人類は移住しました 残され者たちは世界再生の旅に出ます   作:穴熊拾弐

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第69話 開戦

 

 

 

 そして二日の準備を終え、俺たちは開戦の日を迎えた。

 

 正直、準備は完璧とはいえない。

 本来はもう少し時間をかけて首都の攻略を行いたかった。

 それこそ、ヤザンがルナを攫った様に樹冠の騎士を一人ずつ誘き出して倒すという手もあるのだから。

 だが、それはできないのだとヤザンは言う。

 

「何故だ? ナウファルの命令なら聞くのだろう?」

 

 作戦会議の最中。

 映し出された立体映像を眺めながら提案した俺の策にヤザンは首を横に振る。

 

「ああ、聞く。じゃが、肝心のナウファルが駄目なんじゃよ。……あの子は間もなく、眠りにつく」

「眠る……?」

「うむ」

 

 事前に話していた作戦通りに映像内の駒を動かしながら、ヤザンは続ける。

 

「あの子は定期的に長い眠りにつく。長い生命活動の影響なのか、あるいは不死身の魔獣の肉にあの子の自我が蝕まれておるのか……原因は分からん」

 

 殺しても死なない不老不死。

 けれど歪な形で生まれてしまった彼にも、抗えない欠落がある。

 

「わかっておるのは、あの子は数日の間だけ目覚め意識を保ち、一度眠りにつくとその数倍の時間を眠り続けるということじゃ」

 

 故に今頃は眠りについているだろうと彼は言う。

 

『あり得るの? そんなことが』

 

 誰もが浮かべた疑問をシシカが呟く。

 騎士を呼び出すことができれば戦力は楽に削ることができる。

 その策を意図的にさせていないのではと、未だヤザンを信用しきっていない彼女は問う。

 それに反応したのは、ヤザンではなく近くで寝転んでいたロアだった。

 

「……別の、しかも魔獣っつうそもそも違う生物の核を埋め込まれたんだ。何が起きても不思議じゃねえよ」

 

 彼は彼で別の映像を浮かべて眺めている。態度こそだらけているが、彼なりに全力で準備を進めているらしい。……決してそうは見えないが。

 ともあれ、今はその言葉を信じるしかない。

 

「つまり、ズルはできないってことだな」

「そういうことじゃ。なに、勝てるさ。そのために、ワシは命を懸ける」

「……不死身だろ、あんた」

「その不死すら懸けるんじゃよ」

 

 そう言って、ヤザンは笑うのだった。

 

 

***

 

 

 ヤザンの言葉を思い出しながら、俺は美しい樹海を眺めていた。

 ここは竜の肋骨。それも霊竜シルトの卵たちが眠る巣の天辺だ。

 

 ここにはこれから起こる決戦の口火を切る先行部隊が集まっている。

 メンバーは俺とシシカ、シンジュにヤマ――木妖精部隊だ。

 彼女たちは戦うために必要な資源、木を集めに来ている。

 

 後はシンジュを一気に運べる手段が現状シルトしかないというのもあるが……。一応、運べるかは実験済みだ。

 そしてここまで来た理由はもう一つ。

 シルトに届け物をするためだ。

 

 背後から魔力の光が立ち昇る。

 直後、俺の真上に巨大な魔方陣が生成された。

 ルナとロア謹製の基盤式発動装置。それを霊竜の力で発動させ、不在の間の卵たちの保護を担うのだ。

 あの黒竜には破られた実績があるが、その黒竜をこれから撃破しに行くのだから問題はないだろう。

 

『――――』

 

 魔法陣の展開が終わると、シルトが直ぐに上がってきた。

 眼下の森ではシンジュたちが集まって何かを――恐らくは木を集める行為をしている。

 

 恐らく、というのは彼らのしていることの意味が全く分からないから。

 シンジュが木に触れると、それは元から軟体だったかのようにぐにゃりと曲がる。それをさらにグネグネとこねていくと、何故か小さくなって彼の手の中に納まっていくのだ。

 それでも一つ一つはヤマたちくらいの大きさだが。

 

 それを繰り返していき、蔦で編まれた様な木の球体が出来上がる。

 彼らはそれをいくつも作り上げては、シンジュの背負う鞄の中に入れている。

 

 ……果たして、あの中には何十本の木が詰め込まれているのだろうか。

 

 丁度向こうも終わったのだろう。

 シルトの姿を見つけたシシカがこちらへと手を振っている。

 そのまま、シルトとともに下へと降りた。

 

