作品も約1年続ける事ができました。読んでくれる皆様には感謝しかありません
それから数時間後、アデレード砦での戦いは終わった。
この戦いを指揮していた者を帝国の騎士とラ・ムール国から来た勇者が倒したからだ。
だが、まだ戦っている者達もいる。
魔王軍は撤退する時にモンスター達を殿にしたのだ。
しかし、その数も減り、ワポルム帝国はアデレード砦防衛に成功した。
戦闘はモンスター殲滅になったが、帝国の騎士達は未だ忙しなく走っていた。
アルカディア平原で野戦を行っているダモクレス砦への支援部隊編成、武器や消耗品の再装備など。
流星はそんな光景を見ながら、瞑想していた。少しでも魔法力を回復する為に。
パックを使っても良いが、戦闘中に素早く魔法力を回復できるので残しておきたい。
「……先生、大丈夫?」
「ん~……別に疲れたとか無いんだよね。鎧着てるからさ」
そう言って笑うと、アリスが用意してくれた紅茶に口を付ける。
アナ達が整備してくれたおかげで、アリスの鎧の燃費が大幅に上がり、長時間の戦闘でも戦えるようになった。
(整備前だったら、途中で魔法力切れになっていたかもな……)
アナ達の仕事振りに流星は感謝した。
そんな彼をじっと見つめるアリスは、視線を別の方向に向けて言う。
「そうじゃなくて、向こうへ行かなくてよかったの」
視線の先には若い2人の女性が居た。
彼女達は流星が教えていた科目を選択して生徒で、千田結衣と清瀬ひろみと言う。
彼女達は須佐と共にワポルム帝国への支援に向かったのだが、こんな所で再開するとは思いもしなかった。
彼女達は騎士達と話しているが、ここからでは距離があり、内容は聞こえてこない。
「ああ、彼女達か。……こんなに強くなってるとは思わなかったな」
「そうなんだ」
ラ・ムール国で訓練していた時の彼女達は、訓練についていけてない組であったと記憶していた。
須佐達との旅路が彼女達を強くしたのだろう。
そんな2人を見ていると、千田がこちらに気付いたようで流星の前までやって来る。
「やっぱりっ!先生だ!」
「ああ、そうだよ。久しぶりだね千田さん」
「お久しぶりです。でも、どうして先生がここに?」
「話すと長いから簡単に言うけど、ラ・ムール国にはまだ隠された勇者の鎧があって、それを整備しに来たら、魔王軍の襲撃があると聞いてね。傭兵として救援に来たって訳さ」
その説明を聞き、千田は流星が傭兵として戦っている事が驚愕だと言う。
流星の性格を考えれば、それもそうだろう。流星自身もそう思っているのだから。
そして、彼女は少し恥ずかしそうにしながら、自分の近況報告をしてくれた。
彼女は魔法力制御の訓練を行いながら、アデレード砦の防衛隊に所属していたのだそうだ。
「こっちでも頑張っているみたいだね」
そう言って流星は千田を褒めると、彼女は嬉しそうに笑う。
その様子を見て、何故か気持ちが変な感じがしたアリスは、流星の脇を肘で突く。
「どうかしたんですか?」
「……うん?何でも無いよ。それで、状況は?」
「良く無いみたい……」
千田が言うには、アルカディア平原で戦闘している部隊の方に魔王軍の将、カロン・ド・バールの姿が確認されたそうだ。
まだ前線へ出ていないようだが、彼は猛将として知られている。何時までも後方で待機はしないだろう。
幸いなことに、向こうには須佐と五井達が居るので、簡単に負ける事はないだろが、未だ姿を見せないキケロガが居る。放置はできない。
「千田さん、俺も支援部隊に行くよ。大丈夫かな?」
「はい!大丈夫です」
千田が先頭を歩き、流星達はその後に続く。
アデレード砦から少し離れた所では、ダモクレス砦へ向けた補給部隊とそれを護衛する部隊が集まっている。
千田は彼らに流星の事を説明すると、大変驚かれた。
それもそうだろう。何せ、普通の傭兵として参加していたのだから。
特にアドンは今までの無礼を謝ってきた。
流星は気にする事ないと答えた後、千田がそんな流星に質問する。
