学生の本分は「学業」である。されど、それは人によってである。
講義室に集まった生徒達は学年は同じでも、クラスはバラバラであった。
今日は、特別授業で、単位が危ない者や成績が良くないので聞きに来た者、興味があって参加した者により知識をつける為に参加した者など様々である。
各クラスごとに教室は別れているので、全クラスの生徒が一堂に会する事は珍しい事だ。
教壇には教師が立ち、問題の説明をしている。そんな話を退屈そうに聞いている生徒の1人、
(早く終わんないかなぁ……後、裕太のやつ……ちゃんと起きて授業受けてるのかなぁ……)
ぼーっとしている彼女が考えているのは幼馴染みの少年、裕太の事だった。
『裕太はお馬鹿さんだから』
裕太にそんな事を言っていたのを思い出し、少し笑顔になった。
「立華さん」
教師に名前を呼ばれて、花梨は慌てて返事をすると、自分が当てられている事に気が付き、慌てて立ち上がった。
「この問題の解答を頼めるかな?」
教師が優しく微笑んでいる。
「あ……はい……」
花梨は立ち上がると黒板の前に移動し、チョークを取ると問題を解き始める。そんな時だった。
『ヨシャウユルイニイカセイ、エマタキキヲエコガワ』
どこからともなく、意味のわからない声が聞こえてきた。
「え?」
花梨は、黒板の前で思わず立ち止まり、辺りを見回した。他の生徒も先ほどの声が聞こえたのか、周囲をみたり隣の者に聞いていた。
どうやらその場に居た全員が謎の声認識したのだった。
「あ……あの……先生……」
花梨は、教師に聞こうとしら、先ほどの声がまた聞こえてきた。
『ノモウガネヲワイヘラレワ。ニココヨノモルケゾリシヲイウキョノウオマ!!』
すると、教室全体に魔法陣が現れ、生徒たちの体が宙に浮かんでいく。
「キャアー」
「何よコレ!」
「嫌だ……嫌だぁ!!」
教室内がパニックになり、悲鳴が響き渡る。そんな中花梨は、慌てていたがどうする事もできずに立ち尽くしていた。
次の瞬間だった。花梨の足元に魔法陣が現れると彼女を包み込んでしまう。
「花梨!?」
いつの間にか近くに来ていた裕太が花梨を掴もうとするが間に合わずに彼女は消えてしまった。そして教室内にいた全員が消え、そこで授業をしていたという痕跡だけが残された……
気がつくと、生徒達は床の上に転がっていた。周囲を見回すと、そこには教室で見た魔法陣と謎の銀色の円盤を掲げる神官のような人達が居た。
「……せ、成功だ。勇者様の召喚に成功したぞ!」
「急いで王に報告を!! 我らが国は救われたのだ!!」
「おお、神よ感謝いたします」
同じように状況が理解できず呆然としているクラスメイト達を代表するかのように、
「あの……ここは?」
「勇者様! お目覚めになられましたか!?」
神官の1人が近付き、須佐に声をかける。
「え? あ……はい……」
須佐は戸惑いながらも返事を返した。そして周囲を見回して、他の生徒達も目覚めている事を確認する。
「ここは王都にある神殿です」
「勇者様方よ。どうかこの世界を魔王からお救いください!」
「そんな事を言われても、僕達も何がなんだかわからないんです。もう少し説明してくださいませんか?」
須佐が神官達に質問する。他のクラスメイト達も、うんうんと頷いていた。
「そうです! 僕達は学校に居たんです」
「いきなり魔法陣がでて……それで……」
「あの、家に帰してくれませんか?」
「そうだ! そうだ!」
騒ぐ生徒達に神官の1人が口を開いた。
「申し訳ありません。いきなりすぎましたね。この場所で詳しく話のもなんです。場所を移しましょう」
通された部屋は豪華な造りになっており、生徒達は驚きながらも席に座ると大臣の話が始まったのだった。
「まずは自己紹介を。私はこの国の大臣、フムー・ビナーです。皆様もお聞きしたと思いますがこの世界は今、魔王の脅威にさらされています」
侍女に出された飲み物を飲みながら生徒達は話を聞いていた。
