そこに建てられたズム神殿で大神官ズール・ザビは部下から侵攻の具合を聞いていた。
「フルーシア王国の侵攻は、シャー・ネグザス様率いる騎馬団によって陥落は目前。ラ・ムール国は、魔の森に住まうマゼラアント・クイーンを魔王様のお力で活性化させ、これを騎士隊へぶつけて消耗させ、マーテル様率いる呪術士団がカレスティア王国を攻める時間を稼ぐ予定でございます」
「なるほど。近日中に作戦を実行するのだ」
「はっ!」
『待て、ズール。その作戦は無意味だ』
突然聞こえてきた声にズール達は跪く。
声の主は、魔王ジオング。勇者に封印され、今は思念を自身の信者へ飛ばす事しかできない程弱りきっている。
しかし、それでもなおその強大な力の前には只人では手も足も出ない程だ。
「ジオング様!それは一体どういう事でしょうか?」
『忌々しい事に、ラ・ムール国が勇者を召喚したのだ』
「それは真ですか!?」
『そうだ。それにより、マゼラアント・クイーンは倒され、王国の騎士達は大した損害も受けていない』
「そんな……」
『そして、勇者はラ・ムール国を守護する剣となりつつある。今は、勇者の行動を監視し、何かあればすぐに知らせよ!』
』
「はっ!」
そう言うと魔王の声は聞こえなくなった。しかし、ズールは内心不安だった。強大な力を持つ魔王ジオングでさえ、勇者を恐れる事になるなんて……
「3魔団を招集せよ!これからについて会議をする!」
「勇者様の凱旋である!」
華やかな音楽と共に、流星達は街を胸を練り張って歩く。今日はマゼラアント・クイーンを討伐した勇者達の凱旋パレードの日だ。
しかし、華やかな見た目とは裏腹に生徒達の表情はどこか硬い。
幼馴染の花梨は特に酷い。出来るだけしっかりした足どりで歩こうと、彼女は下腹に力を入れて、口を堅く結んで市民に手を振らず、ただ前を見て歩く。
それも無理はない。裕太が帰らぬ人となったからだ。
そして、裕太の死を重く見たフムー大臣は、このことについて箝口令敷いた。この事件を知らない者や市民達が動揺しないようにだ。
やがて、流星達は一際豪華で大きな建物の前で止まる。出迎えてくれたのは、ラ・ムール国の国王夫妻である。
「陛下、勇者様を連れてきました」
「おお!よくぞ来たな勇者殿!」
国王夫妻は笑顔で出迎える。
「此度の活躍、実に大義であった!」
それに勇者達を代表して須佐が答える。
「はっ。もったいなきお言葉です。これも全てはラ・ムール国のため」
「その意気や良し!それでこそ勇者と称えられるわけだ。この国の王は代々勇者を尊敬しておるからな。さて、では早速だが、今回の活躍の褒美を与えようではないか」
ヤムク王がそう言うと、フムー大臣が1つの箱を持ってきた。
「開けてみよ」
須佐は言われるままにその箱を開けて中身を見ると、それは紅色の刀身と十字星の彫刻を鍔に持つ不思議な剣だった。
それを見て、流星は驚く。
(あ……あれは
この剣は、かつてこの世界を救った勇者が持っていたとされる伝説の武具の1つである。図書館で読んだガンダム神話にその存在が語られていた。
そして、それを手にした者は一騎当千の力を得られるとも伝えられている。
そんな剣を目の前にして興奮しない者などいるわけがない。
その事を話しているヤムク王と須佐の会話を聞きながら流星は別の事を考えていた。
(選ばれし者の許に三つの星が集う時、大いなる力が宿るだろう……だったか?他の伝説の武具は、烈火の鎧と焔の翼。これを持って……あれ?何処に向かうだったかな?)
