人類は移住しました 残され者たちは世界再生の旅に出ます   作:穴熊拾弐

76 / 79
第76話 子弟

 

 

 

 一方、都市西部のシシカたちは今、苦境の中にあった。

 

『シシカ! これ行けるぞ!』

『――分かってるわ、黙ってろ!』

 

 呑気な相棒の声にシシカが吼える。

 彼女が言いたいことはこっちでもとっくに達成済みだ。

 

 何せこちらは木の妖精。

 地面から生やした木の杭で既に数十人の騎士たちを拘束していた。

 そいつらで試してみたら、ルナの言う通りの異形が多数生まれたのだ。

 

『これは……凄いわね……不死ってこんななの?』

「腕がへんなかたちしてます……」

 

 拘束済みなので、その見た目が不気味に変化するだけなのだが……。

 万が一杭が解けても無力化できるし、何より杭をよけられた相手を封じられるようになったのが大きい。

 例えば股下から身体を貫くのを避け、片腕だけ吹き飛んだ場合。

 今までは直ぐに治療され戦線復帰していたが、傷口に木を絡めれば片腕を封じることができるのだ。

 

 二度も繰り返せばそいつは完全に止められる。

 騎士たちの処理速度は格段に向上し、既に半分近くまで減っている。

 

 だが、それでもなお目の前の怪物は倒れてはくれなかった。

 

「――――!!」

 

 背後の巨大獣に負けない咆哮を上げ、分厚い肉の塊が突っ込んでくる。

 樹冠の騎士・根断。その巨体に損傷は全くない。

 不死になった直後こそ負傷覚悟で突っ込んできたというのに、周囲の騎士が異形化した途端に彼の騎士は全力で木の回避を始めた。

 筋力や技術だけではない。樹冠の騎士に相応しい戦略眼もあるらしい。

 その彼の狙いは、シシカ一点だ。

 

『――――!!』

 

 吼えて応えたシンジュが、これまでと同じように木の大剣を振り上げ行く先を阻む。

 そこへ二振りの戦斧を回転するままに叩きつけ、シンジュの木大剣を刃の半ばまで一息に切り裂いた。

 せめて剣に斧が埋まればいいものを、振り下ろした両腕で地面を叩いて、シシカの放った杭を何の苦もみせずに回避する。

 

『……くそっ、どんだけ馬鹿力なのよ!!』

 

 一番止めなきゃいけない根断が捕まらない。

 そもそも対妖精戦の専門家。不死でない時代に数多の妖精相手に生き残った男だ。

 しかも相手はシンジュの戦い方を覚えて適応し始めている。唯一あの巨体に対応できている彼までも対策されれば戦況は一気に相手へと傾くだろう。

 

「――――!!」

 

 シンジュの声が唐突に上がった。

 見れば彼の右足脛が深く裂かれている。回避の際に切り裂いていたらしい。

 

「シンジュ!」

 

 ヤマの悲痛な悲鳴が上がり、大剣と足の治療を始めた。

 その時間稼ぎのために根断を一点集中で攻撃し、代償に周囲の騎士たちの接近を許す。

 じわりじわりと『詰み』が近づいている。

 何かの間違いで背後の巨大獣がこちらを狙えば全員が即死だ。

 彼女らの憔悴は予想以上に激しい。

 

『……そうよね』

 

 あの見た目のためにすっかり忘れていたが、シンジュもヤマもまだ生まれたばかりだというではないか。

 そんな子たちが、ずっと最前線で戦い続けているのだ。

 

『年長者が、頑張るべきよね……!!』

 

 既に全力だが、それ以上を出さねばならない。

 限界のさらにその先の魔力を絞り出し、根断を捕捉するため木を伸ばす。

 

 だがそれを嘲笑うかのように、獣の騎士は自由自在に動き回る。

 木を生やせばそれを足場に、樹狼を放てばそれを掴んで盾にしてあらゆる攻撃を防がれる。

 攻撃をすればするほど相手の逃げ場を増やす結果に焦っていると、その一瞬の隙をついて、膝をついて治療中のシンジュへと根断が飛び込んだ。

 

『――――しまっ……』

 

 守るための木を放つが一振りで切り裂かれる。

 伸びる途中の木はまだ軟らかく剛力相手は効果が薄い。

 ……などと考えている余裕はない!

