異世界ガンダム   作:꒰ঌ流✧星໒꒱

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整備とこれからの事

 鉱山が再開して数日した朝、ハイム工房では本格的にアリス鎧の整備が始まろうとしていたのだが、そこへ老人がやってきた。

 

「物資の搬入で来たぞい。領収書を頼む」

 

 そう言ってやって来た老人は、ダンジョン化したキリマンジャロ鉱山の前で露店を出していた人だ。

 

「あ!貴方はあの時の!」

「おや?お主は確か……」

 

 なんとこの人、ある商会の元会長ウォンであったのだ。

 既に後進に道を譲っているが、商人としては生涯現役をモットーに、今でも他の商人達と共にキリマンジャロ鉱山で採掘された鉱物資源を運び、その利益を元手に商売をしているという。

 

「あの時はありがとうございました。おかげで命拾いしました」

「いやなに。ワシもあの場に居合わせただけじゃよ。しかし、お主が勇者だったとはのぅ」

 

 ウォンは感心する様に言う。

 

「いえ、そんな大層なものではありませんよ」

「謙遜せんで良い。お主が頑張ってくれたおかげで、鉱山は再開された。こうして、また鉱石を販売できる用になったからな」

 

 ウォンの言葉に流星は照れ臭そうに頭をかく。

 

「では、そろそろ行くかの。お若いの、この先も大変かもしれんが、気をつけてな」

「ええ。わかりました」

 

 ウォンの言葉に流星が答えると、ウォンは工房を去っていった。

それと入れ替わるように、ツィーが来る。

 

「おや?誰か来てましたか」

「商人のウォンという人が来てました」

「ウォンさんでしたか。あの方の仕入れる物資は品質が良いと評判なんですぞ」

 

 ツィーは嬉しそうに話す。

 

「吾輩も何度かお取引させて頂きましたが、とても誠実で信頼のおける商人さんで助かりますぞ」

「へぇ、そうなんですか」

 

 ツィーの言う事がわかる流星はそれにうなずく。自分も彼から購入したメガパックのおかげでキケロガを退ける事ができたからだ。

何かを思い出したかのように手を叩く。

 

「そうだ!セイゴウ殿をお呼びするようにと、言われておりました。物資がそろったので、アリスの鎧の整備が始まりますぞ」

「本当ですか!?」

「はい。詳しくは親方に聞いてくだされ」

 

 作業場へ移動すると、既にアリスの鎧はオーバーホールが始まっていた。

 

「来たね。これから1ヶ月、きっちり整備し直す。あんたの鎧は特殊だから、完全に元通りとはいかないけど」

「いえ、それで十分です。よろしくお願いします」

 

 流星が頭を下げると、アナはそれを手で制する。

 

「礼なんていらないよ。これがあたしらの仕事さね」

 

 アリスはそのやり取りを見ながら作業台の上に吊るされた自身の宿る鎧を見上げる。

 

「整備が終わるまで、私も手伝う」

「そうだな。それじゃあ皆で手分けして作業をしよう」

 

 こうして、長い用で短いハイム工房での作業が始まった。

 

------------

 

 流星はジオの手伝いをしようとしたが、全く上手くいかなかった。

自分なりに工夫もしたが、それでも作業ははかどらない。

 

「うーん……こりゃあ力属性に適性が無いな」

「ラ・ムール国の適性検索で魔法属性って言われたから、始めからわかってた事なのに、何でやらされてるんだ?」

「あー……そこからか。属性適性ってのとはちょっと違うんだ。まずはそこの所説明するわ」

 

 ジオが言うには、適性検索とはある一定以上の属性に反応して、その人が最も得意とする物を調べるそうだ。

 

「それで、そこから大変優れてる。優秀。普通。苦手。才能が無い。って感じに分けられてる。お前さんは力属性に関しては才能無さそうだな」

「はあー……なるほど。それじゃあジオさんの手伝いはできそうに無いって事か……」

「気を落とすなよ。不得意な事は、誰にもある。わかる奴に任せればいいのよ。それに、道具とかを運ぶくらいならできるだろ?そこにあるヤツを取ってくれ」

 

 力属性に全く才能無い事がわかっただけでも得る物はあった。何かあった時に、力属性の鎧を装備しても効果を得られないという事が。

それから流星は、物資の運搬や道具の手入れやジオの作業の様子を見たり手伝ったりと、自分が出来る事と出来ない事を見極めながら過ごすのだった。

 

 

「うひょーー!!これがテムの傑作、ブースターユニットですかー!素晴らしいできですぞ!吾輩、年甲斐もなくはしゃぎそうです」

 