「そういえば、先生は何で傭兵として参加を?身分はラ・ムールの王様が保証してくれてるのに」
「そう聞かれてもな……色々あったんだよ」
キリッジ・オブ・マンジャ・ノーブル・ザ・ジャロ・レイディアンス鉱山でのアレコレが面倒で傭兵のふりをしていたが、これはこれで面倒になった。
(これからは、もうオープンでいこう。そうしよ)
流星はそう考える事にした。
それから、ダモクレス砦への補給はアドンが指揮を取りながら行われることになった。
アデレード砦は帝国騎士団とラ・ムール国から来た勇者達を半分にして守る事になった。
アドンはあらためて流星にここまでの助力に対しての感謝を述べると、近くの騎士達を集めて出発準備を始めた。
「先生、また後で!」
「ああ、気を付けてね」
千田は騎士達と共にアデレード砦の守りとして残るそうだ。
そんな彼女に声を掛けると、アドンの下へ向かう。
アリスはそんな千田の姿をジッと見ており、流星がその視線に気付いた時、彼女は口を開いた。
「どうかしたかい?」
「……彼女との関係は?」
「んー。地球では、遊び相手の1人だったよ。彼女がどう考えてるかは、知らないけどね」
「そう」
聞きたい事は聞いたと、それっきりアリスは口を閉ざした。
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「アデレード砦から兵士が出るのを確認いたしました。どうやらダモクレス砦へ救援を送るようです」
「攻めてきますか」
部下からの報告にキケロガは、机の上に広げられたアルカディア平原の地図を見る。
「どうなさいますか?人員の減った砦ならば、モンスター達をもう一度ぶつければ落とせるやも……」
「救援部隊の中にこういう者はいましたか?」
部下の声を遮り、キケロガは魔法で流星とアリスの姿を映し出す。
「男の方は確認できました。しかし、女の方は……」
「問題ありません。……それに、カロン様からも勇者達を前線へ出すよう言われていますからね」
これまでカロンは前線に赴く事はなかった。須佐に落とされた腕の礼をする為に、これまで我慢していたのだ。
しかし、そろそろ痺れを切らしているのか、須佐達を前線に釣り出す策を考えるよう言われた。
「呪術士団とシャーの部隊から連れて来た戦士達を集めなさい。……勇者達の人となりは、だいたいわかりましたからね」
アデレード砦から出発してから2日後。アルカディア平原で味方が野営する陣地が見えてきた。
モンスター達から襲撃はあったが、運んできた物資は守りきった。多くの者がそう考えやや気が緩んだ時、荷馬達が進むのを嫌がり出したのだ。
「いったいどうしたんだ?落ち着け」
御者は馬を宥めるが、一向に落ち着かない。
「何をしている。早くなだめろ」
アドンは御者をしている部下に言うが、首を横に振るだけだ。
「申し訳ありません、何故か言うことを聞かなくて……」
「野営地はすぐそこだというのに」
部下の言う事はわかる。しかし、荷馬達はどんなに宥めても動こうとしない。
アドンが困り果てていると、不意に大きな音が辺りに響いた。
「何事か!」
音のした方を見ると、そこには物資に火を放つゴブリンとガザオークの姿があった。
火に驚いた馬が暴れ出し、その御者に必死に掴まるが振り落とされてしまう。
「くそっ!何処に隠れていたっ!?総員、反撃しろ!物資を守るのだっ!!」
アドンは部下に指示を出した後、剣を抜いてゴブリン達に向かって行く。
そんな彼らの様子をキケロガは上手くいったと笑う。
魔王軍が奇襲できたのには訳がある。姿を消す魔法である、アクティブ・カモを使ったのだ。
もちろん魔法力を感知されないよう、シャーの部隊から連れて来た戦士達にオーラを使わせた。
このオーラの影響で魔法力が感知されづらくなった後、コールでカードダスからモンスターを呼び出し、奇襲を成功させたのだ。
「できるだけ戦闘を長引かせなさい。お優しい勇者達が、きっと助けに来ますよ」
「はっ!了解しました」