「今、この王都は危機的状況にあります。このままではいずれ滅ぼされてしまうでしょう……そこで我々は古より伝わる銀の円盤を使い勇者様達を召喚したのです」
「つまり、私達がその勇者様って事ですか?」
「はい。その通りです」
フムー大臣は少女の質問に答えると、生徒達の方を見て話を続けた。
「……皆様にお願いがあります。どうか魔王を倒してください!」
「そんな……急に言われても……」
困った顔で呟くと他の生徒達もざわつく。そんな中で1人の少年が手を挙げた。
「質問していいですか?」
それは須佐だった。彼は手を挙げたままフムー大臣の方を見ている。
「どうぞ」
「魔王ってなんですか?」
須佐の質問を聞いて、他の生徒達がざわつき始めた。それはそうだ、彼はこの世界の問題に首を突っ込もうとしてるのである。
「そうですね……魔王とは……」
フムー大臣が説明をしだすとは真剣に聞き始める。そんな中で1人の少年が須佐を止める。
「おい待てよ!魔王とかなんとかは、この世界の問題だろ。俺達関係無いじゃないか!」
彼は
「だからって……黙って見てろって言うのか!?」
須佐と五井の言い合いが始まった。それを見て
「おやめなさい! 今は喧嘩をしている時ではありませんよ」
2人は落ち着きを取り戻すと席に座り直した。そんな様子を見ていたフムー大臣は、咳払いをして話を続ける。
「何も丸腰とは言いません。皆様には魔王を倒す為の力を授けます」
フムー大臣の話を聞いて生徒達は騒ぎ出した。それはそうだ。いきなり異世界に連れてこられて、魔王を倒してくれと言われて納得できるはずもないのだ。しかし、特別な力というのはお年頃なティーンの若者にとって、とても魅力的に聞こえる物だ。
「では、まず1人ずつ調べましょう。こちらへ来てください」
フムー大臣がそう言うと、部屋の扉を開けて神官達が入ってきて別の部屋へと案内された。すると、そこには水晶球が置いてあった。
「この世界には。力、技、魔法の3つの属性があります。これらは三すくみになっており、力には技、技には魔法、魔法には力とされております」
「皆様にはこの水晶球に手を触れていただきます。すると、その人の属性が判明するのです」
神官の1人が説明し、フムー大臣がそれを補足する。
「では順番にどうぞ」
1人ずつ順に水晶球に手を伸ばしていく。
すると、水晶球は赤や緑に青と変化する。
神官の話によると、赤は力、緑は技、青は魔法との事だ。
生徒達のほとんどが1つの属性だった中、五井は黄色、甘坂は水色、花梨は紫色であった。
「まさか、2つの属性を持った方が3人も出るとは……」
この結果に神官は驚いているが、それもその筈、この世界では2つの属性を持つ者は少なく、国に1人居るか居ないかという程だ。
そして、順番は須佐へと回ってきた。彼は恐る恐るといった様子で手を触れた瞬間、水晶球が白色に光り輝いた。
「こ……これは!?」
フムー大臣は驚いた表情で水晶球を覗き込むと、近くにいる神官と話し頷く。
「スサ様。貴方は、力と技と魔法、全ての適性があります」
フムー大臣は、須佐に水晶球の属性を説明したが全ての適性があると言われても、いまいちピンとこない。
「え? あ……はい……」
「では次に行きましょう」
そして次は裕太の番になった。裕太はワクワクしながら水晶球に触れると、球は黒くなった。
「あの、これは?」
「……残念ですが、適性無しです」
フムー大臣は残念そうに、そう答えた。
「そんな!?」
裕太は信じられないと言った様子だが、事実だった。
「……本当に残念だ」
生徒達は複雑な気持ちでその様子を見ていた。
適性が無いと言われた裕太だったが、落ち込む事は無かった。
彼は元々あまり物事を気にしない性格なのだ。それよりも今は異世界に来たという興奮の方が勝っていた。
(これから巻き返せばいいって顔してるな。しかし、適性無しか。俺だったらごめんだね)
