。

 イオが近くに刺さった矢を一本、素早く回収して眺める。

 

「矢ね。しかも木製よ、これ。一体どこから……?」

「街の中でしょうな。他に起伏はありません」

「それより、ヤザンさんが……!!」

 

 直ぐ横にはヤザンの身体は残ったまま。だが、その頭はどこにも見あたらない。

 矢で射たれて飛んでいったのだろう。

 

「あの骨、なんで立ったままなの!?」

「知らん! 悪いが後回しだ!」

 

 吹き飛んだ頭が穴の下に落ちていないことを祈ろう。

 

「来ました!」

 

 東側を警戒していたランバが叫ぶ。

 残ったままの建物跡の向こうから、十数本の矢が飛来する。

 蛇の盾を向けて全て防ぐが、それほどの数を一体どうやって――?

 

「――見えた!」

 

 狙撃銃を向けたイオが吠え、銃撃音が鳴り響く。

 それは寸分違わずに矢の飛来した先の屋上を撃ち抜いた。

 

「――っ!!」

 

 黒い何かが飛び散ったのと同時に、人影が屋上から飛び降りた。

 

「一人よ!」

「何……? なら追うか」

 

 恐らく騎士ではない。

 俺たち以外の別勢力だろう。ここで逃がしては危険だ。

 だが――。

 

「待って! 木が――」

 

 周囲に刺さっていた木の矢が爆発的に成長を始め、幾重もの蔦となって襲いかかってきた。

 

「何ですか!? これは――」

「身動きが……」

 

 足下からの変化には対応が間に合わず、俺たちは絡めとられてしまう。

 蛇と工具で簡単に脱出することはできたが、その時にはもうイオの視界でも捉えられなくなっていた。

 

「……逃がしたか。一体何だったんだ……?」

「全員無事?」

「我輩は問題ありません。ルナ殿も」

「はい。ですが、ヤザンさんが……」

 

 俺たちは無事だったが、最初に首から上が吹き飛んでいたヤザンに視線が集まる。

 何故か立ったままのその身体が――いきなり動き出してこちらに指を立ててきた。

 

「死んどらんよー! 助けとくれ!」

 

 そして離れた所からヤザンの声が聞こえてきた。

 

「……うそぉ」

「……あれで生きているとは……流石に信じられませんな」

 

 探してみれば、近くの砂に蔦に締め付けられて落ちている頭蓋骨を見つけた。

 砂に僅かに埋もれた骨がパクパクと動いている。喋る生首……つい最近、似たような光景を見た気がする。

 

「お前の身体はどうなってるんだ……」

「ワシにも解らんよ。さ、拾っとくれ」

 

 仕方なく蔦を切り裂いて拾い上げると、ついてきていた身体に取り付けてやる。

 触れ合った断面から紫の光が吹き出ると、直ぐに繋がったのか首をぐるりと回し始めた。

 カルメの時も思ったが、どうして首が取れても生きているのだろう。全くもって理解ができない。

 

 俺の身体も、案外とれても大丈夫なのだろうか。

 ……首は試したことがないんだよな。いや、試す気はさらさらないのだけれど。

 

「いやー、助かった! すまんの。まさかこんなところで襲われるとは」

「そうだな。……で、ヤザン。教えてもらおうか。さっきのあれは何者だ?」

 

 さっきこいつは言っていた。問題は他にもあると。

 実にタイミングが良い……いや悪いのか? どちらにせよ丁度その()が襲ってきたということになるのだろう。

 

「いや、詳しくはワシも知らんのだがな……少し前から現れての。ああして命を狙われるんじゃ」

「つまり、あれはお前目的か」

 

 確かに俺たちよりも先にヤザンの頭が吹き飛んでいたから、こいつが最優先目標だったと考えていいだろう。

 ……つまりこいつと一緒にいるとこれからずっと狙われるということか?

