人類は移住しました 残され者たちは世界再生の旅に出ます   作:穴熊拾弐

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第68話 戦争準備

 

 

 そうと決まれば、やることは一つ。

 イグトゥナへ向かい、戦争をするための準備だ。

 

 作戦はヤザンが提案したものを俺とイオ、シシカで調整した。

 イグトゥナにおける騎士と混獣種の配置はヤザンがかなり具体的に把握していたため、計画自体は容易に行えた。

 探索で当時最新の地形図を確保できていたのも大きい。

 あとは俺たちの能力に合わせて微調整を行うだけだ。

 懸念があるとすれば、騎士たちの行動だ。

 

「やつらの行動を完全に読むことはできん」

 

 地図を眺めながら、ヤザンはそう呟いた。

 

「やつらはこの連邦の騎士たちじゃ。だが同じ騎士でも、実際は時代も国もばらばらの連中。その行動原理は統一されておらん」

「そうなんだ。あれ? でもアタシらが偵察で見たあの獣狩りは? あれはいつもの行動なんじゃなかったけ」

「そりゃあ魔獣狩りは騎士共通の仕事じゃからな。ワシが死んだ後は知らんが、どの時代の騎士も騎馬を駆り、魔獣を狩っていた筈じゃ」

 

 手を上げて告げられたイオの疑問に、ヤザンが答える。

 彼はイオにこの立体映像なる技術で映し出された地図を弄りながら、作戦の予行演習を繰り返している。

 表情こそ見えないが、童心を取り戻したかのように夢中になっていた。

 これがあの時あれば――なんて呟きを何度聞いたか。

 今も地図上の騎士たちの動きを眺めながら、それにの、と呟く。

 

「ワシらが見たのは、特定の時代の、特定の騎士団。――要はそういう一団がいるという事じゃ。奴らにも派閥があり、それがまるでいくつかの騎士団に分かれているように見えるんじゃよ」

「なるほどねー。てことはアタシらの時代の騎士もいるのかな?」

「うむ、そこまではわからん! が、イオ嬢ちゃんのような武器を持ってた奴らはいた気がするの」

 

 同じ騎士でも、時代によって様々に姿を変える。

 剣や槍だけではない、弓矢や銃による狙撃も注意せねばならないということだ。

 

「装備もバラバラとなると、厄介だな……」

「ああ。じゃが、全員に共通することはある」

『それは?』

「ナウファルの命令にだけは、絶対に従う」

 

 ヤザンが骨の手をからんと叩くと、全ての騎士団が動きを止め、イグトゥナへ――ナウファルの方へと向きを変えた。

 

「それが奴らの、混獣種の特性じゃ。ナウファルの肉を喰らって生まれたやつらは、ナウファルが死ねばその肉体の殆どを失う。故にあの子を絶対の君主と捉え、その命の危機には全力で立ちはだかるじゃろう」

「……時間をかければ、地方中の混獣種が集まるってことか?」

 

 問いかけには、大きく顎が開かれた表情が返ってくる。

 

「故に短期決戦じゃ」

 

 そしてそのための作戦をヤザンは用意した。

 

「……気が重いな」

 

 何せ相手は大群。

 そして化け物の肉を得た過去の怪物だ。

 

「なに、お主なら勝てるさ」

「それは同じ樹冠の騎士としての言葉か?」

「……ああ。保証するよ。当時のワシでも、お主には勝てん。お主は、正真正銘の化け物じゃ。同じ時代に生まれなくて、良かったと心底思うわ」

「……嬉しくないな」

 

 生前の、この姿になる前の記憶を殆ど持っていない俺でも、騎士という存在はよく知っている。

 魔術師たちとはまた違う、武を極めた人類の到達点の一つ。

 そんな尊敬すべき英雄たちは物言わぬ屍となり、歪な俺がこうして生き延びている。

 本当に、おかしな世界になったものだ。

 

 その筆頭たる骨男が笑う。

 

「お主らには死んでほしくない。誰一人欠けることなく勝つぞ、絶対にの」

「それは同感だ」

「はっはっはっ!」

 

 ひとしきり笑い終えると、ヤザンは首の骨を鳴らして立ち上がる。

 地図を消し、近くの壁に立てかけられた剣を手に取った。

 探索の中で見つけた良くある十字型の合金の片手半剣。

 恐らく展示や収集目的で保管されていたものを研いだだけの代物だが、斬れればそれでいいらしい。流石は樹冠の騎士様だ。

 