そう考えながら教師の
彼は特別授業の教鞭をとっていた教師である。そんな彼の適性は青。魔法の適性を持っていた。
「では、皆様にはこれから各適正ごとのスキル習得をしていただきます」
フムー大臣が説明を始めると神官達は生徒達を水晶球が示した色ごとに分けていく。流星もそれに従い、青の適性を持つ者達の列へ並ぶ。しばらくすると、1人の如何にもな魔術師がやって来た。
「始めまして、青の適性を持った勇者様。自分はシャマル。王国で三星と呼ばれる者の1人で、皆様に魔法をお教えする事になりました」
シャマルと名乗った男は、青のローブを身に纏い、手に杖を持っている。身長は高く体格も良い。だが、その顔は髭面の厳つい顔をしているが何処か愛嬌があり、生徒達からの受けも悪くはないようだ。
「これから生徒達と共に、よろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしくお願いします勇者様」
流星が挨拶するとシャマルは嬉しそうに笑うと返事をした。
「それでは早速始めましょう……と言いたいですが、勇者様達はこの世界に来たばかりでお疲れでしょう。訓練は明日からにしましょうか」
「わかりました。ありがとうございます」
流星が礼を言うと、シャマルは一礼して帰って行った。その後、神官達は生徒達を部屋へ案内する事になった。
生徒達は各部屋に別れて休む事にしたのだが、中には興奮してなかなか眠れなかった者もいたようだ。
翌日。生徒達は神殿内にあるホールへと集まっていた。そこに集められたのは全員ではない。各属性の生徒だけ集められているのである。
「これから皆様には、魔法について学んで頂きます」
シャマルはそう言うと、部下の魔術師達にある物を用意させる。その用意された物は生徒達にとって見慣れた物であり、日常生活においてけして手にする物ではなかった。
「これはガンと呼ばれる物で、魔法力を集め光の矢として放つ魔具の1種です。これを使って魔法の使い方を学んで頂きます」
生徒達は初めて見る本物の銃に興味津々だ。しかし、そんな生徒達の気持ちをシャマルは無視するかのように説明を続ける。
「ではまず、魔法力を感じ取る所から始めましょう」
シャマルがそう言うと、生徒達は順番に並んでいく。そして順番が来るとガンを手に取り構える。
すると、ガンの先端部分に光が集束しだした。その光は徐々に強くなっていくとやがて弾けたかのように消え去った。
流星も手にとるが、ガンの先端が光だけで他の生徒達同様発射はできなかった。
「そう落ちこまないでください。これでも、古代魔法より格段に使いやすくなっております。勇者様達なら、すぐに使いこなす事ができるでしょう」
それからというもの、生徒達は魔王との戦いに備える訓練とこの国についての授業が行われた。
この国の名は、『ラ・ムール』。
この世界は、魔王軍によって支配されようとしていたが、歴戦の勇士達が奮戦しなんとか生き延びる事ができていた。しかし、魔王軍の戦力は日に日に増していき、勇士達も倒れていってしまった……
そこで、行われたのが銀の円盤による勇者召喚であったのだ。
生徒の何人かはもう、帰れないのかと嘆いたが、銀の円盤がまた魔法力を蓄えれば異世界へと繋がる扉、つまり地球に帰る為の道を作る事ができるそうだ。
どこまでが真実かは不明だが、自分達をこの世界に呼んだのだからそんな事ができても不思議ではない。
そして魔法を学び始めて3ヶ月後……
「では、今日はここまでとしましょう」
シャマルはそう言うと生徒達に解散を命じた後、神殿にある自分の部屋へと戻って行った。流星も自分の部屋に戻って行く。その途中……
「ん?あれは……」
1人の生徒が何かを探しているのかキョロキョロしていた。よく見るとその生徒は花梨だった。
「立華さん。どうかしたのかな?」
流星が声をかけると、花梨はこちらに気づき、少し驚いた様子だったがすぐにいつもの表情に戻った。
