人類は移住しました 残され者たちは世界再生の旅に出ます   作:穴熊拾弐

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第67話 ナウファルとヤザン

 

 

 一方、拠点セムル。

 ヤザンの語った歴史の真実に、全員が言葉を失っていた。

 

「おいマジか、そのナウファル?っていうやつが混獣種の元凶で? よりにもよって王子様だ?」

「いかにも。あの愚かな王は、自分の息子をその被検体に選んだ。あの男が目指したのは自身の不老不死。それには自分の子供で試すのが良かったんじゃろう」

「何の関係もない他人よりは良いでしょうが……」

「自分の子供を、そんな……」

 

 呆然とするランバやエリとは異なり、最初に反応したロアはさほど驚かずに聞いていた。

 

「じゃがそのせいで彼は不死となり、決して殺すことができぬ存在になってしもうた。それが、ちとまずかった」

「なんで? いや、そりゃまずいことは不味いんでしょうけど……」

 

 そもそもやってること自体が禁忌。

 知られたら如何に信頼厚い王でも断罪免れない状況の筈だが。

 

「そのナウファルという息子は、生まれつき身体が弱く表に出ることは殆どなかった。顔すら、一部の世話役や側近しか知らぬし、市井では既に死んでいるという噂が流れるほどじゃ。いなくなっても怪しまれない。まさに適任じゃった」

「人体実験のか? 笑えねえなあ」

「じゃが、王の予想を超え彼は『不死』まで獲得してしまったんじゃ」

「ああ、殺せなくなったのか……」

「それも王位継承権を持つ長子を、の」

 

 本来、連邦である騎士国家に血統は関係ない。

 だが戦乱の世を終わらせた初代統王の血筋はこの上なく重要視された。

 絶大な人気を誇る当代の子であれば、尚更だ。

 そして市井では存在を知られずとも、王の子であることは重要な意味を持つ。

 

「その存在を、所業を知られれば、いくら民の信頼篤い王でも言い逃れはできない。存在を知った首長国のどこかがナウファルを担ぎ上げて離反する可能性もあるじゃろう。そして何より、不老不死になった息子に復讐される恐怖が王を支配した」

 

 何せ不老不死。どこへどれだけ逃げようとも追いかけてくる恐怖が彼にはあった筈だ。

 老化という恐れよりも確実で素早く、明確な恐怖が。

 

「だから封じた。あの地下監獄を造っての。そして急いだ。自身を不老――いや、息子に殺されないよう不老不死へと変えるために。そして手を出したのが――」

「さっきの二つ目、か」

「ああ。魂の固定――それは、いわば意識の『乗っ取り』じゃな」

 

 ハリド王が次に企んだことは、元から不老である存在の身体を奪うことであった。

 それに役立ったのは、当時存在が発覚し世界中で禁術とされた魔術『体魔術』。

 その存在をハリド王が知ったのはトゥリハの蛮行についての講和会議の場であったという。

 

 世界の支配者たちが集ったその場では、妖精狩りの他にも様々な『脅威』が共有された。

 国を股にかける大規模盗賊団から、討伐困難な魔獣たち。

 そして異質な力と思想を持った個人――獣人殺しの錬金術師ロアや、体魔術を生み出した術師もその中に名があったとされている。

 

 ともかく、後に『魔王』を産み出すことになる支配者の集いで、王は体魔術を、人の自我を移し替える可能性を知った。

 あるなら試すのがこの狂王。

 トゥリハの残党を使い実験を繰り返し、彼はその手法を編み出した。

 

「そのやり方は、よく知ってるよ」

 

 皮膚の上を緩やかに蠢く蛇を眺めながら呟く。

 

「お主のそれも、体魔術なのじゃったな」

「ああ。俺も詳しい原理は知らないがな。ハリド王が使ったのはどういったものなんだ?」

「ワシもナウファルから聞いただけなんじゃがの……」

 

 そう前置きをした上で、ヤザンは語り始める。

 

「先ず生きた人の記憶と自我を魔力で綴った刻印で核に刻み込む。これを定式と呼ぶ」

 

 指で文字を描くようにして、ヤザンは言う。

 