 既に踊りながらブースターユニットの分解をしているツィーをアリスは穢れたものでも見るような目で眺めていた。

 

「ツィーさんの所に回ってきたって事は、これは技属性の物なんですが?」

「いえ、違いますぞ」

 

 では、いったいどういう理由でここにあるのか?流星はそれがわからなくなった。

そんな流星にアリスが答える。

 

「コイツが、昔の魔王軍で鍛冶師をしていたって前に話したのは覚えてる?」

「もちろん。それと何か関係が?」

「ある。先代勇者の時代でブースターユニットに追いつけるだけの装備を作れたのは、コイツだけだった」

 

 かつての魔王軍との戦争で、テムの作ったブースターユニットは彼の他の作品でも追いつける物は少なかった。それと肩を並べられるだけの物を魔王軍で唯一作れたのがツィーだった。

 彼の最高傑作ヅダとこの鎧を纏った騎士デュバル。そんな彼との戦いをアリスは今でも覚えている。

 

「……まさか、ヅダのサターンブースターにあんな欠陥があったとは……」

 

 騎士デュバルとの決戦は呆気ない物であった。

お互いにブースターを吹かしての高速戦闘は、デュバルのサターンブースターが暴走を起こし、それでも先代勇者を倒そうと襲いかかり先代勇者に重症を負わせるも、彼はそのままサターンブースターの爆発に巻き込まれ帰らぬ人となった。

 しかし、ツィーはその戦いをずっと見ていたのだ。そして彼は気付いた。ヅダのサターンブースターに欠陥がある事に。その欠陥とは?

 

「あの鎧の最大の武器である高出力と大推力を生み出す為に開発したサターンブースターですが、あれは特定の手順を行うと暴走を起こす事があります」

 

 なんでも最大加速状態でサターンブースターを稼働させ続けると、加速状態でロックされて魔法力の供給が止められなくなり、そのまま暴走して爆発するそうだ。

 

「何度試しても爆発するので、さすがの吾輩もアレについては封印してました。しかし!これを解析して対策すれば……」

 

 ツィーは嬉々として、分解したブースターユニットを隅々まで観察する。

 

「ほう、魔法式は基本に忠実ですか……これは、ガンダリウム鉱石以外の鉱石と混ぜている?たいしたものですね。……なるほど、これで魔法力供給の調整して……ふむ、この魔法式をこうすれば……」

 

 ツィーはブツブツと呟きながら、分解したブースターユニットの解析をしている。

 

「あの……ツィーさん?」

「……先生、ああいうタイプはああなるとしばらく止まらない。テムもそうだった」

 

 それから他の人を手伝い数時間した後、様子を見に行くとツィーは情報をまとめた物を見ながら満足気だった。

 

「いやぁ!素晴らしい!!これならば、より安全かつ高出力なブースターが作れますぞ!!」

「それはよかったですね」

 

 そんなツィーを見て流星は引きつった笑みをしていた。

 

「さて、鎧に取り付けられたスラスターの点検を始めましょう。ブースターユニットは、最後にじっくりゆっくり調……んんっ、もとい点検をしますぞ」

「アリス、本当に任せてた大丈夫なの?」

「……私も少し心配になってきた」

 

 

 魔法属性に適性のある流星は、ペーとの作業が多かったが、ペーとの作業は非常に静かな物であった。

彼が寡黙なのもあるが、魔法式を書き込むのに集中しないといけないので、その関係もあった。

 教え方は、見て学べを地で行くような物であるが、間違っていれば指摘してどう違うのかの説明はあるので、そこまで難しい事が無いのはありがたい。

それから分かった事だが、彼は魔法式を大なり小なり書けるという事だが、古代魔法は使えないらしい。

これだけ凄い魔法式を書けるから使えるのか思ったが、

一方アリスはというと……

 

「この部品はこうすれば外れるから……」

「……なるほど」

「これはこうすれば……ほら」

「……おお!」

 

 ペーの元で働く鍛冶師達に鎧の分解できない場所があると言われて、その部分のやり方を流星経由で教えていた。

しかし、解放された部分に何も無く、それを鍛冶師達は不思議がった。

 

「これだけしっかりしてるんだ。鎧の心臓部分でもある魔法動力珠(ジェネレーター)があると思ったんだが……」

「そういえば、メインは封印されてるんだっけ」

 

 その様子を見て、流星は整備以外の目的を思い出す。

アリスの鎧は前魔王軍との争いが終結した後、火種になるのを避ける為に、装備を外して封印していたのだ。

その装備を探すのも今回の目的である。

 

「何か情報はありますか?」

 