 

「お主、もうワシを置いていこうと思っとるじゃろ」

「良くわかったな」

「だがもう遅い! あ奴はお主らも認識したからな。もうお前らも攻撃対象よ!」

 

 そう言って高笑いを始めやがった。こいつ……。

 

「イオ殿、相手の姿は見えましたか?」

「分かんない。顔は隠してたし、一瞬だったから。でも体格は細かった……かな?」

「……ふむ。現時点で分かることは、我々の他に生きた何者かがいるということくらいですな」

「死んでるかもよ?」

「……」

「ちょっと黙んないでよ! 冗談だったんだけど……」

 

 実際に動いている死者をたくさん見ている現状だと、流石に笑えない。

 現に首を外れてなお動いている骨男が、唯一笑い声を上げている。

 

「……まあいい。やることは済んだ。戻ろう」

「そうしましょう。……考えることもできましたし」

「ああ」

 

 それに、収穫が何もなかった訳ではない。

 先の木の矢に蔓のように変化したあの攻撃。心当たりがある。

 ランバを見ると彼も理解したのか頷きを返してきた。戻り次第、早々に相談しておかねばならない。

 あれは恐らく妖精魔法だ。それも過去の時代にいた、本来の妖精の。

 

 

***

 

 

 それから数日は、何事もなく平穏な時間が過ぎた。

 

「それではみなさん、今日も頑張りましょう。いただきます」

「「「「いただきます」」」」

 

 セムルに築かれた新たな拠点の中心部。

 かつて卵が置かれていた建造物の一階部分を利用した食堂で今日も日課の朝食会が始まった。

 拠点がようやく形になったのが二日前。それからはリヴラと同じように集まって食事をとるようになった。

 ……最初に出来た食堂では新たに増えたシンジュが入らなかったので、天井を一部壊して吹き抜けにしたのは流石にやりすぎな気はしているが、ヤマの一声は絶対なのである。

 

「……しっかし、こんな砂漠の中でも変わらず飯が食えるのは、すげえよな」

「まさしく。これも文明の賜物ですな」

「おいしーです!」

『うん』

『――――!!』

 

 本来ここは枯れた砂漠であるが、リヴラ製の設備があれば室内で食物を育成・生成できるから問題ない。

 混獣種ばかりのこの大地では肉が手に入らないのが唯一の問題ではあるが、まだ南東部の備蓄はあるし、魚の類は海から大量に採れる。食事の心配はいらないだろう。

 ちなみにシンジュは普通に食事をとる。今も焼いた魚を丸ごと飲み込んでいる。消化方法は不明だ。

 

「お主ら、とことん規格外じゃの……」

「そう? その姿で動いているアンタも大概よ?」

「石を食っとるお主が一番おかしいわ……」

 

 食事が不要なヤザンも、朝食の場には出てもらっている。

 なんだかんだこの時間が全員が揃う唯一の場なので、疑似的な会議になっているからというのが一つ。

 もう一つは、彼から目を離さないため。

 

 この南西地方に入ってしばらくが経ったが、こいつの様な生命体は他に見ていない。

 こいつは、やはり特殊な『何か』なのだろう。その正体を見極めねばなるまい。

 だが当の本人は呑気に――彼自身は必死に声を荒げている。

 

「おかしいじゃろう! ここは砂漠じゃ。何でこんなに豊かな暮らしをしとる! 食事に水に、建物まで……あっという間に作りおって!」

 

 周囲を骨の手で指し示しながらヤザンは吼える。

 

「……おかしいの?」

「おかしいよ。充分な」

 

 カルメの問いに珈琲を――本来この枯れた地に育つはずのない植物からできたものを飲みながら答える。

 ……うん、実におかしな状況だ。

 人が消えて数百年は経った砂漠に、たった数日でこの拠点は作られた。

 寝床もライフラインも完備。しかも、あれだけ苦しめられた『暑さ』からも解放されている。

 

「……確かに、ここが砂漠だなんて信じられん快適さだ」

「ロア殿の式のおかげですよ」

「元は人類の技術だよ。オレはちょっと手直ししただけだ」

 