「あっ、先生。実は裕太を探しているんです。裕太を見ませんでしたか?」
「岩城さんかい?うーん、最近は見てないな……」
適性無しと言われた裕太であったが、本人もそれで諦める事なく、力と技と魔法の訓練に参加していた。
しかし、どの訓練に参加しても良い結果を得る事ができずにいた。それでも裕太はめげる事なく訓練を続けていたのだ。
最近は魔法の訓練に来て居ないので、別属性の訓練をしていると思っていたが、どうやら違うらしい。
「そうですか……ありがとうございました」
花梨はお辞儀をすると、その場を後にする。
そんな花梨の後ろ姿を見ながら流星は裕太の事をとくに心配はしてなかった。
便りの無いのは良い便りという言葉もある。それに問題があれば何か言ってくるはずだから、その時対処すれば良いと考えていた。
しかし、この考えは間違いであったらしい。
その日の夜、夕食を終えて帰る途中で物音が聞こえてきたので、そちらをこっそり確認すると、裕太が数人の生徒から三すくみの訓練と称してイジメを受けていた。
「なんで毎回訓練に出てくるわけ?邪魔なんだよね。お前が剣持っても意味ないだろが。マジ無能なんだしよ~」
「ちょっ、言い過ぎだって!」
「でも、それだと哀れだから俺らで稽古つけてやってる訳よ?優しくね、俺ら」
「確かに!俺ら超優しいじゃん。無能のために時間使ってやるとかさ。感謝しろよ?」
「あ……あの……」
「あぁ!?聞こえねーよ!」
裕太が何か言おうとしたが、大声で遮られる。そんな様子を流星は見ていたが、見て見ぬふりをする事とした。
いきなり異世界へ連れて来られたのだ。ストレスを感じている者も多いだろう。そんなガス抜きになるなら彼には尊い犠牲となってもらおう。
(これで、女子なら助けたんだけどね。恨むなら自分の生まれの不幸を恨んでくれ)
そう思いながら流星はその場を去った。途中、花梨に遭遇したがとくに何か言ったりはしなかった。彼女なら気づくと思ったからだ。
実際、彼女は異変に気づき、イジメをしていた生徒達を叱責。そして、イジメを受けていた裕太に寄り添い慰めていたのだった。
翌日、城の訓練場へ3ヶ月ぶりに集まった生徒達はやる気に満ちていた。
多分であるが、生徒達の所へ来ていた者の影響もあるだろう。
実はこの世界へやって来てから1週間程で、音を上げたり元の場所へ帰りたいと言う生徒達が居たのだ。
しかし、さらに1週間程もすると皆が魔王討伐へやる気を見せていたのだ。
理由は簡単。ご機嫌取りが現れたからだ。彼ら彼女らは生徒達のモチベーションを上げる為、あの手この手で機嫌を取っていたのだ。中には自分の体を差し出す者もいた。
(演技してて、ソッチは楽しくなかったけどね)
そんな事を考えながら待っていると、フムー大臣がシャマルと力について教えていた戦士隊を率いるツヴァイ、技について教えていた騎馬隊を率いるトロンを連れて来た。この2人も三星と呼ばれる者達であった。
「では、本日は勇者様達に
鎧。普通に考えれば身を守る物であるが、この世界では鎧は特別な物であり、力、技、魔法のこれまた三すくみと関係深い結びつきがあった。
力が得意な者が力の鎧を着れば性能が上がるが、技の鎧を着ると性能が下がってしまうそうだ。
(なるほど。事前に適性を調べていたのはそういう事だったのか)
説明を聞き納得していると、目の前に赤と白っぽい色のニ色分けされた鎧が運ばれてきた。
「これは訓練用の鎧、ジムです。着た者の特性に反応して白い部分の色が変化します。これで三すくみの有利不利を覚えてください」
フムー大臣はそう説明すると、生徒達は鎧を装着し訓練を開始する。
「では最初に力の者と技の者は前へ」
ツヴァイはそう言うと力と技の属性を持つ生徒達が前に出る。
「今までは力と力の属性同士での訓練だったが、今日は違う!お前達は技がどれ程の脅威になるか覚えてこい!」