部下に命じた後、キケロガは支援部隊を見る。
「これで向こうは良いでしょう。さて、もう1人の勇者よ、お前はどう動く?」
火の手が上がる物資を少しでも守る為に消火活動をする兵を守る為、流星はモンスター達を倒していくが、敵の数が多い。
「先生、あそこ」
辺りを見ていたアリスは、何かを見つけ声を上げた。
そこには何も無かったが、その何も無い場所からモンスターが突然現れた。
「何かが隠れてるのか!」
流星は背部・カノンと大腿部ガンを何も無い空間へ向けると乱射した。
すると、悲鳴が聞こえ空間が歪む。そこから現れたのは、魔王軍の戦士と呪術士達だった。
「見つかったか!全員武器を持て!あいつらを返り討ちにするんだっ!」
「先生、来る」
ゴブリンやガザオークは兵士にとっては然程強敵ではないが、魔王軍の戦士が混ざっているとなると話は別だ。
しかも、空間に作用する魔法を使う呪術師が居るとなると厄介である。
「先に向こうを片付けるぞ」
「わかった」
流星はそう言うと背部・カノンを呪術士達に向けて魔法の光線を放つ。
しかし、1人の戦士が間に入るとオーラを放出。そのまま武器を振り回すと、凄まじい風を生み出す。
「喰らえっ!ストーム!!」
ブリティス剣術の技が1つ、ストーム。オーラで風を巻き起こする技だ。
ストームは光線と激突すると、その威力を大幅に減退させ、回避する時間を作り出した。
流星はすぐ次の攻撃に移ろうとするが、周囲のゴブリン達が襲い掛かる。
「邪魔だっ!!」
流星は大腿部のガンを連射しゴブリン達を倒すと、戦士に向かって行く。
これに受けて立つと戦士は武器を振り上げ、大地に突き立てる。
「アース・スピア」
オーラにより大地が隆起し流星に襲い掛かるが、それを魔法力を纏う剣で切り払いながら前進し、戦士へ剣を振るう。
目の前の戦士は、ジ・ンバと同じグフと呼ばれる魔法の鎧を身に着けていた。
その厄介さは既に知っている。この戦士は並の騎士以上の強さを持っているだろう。
「やるな、だがっ!」
グフの鎧を纏う戦士は流星の剣を防ぐと、その隙にもう1人の戦士が襲い掛かった。
「くっ!このっ!」
慌てて回避するが、そこへ呪術士達が魔法で攻撃してくる。
このままではまずいと思った流星は、大腿部のガンを乱射して牽制するる。
1対3では不利だと判断して仲間と合流しようと考えたが、他の者達も複数の敵に包囲されてそれどころではなさそうだ。
しかし、魔王軍の攻撃は加減されており、今のところ命に別状は無い。
「こいつら……まさか」
その時、アリスは魔王軍の考えに思い至る。自分達を囮に須佐達を釣り出そうとしているのだ。
それを流星に伝えると、彼も気付く。
「こいつらの狙いは須佐達か」
「異世界から来た者には、優しさがある。美徳であるけど、彼もそこを突かれてピンチになった事がある」
それがわかっても、包囲している敵が居なくなる訳ではない。
そして、流星達が考えに思い至った事に気づかぬダモクレス砦を預かる将軍ではない。
「止めないでください。このまま放置すれば、彼らが!」
「それが罠だというのです勇者様。今出れば、カロンに背後を突かれます」
「しかし!」
須佐は野営地から出ようとするが、部下達に止められてしまう。
その時、五井が将軍へ提案を出す。
「敵が俺達を釣り出そうとしてるなら、俺達も同じ事をしてやろうぜ」
「イツイ様それはどういう事で?」
常に囲まれた状態での攻撃は精神的な負担も強く、何時も以上に疲労している。
そして敵は優秀であった。
傷つけば下がり別の者と交代し、数が減ればモンスターを呼び出す。
必要以上に欲張る事なく自分達の役割を真っ当している。
これを突破するには、敵が予想していなかった事を起こさなければならないだろう。
その為には、この包囲網を突破して敵陣に切り込む必要がある。
それができそうなのは、流星しか居ない。
しかし、それ故に飛び出していけなかった。
なぜなら、ソヨ侯爵領で似たような事を体験しているからだ。