 この拠点には今、アルトに浮いていた基盤式と同じものが上空に敷かれている。

 ルナとロアが作り出した大型の基盤式発生装置によって、気温は快適に保たれ都市を囲む外壁には魔獣を防ぐ結界が張られているのだ。

 

 ちなみに、その装置はあの骨竜の核を使っているらしい。

 故に強固で強力。そこに敷かれた障壁は、骨竜のあの熱線だって数度は防いでみせるだろう。

 

 何度か周囲の探索を行ってみて改めて分かったことだが、この拠点は安全だ。

 拠点がある虫の地域まであの騎士団はやってこない、監視の目である骨竜も欺いた。

 虫も、たまに境界を越えてやってくる獣も結界を破ることはできず、俺たちの敵ではない。

 故に安全。少なくとも、混獣種に対しては。

 

 不安要素は二つある。あの霊竜と、先の襲撃者だ。

 

 ヤザンは詳しくは語らなかったが、木の襲撃者について何かしら知っているとみて間違いない。

 あいつの狙いは間違いなくヤザンだった。

 もしあれが本当に妖精なら、気をつけなければならない。人間、獣人に並ぶ知性ある三種族の一つ。相手によっては――それこそ古代から生き抜いた奴であれば、そこらの飛竜より危険なのだから。

 

 そしてそんな妖精が狙うこの骨男の正体は、一体……。

 

「おじいちゃんも試しに食べてみたら? 美味しいかもよ?」

「歯が砕けるわ!」

「そしたら繋げばいいじゃない。首みたいにー」

「粉々になったらどうするんじゃ! これでも大事な身体じゃわい!」

「えー、残念ー」

 

 ……そこまで危険度はなさそうだが、油断をしてもいけない。このヤザンはそういう存在だ。

 

 食事が終われば、いつもの通り各自の役割へと戻っていく。

 ルナはランバと共に再び図書館に籠り、集めた資料と蔵書を元に調べ物を進めている。

 ちなみに、霊竜の居場所はヤザンが知っていた。この国に暮らしていたのだから考えれば当然のことであった。

 今は、あの霊竜や騎士たち、まだ生き残っている者たちについて、改めて調べているのだろう。

 ロアの方は骨竜の核を調べているようだ。

 

 その間、拠点の建造は引き続き行われている。

 ヤマとウミ、シンジュはその手伝いをしている。彼女らの妖精魔法とシンジュの膂力は運搬に便利だと好評だ。

 チビルナなので身振り手振りで判断するしかないが、多分。

 

 ヤザンも彼女たちと一緒にいることが多い。特に頼んでもいないのだが、彼自身が好んでヤマたちと交流を図っているようだ。

 ウミ曰く特に問題はないようなので、そこは任せている。

 ただ、時折ふらりと姿を消しているようだ。

 イオやエリにそれとなく見張ってもらってはいるが、四六時中の監視は不可能だ。

 あいつはやけに気配が薄い。本気で隠れられれば誰も追うことが出来ない程に。

 そこまでして、一体どこへ行っているのやら。

 

 そして残りの俺たちは作戦会議を続けていた。

 いつもの地図を広げ更新しながら、これからの行動についての話を進めていく。

 

「ここ数日の探索で、周囲の地形や都市の位置は大体わかった。そして分かったことは、抜け道や安全なルートはないってことだな……」

 

 周りの都市を外から観察して、何処が何の巣になっているかを調べていった。

 その結果わかったことは――散々話していたことではあるが、混獣種の領域は綺麗な層構造になっているということ。

 南西の端にあるイグトゥナを中心に、騎士、獣、虫――と円状に近い形で層になっている。

 俺らが今いる拠点セムルがあるのは虫の層。その西側を境に、獣の巣が広がっている。

 例外はなく、強いて言えばクプル周辺のみ虫の領域を侵食するように獣の領域が広がっているが、あれは巣とは言えないレベルなので無視でいいだろう。

 