「どうした先生?ボーッとして」
五井が小声で話しかけてきたので、慌てて返事した。
「い、いやなんでもないよ」
「そうか?」
(いかん……今はパレードの最中だ。集中しないと)
流星は雑念を振り払い、再びヤムク王と須佐の話に耳を傾ける。
「さあ、勇者殿。この剣を手にしてみよ!」
言われるままに須佐は、箱からその剣を引き抜くと手の中に吸い込まれるように収まる。それと同時に体が熱くなるのを感じた。
やがて熱が引くと同時に炎の剣を手にした事を実感した。そして、須佐は自然と笑みがこぼれていた。
「おお!やはり貴殿にこそ相応しい!さぁ、今ここに新しい勇者が生まれた!名は、タカナリ・スサ!!」
ヤムク王の宣言と共に盛大な歓声と拍手が巻き起こる。
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須佐が炎の剣を手にし、生徒達の実質的なリーダーへなった翌日。
流星は図書館へ訪れた。もう一度ガンダム神話を読む為だ。
中へ入ると、図書館は何時も以上に静かであった。
カウンターに行くと、何時もの司書が本を読んでいた。
「やあ。今、空いてる?」
「お待ちしてました先生。どうぞ、こちらへ」
司書はカウンターから出てきて、流星を何時ものように案内した。
周囲に沢山の本棚が置かれている中を歩いている時、流星は疑問に思った。
(あれ。そういえば、今日はなんの本を探しているか聞かれてないな。どうしてだ?)
司書は何も言わず、ただ流星が自分についてくるのを確認するだけであった。
(彼女に嫌われるような事をした覚えは無いが……)
流星が考えている間に、目的地に着いたようだ。
そこには壁しかなく、周囲に本棚も何も無い場所だった。流星が不思議に思っていると、司書は首飾りを外し手に持つと、壁に向ける。
「エカリハァ」
突然古代語を言ったと思ったら、壁が動き階段が現れた。
突然の事に驚く流星を気にする事なく、司書は階段を進んで行く。
そんな司書を慌てて追いかけると、後ろの壁が閉まり階段に明かりが灯る。
「先生、こちらです」
「待ってくれ。これはいったい何なんだ?」
「この先でお話します」
そう言ったきり司書は沈黙する。仕方なく流星は黙ってついて行く事にした。
階段を下りきると、そこは小さな部屋であった。小さなテーブルと椅子が置かれており、奥にはマゼラアントの巣穴で流星を助けた3機のファンネルが飾られていた。
司書は椅子に座っているので、流星も対面に座る。すると、彼女は口を開いた。
「私はアリス。鎧に宿る精霊。選ばれし者よ、貴方をずっと待っていた」
「待っていた?」
「そう。私は、貴方を導く為にここにいる」
「導く?それはどういう意味だ?」
「そのままの意味。貴方には使命がある」
「使命?」
「貴方は勇者として選ばれた」
「俺が……勇者?この国の王は、須佐が勇者だと言った。それは違うのか?」
突然の事過ぎて理解が追いつかない流星にアリスは言う。
「確かに、彼の身につけている鎧は伝承にある勇者ガンダムの鎧。しかし、魔王ジオングと戦った勇者の鎧では無い」
「じゃあ、魔王と戦った勇者の鎧はどこに?」
「貴方がファンネルだと思っている物がそう」
視線をファンネルに送ると、アリスが語る。
かつて魔王ジオングが現れた時、1人の若者がそれに立ち向かった。
彼は勇敢で心優しく、そして誰よりも強かった。アリスは彼と共に戦い、ついに魔王ジオングを倒し封印する事に成功した。
しかし、時の王は魔王おも倒した彼の持つ力を恐れるようになった。
若者は新たな争いの火種になるのを避ける為に、鎧の装備を外して封印した。
そして多くの時が経ち、他の勇者の活躍に上書きされ、伝説の鎧は人々から忘れさられたのだった……
アリスは語り終えると一息つくように紅茶を飲む。流星はそれを黙って見ていた。
