人類は移住しました 残され者たちは世界再生の旅に出ます 作:穴熊拾弐
竜の巣の最奥にいたのは、肉を焼く女であった。
……どういうことだ?
『な、なんじゃお前ら! 一体どうやってここまで入った!』
全く同じ感想を抱いていたらしい女は口をあんぐりと開けて固まっていたが、直ぐに気を取り直して吼えた。
その右手に分厚い肉を抱えたまま。
「……いや、どうやってって……正面から?」
あまりにも想像していなかった光景に緊張感が途切れ、思ったそのままを答えてしまう。
『そんな筈なかろう! 竜の聖域だぞ? 耐えられるはずが……あ?』
女の困惑の声は、彷徨っていた視線とともに止まる。
その先にいるのは動く骸骨――ヤザンである。
『……お前……』
瞬間、ざわりと空気が変わり、辺りに振動する音が鳴り響く。
地面が、岩の殻が、何かに揺さぶられたように鳴動し始める。
「なに? 地震……?」
「いや、これは……」
違うと呟いたその直後。
凄まじい勢いで隆起した岩の棘により、ヤザンの首は後方へと吹き飛ばされていった。
「――――っ!!」
一瞬の出来事に、反応しきることはできなかった。
そのまま驚く間も与えられず、平らだった筈の地面から俺たちを囲むように岩の壁が四方に立ち上がる。退路はなく、完全に封じられてしまった。
その張本人――肉を抱えたあの女が前方の壁上に立ち、俺たちを見下ろしていた。
『ったく。なんじゃあいきなり。なんでこんなところに死霊の王がおる。思わず殺してしまったわ。……で? お前らは何もんだ?』
何故か竜の巣で肉を焼いていた女。
くすんだ黄色の髪を掻きむしりこちらへと向けられた顔は、陽に焼けたような焦げ茶色の肌。そしてその頬には明らかに人ではない特徴――岩に似た硬い部位が存在していた。
それはとある人型生物の、その一種族の特徴だ。
「土妖精……」
身体に自然の一部を宿した人型生物、妖精種。
目の前に立つ彼女は、その中でも大地を司る自然の子――土妖精であった。
そして、その背丈は成人のそれ。ヤマたちのような幼い外見ではなかった。
「それも我らの知る成体ですな。何故ここに……?」
「さあ、わからん。そして何故だか激怒している」
木妖精が木を操るように、土妖精は大地――岩や土を自在に操る。
その力は大地を隆起させ壁としたり、岩塊を撃ち出し敵を打ち砕いたりと何でもありだ。
「……全員、動くなよ」
つまり俺たちが今立っている大地全てが、彼女らにとっては凶悪な兵器と同じということ。
俺たちは今、彼女の手中にいるのと変わらない。彼女のほんの少しの気まぐれで、俺たちは潰れてなくなる。
『おい』
大地が震え、竜の肋骨が――岩の殻が鳴動する。
並び立つ俺とランバの顔の間を、頭ほどのサイズの岩の弾丸が通り抜けた。
『何を勝手に喋っとる。聞いてるのは吾だ』
「……すまない。なにせ、あまりに信じられない光景でね」
最悪なことに、どうやら相当な短気らしい。
相手は誇り高き妖精種。格下の人類に無視されればそれも当然か。
幸い会話には応じてくれそうなので、仕方なく問いかけに応える。
「俺たちは旅の途中でね。ここには霊竜シルトに会いに来た。……そこの、ヤザンの案内でな」
『ほう? 旅とな? ……ヤザン?』
顎で首を失くした骨を指し示すと、気怠そうに目線を向けた女が腕を振るう。
吹き飛ばされ倒れていた骨に岩の棘が絡みつき、地面に縛り付けた。
『……どうせそいつは死んでおらん。今まで何度も殺したからな』
「そうなのか……」
『ヤザンというのかこいつは。人間らしい名前をしよって……で? 主ら、結局一体ナニモンだ? さっさと応えい』
ばきり、と周囲の岩が鳴る。
機嫌を損ねたらすぐにでも殺されそうだ。それくらいの力はあるだろう。
「俺たちは大陸南東部から山を越えて来た。この南西にかつてあった、トゥリハという都市に用がある」
『トゥリハ? どこだそれは?』
「……知らない?」
妖精の成体ならそこそこ長い時を生きてきた筈だ。それでトゥリハの歴史を知らないだと?