「そしてその核を別の人へと移し、自我を乗っ取る。これを転式と呼ぶ」

「自我を梱包し、他者へ移植する……と。それで不死ができるの?」

『あくまで疑似的なものでしょうけど。一度でも失敗したら終わりでしょう?』

「そうじゃ。あくまで延命措置でしかなかったんじゃろうな。じゃが、姿を変えれば少なくともナウファルの目は逃れられる。……それほど必死だったんじゃよ」

「でもそれでは王という立場を捨てることになるんじゃ……」

 

 本来の目的を忘れ、彼は不老不死に囚われてしまったのだろうか。

 だがそれにヤザンは首を振る。

 

「ハリド王は他にも子がいた。その中の一人に目を付けておった」

「また、自分の子供を……」

「一人も二人も変わんねえだろ」

「ともかく、ハリド王はこの二つを行うことで、人一人の意識を他者に移そうとしたんじゃ……が、それは失敗する」

「何故だ? ナウファルと同じく、予想外の事態が起きたか?」

「ああ。――殺されたんじゃ。儀式を行う手前での。いや、正確には」

 

 骨の手がぐっと握られ、紫の光が溢れ出る。

 

「ワシが殺した。この手で、あの王をな」

「――――っ」

 

 幾人かが息を呑んだ音が聞こえる。

 風の鳴る音もしない、カルメの治療設備の水音だけがあたりに響いている。

 

『ほほう、主がの』

「アンタが……?」

 

 話を聞いていて気にはなっていた。

 ナウファルが不老不死になった理由は分かった。ならばこの骨はどうして生まれたのか、と。

 そして彼の話に彼自身は出て来はしなかった。だというのにやけに事情に通じている。ならば、こいつは一体何なのか――。

 

「ハリドの落日」

 

 不意に、口を閉ざしていたランバが言った。

 

「栄華を誇った第六代統王の暗殺事件です。ある夜突然、統王が宮殿内で遺体で発見された。犯人は不明。ただ同時に姿を消した、騎士の一人が実行犯だろうというのが定説ですな」

「……騎士?」

「ええ。それも、名高い『樹冠の騎士』。その三席目。護国の騎士と呼ばれた男です」

「……よう知っておるの」

 

 騎士の頂点であるその称号は、歴史上二人除名された者がいる。

 一人はエリたちが召喚された勇者の時代の後。離反した勇者ハオに賛同し人類を裏切った瑠璃の騎士。

 そしてもう一人がこの人妖大戦時代、主君殺しを行ったという護国の騎士。

 

「余程恨まれていたのでしょう。その名も詳細も、歴史からはことごとく抹消されておりました。その名の通り、外交とは無縁の騎士だったようで、僅かな手記や、他国の歴史書に残されていたのみ。名前すら、残ってはいなかった筈ですが……」

 

 全員の視線がヤザンに、骨の男に集まった。

 彼はそれに微動だにすることなく、顔を俯かせたまま。

 

「……過ぎた呼び名じゃよ」

「マジかよ……やっぱただの骨じゃねえじゃねえか!」

「ただの骨じゃよ。今はな」

 

 これで、このヤザンに対する疑問が一つ解けた。

 妙に気配を感じさせない挙動。

 そして骨でありながら妖精の拘束を破ったその技量。

 それが歴代至高の騎士だというのであれば、納得する理由にはできる。

 

『……』

『……へえ』

 

 彼の隣に座る妖精たちの殺気が増すが、それを真横で受けてもヤザンは微動だにしない。

 対して若干後ろに下がったロアが、首飾りを弄りながら口を開く。

 

「で、お前が殺したってのか。その王様を」

「ああ。ワシが事態に気づいた時は、既にナウファルは不死に変えられておった。だから王を問い詰め、あの男の真実を、本性を知ったんじゃ。奴はワシも殺そうとしたが、あやつだけは絶対にここで殺すと決めて、成し遂げた」

 

 落日の夜。

 護国とまで呼ばれた騎士は、その名に恥じず国を護った。

 外法に染まり切った王を殺すことで。

 

「ただ、腐っても奴は万能の王。そして外法に堕ちた邪悪の王。奴の操る体魔術によって、ワシは致命傷を負った」

「相打ちか」

「ああ。そのまま死ぬはずだったんじゃがの。ワシは目覚めてしまった。この骨の身体で」

「……それは、一体どうやって?」

 