 勇者が使っていたと思われる品が保管されていそうな所を聞いてみるが、鍛冶師達は首を傾げるだけであった。

その時、今まで沈黙していまペーは作業を止めて、会話に参加してきた。

 

「……それなら、エルゴレア砂漠だ」

「エルゴレア砂漠?どういう場所ですか?」

 

 流星が質問すると、ペーはエルゴレア砂漠について説明する。

 

「あそこは、今は何も無い所と思われてるが、ムットゥーウルフという獣人族が管理している遺跡がある」

 

 ムットゥーウルフ。彼らは非常に儀式的な事を好む一族で、様々な場所でダンジョンや遺跡に古城等を中心にその周辺で暮らす獣人族だ。

その中で、プ族と呼ばれるムットゥーウルフ達がエルゴレア砂漠にあるというガルダーヤ遺跡の管理をしている。

 

「という噂が、伝えられているんだ」

 

 そう、ガルダーヤ遺跡という名は伝わっているが、誰もその遺跡を見た事が無いのだ。

ワポルム帝国が建国される前、ガルダーヤという人物がエルゴレア砂漠で遺跡を発見。それに自分の名前をつけて、ガルダーヤ遺跡と呼んだ。だが、肝心の遺跡は見つからず、ガルダーヤは世紀の大嘘つきとして扱われた。

 しかし、ワポルム帝国が建国され数十年後、いつの間にかエルゴレア砂漠にムットゥーウルフ達が暮らすようになったのだ。

前述したが、儀式的な事を好むムットゥーウルフが何も無い場所で暮らすのはあり得ない。それは、エルゴレア砂漠にガルダーヤ遺跡が眠っている証拠になったのだ。

 しかし、現在に至るまで、未だガルダーヤ遺跡は見つかっていない。

 

「なるほど、その遺跡にアリスの装備があるかもしれないと?」

「ああ。……だが、ムットゥーウルフ達はエルゴレア砂漠の警備を徹底している。許可無く入った者は生きて帰れないとも言われている」

「そんな所に行って、大丈夫なのか?」

 

 流星が心配するのはもっともだ。しかし、ペーは首を横に振るう。

 

「それは大丈夫だ。俺の知り合いがいる」

「なら、安心だな」

「……いや、そうでもないぞ」

 

 そんな話をしているとアリスがやって来た。

 

「先生、また通訳をお願いしたいんだけど……」

「わかった。……すいません、ペーさん。そういう事なので」

「わかった。また、後で話そう」

 

 ペーとの話を終えて、流星はアリスの所に向かう。

 

 

 アナの作業は装甲の補修であったが、それは神技であった。

始めて知ったのだが、アリスの鎧は全ての属性を兼ね備えた物だったのだ。なので、装甲の補修も力、技、魔法の全ての属性が必要で、それをアナが一人で全て賄っていた。

 アナの作業を見ながら流星は、アリスに何で教えてくれなかったのか聞いた。

 

「特に聞かれなかったから」

「いや、確かにそうだけど……そうなると、俺じゃあ完全に性能を発揮できないだろ?」

 

 そんな会話をしていると、アナが話に入ってきた。

 

「……ああ、これの事ね。少し休憩にして、茶でも飲みながら話すかい」

 

 アナは作業を一旦止め、茶を沸かすとテーブルに並べる。

 

「さて、3つの属性があるのは知ってるね。その中に複数の属性を持っている奴が居るは?」

「それも知ってます」

「なら、話が早い。あんた、お湯を沸かすのに火がいるだろう。じゃあどうやって火を用意する?」

「え?そりゃ魔法で……」

「あたしは、こうするよ」

 

 そう言ってアナの手に炎が現れる。しかし、そこに魔法力を感じ無い。ならば、その正体にも察しがつく。

 

「技属性のオーラですか」

「そう。そして、力属性なら物理的に火起こしをすれば良い。という訳で、複数の属性を持つ鎧も対応する属性を装着者が持っていれば扱えるって事さね」

「なるほど。それで、アリスの鎧を使えていたのか」

「そういう事だよ。でも、修理はそうはいかない。使われているのが、ガンダリウム鉱石ってのもあるけど、全属性が必要だからね。普通なら複数の鍛冶師が集まって属性を合わせながらの作業だよ」

 

 そうなると、全ての属性をほぼ互角の力で合成しなければならず、調整が非常に高い作業となる。よほど、息のあった鍛冶師が集まらないと、1ヶ月で作業は終わらないだろう。

 

「そこで、あたしにお鉢が回って来たって訳さね」

 

 全属性を持つアナなら、自分だけの調整ですむので、集中力が続く限り作業ができる。 

 