「もういいのか?」

『ええ。充分なくらいよ。ヤマちゃんも万全だし、騎士たちは任せて。ね?』

「はいー!」

『――――!』

 

 ヤマとシンジュが両手を上げて応える。

 シンジュからすれば初めての本格的な戦闘になるので心配していたが、元気そうだ。

 ヤマもまだ戦いに慣れているわけではない。シシカには気を配るよう頼んでおいたが、俺の方でも気にしていかねば。……そんな余裕があるかは、わからないが。

 

「では行くか。シルト、頼むぞ」

『――――(承知した)』

 

 これ以上の準備は必要ない。

 シルトの上に飛び乗ると、戦争を始めるために南西へ、イグトゥナへと飛び立った。

 

 

***

 

 

 その日、イグトゥナはいつも通りの日常を過ごしていた。

 宮殿の中には数十を超える騎士たちが常駐し、外側には数多の獣たちが寛いで過ごしている。

 空には三匹の飛竜が飛び回っており、他の骨竜たちが都市近くに作られた巣にて休んでいる。

 

 彼らにその意図があるかは怪しいが、都市の守りは万全であった。

 

 ――そこに、空の果てから青い光が瞬き飛び込んでくる。

 

 光を放つ巨体、霊竜シルトが首都イグトゥナ上空へと到達した瞬間、骨竜たちが警戒の咆哮を上げる。

 だがシルトはそれらに構うことなく、圧倒的な速度で首都最奥にあるイドラ宮殿まで駆け抜ける。

 地上へと大量の球体――シンジュたちの作った木の球体を落としながら。

 

 見た目こそ隙間が多く軽そうな球体は、成熟した木が数本凝縮されたもの。

 遥か上空から落とされた球は得た加速と持ち前の質量によって、凄まじい威力をもってイグトゥナの都市に墜落していく。

 ルナが悲鳴を上げそうな惨状だが、緊急自体なので許してもらおう。

 

 凄まじい破壊音が鳴り響き、シルトの通過した後に土煙が巻き起こっている。

 宮殿では二度旋回を行って念入りに球を落とし終えると、シルトは勢いそのまま地上へと降下する。

 

『じゃあ、先行くわ』

「ああ」

 

 地上に接近した瞬間を狙って、シシカたち木妖精組は飛び降りる。

 

 

 ――作戦その一。

 

 霊竜によって、先行部隊を都市奥へと輸送。内部から都市攻略を行う。

 木の絨毯爆撃により都市を破壊し、騎士や混獣種を炙り出す。

 彼らは当然、襲撃者である竜の降りた場所を目指し、シシカたちの下へと殺到するだろう。

 それに乗じ、都市外側に控えていた本隊――残りのメンバーが突入してくる。

 

 数の多い騎士や混獣種たちに囲まれるのは危険だ。

 故にこちらから囲んで潰してしまおうというのが作戦その二。

 そしてその要になるのが妖精たち。

 

『いくよ、ヤマ、シンジュ』

「はいー!」

『――――』

 

 宮殿の外側に飛び降りた三人のもとに、騎馬に乗る暇もなかっただろう騎士たちが走ってくる。

 十を超えるその騎士たちへと、妖精たちが手をかざし魔力を放つ。

 

 濃密な魔力の波が放たれ、周囲一帯を彼女たちの支配下へと変えていく。

 それが木の球に触れた瞬間――木々は爆発的に成長を始めた。

 駆ける騎士たちの背後から巨大な木々が出現し、騎士を絡めとり、薙ぎ払い、潰していく。

 対集団戦闘において、また城攻めにおいて妖精は無類の強さを誇る。

 

『そのままいくよ!』

 

 そして都市中心部に落とされた球からは、木で編まれた狼たちが現れ都市中へと放たれる。

 それらは無差別に騎士に、混獣種たちに襲い掛かり、都市内部は混迷を極める。

 

 独立騎士国家連邦の首都イグトゥナ。統一されてから建てられ増築を続けて生まれた世界有数の巨大都市。

 歴史上、この都市が脅かされたのは、人類史末期の植木屋たち修復者の出現時くらい。

 いくら至高の騎士たちでも、首都襲撃――それもいきなり中枢への侵入に対応した人材は存在してはいないのだ。

 事実、騎士たちは狙いの通りにシシカたちの方へと殺到し、作戦の第一段階は成功したかに見えた。

 