 

『シンジュ!!』

 

 こちらが割り込む時間はない。せめてと彼の前に木の杭を数本上げるが、無駄だろう。

 案の定一振りで両断した根断が身体をぐるりと回して今度こそシンジュへと戦斧を振り下ろした――その瞬間。

 

「……!!」

 

 膝をついたシンジュへと迫った根断の一撃を、割り込んだ影が防いで見せた。

 凄まじい衝突音が響き、獣の巨体がようやく止まった。

 

『……なにが……』

 

 衝撃に舞い上がる土煙の中、浮かび上がるのは三つの影。

 シンジュに根断。そして――。

 

「――――!!」

「……そうじゃの。ここは老体が気張る時じゃ。のうシシカ殿」

 

 咆哮で晴れた煙の中から現れたのは、真っ白な骨の身体。

 細身の身体に相応しい質素な剣一本を担いだヤザンが、シンジュの前に立って根断の一撃を防いで見せていたのだ。

 

『あんた……骨の男!』

「ヤザンじゃよ、そろそろ覚えとくれ」

『無事だったのね。何をしに来たの……?』

「決まっておるじゃろ。助太刀じゃ!」

 

 剣を振り払い、重い筈の根断を後方へと吹き飛ばす。

 相変わらずの骨の身体に、何故か赤黒く染まった外套を纏っただけの簡素な姿。

 ただの骨の腕に、あの筋肉だらけの騎士を吹き飛ばせる力があるにはどうにも信じられないが……事実吹き飛ばしている。

 根断も警戒しているのか動きを止めてこちらを睨んでいる。

 これ幸いと、こちらも息を整えながら会話を続ける。

 

『……っ、あなた、あっちはいいの?』

 

 背後の巨大獣は未だに何かの攻撃を受けては再生を続けている。

 時を知らせる鐘のように、時折大気を揺るがす咆哮が聞こえてきていた。

 

「ワシには何もできんよ。そして、こちらなら役目がある。……のう、ロギイ。いや、根断」

『……』

 

 剣を振るって肩に乗せると、ヤザンが根断へと相対する。

 さりげなく位置をずらし、騎士からシンジュを離していく。

 それを察してシンジュがこちらへと逃げてきたので、ヤマと二人で急いで治療する。

 気の利く骨だ。いや、それよりも――。

 

『知り合いなの……?』

「おじーちゃんの弟子って、言ってました!」

『ええ? ……ああ、そうか。同じ時代の騎士なのね』

 

 普通に動いて喋っているから忘れていたが、あのヤザンもまた過去に生きた騎士だった。

 そして彼もまた樹冠の称号を得た騎士の一人。

 繋がりがあっても不思議ではないか。

 

『……って、そうだ。他の騎士たちを相手にしないと。ヤマちゃん、シンジュをお願いね!』

「はいー!」

 

 気を取り直して、シシカは周囲の騎士殲滅へと向かった。

 それを横目に、ヤザンは動きを止めた根断へと語りかけていく。

 

「久しぶりじゃのう。まさか、1000年も経って再会するとは思わなんだ」

「――――!!」

 

 唸り声で応えて、根断はヤザンを睨みつける。

 突如現れ、自身の一撃を難なく防いだ謎の存在に困惑し、見極めようとしているのだろうか。

 だがそんなことは構わずヤザンは言葉を続ける。

 

「あの頃を思い出すのう。訓練場で何度も仕合おうた。いきなりお主に後を託して申し訳ないと思うとったが、流石じゃ。見事樹冠の騎士になったんじゃな。誇らしいよ」

 

 一歩、ヤザンが近づく。

 再び唸る根断に対し、ヤザンは自身の魂が刻まれた紫色の核から、魔力を放出した。

 

「あれから腕は上げたか? ……ワシの死後、戦いは減ったとルナ嬢ちゃんに聞いた。腕がなまっておらんと良いの?」

「――――?」

 