 正体がバレた今、もう実力を隠すつもりはないようだ。

 剣を肩に乗せて佇むその姿は、骨であろうと不思議な威容を見せていた。

 

「では、後は任せたぞ」

「ああ。行くのか?」

「うむ……来たかの」

 

 何故彼が今剣を取ったかというと。

 イグトゥナ攻略に必要だと彼が言うとある行動の為らしい。

 そのために必要なのが、剣と――。

 

「来たわよー、おじいちゃん、わたしに用って?」

 

 カルメであった。

 

「ああ。……のう、カルメ嬢ちゃん、お主、本気で至天に勝つつもりか?」

「もちろん! 至天を倒して、ナウファルを殺す。その決意に変わりはないわ」

「そうか。……じゃあ、着いてこい」

「いいけど、どこに?」

 

 武器は持ってきたけど、と修復したいつもの薙刀を手にして首を傾げる。

 そんなカルメに、ヤザンは笑う。

 

「墓漁りじゃ」

「は?」

「相手は樹冠の騎士。……殺すには、相応しい武器がいる。じゃろ?」

 

 鈍く光る剣先を向けて、至高の、骨董品の騎士は言う。

 英雄を殺すのに足る刃を研ぐために。

 

 

***

 

 

『いい? ヤマ、ウミ。自分の中にある流れを、周りへと流し込むの』

「はい!」

『うん』

『その流れはわたしたちのもう一つの手足。もう一つのわたしたち。流れがある限り、わたしたちはその場の支配者よ』

「しはい……?」

『あー……。一番偉いってこと』

「なるほどー!」

 

 拠点セムルの中の一室では、妖精たちが仲睦まじい様子で会話をしていた。

 

 ただし、その周辺はすさまじい魔力が渦巻いており、常人が立ち入れば卒倒するまでの濃度になっているのだが。

 竜の肋骨からやってきた成体妖精二人組は、見た事もない姿の小さな妖精に最初こそ困惑したが、直ぐに仲良くなった。

 見た目こそ違うが、彼女たちは自分たちと変わらない、そして幼い妖精であるとわかったからだ。

 今はこうして、妖精にとって何よりも大事な魔力の浸透について教えている。

 

『砂漠、水ない』

『そうだのう……』

『イグトゥナは海が近いわ。海水だけど、同化できればあなたは無敵よ』

『無敵……』

 

 ヤマは同じ木妖精であるシシカが。

 ウミはタッサが教えている。

 浸透させる相手こそ違うが、妖精に必要な基礎は変わらない。

 

『本当は水妖精に教えてもらった方がいいんだけどね。この戦いが終わったら、呼んであげるから教えてもらいなさいな』

『あいつらは凄いぞ? 津波で何もかも押しつぶしてしまうからな』

 

 破壊力なら我ら以上じゃ、とタッサが教えてくれる。

 

「力持ち……ウミちゃん、凄いです!」

『私、無敵……!!』

『そうね。ふ、ふふ……っ』

 

 タッサの作る力こぶをマネして二人もぐっと腕を曲げる。

 その、妖精にしてはぷにぷにの腕を堪能しながらシシカは気味の悪い喉の奥から絞られた様な笑い声を響かせていた。

 そんな、賑やかで姦しい声が響く中、苛立つ男が一人。

 

「――外でやってくれねえかな!」

 

 この部屋の主である錬金術師・ロアが背後を振り向いて吼えた。

 ここはロアの臨時の工房。

 作業をしていたロアを無視して入ってきた妖精たちは、勝手に訓練を始めていたのだった。

 無視して作業していたが、ついに我慢の限界が来た。だが、睨まれたシシカは涼しい顔。

 

『暑いから嫌よ』

「結界は直してるわ!」

『……眩しいから嫌じゃ』

「お前ら妖精だろうが! むしろ嬉しいだろ!」

 

 暗いところが好きな妖精なんて聞いたことないわ!とロアが更に吼える。

 ちなみに一部の妖精は住居を持たず自然の中で過ごす。

 室内が好ましいという妖精は、稀有である。

 

『冗談よ。あなたの傍の方がこの子たちも安心でしょう?』

「だからってこの部屋ぶっ壊すようなもん教えてんじゃねえよ!」

 