若い個体という可能性はあるが、あの口調にこの力だとそれも考えにくい。となると……ひょっとして、こいつ、何も知らないな?
短気で、恐らく短慮の、脳筋の妖精に説明をしなければならないのか……。
ルナを連れてくればよかった。そう思いながら、どう説明したものかと頭を巡らせる。
慎重に、言葉を探りながら告げる。
「この山の近くに、大地に開いた大穴があるのは知っているか? 俺たちはその奥に向かいたい。だがそのためにはあの混獣種どもが邪魔でな。それで――」
「魔王、魔王!!」
「――――あ?」
エリに身体を揺さぶられ、我に返る。
目線を上げると、俯き震える妖精の姿があった。
『……あの大穴に? 人類どもがいったい何の用だと?』
岩が、大地が鳴動する。
石粒や砂塵が舞い上がり、彼女の周囲に渦巻いている。
そしてそれらが今にも襲いかかってきそうな圧が迫ってきている。
「……怒ってるよね? めっちゃ怒ってるよね!?」
「何が逆鱗に触れたというのでしょうか……」
「知らん……」
あまりにも一方的で理不尽過ぎる問答だ。
もしあれが俺の知る妖精の成体なら、相手は霊竜に並ぶ古代種族。その力は本物だろう。加えてあの短気さだ。逆らえば問答無用で戦いになるだろう。
だが、それがどうしたというのか。
混獣種に、竜に、お次は妖精――。
身勝手な強者にただただ振り回されるのはもううんざりだ。
「もういい……」
邪魔をするというのなら、例え妖精だろうと容赦はしない。
なにせこちらは、それより上位の霊竜と対峙しに来たのだ。妖精程度に止められる筋合いは、ない。
「マナホールを知ってるか。大地の妖精よ」
蛇を解き放ち、周囲へと漂わせる。
竜によって研ぎ澄まされた魔力をたっぷりと吸わせて、幾つもの蛇が妖精を睨んだ。
『……何?』
「マナホールだ。……地名も知らなかったようだから、多分知らないんだろうが。人類はこの世界を壊した。その原因があの大穴の下にある。俺たちはそれを止めに来た……意味は分かるな?」
「ちょっと、魔王……」
『……ああ? 何を言って……というか主……その力は一体……魔王?』
妖精が混乱しているらしい。
だが、知るか。今度はそちらが理不尽を押し付けられる番だ。
「ただ、それには邪魔な連中がいる。あの獣どもだ。そいつらを倒して、この世界を正常化するには、霊竜シルトの助けがいる。だから俺たちはここに来た」
声を張り上げ、前へと一歩進む。
「分かるか? 俺たちは人類がおかしくした世界を元に戻そうとしている。お前は今、その邪魔をしている。今度はこちらが聞くぞ、妖精種よ。俺たちは敵か?」
大地の鳴動が止まる。
それに合わせ、展開していた蛇を止める。
『……お、おお?』
若干たじろぎを見せた妖精の少女へと、もう一歩進む。
「お前の知らぬ道理を語る俺らをただただ潰して終いにするか?」
『主、一体なんなんだ……?』
「人類だよ。お前の嫌いな、な。それで――」
ほんの僅かに、妖精の足が後ろに下がった。
困惑が怒りに勝った。
――ここだ。
最大の勝機を見出し、俺は彼女へと指を向ける。
「いいのか、その肉。もう食えそうにないが」
『ん? おおお……!! いかんいかん!』
舞い散る砂塵にまみれて土色になった肉を見て妖精の少女が吼える。