 その言葉と、魔力を感じ取った瞬間、根断の唸りがぴたりと止まる。

 今度は真正面からヤザンの顔を――空っぽになった頭蓋骨を見つめた。

 

「…………」

「ようやっと気が付いたか? まあこの見た目じゃ仕方ないか。気づいてくれただけ充分じゃろう。なあロギイ。お互い随分変わってしまったなあ……」

 

 そう言って、ヤザンは剣を構えた。

 

「さあ、久々に、仕合うとしようか。これで最後の勝負じゃ。……受けてくれるの?」

「……!!」

 

 その言葉、剣の構えを見た瞬間、根断が弾かれたように立ち上がる。

 まるで死者でも見たかのように驚愕を浮かべ、震えている。

 それは恐怖からなどではないだろう。

 

 事実、彼は戦斧を右腕にまとめて持つと、空いた左手を腹部に当てて礼の姿勢をとった。

 

「……そうか。思い出してくれたか」

 

 それは、かつての騎士団での模擬戦時の作法。

 ヤザンと根断――ロギイが何百と行ってきた訓練の合図であった。

 

「……すまんの、ロギイ」

「……」

 

 骨頭の呟きには首を振るって狼頭の男が返す。

 ヤザンからすれば、ナウファルよりも長い関係だったと思う。

 

 

 

 ――俺のことは、放っておいてください。俺のような半端者は、いない方がいいんです。

 最初は一人の騎士と、生を諦めた若者として。

 

 ――あなたに救われた命、この身をもって恩を返させてください。

 次は新米騎士とその先輩として。

 

 ――どうしてそう突っ込むのですか、貴方は!! 毎度フォローするこっちの身にもなってください! ……何を笑ってるんです!

 いつしか、騎士団長と副長として。

 

 ――ようやく、貴方と並ぶことができました。これからは私に任せ、老人はさっさと引退してください。さあほら、今すぐ! ……祝いの模擬戦? それを止めろと言ってるんです!

 最後は並ぶ団長同士として。

 そして今は、蘇ってしまった不死者同士として。

 

 ――奇妙な縁だ。お主は、最後までワシについてきてくれたというのだな。

 ない頬を吊り上げ、にぃ、と笑みを浮かべた。

 

「ゆくぞ、ロギイ!」

「……!!」

 

 裂ぱくの咆哮を互いに上げて。

 骨と獣人騎士が、激突した。

 

 

***

 

 

 最後の仕合の直前。

 数あるロギイとの思い出の中で、何よりも色濃く浮かび上がるのはワシがトゥリハの同胞殺しを終えたあの日の事だ。

 

「ヤザン様!」

 

 イグトゥナへと戻った私を、真っ先に出迎えたのはロギイだった。

 

 既に数多の騎士を率いる将となっていた彼だが、ワシが遠征から帰るたびに真っ先に出迎えてくれる。

 律儀なことだ。拾った恩などとうに返してもらったというのに。

 

「ご無事で何よりです。……が! 此度の任、なぜあなた様が行く必要がありますか! この私にお任せくだされば……」

 

 強い口調だが、彼が功名心でそんなことを言うことはないのはよく知っている。

 ……心配してくれているのだろう。なんと心の優しい騎士だろうか。

 

「北の妖精を抑えられるのは、主だけだ。これは私の仕事だよ」

「ですが! ……樹冠の騎士のあなた様が同胞殺しなど……」

 

 ワシが生きたのは、戦乱の狭間の時代。

 この国を作り上げた英傑たちにより築かれた、つかの間の平穏の時代だった。

 だから私は時折やってくる魔獣や妖精たちを相手どっていただけ。

 だというのにいつしかワシはこの国の誰もが憧れる『樹冠の騎士』と呼ばれるようにまでなってしまった。

 私は至天様や木鳴様の様な偉業は何一つ成し遂げていない。

 そんな私が、あの二人と並べられるなんて烏滸がましいにも程があるというのに。

 

「その樹冠の騎士が、悪行を罰するのだ。私だからこそ、行く意味がある」

 