「なるほど、そういう事ですか」

「さて、休憩もしたし、続きといくかね」

 

 アナは装甲補修の続きに取りかかった。

 

------------

 

 それから1ヶ月を少しすぎた頃、アリスの鎧の整備が終わった。

 

「これで全部終わりましたな」

 

 ツィーがそう言うと、アナは額の汗を拭う。

 

「ああ、やっと終わったよ。まったく……こんな面倒な作業は初めてだよ」

「ありがとうございます。本当に助かりました」

 

 流星がお礼を言うとアナは気にするなと言う。

 

「まあ、これがあたしの仕事だし気にするこたないよ。それに、伝説の鍛冶師テムの鎧に触れる貴重な体験だったしね」

 

 そんな時、整備場の扉が開かれ慌てた様子のジオが入ってきた。

 

「皆居るのか、ちょうど良かった!」

 

 ジオの手には1枚の紙が握られていた。

皆が不思議そうに見ていると、それを机の上に広げた。

 

「コイツを見てくれ……帝国の保有するハルツーム砦が落とされた」

 

 ワポルム帝国の出したお触れによると、1週間前にハルツーム砦が魔王軍によって落とされた事が書かれてあった。それに伴い、ハルツーム砦に近い街等に住む住人達に何時でも逃げ出せるように準備する様にと書かれていた。

 

「さて……どうする?」

 

 流星はアリスに聞いたのだが、彼女も同じように悩んでいた。

流星としてはエルゴレア砂漠での捜索をしようとしていた時にこのニュースだ。

 砦が落とされた今、魔王軍が何時でもワポルム帝国に攻め込んで来てもおかしく無い。

 

「だが、帝国には他にもアデレード砦やダモクレス砦もあるだろう?そこはどうなってんだい?」

「それが、アデレード砦とダモクレス砦はラ・ムール国から来た勇者達のおかげで持ちこたえているらしい。だが、魔王軍の略奪部隊が何時他の街や村を襲うかわからない状況だ」

 

 現在、ワポルム帝国を攻めているのは猛将で知られるカロン・ド・バール率いる戦士団だ。帝国側の考えとしては、次の攻撃までに出来る限り住人を避難させた上で、軍を進軍させ反撃に出ようというのだろう。

色々悩んだ末、アリスは結論を出した。

 

「……私は、救援に向かうべきだと思う」

「理由は?」

「短い間だけど、この国を見てきて簡単に負けるような国じゃない。何かある」

 

 現在のワポルム帝国の皇帝は、歴代に比べ比較的穏健よりであるが、それでも魔王軍が現れなければ、大陸統一を目指し覇道を突き進んでいただろう。

それに、グラナダへ始めて訪れた時、アナ達は帝国から依頼を受けて武具を製作していた。

そんな人物が、1ヶ月程で突破される砦を築くだろうか?

 そして、1ヶ月前に何があったかを考えれば、カロンの近くに奴が居る可能性が高い。

 

「エルゴレア砂漠を探せなくなったのは痛いが……」

 

 流星はアリスの意見に賛同した。

 

「……よし、わかった。なら、すぐに準備に取りかかろう」

 

 流星はそう言うとアナ達もそれに賛成する。

 

「そうだね、あたしらも手伝おうじゃないか!」

 

 こうして流星はワポルム帝国への援軍に向かう事にした。しかし、その前にやる事がある。それは……

 

「さて、これから忙しくなりますから、今のうちに食事にしましょう。吾輩、腕によりをかけますぞ」

 

 ツィーがそう言うと、「それは楽しみだ」とアナも同意する。

その後、見送り会も含めた食事を楽しむと、準備を整えて流星はグラナダ街をあとにした。

 

 

「さて、ここから近いのはアデレード砦だったよね?」

「そう。集合場所へ行こう」

 

 タイミングが良い事に、グラナダからアデレード砦へ向かう傭兵の1団に加わる事ができた。

アデレード砦までの道のりに詳しく無い流星にはありがたい事だ。

 その道中で、前回のように敵の襲撃を受けないかとヒヤヒヤしたが、何事も無く目的地に到着した。

そこは大きな岩山の麓に造られた、かなり堅牢な造りをしている砦であった。その砦の門の前では、砦に物資を運ぶ者や傭兵達の姿がある。

 流星が門の前まで行くと、1人の男が声を掛けてきた。

 

「アンタも援軍かい?傭兵ギルドのタグを見せてくれ……OKだ。歓迎するぜ」

 

 その後、流星は手荷物を受けて正式に砦の中に入る事ができた。

 

「まさか、カーゴの中まで調べられるとは思わなかった」

「何を言ってるの?それが一番大事」

 