本気で焦っているのだろう。周囲を囲っていた土の壁は消え、先程までの広場へと戻った。……ヤザンを拘束する岩を除いて。
やはりこいつは妖精にとって不俱戴天の仇らしい。一体何をしでかしたのやら。
……死霊の王、ね。
「はあ……蛇」
仕方ないので展開していた蛇で水を出してやる。
砂で汚れた肉だが、表面だけなら洗えばまだ何とかなるだろう。
『すまん、助かった……!!』
さっきまでの威勢はどこへやら。そこには情けなく肉を洗う妖精がいた。
全員が臨戦態勢を解き、互いを見て苦笑いを浮かべる。
とりあえず戦闘になる事態は避けられた。後はこの妖精から少しでも何かを聞き出せるといいのだが……。
声をかけようとして、天に現れた影が目に入る。
「あ……」
『この肉は相方用の飯でな。そ奴がまた食いしん坊でなー!』
全員が空を見る中、一人気づかぬ土妖精は肉を洗いながら話を続ける。
『いっつも大量に飯を喰らうから準備が大変でな! 今日は猪肉が手に入ったからな。こうして吾が肉を焼いているというわけよ』
皆が息を呑み、動きを止める。
そんな中彼女に近づく影が一つ。
『飯をダメにしたと知られたら一体どうなるやら……』
『どうなるって? タッサ?』
『……』
震えながら振り返る土妖精。
その背後には髪に花が生えた――木妖精の成体の女性が立っていた。
空には俺たちが探していた霊竜シルトが、殻の縁に座してこちらを覗き込んでいる。
そして肉を洗いながら固まる土妖精、タッサ。
およそ最悪な霊竜との邂逅が、ここに果たされるのであった。
***
『すまんー! 許してくれー!』
最悪の邂逅からしばらく。
竜の巣には拘束された骨と土妖精タッサがいた。
タッサは突如現れた木妖精――シシカというらしいそいつに縛り上げられ、転がされていた。
シシカはタッサの頭に足を乗せながら、無残な姿になった肉を悲しそうに眺めている。
『はあ……貴重なお肉を無駄にして何を言うの。……これ、表面をこそげば食べられるわね。……それで?』
木でナイフを作り出しながら、シシカは呆然とその光景を眺めていた我々へと視線を向けてくる。
『貴方たちが侵入者ね。安心して。話は聞いていたから。わたしも、シルト様もね』
ぴしりと彼女の腕から木の蔦が一本伸びて、こちらを指さす。
恐らく腕輪として巻いていた木を変化させて腕のように扱っているのだろう。
先の木のナイフも同じ。彼女は身に着けた木を自在に操って手足としている。
その熟練具合から、彼女もまた長い時を生きた妖精の成体だということがわかる。
そして木の妖精と言えば――。
「なあ。ひょっとして、トゥリハの大穴で俺たちに矢を放ったのはあんたか?」
先の砂漠での襲撃は、木妖精によるものだった。それも熟練した技術を持った成体の。
問いかけに、彼女はあっさりと頷いた。
『ええ、あれはわたしよ。そこの骨のついでだったんだけどね。……貴女』
蔦がイオにその先端を向ける。
まさか振られると思っていなかったイオが驚いた表情を浮かべる。
「アタシ?」
『いい腕前だったわ。人間なのがもったいないくらい』
「……人間じゃないよ? アタシ」
『え? いえどう見ても……』
「あー。俺たちはちょっと……いや、大分特殊なんだ」
今ここにいる中で、まともな人型種族はランバくらいだ。
……そういえばランバの身体のことは詳しく知らないな。彼もまた魔人なんだったか?