 例えそれが、自国の平穏を護るための『見せしめ』だとしても。

 過去の英傑の築いた名に泥を塗ることになろうとも。

 

「それは、ですが……」

「それにお主も間もなくその『樹冠の騎士』になるのだろう? 私ももう歳だ。これから先は、お前が皆を導くんだ」

「……私には、過ぎたものです。あなたでなければ……」

「既に私より遥かに強く、心清いお主以外に適任はおらぬよ」

 

 そうだ。

 この汚れた手を持つ老人なんかよりも、よほどいい。

 

「今回の件を機に、ワシは正式に騎士団長の任を解かれるだろう。後は任せたぞ、ロギイ」

「……はい。必ず。貴方の代わりにこの国を護って見せましょう」

「それでいい。ではまた後でな」

 

 だがこの会話を最後に、ロギイとは会うことはなかった。

 何故ならばこの直後にワシは真実を知りハリド王を殺すことになるのだから。

 

 

***

 

 

「……すまんのお。全てをお前に預けてしまって」

 

 仕合を『終えて』、剣を地面に突き立てたヤザンがそう呟いた。

 戦いは一瞬だった。

 振り下ろされた斧を剣の腹でするりと流し、それでも回転して振られた二撃目を転がるように乗って躱し、一撃で首を半ばまで切り裂いた。

 肩に手を置きぐるりと骨の身体を巻き上げ、そのまま巨体を背中から地面へと倒す。

 そのまま頭蓋へと剣を叩き込み、地面に縫い付けることで仕合は終わった。

 二人の仕合において、何度も繰り返してきた『いつもの勝ち方』。

 

 ――ヤザン隊長。いつものあれ、やりましょう。

 ――またか? ……ああ、また来ているのか。まだ勉強の時間だというのに、あの子は……。

 ――それだけ隊長のことが好きなんですよ、王子は。

 ――すまんの、ロギイ。

 ――何を。それに俺も好きなんですよ。貴方の、舞葉(ぶよう)の剣を見るのは。……さあ、行きますよ。

 

「……まだまだ甘いの。本当に、甘い。そこがお主の良いところじゃった。ヤマ嬢ちゃん、拘束をお願いできるかの?」

「……」

「ヤマ嬢ちゃん?」

「あ、はい!」

 

 ヤマが木で体を固定していく間も、根断が動くことはなかった。

 敗北を悟ったように、彼は両腕を地面へと投げだし、斧もまた真横に転がっている。

 仕合が終わった後、ナウファルが喜んで走り込んでくるまで、負けた彼がいつもしていた格好だ。

 ……案外、色んな事が記憶として残っているのかもしれないな。

 

 だがもう、ヤザンの知る彼ではないし、ヤザンもまた過去とは違う――ただの骨だ。

 古い時代は去らねばならない。

 このヤマたち新たな人たちのためにも。

 

「シンジュ、まだ動けるかの?」

『――――!!』

「そうか、強い子じゃ。シシカ殿の助けになってくれるか? ワシも一緒に行く。ヤマちゃんは援護を頼むよ」

「はいー!」

 

 重い……骨だから軽いが、腰を上げ、ヤザンは立ち上がる。

 

「おっと……剣を忘れとった」

 

 道中拾った剣だったが、丈夫でいい剣だった。

 流石は霊廟に選ばれた騎士の剣だろう。

 近くの別の剣を拾う。斧は……自分には使えない。

 

「……はあ、疲れた疲れた」

 

 戦い続きの、酷い一日だ。

 元の肉体では、とっくに疲労の限界が来ていただろう。

 その点だけはこの身体に感謝しよう。

 

「まだあの巨大獣の相手もある。……さっさと、終わらせて向かわねばな」

『ならさっさと手伝いなさい!』

 

 のんびりとした声にシシカの怒りが飛んでくる。

 呑気にしていたが、彼女だけは周囲の騎士と戦い拘束を続けていた。

 数はだいぶ減ったが、それでもまだ数十の騎士がいる。

 

「ほいほい。では行くかの、二人とも」

「おー!」

『――――!!』

 