しかし、彼はまだ納得がいかずにいた。何故自分が選ばれたのか?何故自分なのか?疑問は尽きなかった。
そんな流星の心情を察したかのようにアリスは言う。
「図書館で私と話している時、何か疑問に思った事はある?」
「何かって……」
『先生。その人って、本当に居るんですか?』
図書館で生徒へ彼女の事を話した時にそのような事を言われた。さらによく思い出して見れば、図書館で働く人が時々可哀想な人を見る目でこちら見ていたのも思い出す。
「どうやら思い当たる事があるようですね」
アリスは微笑むと、流星の肩に手を置いた。
「精霊は選ばれた者か、波長の合う者にしか見えない」
アリスがそう言うと、光が放たれ彼女を包み込む。そして次の瞬間には、アリスの姿は変わっていた。黒と青を基調にしたドレスを纏い、周囲には飾られていた鎧が浮いていた。
「今の貴方は、選ばれた者」
アリスにそう言われ、流星は思わず息を飲む。
「そうか……俺は……」
「さあ、私の手をとってください」
アリスは手を伸ばすと、流星はその手を……取らなかった。
「いや、死なないよう便利そうな物を探してただけで、勇者になる気無いし。鎧だけくれない?」
「え?」
アリスはキョトンとした顔をし、そして困った表情を浮かべた。
「断られるとは思わなかった……」
「他に見える人とか居ないの?」
「私が見える可能性がある人は確かに居た。でも、もう気配を感じない。貴方と一緒にこの世界へ来た筈だけど、何か知っている?」
そう言われ、流星は思い当たる人物を思い出そうとする。
須佐達は違うだろう。彼らは既に自分の鎧を持っている。今さら別の鎧に変える事は無いだろう。では、誰なのか?最近居なくなったといえば……
「あー、岩城の奴か。あいつなら、マゼラアントの巣穴にあった深穴に落ちたぞ。あいつ適性無しなのに、選ばれし者だったのか……」
「彼は、選ばれし者では無い。波長の合う者だ。しかし、まいった。鎧の魔法力も少ないし、このままだと魔王を倒す前に眠りについてしまう……」
「えっ、なんで?魔王倒すくらい凄いんだろ。それに勇者の鎧についてシャマルから説明も受けてる。確か、
「確かに私の宿る鎧にもある。だが、それは
「魔法力切れの原因は?」
「貴方がマゼラアント・クイーンに攻撃して、それを助ける為に使った」
覚えがありすぎて反応に困る。あの時、流星は名誉心を求めてクイーンを倒そうとしたが、結果はアリスに助けられ、結果的に功績者となった。
しかし、その為にアリスは魔法力を失い眠りにつこうとしていた。
「ちなみに、眠る以外に魔法力を回復する方法は?」
「人から魔法力を分けてもらう」
「そっか。ほら、手出せ」
言われるままにアリスは手を出すと、流星はその手を握り己の魔法力を分け与えた。
「これでしばらく活動できるようになるだろ?じゃあ、そういう事で……」
流星が立ち去ろうとした時、向かいの席にアリスは居なかった。変わりに、流星の体は鎧を纏っていた。
『さあ、私の手をとってください』
流星は、彼女が勇者になる為にこの行為が必要だと言っていたのを今思い出す。
「アリス……謀ったな」
「なんの事?」
流星はため息をつくと、仕方ないので勇者をやる事にした。しかし、生徒達の支援者としてだ。
(前線で戦うのはゴメンだ。この丈夫そうな鎧を使って生き延びる事を考えよう)
そう決意し、隠し部屋を出ようとして気づく。
いきなり、鎧姿の人物が図書館へ現れればどうなるかを。
「……コレ、どうやって隠すんだ?」
流星が聞くと、アリスは答える。
「私が身につけている首飾りは、カーゴの魔法が付与されている。それにしまえば大丈夫」
カーゴ。わかりやすくいえば、アイテムボックスやインベントリ等と呼ばれるやつだ。
須佐達が魔法の鎧を渡された時にアクセサリーが渡されたが、あれにも同じ魔法が付与されているのだ。出し入れしたい物を思い念じるだけだ。