 カーゴは、アイテムボックスやインベントリ等と呼ばれる物と一緒。そう、以前述べたのを覚えているだろうか?その性質上、とても危険な物でもある。

 考えて見てほしい。カーゴという異空間に凶器を隠しておけるのはもちろん、死体すら収納できる。つまりは、物的証拠の隠蔽も容易という訳だ。危険視するのは当たり前だ。

原理は不明だが魔具で首飾りの履歴を調べる帝国兵からOKを貰えたので、大丈夫なのだろう。

 

 それからしばらくして、傭兵達が集められた。

集まった場所には帝国の騎士が居り、彼が挨拶する。

 

「俺が、お前達傭兵部隊の総指揮官のアドンだ。これから、作戦を伝える」

 

 そう言うとアドンは地図を広げた。

 

「まず最初にやるべき事は前線部隊の支援として、補給物資を運ばなければならない」

 

 アドンは地図上の1点を指す。そこはアデレード砦と城壁の中間地点であった。

 

「ここを第一補給所とする。これより、各自物資を受け取り次第、補給部隊の護衛に当たれ。すぐに出発だ!」

 

 こうして流星にとって、初めての戦争が始まるのだった。

 

 

 味方の拠点といっても、そう簡単に突破されないよう工夫がされている。城壁とアデレード砦までの長さもその1つだ。

 そこへ魔王軍はどう攻め込んでいるかというと、ガゥーダという、急降下攻撃が得意な怪鳥型モンスター。人並みに知能のあるレッサーギャプラン。ドダイと呼ばれる飛行モンスターを乗りこなすドダイライダー達からの徹底したハラスメント攻撃であった。

 ハルツーム砦の時もこれらの対応に手間取り、城壁を破壊されて落とされたのだ。

今回はその教訓を生かし、対空攻撃の手段を増やしていたが、それでも飛行モンスター達からのハラスメントは止まらない。

 

「くそ、また来たぞ!弓隊構え!」

 

 城壁の上の帝国兵達は、迫り来るモンスター達に対して矢を放つ。しかし、その攻撃は高く飛ぶガゥーダ達には届かない。

 

「ダメだ!高すぎて矢は刺さらねぇ!」

「なら、魔法部隊だ」

 

 その指示を受け、兵士達は盾を構え詠唱する魔道士達の前に立つ。詠唱を妨害しようとドダイライダー達からの矢が降り注ぐが、前衛の兵士達はけして膝を折る事なく盾を構え続ける。

 

「光よ貫け、ムービルフィラ!!」

 

 詠唱が完成と同時に魔法の矢が一斉にガゥーダ達目掛けて発射され、その内の何発かが命中し一部のガゥーダが墜落していく。

その様子に帝国兵達が歓声を上げるが、残ったガゥーダ達が城壁に近付こうと急降下を始めた。

 

「よし、今だ。弓隊構え!……撃て!!」

 

 アドンの指示により、再び弓隊による一斉攻撃が始まった。十分引き付けた事によって、矢がしっかり命中した事でガゥーダはバランスを崩して墜落。地上居る兵達がトドメを刺した。

 その様子を見ていたドダイライダー達は、生き残ったガゥーダへ指示を出して引き上げていく。

日も沈みも欠けており、鳥型モンスターであるガゥーダは夜目が効かない。その為、夜襲は行わず日が昇るまで休むのだ。

 こうしてアデレード砦の攻防1日目が終わりを迎えた。

 

 翌日も魔王軍の攻勢は続く。

しかし、昨日と違い今度は地上部隊を引き連れての攻勢だ。

 ゴブリンやガザオークにコボルドバルディ達が多いが、鎧を纏った者の姿も見える。

その姿を見た帝国兵達に落ち着きがないよえに見える。

 

「ま、またあいつらだ……もう嫌だあ!」

 

 城壁の兵達の狼狽えを訝しんだ流星は、鎧の拡大機能で地上を確認すると、そこにはグールが、何体も確認できた。

 

「なるほど……アレを出せば動揺するのも無理はない」

 

 グールとはキリマンジャロ鉱山で戦ったが、自分の意思とは関係なく術者の操り人形となってしまう。

いくら戦い慣れてる者でも、助けを求めながら襲ってくる者を斬り捨てるのは難しい筈だ。

 特に、平和に暮らしていた自分のような異世界人には効くだろう。

 

「対勇者も兼ねてか……」

 

 一緒にこの世界へ来て、帝国方面で戦っている須佐達。その内の何人がまともに戦えているだろうか?