 ――だが、シシカたちの眼前。騎士たちを捕えていた木が一瞬にして両断された。

 

『……来たわね』

 

 苦々しい顔を浮かべるシシカ。

 初動は上手くいったが、作戦はここからが本番だ。

 

 シシカの眼前、こちらに背を向ける一人の騎士が立っていた。

 シンジュとまではいかないが、人にしては規格外の巨体。

 その身体は部分的に鈍い銀の鎧に覆われており、その隙間からは青色の毛に覆われた分厚い筋肉が覗く。

 そしてその両腕には、鋭く輝く二本の戦斧が握られている。

 

 この騎士だけはシシカとタッサも知っていた。

 否、正確にはその所業が妖精という種で長らく語り継がれている。

 ヤザンと同じ時代に生まれ、彼が除名されて直ぐに樹冠の騎士に選ばれた獣人騎士。

 そしてトゥリハの、六代統王ハリドの凶行前後で数多の妖精を打ち取った、語り継がれる妖精殺し。

 樹冠の騎士第四席・根断。

 

 ヤザンの言う、蘇った四人の騎士たちの一人。

 シシカたちが妖精魔法を発動させれば、必ず飛び出してくるだろうと踏んでいたが、その予想は当たったらしい。

 

『――――!!』

 

 シンジュが咆哮を上げ、木を編んで作った分厚い剣を取り出した。

 二つの巨体がにらみ合う。

 

 そして、空から青い光が瞬き、シンジュの背後に建つ地下監獄のある塔が吹き飛ぶ爆発が起きると同時に。

 獣騎士と木の巨人の激突が始まった。

 

 

***

 

 

 シシカたちを下ろしたシルトは再び上昇し、首都上空へと舞い戻る。

 散々地上を荒らしたために、哨戒していた骨竜たちが一斉にこちらへと寄ってくるのが見える。

 全員、スルゥトで散々やられたあの個体と同種だろう。

 あの凶悪な熱線を同時に吐かれれば、いくらシルトとて持たない可能性がある。

 

 だからこそ、全てこちらから押し付ける。

 それがヤザンと立てた作戦だ。

 

「来たぞ。手筈通りに」

『――――(承知した)』

 

 骨竜は三体。予想より少なかったから、何とかなるだろう。

 

「さて……やるか」

 

 背負っていたバックパックを降ろすと、拠点から持ってきていた物を取り出した。

 一抱えもあるその兵器を構え、蛇を二匹つなげてシルトの首に巻く。

 簡易手綱となるそれを握り、足で二度踏みつけて合図を送る。

 

「行くぞ」

『――――』

 

 羽ばたき、旋回。接近してきた骨竜に狙いを定め、青く輝く爪を振り下ろす。

 鋭い擦過音が響き、シルトの爪が骨に突き立つ。

 同時に凄まじい量の魔力が羽から放出され、骨竜の激突はシルトによって空中で完全に止められた。

 都市を貫通する一撃を軽々止めるとは。流石は霊竜。

 

『――――』

「ああ」

 

 次は俺の番。

 手綱を解いてシルトの背から飛び出すと、腕から蛇を放ち自分の腕に装着された、武骨な兵器に纏わせる。

 

 ……これはかつて、俺が長い眠りから目覚めた時にルナに使われたものだ。

 腕程の太さがある金属杭を爆発の衝撃で射出させる、恐ろしく未来的な杭打機。

 その凶悪な形の杭に、俺は蛇を纏わせる。

 

 黒く染まった杭を振り上げ、着地と同時に、骨竜の頭蓋骨へと叩き込んだ。

 鈍い衝撃が腕に伝わった瞬間にトリガーを引き、金属杭を射出。黒い杭が骨竜の頭蓋骨を砕き――仕込んだ蛇を起爆する。

 

「――――っ!!」

 

 爆発とともに凄まじい反動で吹き飛びそうになるのを、咄嗟に放った蛇で堪える。

 

 あれだけ苦労した外骨格を一撃。狙い通り、上手くいったようだ。

 セムルでの骨竜との戦いの際、カルメの装備に蛇を纏わせた時に知ったのだが、蛇は纏った武器の魔法的特性をそのまま吸い取り模倣するらしい。

 カルメの薙刀の重量増加や、この射出杭の貫通力増加も、蛇は妨げることなく拡張する。

 

『――――』

 