アリスに言われた通りやってみると、鎧は消えて首飾りだけが残る。
(ゲームみたいだ……)
そんな感想を持ちつつ、流星は隠し部屋の扉を閉めて図書館を出るのだった。
精霊アリスと契約して1週間。流星の生活はけっこう変わった。
まず、アリスに渡された首飾り。古代魔法の触媒になっているそうで、古代魔法の練習が行われていた。
「サーベ!」
古代魔法を唱えれると、風が巻き起こり刃となって的へ飛んでいき、綺麗に真っ二つにする。
「次、炎」
アリスに言われ、次の魔法を使う。
「パーム!」
すると今度は的の下から炎が噴き出し、炎で包み焼き尽くす。
「よし。魔法の方はだいぶ使えるになったな」
アリスに言われた通りに古代魔法を使うと、上手くいった。
これも生き延びる為の術だ。使えないより使える方がいいだろう。
魔法の練習が終わると、次は生徒に交じって通常の訓練。そして夜は鎧の使い方。
アリスの鎧は他の魔法の鎧と違い、3機に分かれている。コアパーツのファイター、上半身部分のブレイカー、下半身部分のガンナー。
ファイターは3機の中で機動性が高く、鎧の装着者に何かあった時、素早く逃がす為の部分。
ブレイカーは運動性が高く、その軽快な運動能力を生かした一撃離脱で相手を翻弄する。
ガンナーはスマートガンが装着された部分。さらにスマートガンとは別に魔法力を発射できるガンも備え、攻撃力は3機の中で最も優れる。
この3機が合体する事で、勇者の鎧として機能する。
「しかし、考えれば考える程、変な機能だな。なんで3つに分かれてる?」
「彼に、前の勇者についていける人が居なかった。だから、擬似的に数を増やそうとした」
本来はただの鎧だったが合体機能を追加して3機のファンネルのようにしたようだ。
最初は戸惑ったが、慣れればどうという事はない。そのうち他の武装も試そうと思う。
そして、眠る前にアリスの活動時間を伸ばす為に魔法力を分け与える日々を過ごしていた。
(この1週間でだいぶ鍛えられたな)
流星は、そんな事を考えながらいつも通りに魔法力を与えている時、気になる事を聞いた。
「ねえ、これって手を握る以外でも魔法力分けられるの?」
「できる。それがどうした?」
「へぇ……じゃあ、こういうのでも大丈夫?」
そう言って流星はアリスの唇を奪うと、そのままベッドへ押し倒した。
結果だけを伝えるなら、アリスの言った通り魔法力を分ける事はできた。
しかし、流星としてはものすごくつまらない事となった。アリスはただ寝っ転がっているだけの、クソつまんないマグロであった。
考えてみれば、相手は精霊。見た目は美しくとも、人間とは根本的に違う者なのだ。
「気は済んだ?」
「寝物語くらいは、もう少し雰囲気出してよ……そうだ。スマートガンって昔からあったの?ガンは、比較的最近の魔具と聞いたけど?」
「アレは城から持ってきた。彼がそうしていたから」
「……なかなか、勇者してたなそいつ」
勇者の物あさりはゲームではよくある事だが、それをリアルでやるとは……前の装着者は色々な意味で勇者してた。
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翌日。街の中を早馬が駆けていく。城へ緊急の用件を伝える為だ。
マゼラアントの討伐で盛り上がっていた民達だが、それは一瞬で覚める事になる。
「フルーシア王国の使者は何と?」
「……魔王軍の侵攻により、フルーシア王国は陥落したとの事です……」
「なんだと、あのフルーシア王国がか?……」
謁見の間に居た王と側近達は驚愕する。
フルーシア王国は、近隣諸国では武に秀でた国で、国王も武王と呼ばれる程強い人物であった。
以前から魔王軍との小競り合いはあったが、1度も負けなかった。そんな国がなぜ?