「「ハイ!ツヴァイ教官!」」
生徒達の元気のよい声と共に技属性を持つ生徒達へトロンが声をかける。
「いくら有利属性とはいえ、油断すれば痛い目をみます。堅実かつ確実に力属性を攻略しましょう」
トロンの声かけに生徒達は「はい!!」と力属性に負けない力強い返事をする。
そして訓練が始まると、力属性の生徒達は予想以上に技属性の生徒達に苦戦をした。相手の力を巧みに利用して力属性の生徒達の相手をする。柔よく剛を制すとは、まさにこの事だろう。
しかし、トロンが言っていたように油断していた技属性の生徒達は力を逃がしきれていない。そんな技属性の生徒達をトロンは、「ちゃんと力を逃がしなさい!それでは簡単にやられてしまいますよ!!」と注意すると生徒達が返事をした後、すぐに改善し反撃をする。
しばらく模擬戦を続けていると、止めるよう指示される。
「では次は力属性の者達と魔法属性の者です」
シャマルの合図で技属性の生徒達が戻り、魔法属性の生徒達と流星が前に出る。力属性の生徒達は先ほどの模擬戦もあり疲れもあるようだが、その表情は未だにやる気に満ちていた。
「では訓練始め!」
流星はジムの鎧と共に渡されたガンを構えると、走ってくる力属性の生徒に向かって魔法の矢を発射する。
するとどうだろうか、魔法の矢はいとも簡単に武器で弾かれて、その隙に力属性の生徒はこちらに迫って来る。それを見た流星は咄嗟にガンを撃つ。しかし、それもまた弾かれてしまう。
(なぜだ!?)
必死に考えるが答えは出てこない。そうこうしている内に相手の生徒が目の前に来てしまっていた。慌てて後ろに下がろうとしたが、それよりも早く相手は攻撃体勢に入っておりこちらへ武器を振り下ろしてくる。
「くっ!」
とっさにガンで受け止めるが、予想以上に一撃が重く、そのまま後ろに倒れてしまった。
(話に聞いてはいたが、ここまで不利だとはな……)
そう考えながらガンを構えなおす。もしこれが実戦なら、流星はここでイノチを落としていただろう。
(こんな場所で死ぬつもりは無い。何とか生き残る術をこの訓練で身に付けないとな)
しばらく戦闘を続けていると止めるよう指示される
どうやら時間切れのようだ。流星は力属性への課題を残しながら、次の訓練を受ける。
「では次は技属性の者達と魔法属性の者です」
トロンの声かけに今度は力属性の生徒達と入れ替わりで技属性の生徒達達が前に出る。
「では始め!」
技属性の生徒の前に立った流星は、ガンを構えると模擬戦スタートの合図が出された。
「炎よ!!」
技属性の生徒が声を出すと武器が燃え盛る火炎に包まれ、そのまま流星に向かって伸びて来た。ファイアーと呼ばれる、オーラで構成される技の1つで基本とされるものだ。
だが、その攻撃に流星はガンを向けると、魔法力を込めて反撃する。すると、ガンから光の矢が発射され相手の生み出した炎を撃ち抜き飛んでゆく。
(なるほど……確かに技と魔法なら魔法の方が有利だ。彼らの繰り出すオーラを簡単に撃ち抜く事ができる)
流星がそう考えている間にも、技属性の生徒達の攻撃が続く。しかし、その攻撃はガンで簡単に撃ち抜いていく。
「くそっ!なんで当たらないんだよ!!」
近くで訓練している技属性の生徒が悪態を吐く。
(さっきの俺と同じだな)
確かに魔法の方が有利ではあるが、それだけで勝負が決する訳ではない。現に今戦っている相手は流星の放つ光の矢を避け、ファイアーを複数出して多角的に攻めてきている。
(こういう戦い方もできるのか。サブウェポンでも探さないとかな)
相手から学ぶ事も多いのだと感心していると、シャマルから訓練の終了が告げられる。
生徒達は鎧を脱いでいる中、流星は1人鎧を着たまま考えていた。
「さて、どうしたものかな……」
そんな流星に花梨が話しかけてきた。
「あの先生、裕太を見ていませんか?」
「ん?……岩城さんは見てないな。どうかしたのかな?」