 頭蓋に穴が空いたのを察知したシルトはすぐさま爪を離し、青く輝く熱線をその穴へと吐き出した。

 骨に護られていた頭は一瞬で溶け、その余波は真下にあった巨大な塔を吹き飛ばした。

 

「もう少しゆっくりやってくれ……!!」

 

 寸でのところで飛び降り蛇の足場に乗る。危うく一緒に焼かれるところであった。

 シルトが次の骨竜を捕まえようと飛び去っていくのを眺めながら、次弾の射出杭を装填する。

 

 

 ――作戦その三。

 

 厄介な骨竜たちは、俺とシルトで各個撃破していく。

 こいつらを野放しにしておくと、上空からの熱線で簡単に作戦は瓦解する。

 故にある程度の時間なら空中を歩ける俺と、単体で骨竜を圧倒できるシルトのペアで竜たちを相手どる。

 

 本来は俺の代わりにカルメが戦う予定だったが、あいつには他にやることができた。

 だから俺がこの射出杭で戦うことに決めた。セムルに残っていた骨竜の死体で試し打ちもして効果は実践済み。

 ただあくまで死体相手だから不安は残っていたが、問題ないようだ。

 

 今の騒ぎで、巣にいるだろう全ての骨竜たちが大挙して押し寄せてくるはずだ。そしてその中には、必ずあの黒竜がいる。

 かつてのシルトの相棒。もう一体の霊竜の成れの果て。

 その前までには、できる限り数を減らしておかなければ。

 

 舞い踊る青の飛竜を眺めながら、俺は再び蛇を展開していった。

 遠くでは、巨大な岩塊と水塊が都市を覆う城壁を破壊して内部へとなだれ込む様子が見えていた。

 

 

***

 

 

 一方、首都イグトゥナの外縁部。

 

『行くぞー!!』

『えい!』

 

 木の絨毯爆撃に、シルトの熱線が放たれたのを見て、都市手前までやってきていた土と水の妖精がそれぞれの魔法を解き放つ。

 

 舞い上がった砂と岩塊。

 そして海から巻き上げた巨大な水塊が、圧倒的な質量をもって都市を覆う城壁を打ち破る。

 

『よし、ゆくぞ!』

 

 見上げるほどの壁をあっさりと撃破したタッサは頬が千切れそうな程の笑みを浮かべ真っ先に乗り込んでいく。

 

「……妖精魔法、とんでもないわね」

「……我ら、本当に手加減されていたようですな」

 

 その光景を呆然と眺めるランバにイオ。

 イオの運転によって都市前まで侵入してきた彼らは、後発の本隊である。

 シシカたちが引きつけた騎士や混獣種の背後を突き、分断し、内と外から挟み込むのが役割だ。

 その狼煙となるのがウミとタッサによる破壊音。

 それに引き寄せられて、直ぐに騎士たちが集まってくるだろう。

 

「ほら、私達も行こう。イオ」

「あー、はいはい。やりますかー!」

 

 こちらへと手を伸ばすエリに頷いて、イオはお馴染みの狙撃銃を握る。

 

「じゃあランバ、後でね」

「ええ」

 

 イオを抱えたエリが高く跳躍し、彼女を城壁の上へ――狙撃位置まで運ぶ。

 本命の敵が来るまで、彼女は狙撃手として敵を減らす役割になる。

 ランバはタッサたちと一緒に前線だ。

 

 既に一部の耳の良い、そして都市の外縁部に多くいた獣の混獣種たちが迫ってきている。

 地面を揺るがす地響きが高まる鼓動をさらに加速させていく。

 皆、何故だか余裕の表情なのだ。獣の混獣種など最早敵ではないとでも言うように。……自分にとっては本命以外も、全員危険な相手なのだけれど。

 

 ただもうここまでくれば、やるしかあるまい。

 拳を打ち鳴らし、ランバも城壁の中へと駆け出した。

 

 城壁の先は、更に混沌とした光景が繰り広げられている。

 妖精二人が岩と水を操り、建物を破壊しているのだ。

 木の球の爆撃を逃れた建造物群を、情け容赦なく潰して更地にしていく。

 

 その目的は――広場を作ること。

 

『よーし、こんなもんでいいだろ』

『ばっちり、よく見える』

 

 これで周辺の死角は失くなった。

 均すのはあくまで入口周辺のみで、深入りはしない。こちらの目的は奥まで攻め入ることではなく、分断による敵戦力の分離だ。

 挟撃により浮いた中間地帯を荒らして分離を拡げるのはシシカたちの放った木の狼たちが行う。

 