流星達が何か行動を起こせば、エルドリッチの鎖が放たれる筈だ。
幸いなのは魔王軍も魔法の鎧を使っているので、ミノフスキーを唱えられない事だ。
しかし、このままではいずれやられる。
「何か……手はないのか」
流星がそう呟いた時だった。突然、包囲していた魔王軍が攻撃を止めたのだ。
「何?」
「どういう事だ?」
敵の意図がわからず困惑していると、ある者から通信が入る。
『よく聞くのだ帝国の兵士達よ。自分は魔王軍呪術士団の1人、キケロガ。お前達に選択を与えよう。我々に降伏するか、それとも抵抗しコロされるかだ』
「なんだと!」
アドンが怒りの声を上げる。
だが、これは彼らにとってもチャンスだった。このままではコロされるとわかっているので、降伏すれば命だけは助かるだろう。
周りの者達も迷っている様子を見せている中、流星は通信に答える事にする。
こんな時こそ冷静にならねばならないからだ。
通信がオンになっている事を確認した後、彼なりに威厳ある声で応答する。
「その答えはノーだキケロガ。どうせ、グールか何かの材料にされるんだろう」
『ハッハッハ!お見通しという訳ですか。しかし、この程度の脅しで屈する貴方ではないでしょう?』
「そうだな、グールにされる気はない。だから、お前を倒す」
『ならば見せてください勇者よ!貴方の力を!!』
通信が切れると同時に魔王軍の包囲の一部が解かれ、地響きと共に1体のモンスターが現れる。
そのモンスターは流星の世界でも有名だった。
「ヒドラ……っ!!」
複数の首を持ち、それぞれの頭部が独立した思考をする怪物、ヒドラ。
正確にはヒドラザズゴググングという名前だが、流星の知る由もない。
そんな流星にアリスが話す。
「先生、アレはMAに匹敵する存在。危険すぎる」
「そのモビルアーマってのがよくわからないけど、アレが魔王軍の切り札であるのは確かだ」
「でも……」
「なら、酔狂な馬鹿と契約した身を恨むんだね。いくぞ!」
流星がヒドラザズゴググングへ向かおとした時、ヒドラザズゴググングが突然後ろへ振り向き炎を吐き出す。その理由はすぐに判明した。
炎を切り裂き、青を基調とした鎧を着た者が現れる。そんな彼を守るように、ネモの鎧を着た者達が周囲を警戒する。
「ラ・ムール国の勇者、ここに降臨!俺達が来たからには、もう大丈夫だぜ!」
現れたのはラ・ムール王国の召喚した勇者である。そして、その声は流星の知る人物だった。
(あの声は五井か。でも、彼の鎧はブルーディスティニーだった筈。なぜ須佐の鎧を?)
「行くぜっ、オイ!」
五井は2本の剣を合体させ両刃剣にすると、ヒドラザズゴググングへ突撃する。
それに合わせ、他の勇者達も武器を構えると戦闘を開始した。
「……カッコつけた結果、ごらんの有様だよ」
何とも言えない空気の中、アリスが慰めるように流星の肩を軽く叩く。
「どうするの先生?」
多数首から繰り出される攻撃を躱し、五井はヒドラザズゴググングへ攻撃を仕掛け、他の勇者達は支援部隊を包囲する魔王軍へ攻撃を開始した。
「まずは、目の前の敵を倒そう。でも、キケロガ達の動向には気をつけてくれ」
「わかった。そっちは任せてたほしい」
ヒドラザズゴググングの相手は五井に任せ、流星はネモの鎧を着た生徒へ話しかける。
しかし、返ってきたのは困惑の言葉だった。
「勇者達がここへ到着する予定はなかったが…………なるほど、そういう事か」
戦場の様子を見ているキケロガは、あまりにも統率されたネモの鎧を着た勇者達の動きに察する。
「キケロガ様これはいったい?」
理解できていない部下へキケロガは説明する。
ネモの鎧を身に着けいるのは、ラ・ムール国で呼ばれた勇者達では無く、帝国の騎士達だと。
「見事に釣り返されましたね」
そう。あの時五井が提案したのは装備の入れ替えであった。
須佐の持つ鎧と五井の持つ鎧を交換し、ラ・ムール国が勇者用に渡したネモの鎧を帝国騎士達が装着。