 さっさと終わらせ、巨大獣討伐に合流しよう。

 別の剣を拾い上げ飛び出す直前。

 未だ倒れたままの根断を一瞬だけ振り返る。

 

「……また今度、次こそ循環の先で、の」

 

 この歪な骨の老人にそんな権利があるかは知らないが、そうあることを願って、騎士へと飛び出すのだった。

 

 

***

 

 

 聞こえてきた通信を終え、ルナは大きく息を吐き出した。

 

「……シシカさんのところも終わったみたいです。騎士を制圧し次第こちらへ向かうとのことです」

「了解だ。……それなら後は、あの化け物だな」

 

 イグトゥナ各所で行われていた戦闘も収まりを見せ始め、残るは都市南西端――監獄跡地に出現した巨大獣周辺を残すのみになった。

 

「あの竜はどうすんだ? まだいんだろ?」

 

 未だ血肉で汚れた姿のまま、ロアが言う。

 彼は動こうとする巨大獣の頭を障壁で防ぎ続けている。

 座り込み俯いているのは疲労のせいもあるが、膝に抱え込むようにしている竜の核の装置に触れるため。

 それにより増幅させた魔力で、なんとか獣を止め続けている。

 

「ああ。それも親玉がな。だが、それはシルトの仕事だ」

「……まあ、来ないならいいけどよ。そんで? これで他が集まるんだろ? どうすんだ、アレ」

「■■■■■■■■■■■――――!!!!」

 

 あれからあの肉の巨大獣は動き出そうと足を振り上げ始めたので、軸足を破壊しては足止めするというのが続いている。

 その度に岩が砕けて巨大な波が海岸際を襲い、ここら一帯はあらゆるものが潰れてまっ平。

 ただの余波で既に海岸沿いは壊滅状態。

 ロアの壁と足への攻撃で全力で止めてはいるが、限界は近い。

 

「……っ!! おい、また割れたぞ蛇。竜の核で補助してるが流石にきちぃぞ」

「ああ。……そろそろまずいな。ルナ」

「はい、後はやることは同じです。……皆さん、聞いてください」

 

 ルナを見れば頷きを返してきて、耳の通信機に触れた。

 全員に呼びかけてから、これからについて改めて話し始める。

 

「まず、ロアさんが魔力を流し、核の位置を特定してください」

「おう、それなら任せろ」

 

 見た目こそ死にかけだが、気楽そうな声でロアが手を振る。

 むしろそれで済むなら本隊でないだろうと安心しているに違いない。そんな訳がないというのに。

 

「続いて見つけた核の周囲の肉を、魔王さまとイオが中心となって破壊します。タッサさん、ウミさんもここで援護を」

『りょーかい!』

『うん』

『まかせい!』

 

「それと並行で、核へと向かう道作りを行います。シシカさん、ヤマさん、シンジュさんは木を伸ばしてください。場所にもよりますが、どこにあってもできるだけ高くまで届くようお願いします」

『わかったわ』

『はいー!』

「残った人たちで、核へと向かいます。恐らく移動中に破壊した肉の一部は再生するでしょう。それをカルメとヤザンさんに切り裂いてもらい、核への道を切り開きます。魔王さまたちは引き続き周辺の肉と脚部の破壊による足止めを。そして、そこから先はエリさんとランバさんに運んでいただきたいです」

『うん、わかったよ』

『……成程。我輩なら飛べますし、図書館もありますからな。お任せください』

 

 一気に作戦を言い終えて、ルナは一呼吸を置いた。

 そのまま船の先端部に座っていたロアの下へと近づくと、膝をついて目線を合わせた。

 

「最後は……ロアさん」

「……そうなるよな。分かってるよ。最後までやるさ。骨、エリ、カルメ、ランバ……頼むぞ」

「勿論。任されました!」

「ただし! 最初の魔力注入は蛇に任せる。悪いが、もう限界が近くてな。頼むわ」

「……ああ。任せろ」

「ここからが正念場です……皆さま、ご協力をお願いいたします!」

 

 ルナの声が響き、全員が最終作戦へ向けて動き始めたのだった。

 

 

***

 