まあいい。
「そこを含めて、話がしたい。構わないか? 霊竜シルト」
ようやく、霊竜へと視線を向ける。
彼は(恐らく仲間だろう)妖精たちのドタバタをただ無言で眺めていた。
その間動くこともなく、俺の言葉にようやく僅かに顔をもたげた。
『――――』
竜が口を開くと、響く低音の波が耳朶を叩く。
彼らに人型種の様な発声器官はない。代わりに思念を飛ばし、直に言葉を投げかけてくる。
『――――(話せ、歪な蛇の主よ。我らに何を望み、何を齎す?)』
頭に重く響くこの思念こそ、シルトの言葉なのだろう。
ふらつきそうになる重みを堪えながら、口を開く。
「……ああ。話すよ。俺たちのことを、この世界のことをな」
少し、いやかなりの長い話になるだろう。
……ルナを連れてくればよかったと、もう一度、心からそう思うのであった。
***
これまでの旅路を、魔王は霊竜と妖精たちに語っていく。
マナホールとは何か。修復者とは何か。そしてルナを中心とした自分たちの旅路について。
何故自分たちがここへやってきたのかまでを竜たちへと伝えていく。
その間、全員が話に集中していたと言っていい。
誰よりも高度な知覚を持つシルトや、大地を自在に操るタッサでさえも、この時は周囲の警戒の手を緩めていた。
何より、誰もその男のことを――首が取れて拘束された骨のことを気にもかけていなかったのだ。
ヤザンの吹き飛んでいた首に、暗く黒い光が灯る。
そして拘束された身体が僅かに動き、骨の指が肋骨の内側にある光の中をとんとんと、規則正しく叩いていた。
その意味を知るものは、少なくとも今は、ヤザンの他には誰もいなかった。
***
「……という訳で、俺たちはここにやってきた。霊竜シルトよ。どうかその力を貸してくれないだろうか」
これまでの全てを語り終え、俺は霊竜へと頭を下げた。
話の途中から誰ともいわず岩場に腰かけていたのだが、それだけ長く重たい話なので許してほしい……というか。
『…………』
先程からタッサ――大地の妖精によって大地が震えている。
微弱な揺れだがしばらく続くと気分も悪くなり、一人また一人と座り始めたのだ。
問題は、何故こんなに揺れているのだろうかということなのだけれど。
「ねえ……あれ怒ってる?」
「どうでしょうな……」
手を組み半ば俯くように押し黙った彼女の周囲には砂塵が舞い上がっている。
明らかな臨戦態勢――いや、その直前。
ただ、爆発寸前だろう。
『シシカ。主、知っておったか』
我々全員が緊張する中、タッサがゆっくりと口を開いた。
地の底から響いたかと思う重苦しい声に、唯一平然としていたシシカに問いかける。
『知らないわ。聞いたこともないわね。……長老たちはもしかしたら知っているのかもね』
『ならば何故吾らが知らん!』
咆哮と共に右足を地面にたたきつける。
巨大な揺れが襲うかと全員が身構えたが、それはやってこなかった。
多分だが、一瞬シルトから魔力の反応があったから、彼が止めてくれたのだろう。
妖精たちの戦闘の肝は、自身の属する自然に『魔力を浸透させること』である。
タッサたち大地の妖精であれば、周囲の地面や岩に自身の魔力を通すことで自在に操ることを可能にする。
故に対妖精戦闘を行う場合、如何に魔力を通させないかが重要になる。
だから人間の都市は妖精が魔力を通せない特殊な人工物で固められる。
妖精の様な強力な魔法も、獣人の様な個の身体能力もない人間が文明を発達させたのは、種族的な必然であったのかもしれない。
話が逸れたが、今回はシルトが魔力を浸透させることで『大地の優先権を奪った』のだろう。
特にここは彼の領域。いくら成体の妖精だろうと勝手はできない。
……結構勝手していた気はするが。
霊竜シルト、案外穏やかな性格なのかもしれない。
一方、そんなことは露知らずに妖精たちは会話を続けている。
『話を聞いていたでしょう? あれは人類の産物で、どうもその仲間しか扱えないみたいじゃない。だから話すだけ無駄って事。……何、怒ってるの?』
『あったり前じゃ!』
裂ぱくの咆哮と共に、浮いていた砂塵が周囲へ広がる。
力の籠った腕が振るわれ、どこかの方角――恐らくトゥリハのある方へと指し示した。