五井は須佐のフリをし、須佐を狙って出撃したカロンの部隊を五井の鎧を装着した須佐が奇襲。
五井はそのまま救援へ行き、須佐はカロンを撃破する作戦だ。
しかし、あまりにも統率の取れた動きによって、ラ・ムール国の勇者達は帝国騎士達が変装している事に気づいたのだ。
だが、支援部隊は勇者が助けに来たと思っており士気が高揚している。
このままでは包囲網が破られる可能性が出てくる。
「自分も出ましょう。お前達も続け」
「はっ!」
流星は帝国騎士から作戦を聞き、うなずく。
「なるほど。そういう作戦なのか」
「まさか、勇者様達のお知り合いが居るとは思いもしませんでした。ですが我々の事は……」
「わかってる。言わないよ」
「配慮感謝いたします」
帝国騎士の1人は流星に礼を言うと、包囲網を崩す為に魔王軍へ突撃する。
流星も後に続くように突撃しようとしたが、アリスが予告無く魔法力を持っていった。
だが、その理由はすぐにわかった。魔法力で構成された盾が飛来した魔法力の光線を防ぐ。
「この魔法力……キケロガか!」
「邪魔はさせませんよ勇者」
キケロガの腕が伸びの同時に、アリスがブースターユニットを起動させ加速する。
「またあの攻撃か!」
左右から迫る腕を掻い潜ると、キケロガの部下達から魔法の矢が飛んでくる。
これらを切り払い、更に前進する流星へ、キケロガは肩にある装飾品から魔法力の光線を発射。
しかし、その光線をアリスがシールによって防ぐ。
「ほう、やりますね。では、これならどうです?バズ!」
流星の目の前で光が凝縮するとすぐさま爆発し、彼ら吹き飛ばす。
体勢が崩れた所へキケロガとその部下達が魔法の矢で追撃を放つが、アリスはすぐさま鎧を操作し加速して回避する。
「す、すまんアリス」
「大丈夫?」
「少し耳鳴りがするだけだ。それよりも……」
「うん、わかってる。敵の数を減らすんだよね」
アリスの言葉通り、流星は敵の数を減らすべく突撃する。
キケロガの肩の装飾品が魔法力の光線を放つと、アリスは冷静にブースターユニットを吹かし飛翔するとキケロガへ牽制を行う。それは回避されるが、想定済みだ。
アリスの攻撃を回避した事で出来た隙をついて、引き連れている部下へ接近した流星が一刀両断にしようと剣を振る。
「我ら呪術士団が魔法だけと思うな!」
そう声をあげると、部下の1人は剣を抜いて受け止め、ガンを流星へ向ける。
「させない」
アリスは鎧各所のスラスターへ魔法力を送り
流星が背中を見せたと思うと、目の前からその姿が消えうせる。
「何ッ!?」
バーニアを利用したロールターンだ。
大腿部のガンが跳ね上がると同時に魔法力の矢が放たれ、部下の胴を貫く。
予想外の攻撃に周りの部下達が一瞬止まるがすぐに攻撃を再開し、キケロガも肩にある装飾品から魔法力の光線を発射する。
この攻撃を流星がシールで防ぎつつ、アリスは背部・カノンを動かし魔法力の弾丸を発射し、額を撃ち抜いてまた1人部下を倒す。
もう1人の部下も脚部のスラスターを使いバーニアで接近戦を仕掛ける。剣が激しくぶつかり合う中、魔法を唱える。
「汝の生命力を我が糧とせん。トゥール!」
「ぐッ!」
流星の身体から、生命力と魔法力が失われていく。しかし、怯む事なくブースターユニットを吹かし、相手を跳ね飛ばすと背部・カノンの砲身を背後へ向けて発射。
キケロガが連れて来た呪術士達を全て倒した。
「一月前とは動きが違う?……いや、鎧を整備したのか。グラナダによほど腕の立つ鍛冶師が居るのか」
部下を全て倒されたが、キケロガにはまだ余裕があった。
「このまま引き上げるのは、メドザック様の顔へ泥を塗る事になる。……真の姿を晒すとしましょう」
キケロガが気合いを入れると同時にその姿が膨れ上がっていき、キケロガはその異形を晒す。膨れ上がった胴体に、無数に蠢く触腕はイカやタコを思わせる。
モンスター、ブラウ・ブロスキュラ。それがキケロガの正体だ。
「勇者よ!その鎧と命、自分がいただきますよ!」