 そこが一番の疑問だ。

 王は死に、外法は途絶えたはずなのだ。

 だがこの骨は不老不死として蘇っている。そんなことができたのは――。

 

「ナウファルじゃ。あの子はあの男の、父親のやり方をその身で受け全て見ておった。だからワシを蘇らせることができた。……長い時が経ちすぎて、骨になってしまったがの」

 

 彼曰く、王は定式に関しては高い精度で成功させていた。ただそれを他者に移す転式が上手くいっていなかったようだ。

 転式は定式を刻んだ核と、移植先の相手の核を入れ替えることで行われる。

 あくまで入れ替え。故にナウファルの時のような、複数の核による異変は起きない筈だが、異なる魂を埋め込むことそれ自体に拒否反応が起きるそうだ。

 

 だが、同一人物、それも死体に戻すのであれば問題なかったのだろう。

 ナウファルは、それを成し遂げた。

 ただ――。

 

「目覚めた時、世界は既にこの姿になっておった」

「……どういうことだ? なんでそんな時間が経った? 人が白骨化するなんて、どれだけ時間が必要だと思ってるんだ」

 

 今までの話を聞くに、どうもこいつは人妖大戦時代……魔王である俺が生まれる200年は昔の時代の人間だ。

 そこから目覚めたら、この世界になっていただと? 1000年以上眠り続けていたという事ではないか。

 

「何故ナウファルは、そんな時間を空けてお前を起こした? いくらなんでもその式とやらの再現にそんなに時間がかかったわけではないだろ?」

「……」

「おい」

 

 その問いに、ヤザンは途端に口を閉ざした。

 たっぷりと間を開けてから、絞り出すように嗄れた声が響く。

 

 

「耐えきれなかったそうじゃ。罪に、孤独に」

 

 

「……それは……」

「もうわかるじゃろう? どうして混獣種が生まれたか。……食ったんじゃよ。飢えた魔獣が、ナウファルの、あの子の肉をな」

 

 切っ掛けはマナホールによる世界改変だったのだろう。

 人類は消え、多くの動植物たちも死んでいった筈だ。

 資源の少ない砂漠ではほか地域と比べても顕著だった。

 

 そんな中、決して腐らず再生する肉は、芳醇な香りを放っていた事だろう。

 飢えた獣が、彷徨った末にナウファルの元へとたどり着く。

 いくら食べてもなくならない、無限の食肉庫へと。

 

「獣が喰らい、仲間を呼び、数体の虫が、獣が集ったという。……それが、今の混獣種たちの始祖とでも言うべき奴らじゃの。飢えていたがゆえに直ぐにあの肉に侵され、混獣種と呼ぶ今の形に変わっていった。……それが、やつらの生まれた経緯じゃ」

「全ては、不老不死の副産物って事か?」

「そうじゃ。分かるか? 自分の肉を食った魔獣が、動物たちが化け物に変わっていく様を見たナウファルの心を! それが外に解き放たれた恐怖を!」

 

 閉じ込められたナウファルは、マナホールとそれが起こした出来事を知らない。

 世界がとっくに滅んでいることなど知る由もないのだ。

 彼はまだ、外には国があり、民がいたと信じていた筈だ。

 

「王が執拗なまでに封印を施したせいで、あの子は外に出ることはできん。だが、自分のせいで国が滅んでしまうかもしれない――。苦悩の末、あの子は決めたんじゃ。部屋の中で骨となって朽ち果てていたかつての友を、騎士を蘇らせると」

 

 死の間際、ヤザンはナウファルの下へとやってきていた。

 王が死んだ以上、ナウファルは自由になれると解放しに向かったのだ。

 だがそこでヤザンはもうどうしようもできないほどに、王子は異形になっていた事を知り、そのまま監獄で力尽きた。

 

 そんなヤザンの魂を、ナウファルは固定した。

 それは、地の底に囚われた彼にできるせめてもの葬送であったのかもしれない。あるいは、友の魂を持っていたかったのかもしれない。これから続く永遠に耐えるために。

 

「だから蘇らせたってのかよ? 骨だぞ!?」

「動けぬナウファルに他の方法はなかった! 例え、それが自分を異形にした外法だったとしてもじゃ……!!」

 