そんな事を考えていると、帝国兵から声をかけられる。

 

「おい、あんたアレについて何か知ってるのか?」

「えっ?は、はい。キリマンジャロ鉱山にできたダンジョンで遭遇した事があります」

「なら、弱点か何か知らないか?」

「弱点……ですか。アレは魔法力によって繋がれた部位で操り人形にされている人です。繋がれた部位を切断すれば、元に戻せます」

「それはすぐわかる物なのか?」

「魔法力の違和感を感じるとるとしか……」

 

 それでも、あの時は相手からの申告があってわかった事だ。

戦闘をしながら違和感を感じるとるのは、1人では至難の業である。

 複数人から援護を受けられるならどうにかできるかもしれない。

その事を伝えると、アドンが声をかけてくる。

 

「なら、今から部隊を率いてあのグールとかいうのを狙え!」

「えっ?自分がですか?」

 

 そんな流星の様子を見てアドンは言う。

 

「アレについて知ってるのだろう。このまま放置すれば士気に関わる。これは命令だ!」

「わかりました。では、すぐに準備を」

 

 流星はアドンの命令を了承すると、城壁を降りながら考える。

 

「さて、どうするかな?」

 

 戦場へ行けば、当然敵からの攻撃も予想される。その中で動けない者を見つけたらどうなるか。

負担になるのは死人よりも生存者である。

 そこまで考えて、リユース・サイコ・デバイス儀式を作ったとしたら、メデューサキュベレイはなかなか良い性格をした者だ。

 流星はカーゴから、アリスの鎧を取り出すと、それを身に着ける。

 

「また頼めるかい?」

「わかった。サポートは任せてた」

 

 アリスに礼を言うと、対グール部隊として集められた傭兵達の元へ移動する。

そこには流星の他に10人の傭兵がいた。

 

「よし、集まったな。お前らはこれからグールとかいうモンスターに変えられた者達の救助に向かってもらう。1人でも多くの生存者を出すんだ」

 

 アドンの号令を受けで流星達は動き出す。

 

 戦場に辿り着いた流星が見たものは、帝国兵達による魔法攻撃や矢にオーラによる攻撃で数を減らすモンスター達の姿だった。

しかし、それでも城壁へ近付く事を止めない。

 城壁に取り付きよじ登ろうとするコボルドバルディを長槍で貫く城壁上の者。ガザオークに囲まれて助けを求める者。ゴブリンを倒したと思ったら、別のゴブリンに討ち取られる者。

 血煙舞う戦場。フィクションではなく、リアルに流星の前で広がっている。

その中で、流星は自分に与えられた役割をこなす為に動き出す。

 

「よし、行くぜェッ、野郎どもっ!!」

 

 流星はそう強い言葉を使って自分に気合いをいれると戦場へ駆けるのであった。

 

「さて、まずは……」

 

 流星がグールを探していると、対グール部隊として集められた傭兵達の1人。ダンテ・ジャスタスと名乗る者が叫ぶ。

 

「おい、お前!そっち行ったぞ!」

 

 その先には2体のコボルドバルディが居た。

 

「わかった」

 

 流星は返事をすると、普通の剣を抜く。魔法力は必要な時に使えるように節約しないとなので、ビームサーベルの変わりにだ。

 

「ギヒヒヒッ!」

 

 邪悪な笑みを浮かべながら斬りかかってくるコボルドバルディ。

しかし、その剣は魔法力噴射(バーニア)によって空を切る。

 

「ガウッ!?」

 

 コボルドバルディが驚いたその瞬間、流星の剣が2体の首を斬り落とした。

首と胴体の離れた2体は、そのまま地面に倒れ粒子となって消えていく。

その様子を見た他の傭兵達は驚きの声を上げる。

 

「あいつ、2体同時に倒しやがった……」

「俺達も負けてられないな」

 

 そんな流星を見て、ダンテが言う。

 

「やるな。良い腕だ」

「いや、鎧の性能ですよ」

「謙遜は止せよ。あんたの腕さ」

 

 ダンテはそう言うが、流星にはわかっていた。

 

(なんて性能だ。アリス、これがキミの鎧の力なのか)

 

 まだ全ての装備を見つけた訳では無いが、グラナダで整備を受けたアリスの鎧は、全盛期に近い力を発揮している。

 

(先生、次が来る。気を付けて)

「おう!」

 

 アリスの忠告通り、グールが4体流星達の元へやって来る。

 

「予定通り、無力化する。援護を頼む」

「任せろっ!」

 

 ダンテや傭兵達が前に出てグール達を足止めする。流星は集中してグール達の四肢を観察するが、それで驚愕の事実を知る。

 