「あっ、いえ。そんなたいしたことでは無いので……」
「そうか。もし見かけたら、岩城さんに立華さんが探してたのを伝えるよ」
「ありがとうございます。では失礼します」
花梨はお辞儀をすると訓練場から出て行った。そんな彼女の後姿を見ながら流星は思う。
(きっとあのイジメている奴らに注意しにいくんだろうな)
それから2週間。生徒達は鎧を着た訓練の他に、鎧にあるスラスターから魔法力を噴射する
そんな日の夜、夕食を食べているとシャマルが食堂へ入ってきた。そして生徒達に向かってこう告げたのだ。
「明日より勇者様達は魔王軍討伐の実地訓練を行います。これまで習った事をフルに活かし魔王軍を倒してください!」
シャマルはそう言うと食堂から出て行く。生徒達はそれを聞き、歓声を上げたり明日から始まる実地訓練への期待を膨らませていた。
そんな彼らを見て流星も明日の事を考えていた。
(いよいよか……)
「ではこれより実地訓練を開始する!勇者様、準備は良いですかな?」
「「はい!!」」
翌日、広場に集まった勇者達に向かってフムー大臣はそう告げると生徒達から力強い返事が返ってくる。
その様子にフムー大臣はうなずくと、説明するようツヴァイに言う。
「今日は王都ラ・ムールから少し離れた場所にある森へ行き、ゴブリン等との戦闘をする。お前達の力と技と魔法の特性を活かす事を念頭に入れ行動しろ!」
ツヴァイの説明に生徒達は返事を返す。それを確認するとフムー大臣が森へ向かうよう指示を出した。
流星達は森へ向けて歩いていると、横を歩いていた裕太が話しかけてきた。
「先生、見てよこの鎧!カッコいいだろ!」
そこには訓練用の鎧から、本格的な戦闘に耐える為のジムIIの鎧を着た裕太が居た。
ジムIIってなんだよ。どこのロボットだ。と思いもしたが、正当に強化された鎧ならその名も間違ってはいないので、納得する事にした。
裕太のカラーリングは他の生徒達と違い、黒に近い紺色を基調としている。それは彼に三属性の適性が無い事を示しているものでもある。生徒達の中にはそれを馬鹿にする者も居るが、裕太は気にしていなかった。
「『全てを焼き尽くす黒い鳥』なんて二つ名とどうかな?」
「なかなか良いんじゃないか?まあ、そうなりたいなら、今日の実戦を生き残らないとだぞ」
そう、今回は人同士の訓練では無い。モンスターの討伐訓練である。相手は手加減等しない魔王軍の手駒なのだ。
「大丈夫!俺、頑張るよ!」
裕太はそう言うと前を歩き始める。そんな裕太の背中を見送りつつ、流星は考えていた。
この2週間で生徒達がどれだけ成長したのか?そして、自分はどうなのか?と……
森へ着くと引率者のツヴァイから説明があった。
まず1班5人編成で行動する事。各班には教官が1人ずつ付く事。また、班のリーダーには須佐、五井、甘坂、花梨の4名がなるよう言われた。
これは、彼らが2つ以上の属性を持っている事と、それぞれにリーダーが必要である為だ。
説明が終わり、各自リーダーの指示に従うよう言われた。
「では皆さん、くれぐれも注意して行動してください」
花梨の気持ちとしては、裕太と一緒の班が良かったのだが、彼は属性無しなので三属性全てを持っている須佐の班へ振り分けられた。
まぁ、あのイジメっ子共と一緒じゃなければいいかとそう思い、花梨は班員の4人と共に森の奥へ進んで行った。
「よし、俺達も進もうぜ」
流星の振り分けられたのは、五井が率いる班だった。別の職員から聞いた彼の印象は、クラス内でリーダーのような存在であったとの事なので大丈夫だろう。
「そうだな、まずはゴブリンを探そう」
流星はそう言うと五井達と共に森の奥へ進む。
しばらく歩いていると、五井は感心したように鎧を眺める。
「しかし、この鎧凄いな。まるで自分の体の一部になったみたいだ」
五井の言う様に、このジムIIは訓練用とは違い体にフィットする形になっている。その為か、動きやすく何より軽い。森の中を歩いているのに、まったく苦に思わないのだ。