『ほら、来おったぞ! 準備はいいか? ランバ!』

「――ええ。問題なく!」

 

 籠手を打ち鳴らした直後。

 瓦礫だらけになった戦場へと、数体の獣の混獣種たちが現れる。

 全てが巨大、全てが異形。

 脚や腕が複数あるのは当たり前。幾つもの爪や牙が凄まじい勢いでせまりくる光景は震えるほどに悍ましい。

 

 足元を揺らす地響きが、他の獣たちも向かってくることを示している。

 イグトゥナは広く、これまでの都市の倍はある広大な面積を誇る。

 混獣種の数も、百はくだらない。

 その半分でも一度に殺到されれば、このメンバーでも危険は大きい。

 

 故の、作戦四。

 

『――ふん!』

 

 数体の獣を視認したタッサが地面に足を叩きつける。

 岩塊で一度砕いた大地が隆起し、広場の半分ほどの広さを岩の壁で囲んだ。

 それによって、殺到していた獣達が分断され約半分だけを中へと入れる。

 自分たちで戦場を限定することで、一度に戦う相手を減らしてすり潰す。

 これが、本隊組の戦い方だ。

 

 本来、イグトゥナのような大都市は妖精避け――彼らの魔法が届かない特殊な石材で作られる。

 だがそれは先程の爆撃で粉砕した。

 ウミやシシカたちは魔法を扱えるように外から『持ってきた』。

 ここはもう、彼女ら妖精の領域だ。

 

『やるぞ! 眼の前のやつから殺せ!』

 

 数が多いなら、少しずつ削っていけばいい。

 後ろなど見ていないだろう、分断されたことも気づかない捕らえられた獣たちがこちらへ殺到する。

 そのうちの一体が、イオに頭を撃ち抜かれて爆発を起こす。

 飛び込んだ別の一体はエリに切り裂かれ、その横の個体をランバが打ち抜きかち上げると、土手っ腹をイオが再び狙撃する。

 残った個体は、水と岩石に圧殺された。

 ほんの僅かな時間で、最初の混獣種たちの殲滅が完了する。

 

『次!』

 

 タッサの叫びで、周囲の壁が崩れ落ちる。

 その先には待ってましたと大量の魔獣と騎士が犇めき、すぐさま飛び込んでくる。

 

 後はこれを繰り返して殺し尽くすだけ――だったのだが。

 三度目の囲いが完成した、その直後。

 

 北側、入口から見て右方向にて光が瞬き、壁の一部が崩壊した。

 城壁と同じ厚さの岩が、紙のように一瞬で細切れになる。

 その先に現れたのは、真っ黒な鎧に身を包んだ一人の騎士。

 奇妙な紋様輝く、やけに長大な剣を手にしたその騎士は、ヤザンに聞いていた特徴通り。

 

「――行きます!」

 

 その瞬間、エリが全速力で飛び出した。

 一歩の余波で地面が吹き飛び、勇者が弾丸の如くその騎士の前へと突き進む。

 

 ――その剣を見たら、絶対にエリが相手をしろとヤザンは言った。

 

 例え妖精だろうと、武器を持たぬ者が相手にしてはならないと。

 その剣士は、魔法の紋様が刻まれた長剣で敵を切り裂き、その軌跡で魔法陣を空に刻んだという超絶技巧の剣術使い。

 この広大な南西地方を武力で統一した、初代統王に付き従った魔人の剣士。

 樹冠の騎士第二席。剣奏の騎士・木鳴。

 

 剣技に魔法を重ね合わせた魔剣技――技術だけを見れば、剣士としては歴代最強。

 その相手は、こちらも個人としては最強の聖剣士、異世界からの勇者エリが挑む。

 

「……はっ!」

 

 銀の聖剣を振り上げ一閃。

 防いだ木鳴を壁の外へと吹き飛ばし、エリもその後に続いて岩の殻を飛び出した。

 すぐさま、タッサが殻を閉じる。

 これからは、騎士が来るたびに各個相手どることになる。

 誰かが力尽きる前に、ナウファルの不死を殺す。

 

 命を賭けたこの戦いは、時間稼ぎでしかないと悲観する者もいた。

 それでも、殺しつくせば問題ないと笑う者もいた。

 どちらにせよ、ただでは終わらない決死の総力戦が幕を開けるのだった。

 

 

 

 

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