「おい、どうした!早く何処を攻撃すればいいのか教えてくれ!」

「……四肢全部だ」

「おいおい、何の冗談だ?」

「本当に四肢全部に儀式の痕跡がある。……キケロガ、やりやがったな」

 

 目の前に居るのは、全ての四肢を切断されリユース・サイコ・デバイス儀式によって改造されたのだ。そして、流星がそれを理解したのと同時に別のグールが襲い掛かる。

しかし、それはダンテの剣によって阻まれた。

 

「ボーッするな!酷だろうが、やるしかない……」

 

 苦虫を潰したような表情でグールを無力化したダンテは流星を叱咤する。

 

「今の俺達の仕事はグールを無力化する事だ。これは戦争だぞ」

「……はい!」

 

 流星は返事をすると、剣を構えてグールに突撃した。そして、戸惑いながらも四肢を切り落とし無力化していく。

その様子を見て他の傭兵達も続く。

 こうして、対グール部隊はグール達を次々と無力化していくのであった。

 

 

 一方、アデレード砦から少し離れた位置では、複数のドダイに乗る者達がその戦場を眺めていた。

 

「だらしない奴らだな。もっとしっかり攻めろー」

「そうは言いますが、魔王軍から預かった部隊を消耗させても良いんですかい?」

「気にするな。所詮アレは餌だよ。相手の戦力を測る為のね」

 

 ドダイから戦場を眺める男、ジェルミはそう答える。

 

「それに、あのグールは四肢を接続すれば元に戻る。奴らが無力化したグールを回収すれば問題無いさ」

「なるほどねぇ……」

 

 彼らはそんな会話をしながら戦況を見る。そして、アデレード砦に動きがあった事を知ると、ジェルミは言う。

 

「どうやら向こうで動きがあるらしいね。そろそろ俺達も行こうか」

「へい!」

 

 ジェミルを先頭にドダイに乗った者達が戦場へ降り立つ為に降下していく。

 

 

「大体、無力化できたか……」

 

 グールだった者達を1箇所に運び、ダンテはオーラで信号を送る。しばらくすればアデレード砦から救助部隊が到着する筈だ。

そんな時、急に1人の傭兵が倒れた。

 

「どうした!?」

 

 仲間が駆け寄ろうとしたが、その傭兵も倒れる。

 

「先生、上!」

 

 アリスの警告で上を見ると、ガゥーダに乗った者達が降下してきた。

 

「ハハッ、盛大にやられてるな。俺も混ぜろよ!」

 

 そう言ってガゥーダから1人の男が降り立つ。

 

「てめぇは、ブラックドッグのッ!?」

「知ってるのか?」

 

 相手を知ってる様子のダンテに何者かを聞く。

 

「傭兵団ブラックドッグの団長、ジェルミだ。金さえ貰えれば、なんだってやる奴だ」

 

 ダンテの言葉の通りなら、危険人物である事は間違いない。しかし、流星にはそんなジェルミより気になる事があった。

 

(この男、ドダイに乗ってるな……)

 

 ドダイに乗っているのは別に不思議ではない。

羽振りの良い盗賊団でも飼い慣らせる、比較的大人しいモンスターだからだ。

気になるのは昨日、アデレード砦から去っていくドダイライダー達が居たのと、先ほどの攻撃である。

 更に、ダンテの言っていたこと。これらを合わせた結果は、子供でもわかるだろう。

 

「さてと……お前らここでお終いだ。悪く思うなよ?」

 

 ジェルミは鞘から剣を抜き、傭兵達に言うのと同時に、彼の後ろから3体のドダイに乗った者達が現れる。

 

 

「団長、置いて行かないでくださいよ」

「なんだぁ?また獲物が増えんのか?」

「遅いのが悪いんだろ?それよりも狩りの時間だ。楽しめお前達」

 

 それを合図に、ジェルミの部下達は一斉に襲ってくる。

しかも、彼ら全員がダークトーンで塗られたジムの鎧を装備していた。

 

(訓練用とはいえ、魔法の鎧を部下全員に装備させているとは)

 

 民間にも出回っている旧式とはいえ、それでも数を揃えるのに資金はそれなりに必要であるし、整備も考えればかなりの額が必要である。

その鎧を部下全員に装備させるという事は、それだけジェルミが率いる傭兵団は金に余裕がある事の証明でもあった。

 

(それにあの剣は……)

 

 流星が見る限りジェルミが持つ剣は、ドダイライダー達の物とは少し違うようだ。

 

「お前ら、しっかり働けよ」

 

 そんなジェルミの言葉と共に3体のドダイに乗った者達が降りると同時に、彼と一緒に来た1人が上空から狙撃を始めるのに合わせ襲い掛かる。

 