班員の生徒達も五井の言う事にうなずき、あらためて魔法の鎧の凄さを実感する。
すると、教官の騎士が止まるように言った。
「勇者様、あれを見てください。ボーラーです」
ボーラー。球状の形のモンスターだ。、三属性でいうなら魔法属性に分類され、頭頂部にある筒状の器官から魔法の矢を放つ。
しかも、常に数匹で行動する特徴があるので、駆け出しの者からは厄介な相手だと言われている。
「よし、まずは俺が行く!援護を頼むぞ」
五井はそう言うとジムIIのバーニアを吹かし、ボーラーに向かって行った。
五井に気づいたボーラー達は魔法の矢で攻撃してくるが、流星達が技や魔法で牽制すると、こちらに反撃してくる。
どうやらあまり賢くはないようだ。
その隙に五井は接近すると剣でボーラーを斬りつけ倒す。
それを見た他の班員達は歓声を上げるが、教官の騎士は冷静に指示を出す。
「まだです!次が来ます」
そう、ボーラーは複数いるのだ。
「力属性の人は前に!コイツらは大した事ない!」
五井はもう一体のボーラーを斬りつけながら叫ぶと、生徒の1人が突撃して行く。
「先生達は引き続き援護を!コイツらの相手は俺達がする!」
2人の前衛、3人の後衛。見事な役割分担により、ボーラーはあっという間に駆逐された。
「お見事です勇者様!兵でも苦戦するボーラーを瞬く間に倒すとは!!」
五井達の見事な戦いぶりに教官の騎士は称賛の声をあげる。それを見た他の生徒達も、自分達にもできるんだと希望を持つ。
そんな生徒達の様子を見た五井が、「みんな!この調子でどんどん行こう」と言うと、皆もそれに続いて森の中へ進むのだった。
それから2時間程経っただろうか。
流星達は他の班に遭遇しながらモンスター達を倒していく。ゼリー状の身体を持つスライムアッザム、アリに似た怪物マゼラアント、小川や沢に生息している巨大ガエルフロッグアッガイ、吸血蝙蝠型モンスターバットドップ等を倒した。
モンスターの中にはどこかで見たような?というモノも居たが、流星はそれを詳しく思い出せないでいた。
(さて、なんだったかな?もう少しで思い出せそうなんだが……)
「そろそろキャンプ地に戻ろうと思うんだが、皆はどう思う?」
五井の提案に他の班員達が賛同すると、教官の騎士にキャンプ地へ戻る事を伝えた。
「了解しました。では戻りましょう」
教官の騎士はそう言うと流星達の先頭に立って案内する。
しばらく歩くと開けた場所に出た。そこには簡易テントがいくつも設営されており、すでに何人かの生徒が休んでいた。
傷ついてる生徒達は居ないが、始めての実戦で思った以上に疲労しているようだ。
(無理もない。始めて生き物を殺したんだから)
流星も過去に既に息を引き取った猪の解体の手伝いをした事があった。それでも精神的にくる物があったのだ。若い生徒達はそれ以上だろう。例え、光の粒子となって消えるとしても……
そんな事を考えていると、泥だらけの花梨達が慌てた様子で戻って来た。
「ツヴァイさん!帰ってくる途中で変なモンスターに襲われて、それで甘坂さん達が今応戦しているんです!」
花梨の報告を聞き、流星達は急いでその場所へ向かった。すると、少し離れたところに人影が見えた。どうやらあれが甘坂達だろう。しかし様子がおかしい事に気付く。
5人は武器を構えてはいるが攻撃せず、逃げるばかりだったのだから。
「どうしたんだ?アイツらは……」
五井の疑問にツヴァイが答える。
「あれはワームアッグガイだな」
「ワームアッグガイ?」
聞き慣れない言葉に首を傾げる生徒達へ、ツヴァイはワームアッグガイの恐怖の恐ろしさを伝える。
「ワームアッグガイ。アレは伸縮自在の触手で獲物を捕まえ、そのまま食べてしまうんだ」
よく見れば、甘坂達も攻めようとしているがワームアッグガイの繰り出す触手で思うように攻撃できていなかった。しかも、触手の一本には教官の騎士が捕まっていた。