そう言うと、触腕が伸びて一斉に襲いかかる。
ブースターユニットで後方へ下がるが、触腕の1本1本から魔法の矢が放ち続けられる。
囲まれないよう動きながら避けられない魔法の矢をシールで防ぐが、埒が明かない。
「なら、これでどうだ!」
流星はブースターユニットの加速力を利用して一気に間合いを詰めると、剣を振るう。しかし、その攻撃は触腕に弾かれ届かない。
「甘いぞ勇者よ!」
更に、上半身だけのキケロガは肩から魔法力の光線を発射し、流星から距離を取ると触腕を叩け巡らせ、流星の逃げ場を無くすと、鞭のように振るわれる。
とっさに回避したが、その際に剣が弾かれてしまった。
それを好機と見たキケロガは触腕を一斉に動かし襲わせる
咄嗟にバーニアで避けるが、四方八方から迫る触腕を避け続けるのは無理だ。
「先生、これを」
膝部ホルダーから飛び出したビームサーベルの柄を掴むと、魔法力を込める。
そして、襲いくる触腕を青く光り輝く刀身で斬り裂いて行く。
「その程度でッ!?」
キケロガはビームサーベルで斬られた触腕を戻すと、再生を始める。
そして、別の触腕を動かし流星へ攻撃を仕掛ける。
振るわれる触腕をビームサーベルで斬り裂きながら、流星は回避し接近する。
「あの者を抑えろ!」
キケロガの命令でシャーの部隊から連れて来た戦士達が流星を止めようと襲いくるが、アリスが背部・カノンを操作して迎撃。
オーラと魔法力が飛び交う中を突き進み、キケロガの振るう触腕を全て避けれる。
そして、ついに流星はキケロガの懐に潜り込み、ビームサーベルを胴体に突き刺すと魔法力を流し込む。
しかし、それはキケロガにとって致命傷にはなりえなかった。
「何……!?」
「残念だったな勇者よ!自分の生命力は無尽蔵だ!」
そう叫ぶと触腕で流星を殴り飛ばす。
アンバックで体勢を立て直すと、背部・カノンと大腿部ガンで攻撃するが、大したダメージにはならなかった。
「クソっ!ヤツの言う通り、不死身なのか」
「先生落ち着いて。こういう再生するモンスターは、何処かに核になる場所がある。それを破壊できれば倒せる筈」
「核たって……」
アリスに言われ、核になりそうな場所を探す。
先ほど胴体へ攻撃した時は何ともなかったので、この場所には無い筈だ。では、何処に?
そこまで考え、ある事を思い出す。
「これで終わらせる!」
ビームサーベルを上段に構えて斬りかかるが、グールが割り込み盾で防ぐ。そのまま反対の腕の盾にある刃を振るう。
「えぇい!?」
恐れる事なくブースターユニット吹かしてニークラッシャーで膝蹴りを叩き込んで退かす。
キケロガは腕を戻すと肩の装飾品と合わせて魔法弾の連射を開始するが、流星達は止まらない。
「うおぉぉぉっ!」
そしてそのままキケロガの胸部をビームサーベルで斬り裂いた。
「あの時、視界を遮られたけど……まさか!」
「そこが、ヤツの弱点だと思う」
狙うは胴体から生えている上半身だけのキケロガの胸部だ。
流星が着地すると同時に、グフの鎧を纏う戦士が右腕から鞭を伸ばすと流星を捕らえる。
「これでも喰らえッ!ライトニング!」
鞭からオーラを送り、それを電撃へと変える。
ブリティス剣術、ライトニングの応用だ。
「グアァァァッ!」
電撃を受け流星は悲鳴を上げる。
その隙に戦士は距離を詰める。
「勇者よ、覚悟!」
「やらせない」
動けない流星の変わりにアリスが鎧を動かす。迫るヒートサーベルをビームサーベルで受け止め、返す刃で討ち取る。
「ネグザス様……申し訳、ぁ……り……」
そう言い残し、戦士が崩れ落ちていく。
「……すまないアリス」
「それよりも今は目の前敵に集中して」
アリスの言葉に短く返事をする。
未だ身体に痺れはあるが、アリスのサポートでなんとか動ける。
そして、キケロガへ向き直る。
その胸部は一月前に斬り裂かれた時のままであった。だが……
「ほう。自分の弱点を見抜きましたか……しかし、その程度で倒せる自分ではない!」
そう叫ぶと同時に再生した触腕でオールレンジ攻撃を仕掛ける。