「あいつらは敵だ。躊躇するな!」

 

 ダンテが声を声を張り上げると周りの傭兵達と共に反撃に出る。

数の上ではこちらが多いが、魔法の鎧の力に物を言わせ好き勝手暴れるブラックドッグ団員に、傭兵達は押され始める。

 

「おいおい!こんな奴らにやられてんのかよ?ウチらの中じゃ弱い方だぞ」

「そりゃないですよ団長!」

 

 ジェルミは笑いながら戦況を見るが、その表情はすぐに変わった。

 

「……さて、これで1対1だな」

 

 それは流星の事だ。彼は流星の前に立つと剣を構える。

 

「その特徴的なV字の兜飾り、雇い主の言ってた勇者だな」

「ゲン担ぎかもしれないぞ?」

「かもな。俺もやってるし」

 

 そう言うと、彼の持つ剣から鎧が現れ、ジェルミの身体を覆う。そこに現れたのは、他の団員達と同じダークトーンで塗られたジムの鎧。

しかし、その兜には特徴的なV字の飾りがあった。

 

「だが、明らかに他の連中と雰囲気が違う。簡単に死んでくれるなよ!?」

 

 2人は同時にお互い向かって行き、剣がぶつかり火花を散らす。

だが、パワーではアリスの鎧の方が強く、ジェルミのジムの鎧を簡単に押し返す。

 

「ひゅー。ハッハッハ、やっぱすげーな勇者の鎧ってーのは!」

 

 押さえれいるのにも関わらず、ジェルミは楽しそうである。

そこへ、ドダイに乗った部下がジェルミを援護するように弓矢を放つ。

 

「1対1じゃなかったのか?」

「部下がした事だ。気にするなよ!」

 

 流星はそれを防ぐとジェルミが距離をとり、大腿部にあるガンを交互に発射。

ジェルミもホルスターから2つのガンを抜くと、鎧から魔法力を供給して放ちながら、流星からの射撃をバーニアで回避する。

お互いに魔法力を矢として飛ばしそれを避ける、互いに一歩も引かない状況が続く。だが、そんな状態が長く続くはずもなく、やがて終わりの時が来た。

 それは一瞬の出来事。2人の間へ1つの影が割り込んだ。

 

「ぐはっ!?」

「ダンテっ!!」

 

 流星は叫び、彼の名を呼んだ。しかし返事はない。代わりにそこには大量の血を流して倒れるダンテの姿があった。その胸からは血が溢れている。

 

「お楽しみの所すいません団長。グールの回収終わりました」

 

 周囲には誰も居ないのに、声だけが響く。

 

「もうか?早いな」

「カードダスってやつのおかげです」

「なら撤退だ。勇者の鎧の強さもわかったしな」

 

 そう言うと、ジェルミはオーラの塊を流星に向かって放つ。それを迎撃する為に大腿部のガンを発射するが、オーラの塊はそれを避けて流星にぶつかって爆発する。

 アリスの鎧にダメージを与える程の物では無いが、これにより視界が一時的に妨げられた。その隙にジェルミは部下達と共にドダイに乗って飛び立とうとするが、そこへ流星は大腿部ガンを連射する。

しかし、それは簡単に回避された。

 

「おいおい、そんな攻撃で当たるかよ」

「くそっ!」

「じゃあな勇者さんよ」

 

 そう言うと、ジェルミ達は空へと消えていった。

 

「先生ごめんなさい。敵にアクティブ・カモを使える者が居たみたい……」

「今は?」

「魔法力は感知できない。居ないと思う」

 

 それを聞き、流星はダンテに近づいて様子を確認する。

彼の胸には短剣によってつけられたと思われる傷があり、その呼吸は既に止まっていた。

 

「もっと早く気づくべきだった」

 

 アリスが魔法力を感知できないとなると、考えられるのは一つ。

あの時、ジェルミのガンによる攻撃は、アクティブ・カモを悟らせない為の囮であったのだ。

 カードダスによってグールも回収されてしまい、流星達の目的は見事失敗してしまった。

 

「今はダンテを運ばないと……」

 

 そんなアリスの言葉で現実に戻された流星は、無言でうなずく。

見開いたダンテの目を閉じてやると、他の傭兵達と共にアデレード砦へ帰還する。




カードダス

 魔王軍で開発された特殊なカード。
モンスターや武具等の絵が描いてあるので、トレーディングカードに見えなくもないが、コールの魔法でカードから飛び出して実体化する。
 生き物もしまえる事から、カーゴで作る異空間とは異なると考えられる。
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