「教官をお離しなさい!!」
甘坂はそう言うと槍を繰り出すが、ワームアッグガイの触手にはじかれてしまう。
「くっ!何て硬さですの……」
力属性の者は、力はもちろんのこと耐久力もあり、さらに精神的な力も持ち魔法属性の攻撃に抵抗力もある。
甘坂は魔法属性での攻撃を諦めて、もう一つの属性である技で攻めているが、レベルが違いすぎるのかあまり効いているようにみえない。
どうするべきか悩んでいると、ワームアッグガイの触手が伸びてきて甘坂達を捕らえようとする。
「甘坂!今行くぞ!!」
五井はそう叫ぶと同時に、バーニアを吹かしてワームアッグガイへ突撃する。
新たな獲物の出現にワームアッグガイは左側の触手を伸ばすが、剣でそれを弾く。
「甘坂さん!皆を呼んで来たよ!」
「立華さん!ありがとうございますわ!」
甘坂と花梨がそう言うと、五井はワームアッグガイと対峙しながら言った。
「ここは俺達に任せろ!」
それを聞いた甘坂は頷くと皆に指示する。
「みんな!撤退しますわよ!!」
その言葉に甘坂の班員全員が頷くと退却を始めるのだった。
逃げた生徒達を追うように移動するワームアッグガイを五井達が邪魔をする
「行かせるかよ!」
伸ばした触手を剣で弾くと、五井は剣をオーラで覆う。
「うおおおっ!ヴァトラス闘術、ヴァトラス・アタック!!」
ヴァトラス・アタック。猛将として知られるヴァトラスの闘術の1つであり、力と技の複合技でもある。どちらにも適性を持つ五井が選んだスキルだ。
バーニアを吹かして突撃する五井を援護する為、須佐はファイアーで、流星と花梨はガンで魔法の矢を放ち援護する。
ワームアッグガイは飛んで来る魔法の矢と炎を触手で振り払うと、その隙を突くように五井が現れた。
五井の剣がワームアッグガイの触手に突き刺さり、その傷口から緑色の体液が飛び散る。そして痛みに耐えかね、捕まえていた騎士を手放してしまう
「よし!人質救出!」
それを見て流星と花梨は、追撃とばかりに魔法の矢をさらに放つ。
2人の放った魔法により、ワームアッグガイの動きが止まる。それを逃さず、五井と須佐は剣を構えて突撃する。
「必殺!スパット斬りっ!!!」
「ブリティス剣術、ヘルファイアー!!」
斬りに特化したスパット斬り、強力な火炎をオーラで作り焼き尽くすヘルファイアーによってワームアッグガイは倒されたのだった。
ゲームの敵のように光の粒子となって消えていくワームアッグガイを見ながら、流星は場違いな感想をいだいていた。
(しかし、さっきまで捕らえられていた騎士、昔見たエ◯同人誌みたいだったな。ちょうど、ワームアッグガイみたいな奴が……ん?アッグガイ?)
昔読んだ同人誌をしっかり思い出そうとする流星。
アレは確か、デフォルメされたMSアッグガイが、ガンダムキャラの女子に……
(……まさか、ここはガンダムの世界?)
ガンダムに詳しくは無いが、どこかで聞いたような名前がちらほら出ていたような気がしてきた。
いくらファンタジーみたいな世界と融合しようと、ガンダムはガンダム。きっと多くの人が情け容赦なく死んでいくだろう。
キャンプ地に戻ってきた生徒達は、喜びに沸く中、流星だけは素直に喜べなかった。
(ヤバい、死ぬ未来しか見えない……)
君は生き延びることができるか?
異世界ガンダム第1話 先生、異世界へ行く
三すくみ
力属性
力はもちろんのこと耐久力もあり、さらに精神的な力を持ち、魔法属性の攻撃に高い抵抗力がある。
技属性
素早さが高く、力属性の者ほど高くはないが力もそこそこある。オーラと呼ばれる魔法力とは違う独自の能力があり、これを操り炎や氷等で出せる。
しかし、魔法力程安定性は無く、魔法力とぶつかると簡単に壊れてしまう。
魔法属性
魔法力を操り、世界の理に干渉する者達。
現在はガンと呼ばれる魔具で魔法の矢を簡単に撃てるようになり、古代魔法は失われつつある。