魔法力も増大させ触腕を振り回す。どれで攻撃するか読ませないようにする為だ。
正面の触腕から発射される魔法の矢を回避すると、すぐに背後から魔法の矢が迫る。
「後ろっ!?」
しかし、アリスがバーニアで身体を傾け避ける。
「先生は敵に向かって。回避はする」
「わかった!」
アリスを信じ、足元から迫る触腕を跳んで躱すと、ブースターユニットで加速し前へ進む。
右からの魔法の矢を避けると時間差で左から魔法の矢が迫る。
しかし、それはアリスが鎧を傾け大腿部のガンによる攻撃で撃ち落とされる。
流星は更に加速し、キケロガとの間合いを一気に詰める。
そうはさせじと、両手に魔法力を集め肩の装飾品と合わせて一斉射する。
「傲るなよ!ムービルフィラ」
その連射速度は凄まじく、一瞬で弾幕が形成される。
しかし、それすら囮であった。回避して体勢が整わない所へ背後から触腕を振り下ろし攻撃すが、アリスがブースターユニットの左右の出力を調整し、無理やり突き抜ける。
左右から迫る魔法の矢を避け、弾幕をくぐり抜けると、流星はビームサーベルを構える。
妨害する為、触腕から魔法力の光線を放つが、頭を屈めて回避される。
「こ、これ程とはっ!?」
目の前に迫った流星はビームサーベルを振り上げる。
触腕で防ぐのでは間に合わない。キケロガは、魔法力を集中させて盾を作る。
その盾にビームサーベルがぶつかり激しい火花が散るが、アリスが背部・カノンへ魔法力を送り込むと、射撃する。この攻撃で盾が破壊される
「これでっ!」
胸部へ向かってビームサーベルを突き出す。
「ぬわぁーーーーっっ!!」
胸部にビームサーベルが突き刺さると同時にキケロガの内側から光が溢れる。
それと同時に流星は吹き飛ばされた。
「ぐあぁっ!?」
「先生!」
アリスの叫び声が聞こえる中、流星は地面に叩きつけられる。
「か、身体が再生でき……」
キケロガの全身がボロボロと崩れ、塵へと変わっていく。
そして、そのまま完全に消滅した。
「……終わったのか?」
流星の言葉にアリスは頷く。
「うん……これで……」
キケロガが消滅した場所から光が溢れると、その光の中から何かが姿を表す。
近づいて確認すると、それは手の平に収まりそうなサイズであったが、強い魔法力を秘めていた。
物がわからないが、このまま放置はできないので、カーゴへ格納する。
「まだ、終わってないもんな」
流星が振り向くと、そこには両刃剣でヒドラザズゴググングの首を跳ね飛ばした五井の姿があった。
「向こうも終わったみたい」
「あぁ、そうだな」
キケロガとヒドラザズゴググングを討ち取られた事で魔王軍は撤退を始める。
受けた被害を確認し、支援部隊はすぐに動き出す。まだ、戦いは終わっていないのだ。
残るは敵将、カロン・ド・バール。
彼の部隊を挟撃する為、流星達は移動を開始した。
閉じていた目を開くと、女性は呟く。
「キケロガはヤられたか」
その人物とはメデューサキュベレイである。
部下であったキケロガを失ったが、それ以上の成果もあった。
「いくつか足りない装備があったが、まぁいい」
キケロガとの戦闘で使われた装備の確認はできた。アリスの鎧は、自分が戦っていた時とほぼ同じ物が使われている。
契約者も先代勇者には未だ届いてはいない。
「ならば、やりようはいくらでも……グッ!」
痛む両腕を見れば、変色を始めていた。何もしなければ、数日もしない内に腐っていくだろう。
「この身体でも駄目だったか……やはり、あの精霊を……」
そう呟くメデューサキュベレイの目には狂気の光が宿っていた。
そんな彼女を心配し部下が駆け寄る。
「大丈夫ですかメドザック様」
「治癒師を呼べ。進行を抑える……」
「はっ!」
現在はメドザックを名乗っているが、その正体はメデューサキュベレイと呼ばれた者であり、秘術を用いて地獄の底より魂だけで蘇ったのであった。
「待っていろ……精霊アリス。あの時の屈辱、晴らしてくれる……」