 魔術に詳しいロアだからわかる。

 先程から行われている魔力の浸透は、シシカたちが少しでも加減を誤ればこの部屋が吹き飛ぶと。

 苦労して作った工房を樹や土まみれにされたくはない。

 

『失礼ね。そんな間抜けなことするわけないでしょ?』

「賢いなら外でやってくれねえかな!?」

 

 ただでさえ魔力に反応するものが多いのだ。

 いくら相手が歴戦の妖精でも、怖いものは怖い。

 ロアの焦燥満点の声にようやくはいはいと応えると、シシカとタッサは魔力を解いてくれた。

 その一瞬でヤマとウミが浸透させ支配していた領域も霧散させたことに気づいたヤマとウミの二人は、お互いに顔を見合わせた。

 

「……ウミちゃん」

『……うん』

 

 そのまま何も言わずに頷きあうと、二人は外へと出て行ってしまった。

 それから二人は疲れ果てるまで魔力の浸透を行い暴発させてチビルナたちに怒られるのだが、それはもう少し後の話。

 

 ようやく静かになったと壁際に置かれた作業台に向かうロアに、シシカが尋ねる。

 ちなみに、彼女は会話をしながらリヴラ謹製のブロック飯をつまんでいる。

 彼女は暇さえあれば何か食べている。そんな彼女が食料庫の一角を食い潰し、ルナに怒られるのも、もう少し後の話。

 

『……それで? できそうなの? 不死を殺す方法』

「あ?」

『あの骨が言ってたでしょ。不死を殺せるならあなたって』

 

 ヤザンの立てた『イグトゥナ攻略作戦』。その要は、ロアだと彼は言うのだ。

 

 

 ――我らの不死を打ち破るカギは核にある。ワシもナウファルも、そう信じている。じゃから、お主の力が必要なんじゃよ、ロア。

 

 

 彼はロアが骨竜を騙すために核を隔離したことを知っている。

 だからこそこの作戦を立てたのだとも言った。

 シシカはロアの能力を知らない。こんな少年の様な見た目の人間に何ができるのかと疑っているのだろうが――。

 

「ああ……」

 

 核を納めた金属の首飾りを弄りながらロアが頷く。

 

「無理だな」

『はあ?』

 

 当然のように断言するロアに、今度はシシカが声を荒げる。

 

『できないって……それじゃあ何のために……』

「あのなあ。お前、言っている意味わかってるか? 不死ってのは死なねえから不死なんだ」

 

 振り返ったロアがシシカに指をさす。

 

「あいつが生まれた経緯は聞いたろ? 妖精なんか目じゃない特注品の化け物だ。核を潰したって再生するんじゃねえかな」

 

 それくらい王様が試してるだろ、とロアは言う。

 

「だからいくらやっても殺すのは無理。やるならそれ以外の方法しかねえよ」

『それは、例えば?』

「……秘密だ」

 

 質問には答えずふいっとそのまま作業台へと視線を戻し、ロアはそれきり黙ってしまった。

 

『あら、それは残念』

「――ロア」

 

 扉が開かれ、大きな箱を抱えたイオが入ってきた。

 その後ろにはもっと大きなコンテナを担いだシンジュの姿がある。

 

「頼まれたもの、持ってきたよ」

「おう、助かる。そこ置いてくれ。シンジュもありがとな」

『――――』

 

 これから必要なものをイオに頼んで持ってきてもらっていたのだ。

 何せロアは倉庫の中身をよく知らず、場所すら覚えていないという自身がある。

 時間を無駄にするくらいならイオに丸投げした方が楽なのだ。

 背中に刺さるイオの視線を無視しながら、ロアは置かれた箱から硝子の円筒を取り出した。

 

『なにそれ? 何に使うの?』

「あ? 秘密兵器……その材料だ」

 

 その筒を指の上でくるくると回しながら、ロアは凶悪な笑みを浮かべるのだった。

 

 

***

 

 

 そして拠点セムルの中心部。

 かつては街の中心たる広場があっただろうその場所は、今はなにもない空白地帯となっている。

 そこでは今、三人の人物が相対している。

 

 一人は聖剣を手にしたエリ。

 そして彼女に対するのは、ランバとイオ。

 どちらも完全装備の二人だが、その表情は対照的だ。

 