 

 最終突入組となるロアたちは、船を降り残った数少ない高台――宮殿屋上へと集結していた。

 正面からでは熱流閃で迎撃される可能性があると、左側面から魔王が攻撃し、注意を引いた上で右側面から入る予定だ。

 後は一番離れていたタッサたちが合流すれば、作戦開始だ。

 

「ロアさん、少しいい?」

「あ? なんだよ?」

 

 魔王たちの攻撃に吼えて応戦している巨大獣を眺めていたロアへとカルメが声をかける。

 屋上に腰かけていたロアの後ろに立つと、驚くほど何もなくなった海岸沿いを眺めて口を開く。

 

「おお、凄い。何もなくなっちゃねー」

「ああ。あんだけデカいのが暴れてんだ。塔も岩も全部ぺっちゃんこだよ」

「……ルナが泣いてたわ。あの塔、貴重な歴史資料だもん」

「死体くらいしか残ってねえだろあんな場所……んで、なんだよ。少しは休ませろ」

 

 そんな話をしに来たんじゃないだろと、ロアがカルメの方を振り向いた。

 その顔を見て、カルメが笑みを浮かべる。

 

「作戦の前に教えておきたいことがあってね。……地下で会った至天、いるでしょ?」

「ああ。樹冠の騎士だろ」

「あいつ、まだ生きてるの」

「は? 何? お前、勝ったんじゃねえのか」

 

 言外にでなきゃカルメが生きている筈がないと言っているが、カルメもそう思う。

 

「実はあの後、逃げられちゃったのよね……」

 

 

***

 

 

 あの時――ロアたちがナウファルの核を確保したその直後。

 地下監獄で至天と対峙していたカルメは、響き渡る轟音に動きを止めた。

 

『……これは?』

 

 目の前の至天もまた止まっていた。

 彼による何かではない。

 そう思いながら慎重に彼の動きと、周囲を探っていた所。

 

『――――!!』

『あっ、ちょっと!』

 

 何かを察知した至天が剣を振るい天井を破壊すると、そのまま跳びあがって行ってしまった。

 何を、と思ったその直後には大量の肉が溢れてきて通路が埋まってしまった。

 

(……肉を察知したの? どうやって……?)

 

 泳げはしない代わりに、呼吸しなくても平気なカルメである。

 肉が上へと、地上へと向かって流れていた事もあり衝撃も大したことがなかったのが幸いして無事だった。

 だがその代わりに動きは非常に遅い。今からあの至天を追っても間に合わないだろう。

 至天を破るのが自身の役目だったのに、逃がしてしまった。

 多分そんなことを気にしてられないような事態が起きているのだろうけど……。

 

(……今は、ルナを探さないと)

 

 そう決めて、カルメはルナを探しに肉の海を歩き始めたのだった。

 

 

***

 

 

「……というわけで、まだあいつとの決着はついてないの。他のみんなの所にも現れなかったみたいだし、この作戦のどこかで、あいつは必ず来るわ」

「……まだなんかあんのかよ……。で? 気を付けろってか?」

「ううん。わたしが倒すから、任せてねって話」

「……おっかねえよ」

 

 自信満々にそう告げるカルメに、ロアは力なくそう言った。

 

「あなたたちが離れた後、至天とはちゃんと戦えてたの。前は数回で武器が壊れちゃったんだけど、おじいちゃんがくれたこれなら、大丈夫だった」

 

 分厚く武骨な薙刀を撫でてカルメは恍惚と微笑む。

 

「武器がもつなら大丈夫、次は勝つわ。だから、至天が来たらわたしはそっちにかかりきりになると思うから、それだけ覚えておいて」

「りょーかいりょーかい。そういうことなら問題ねえよ」

 

 話は終わったと手をしっしっと振るロア。

 カルメもまた立ち去ろうとして、不意に足を止める。

 

「あ、あともう一つ」

「なんだよ」

 

 カルメは指を立てると、ロアの腰の鞄を指さした。

 

「地下であなたが確保したのって、本当にナウファルの核だった?」

「あ? なんでそんなこと知りてえんだよ」

 