 かつての騎士の身体は消え失せ、残ったのは骨だけ。

 そこにナウファルの体内で保存されていた核が再び埋め込まれる。彼の不滅の血肉が、魔力が数百年流れ込んで変質した核が。

 結果として魂は定着し、地下牢獄で朽ち果てるのを待つだけだった骨は、再び動き出してしまった。

 

「ワシは蘇り、ナウファルの代わりに外に出た。そうして、この事態を知ったんじゃ。人一人いない、混獣種たちに支配された世界を!」

 

 果たして世界は、ナウファルの危惧した通りの光景に変わり果ててしまっていた。

 都市は見たこともない建物だらけ。その上で人ではなく巨大な獣が、騎士が闊歩する魔の土地になっていた。

 互いに喰らいあい、歪な姿に変化する異形を見て、ヤザンは直ぐに理解した。

 あれはナウファルの肉を喰らった獣の成れの果てだと。

 

 それでも僅かな希望に縋り、ヤザンは枯れた砂漠を彷徨い、生き残った人類を探し求めた。

 だが見つかるものは混獣種の巣と、トゥリハに空いた大穴だけであった。

 ああ、とヤザンが嘆きの声を上げる。

 

「ワシは、どうしてもその事実を認めることができんかった。この光景を、あの子に伝えることができなかった! だから、探すことにしたんじゃ……世界がこうなってしまった原因を。()()があの子の罪ではないという証拠を」

 

 こうして、砂漠を彷徨う骸骨男が誕生した。

 

「じゃが、何年彷徨っても何も解らんかった」

 

 なにせ手掛かりのありそうな都市は混獣種の巣となってしまっている。

 何より、マナホールのあるトゥリハは崩落しているし、ルナでなければ入ることもできない以上、今この世界の姿から原因を解き明かすことなど、不可能なのだから。

 数十年の放浪の末、遂にヤザンは諦め、ナウファルへと事実を告げた。

 

「あの子は、何も言わなかった。ただワシを労わっただけ……それが、どれだけ苦しかったか」

 

 いっそ責めてくれれば、悲しんでくれれば。

 だがナウファルは、ただただ受け入れた。これが自分の罪過だと。

 

「あの子の顔を見たワシは決めたんじゃ。何度死のうとも、どれだけ砂漠を彷徨おうとも真実を見つけてみせようと。そして、叶うならばあの子を解き放ってやろうと」

 

 いっそそのまま朽ちてしまえればよかったと、そう思いながらヤザンは砂漠を彷徨った。

 混獣種の戦いに巻き込まれ、竜の破壊に潰され、妖精に元凶だと狙われ。

 それでも、真実を知るために。

 

 だが、それでも積もり積もる絶望と熱砂は、不死の心さえ蝕んだ。

 いつしか足は重い砂にとられ、膝をつき、止まらない筈の身体が停止した。

 そこまでいってヤザンはようやく気がつく。

 

 ああ、そうだ。身体は死なずとも、心は摩耗していくのだと。

 そうして、どれだけの時が経ったのか。そのまま砂の海の一部になろうという時、それは起きた。

 

「――その時じゃ。あれを見たのは」

 

 砂に半ば埋もれた視界を埋め尽くす、強烈な光を。

 空に上る、赤く輝く柱を。

 混獣種の巣を破壊した何者かの輝きを。

 

「縋る思いで駆け抜けた先で、主らに出会った」

 

 まるで時が戻ったかのように砂漠に立つ、生きた人間たち。

 久しく聞いていなかった団欒の声。

 そしてこの地方を絶望で支配していた混獣種が打ち破られる光景。

 長い放浪の末に、ヤザンはついに巡り合うことができたのだ。

 いる筈のない生き残りに。

 

「主らが教えてくれた。世界は滅んだと。だが主らが教えてくれた。人は、文明はまだ滅んではいなかったと。何より、主らは教えてくれた!」

 

 立ち上がり、ヤザンが叫んだ。

 眼孔から口内から、紫の光があふれだす。

 歓喜の叫びだったが、その見た目はめちゃくちゃ怖い。

 ヤマとウミの叫び声が部屋に響き渡る中、光を放出し終えたヤザンが膝から床に崩れ落ちる。

 