 要は、どのルートを通ろうが獣の巣をいくつも乗り越えなければならず、その先にはあの騎士団が待っているということだ。

 

「どうやってあの騎士団を突破するか。それを考えなければな」

「正面突破じゃだめ?」

「駄目!」

 

 カルメの問いにイオが叫ぶ。

 

「あれを相手にしたら、無事じゃ済まないわよ……」

「イオが言うならそうなのねー。わたしは通用するのかしら?」

「一対一なら問題ない……筈だ」

 

 戦ったことがないから分からないが、俺の時代の騎士なら良く知っている。

 エリたち勇者の教導役だという騎士団長と何度かやりあったが、あのレベルなら問題はないだろう。

 

「問題は数だ。俺たちが見たのは十騎程度だが、都市にはもっと多くが備えているだろう。騎士の巣に突っ込むのは絶対に避けたい」

「そう、残念。古の騎士様、戦ってみたかったわ」

「安心しろ。どうせ戦う」

 

 どういう手段を取ろうとも、イグトゥナへは必ず行かなければならない。

 そしてそこには必ず騎士が待っているだろう。なにせ首都だ。最も力ある騎士が護っている筈だ。

 間違いなく、激戦が待っている。それこそ命を懸けねばならない程の。

 思えば今まで誰も欠けずに来れたことが奇跡的ではあるのだが、できるなら全員が無事なまま終わらせたいものだ。

 

「……そう、なら尚更頑張らないとねー。それじゃあ、わたしはこれで」

「ちょっと、どこ行く気?」

「修行よー。後は二人に任せるわ」

 

 後ろ手に手を振りながら、カルメは去っていってしまった。

 

「ったく、自分勝手な」

「構わん。どうせもう手段は一つしか残ってない」

 

 とん、と指さしたのは首都イグトゥナ。

 

「地上がダメなら、飛び越えていくしかない。霊竜を見つけて一気にイグトゥナへ行く。……これが唯一の手段だろう」

 

 上空からの降下作戦。

 それが俺たちに取れる唯一にして最大の作戦であった。

 

 

***

 

 

 そしてその翌日、いつもの朝食の場。

 チビルナたちが配膳をしてくれているのを早起き組――俺とイオ、ヤマたちで手伝っていた。

 

「おにっく、おーにっく!」

『珈琲は二つ。お水はたくさん』

「お弁当はお芋に揚げ肉ー! 魔物の肉はお断りー」

「オコトワリー!」

 

 楽し気に歌う三人とチビルナたちの声を聞きながら配膳を終える。

 この砂漠でも食料が自給できているのは、この文明の本当に良いところだ。

 

「これで良し。……ねえ魔王様、カルメ見てない?」

「カルメか? いや、あれからは見てないな」

「修行って言ってたけど……まさか、あいつ……」

 

 その後、一番最後にルナがやってきてもカルメが現れることはなかった。

 

「……カルメは? 見当たりませんが」

 

 彼女は彼女で何故か資料を一抱えにしているルナが周囲を見わたしながら言う。

 

「それが昨日から見当たらないのよね。修行って言ってたけど」

「そうですか……仕方ありませんね。皆さん、食事の前にいいでしょうか」

 

 皆の顔を見わたし、頷きが帰ってきたのを見て、ルナは卓の前に立ち告げる。

 

「本日、拠点の建造が終了します。後はチビルナたちに任せるだけで、この辺りの混獣種は追い払えるでしょう。……これで私たちは、霊竜の居場所へと向かうことができます」

 

 バン、と開いた資料が光る地図を背後に映し出す。

 トゥリハの北東、砂漠を越えた先にある岩残地帯が強く光り出した。

 

「彼の名はシルト……巣はここから北東の山岳地帯――竜の肋骨です。ここに向かい、霊竜シルトに協力を依頼します」

 

 死者の騎士団を超えるための霊竜懐柔作戦が幕を開けた。

 

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