 問いかけるロアに、カルメは首を傾げる。

 

「なんでって……わたしが彼を殺してあげるって、決めてるから」

「だからおっかねえよ、お前!!」

 

 思わず身体を震わせロアは叫ぶ。

 血肉で濡れていた服や髪はとうに乾いている。むしろそのカピカピの感触が気持ち悪いくらいだ。故にこの震えはそのせいではない。ただただこのカルメという女が理解できないのだった。

 汚れもこの空気も洗い流してくれと、ウミの到着をひたすらに待っているロアだった。

 だがその願いを無視してカルメの笑みが近づいてくる。笑顔の、圧が、凄い。

 

「それで、どうなの?」

「……っ、んなもんわかんねえよ。ナウファルの元の核なんて見た事ねえんだからな、判別できるか!」

 

 叫ぶようにそう言うと、カルメは少しだけ静止した後ようやく離れてくれた。

 

「それもそっか。うーん、そしたらどうしよう。……どっちも斬ればいいかな。ねえロアさん、あの核、封印する前に斬っちゃだめ?」

「駄目に決まってるだろ!!」

 

 掠れ始めた声でロアが叫ぶ。

 

「そうなの?」

「そうなの!」

 

 休憩中だったのをすっかり忘れて、ロアは腰の鞄から大きな筒状の装置を取り出した。

 そこにはナウファルの体内から奪い封印した核――ではなく、骨竜の核が入っている。

 勿論本物も持っているが、このカルメに見せれば何をするのか分からない。

 

「いいか? 一つ目の核を封じた時分かったが、オレの持ってる装置じゃあの核がギリギリ入るくらいまでしかなかった。もしお前が斬ればばらけて、片方は取りこぼす。その隙にあの爆発みてえな再生をさせてみろ。全てが元通りだ。だからやめろ」

 

 目を見据えてきっぱりと伝えると、今度は素直に頷きを返してくれた。

 

「そう……じゃあ仕方がないわね」

「そうそう。だから諦めてくれ。てか、なんでそこまでこだわるんだよ」

 

 こんな終盤間際のギリギリの状況で聞いてくることじゃない。

 その執着ははっきり言って異常だ。

 

「言ったでしょ? ナウファルを殺して、解放してあげるの。そう約束したから」

「約束って……誰と」

「勿論、ナウファルよ」

「……会ってねえだろ、お前ら」

「そうね。でも頼まれたわよ? ……自分を殺してくれって。だから、わたしは決めたの。わたしの全てをかけて、彼を殺してあげるって」

 

 ロアは後発組だが、大体のあらましは聞いている。

 カルメが合流前に何をしていたかも、その目的も魔王たちから聞いて知ってはいる。

 だが、直に聞いたわけではないからこそ、今強く感じている。

 その、狂気に近い強烈な『願い』を。

 決して狂うでもなく惑うでもなく、彼女の目は確かな意思をもってこちらの目を見つめ返してくる。

 

「そのために、わたしはここで戦ってきたんだから。ずっと、ずっとね。あなたも特異主ならあるでしょう? ……いえ、『あった』でしょう。例え他の何を犠牲にしても、叶えなければならない。そんな願いが」

「……ああ。そうだな。あったさ。いや、あるさ。今もな」

 

 そう言って、未だ暴れ続けている巨大獣を眺める。

 

「オレは医者だ。そんであれは核を冒された『患者』だ。……なら、オレが止めなくちゃなんねえ」

「……ほら、やっぱりあるじゃない。わたしも一緒よ」

 

 横に並び立つと、カルメもまた巨大獣を見つめた。

 ……良かった。ヤバい奴だが、ちゃんと話は通じるヤバい奴だった。

 

「だから一緒に頑張りましょう? ロアさん」

「……ああ」

 

 差し出された拳をつき合わせて、最後の作戦へと結束を高めて――。

 

「ねえ、ちなみに封印した後なら斬っちゃダメ? なんならわたしが一緒に封印されれば……」

「もうヤダこいつ!!」

 

 その後遅れてきたウミに情けなく泣きつくロアが目撃されるのであった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。