「なんでこんなことに……」

 

 片や狙撃銃片手にため息を吐くイオ。

 そしてもう一人は籠手を打ち鳴らし鼻息を荒くするランバ。

 

「相手は歴戦の騎士ですからな。今のまま戦うのはあまりにも危険というもの」

「だからって今から訓練する? もうすぐ決戦なんだけど?」

 

 いつぞやのエリとの模擬戦と同じように、ランバが提案してこの訓練は催されることになった。

 それも今回はイオを相方に指名しての集団戦闘訓練。

 まあ、それはこれからの決戦で組むからなのだが……。何故戦いの前に死にかけなければならないのだと、目の前の怪物勇者を見ながらもう一度大きく息を吐き出した。

 

「だからこそですよ。なに、我輩も今更イオ殿との新技の特訓などするつもりはありませんよ。ただ一つ、イオ殿には覚えておいてもらわなければならないことがあるのです」

「それは?」

「我輩の戦い方を。そしてそれを利用することを。歴代の騎士を倒すには、間違いなく必要ですから」

「……そうね。それは確かに」

 

 竜の肋骨での戦闘では個別に戦っていたが、あの場で痛感した。自分の戦い方は、強固な前衛が必要になる。

 本来はカルメとニクスがその役目を担うのだが、今回はどちらも不在。

 そしてこの獣人司書はかなり独特な戦い方をすることも知っている。

 良くも悪くも目のいいイオは、後方での戦況把握が任務になる。そのために、彼の手札を知っでおくことは勝つために必要なことだろう。……例え馬鹿力勇者と戦うことになっても。

 

「なるほど。それで、私が呼ばれたと」

「ええ。エリ殿相手に実践できれば、充分でしょう」

「まあ私も準備運動できるからいいんだけど……」

 

 エリは単独で騎士と対峙することになる。

 そういえば最近は全力を出していなかった。無敵の身体を持つ勇者にも肩慣らしというのは必要なのだ。

 するりと腰の聖剣を引き抜いた瞬間、周囲の空気が重く圧し掛かる錯覚をヤザンは覚えた。

 

「はんっ! そう言ってらんないくらいビビらせてやるわよ」

「……へえ? やってみてよ」

 

 イオの挑発に、怒りを滲ませエリが笑う。

 さらに圧が重くなった気がする。

 

「……あの、あくまで手合わせですからな?」

 

 どうしよう、人選間違えたかも。

 そんなことを思いながら、仕込んだ魔法でヤザンは身体を強化した。

 

 こうして、決戦に向けた準備が着々と進んでいった。

 

 

***

 

 

 そして最後。

 俺こと魔王は砂漠――ではなく本物の大海を眺めていた。

 

 拠点セムルから南下した海岸線。

 そこではチビルナたちが運び込んだ機材で作業をしている。

 彼女たちは作戦遂行に必要な最後の準備を進めているところであり、俺はその護衛だ。

 とはいえ一人では地上は見れても海中の索敵はできないので――

 

『だからそれだと流れがなくなってしまう。もっと踏ん張れ!』

『……流れ、強い……』

『それを支配してこその妖精よ! 気張れ!』

『……うん!』

 

 賑やかな妖精二人組も一緒だが。

 どうもウミの特訓のためについてきたかったらしい。

 確かに水が少ない砂漠では丁度いいのかもしれない。

 海中に魔力を流すことで何かが海面へ上がってきても察知してくれるようだから、索敵の代わりにもなるそうだ。

 

 俺も決戦に向けて試したいことがあるから、できれば何体かは混獣種に来てもらいたいんだが……。

 まさか、今更自分の能力を拡張することになるとは思わなかった。

 思えばこの蛇紋もまだ短い付き合いだ。まだまだ俺の知らない力があるのかもしれない。

 ……できれば知りたくはないけれど。

 

「これで、準備は整う筈だ」

 

 不安要素はまだまだ多いが、今できることはこれで全て。

 相手は不老不死。本当ならもっと時間をかけてやるべきなのかもしれないが、俺はまだヤザンを、何より会ってもいないナウファルを信じられていない。

 そして、この仲間たちの力を信じている。

 

「……ルナ、待ってろよ」

 

 この準備が終わり次第、決戦が始まる。

 海岸線の向こう側を見つめながら、俺は決意とともにそう呟いた。

 

 

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