『吾らを苦しめる原因がすぐそこにあったということではないか! 一体、どれだけの時を無駄にしたと……!!』
『だーかーら! わたしたちじゃなにもできないつってんでしょうが!』
『ぶっ壊せばよかろう!』
『それじゃダメだって言ってんだろが! このドアホ!』
今度はシシカが叫ぶと、手に巻いていた木の腕輪から蔦を放ってタッサの口を縛り上げた。
取ろうと藻掻いているようだが、きつく縛られたそれは外れそうもない。
『これだから馬鹿は……。ちょっと黙ってなさい』
『むー! むー!』
『さて……悪かったわね。話を中断して』
「いや、構わないが……」
なんだろう。イオとエリのやり取りの最上位版を見ている気分である。世界最悪の口喧嘩。
シシカはため息の様な息を吐き出して、背後でゆっくり見守るシルトへと振り返った。
『シルト様。この件、我ら妖精に否はありません。……貴方様次第です』
ようやく全員の視線がここの主、シルトへと集まる。
自分たちの巣まで踏み込まれながらも決して荒ぶることなく穏やかに事の成り行きを見守っていた霊竜から、青い光が放たれる。
それが俺たちの身体を通り抜けると同時に、彼の竜の言葉が脳裏に響いた。
『――――(マナホール。ヒトがそれを造りだしてから、この地は狂った)』
金管の様な美しい音色と共に、悲しみの様な怒りの様な感情が流れ込む。
『――――(世界が毒で満ち、多くの生命が死に絶えた。そして、あの死に抗がう獣が生まれた。……多くの同胞が死んだ。我が片割も。そして今は我と子どもたちだけになった)』
岩の回廊で見たあの並ぶ卵たち。
やはりあれは生き残った竜たちの卵なのだろう。
あれとこのシルトだけが、ここの竜種の生き残りなのだ。
『――――(我は死ねぬ。子らを育むために。だが、座して待てば終わるはずもない。故に、主らに託そう。この地の未来を)』
シルトが翼を広げる。
空間を、あの青い光の粒が舞い散り始める。
『――――(だが、そのために力を示せ。我が力を貸すに足る者であると。……自然の子らよ)』
『……なるほど。そういうことなら。タッサ』
『うおっと』
シシカが指を振ると、タッサを拘束していた蔦がほどける。
『今度は聞いてたわね?』
『無論だ。で、どうする? 全員潰せばいいのか?』
タッサが立ち上がり、二人の妖精がこちらへと視線を向ける。
……妖精が二人。こちらは四人とはいえ中々厳しい戦いになるだろう。
俺たちも立ち上がろうとしたところで、再びシルトの声が響いた。
『――――(歪な蛇の主よ。外からの来訪者よ。主らは計らずともよい。その力、充分に知っている)』
俺とエリの身体がふわりと浮き上がり、シルトのすぐ横まで運ばれる。
そしてすぐさま青の光が膜の様な形となり、残った四人を包み込んだ。
『――――(翼ある混ざり子。人の造りし子よ。主らの力を見せてほしい)』
勿体ぶった言い方だが、誰を指しているかは明確だ。
指名されたランバは、諦めのため息を吐き出した。
「そう来ますか……我らに戦えと」
「そういうことらしい。行けるか?」
どういう効果かは知らないが、この膜、声は通るようだ。
大きめの声量で問いかけると、イオが手を上げて応えてくれる。
「アタシは大丈夫よ。力を見せないと、ルナの代わりに来た意味がないわ。……つくづく入れ替わって良かったわ」
「我輩は後悔しておりますよ……。ただ、やるしかありますまい」
蛇腹の籠手をきちりと鳴らしてランバが諦めの表情を浮かべる。
「いいの? 下手したら、死ぬよ?」
「何を今更。それに我輩にだって、あるのですよ? 世界を直したいという想いが、熱が」
「へえ……? いいね」
震える口角を上げ、籠手を打ち鳴らす。
この世界における最強種の一角。それと戦うことになるとは、露ほども思っていなかっただろうが。それでも進むと、ランバは言った。
「イオ殿、シシカ様は任せます。タッサ様は、我輩が」
「オッケー。やってやりましょ。……あ、そうだ。魔王様!」
イオが腕に巻いていた装置を外して放る。
「それ、拠点との通信装置! 任せるわー!」
『おーい、もう準備はよいかー?』
「……ええ。いつでも」
『そうか、じゃあ、行くぞ?』
瞬間、大地が揺れる。
前人未到の秘境・霊竜の巣にて。
この混沌の地の命運を決める、力試しが幕を開けた。