「ナウファルは、あの子は悪くなかったと……」

 

 震える骨の微かな音が、聞こえてくる。

 それは、さめざめと泣く音の様で。

 その姿に誰も、何も言うことができなくなった。

 

「良かった。本当に、良かった……」

 

 ヤザンも、ナウファルも。自分たちの過ちが生んだ怪物が国を滅ぼしたと分かった時の絶望はどんなものだったのだろうか。

 砂に、肉の獣に蝕まれて消えていく世界を見続けた彼らの喜びを、果たして俺たちはどれだけ理解できたのだろうか。

 

『おじいちゃん……』

 

 治療装置の中のカルメが呟く。

 彼女が持っていた音鳴石に残されたナウファルの声。

 自分を殺して混獣種を止めて欲しいという彼の願いは、本当に、心の底からの願望だったのだろう。

 

「頼む……!!」

 

 崩れ落ちた姿勢のまま、絞り出すようにヤザンは言う。

 

「どうか、ナウファルを、あの子を解放してやってくれ。あの子をこれ以上、この世界に止めておきたくないんじゃ……!!」

 

 無限の肉を持つ男と不滅の骨を持つ男。

 今、この地方を支配している者たちの理由が、所以がこうして明かされた。

 そして今、その元凶の一人が懇願する。

 

 ――どうか、自分たちを止めて欲しいと。

 

「……ヤザン、お前」

 

 ただの生き残りだと思っていた。

 ルナが攫われた時は、悪人だとさえ思った。

 だがこの生きた死人は、この国の――いやこの世界の歴史を変えた男であり、そして今は無力に助けを希う、一人の人間であった。

 

 ふと、水の音が聞こえた。続けて、硝子を叩く鈍い音。

 振り返ると、治療装置で浮かぶカルメが、両の手をこちらへと叩きつけていた。

 

『安心して。あの人は、ナウファルはわたしが殺す。殺してみせるわ』

「……カルメ嬢ちゃん」

『わたしはそのためにここで戦ってきたの。そして今は、ルナもそこにいる。なら、わたしたちは必ずナウファルの所まで行くわ』

 

 揺るぎない声で、彼女は言った。

 その言葉に、不思議と全員が頷いた。……来たばかりの妖精二人を除いて。

 

『……いや主、斬られたんだろうが』

『なによ、次は勝つわよ! っていうかあなた誰よ?』

『はっ! そんな姿でよく言うわ! 我ら妖精に任せい! 騎士だろうが何だろうが潰してくれるわ!』

『なにが妖精よ、こっちはね――』

 

 そのままカルメとタッサの口喧嘩が始まってしまった。

 緊急事態だというのに、実に賑やかなことだ。

 

「……はっはっはっ!! そうじゃな、その意気じゃ!」

 

 唐突に、ヤザンが笑いだす。

 さっきまでの雰囲気は何処へやら。

 いつもの、俺たちが見てきた好々爺の様に明るい声で、彼は立ち上がり向き直る。

 そのまま思い切り頭を下げた。

 

「改めてお願いする。この国を、ナウファルを救うために、主らの力を貸してくれ!」

 

 伏せた頭から紫の光が漏れ出るのが見える。

 ……強い願いであることは、変わりないらしい。まあ、それはそうか。

 

「元よりそのつもりだ」

 

 思っていたより事態は複雑だったけれど。

 それでもカルメの言う通り、やることは明確だ。

 

「イグトゥナへ行き、ナウファルを倒し、ルナを救う。それで終わりだ。だろ?」

「かたじけない……!!」

「でもどうすんだ? そのまま乗り込むわけにもいかねえんだろ?」

 

 ヤマ、ウミ、シンジュに掴まれ囲まれた状態のロアが言う。

 ヤザンの光、怖かったよな……。

 もう大丈夫じゃ、と両手を広げた謎のポーズをしながら、ヤザンは頷いた。

 

「そこは安心せい。伊達に長くこの国に生きとらんわ。ワシに、考えがある。主らに教えてやるわ。……あやつらの、殺し方を、の」

 

 骨の姿になった、世界至高の騎士が笑い立ち上がった。

 全てはこの地方の罪過を洗い流すために。

 

  

 

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