「いったい何があったのだ?」
ヤムク王が聞くが、返ってきたのは信じられない答え。
「魔王軍3魔団の1人、シャー・ネグザス率いる騎馬団が出現したとの情報があります」
「バカな……あの、赤い彗星の生まれ変わりと呼ばれる奴が!?それは真か?」
「わかりません……使者の話では、赤い鎧を着た者が戦場を駆けたと言っていたので。恐らくは……」
側近の1人が言い淀みながらも答える。その答えに王の表情は曇る。
「海に面したフルーシア王国が落ちたのは、痛手だな……周辺諸国の様子はどうだ?」
「北のワポルム帝国は皇帝ワポルム4世のもと、徹底抗戦の構え。我がラ・ムール王国にも援軍を要請しております」
「南のカレスティア王国はルウム川を要害にした防衛網の構築を急いでいるそうです」
「フルーシア王国の使者からは、避難民の受け入れ願いが出ております」
「わかった。受け入れよう。我が国は、周辺諸国との友好が深い。要請や避難民を無下に扱う事はできん」
ヤムク王はそう言うと、玉座から立ち上がり宣言する。
「フルーシア王国陥落に伴い、魔王軍の侵攻が本格的に始まった!我がラ・ムール王国も防衛に力を注がねばならん!皆、戦支度を始めよ!」
ヤムク王の言葉に側近達は一斉に動き出す。
------------
「お疲れの所申し訳ありませんネグザス様」
「いや、構わんよ。それで、どうしたんだ?」
「ズール様より、3魔団の招集がありました」
「わかった」
部下が用意した通信用水晶球の前に座ると、遠く離れたジャーク・ヴァイス大陸にある祭壇を映し出す。そこには既に自分以外の3魔団の長達が集まっていた。
3魔団。それは魔王軍の主要部隊をまとめる長達の事だ。
戦士団長カロン・ド・バール。
騎馬団長シャー・ネグザス。
呪術士団長マーテル
これに、大神官のズール・ザビを加えた4人が、魔王軍の実質的なトップである。
祭壇で祈りを捧げていたズールは、シャーが来たのを確認すると話し始める。
「皆、よく集まってくれた。早速だが本題に入らせて貰う。先日、魔王様よりラ・ムール王国で勇者召喚がされたとのお言葉があった」
ズールの言葉にマーテルが反応する。
「では、ワポルム帝国やカレスティア王国でも勇者召喚が行われておるのか?」
「いや、ワポルム帝国には勇者を召喚する儀式は伝わっていない。カレスティア王国も同様だ。魔王様を倒せる者は、今の所ラ・ムール王国の勇者だけだ」
「なるほど。それで、我々に召集をかけたという事は、勇者を倒せって事だな!」
「カロン、それは違うのだ。魔王様は勇者の行動を監視し、何かあればすぐに知らせよと仰った」
「監視だと?何故そんなまどろっこしい事をする?勇者を倒せば同じ事ではないか!」
ズールの言葉にカロンは激昂するが、それをマーテルが宥める様に言う。
「落ち着けカロン。魔王様のご命令だ。それにラ・ムール王国は他の2国より奥にある。そんな所へ軍を向ければ、三方向から袋叩きにあう。ならば、勇者達が救援に来た時叩けば良い。だから、勇者の動向を知る事は重要だぞ?」
その言葉に、カロンは落ち着きを取り戻す。
「確かにそうだな……」
「それで、私達は何をすればいいんだ?」
シャーの疑問にズールは答える。
「お前はフルーシアの支配を盤石な物にしろ。あそこは我々にとっての橋頭堡だ。そこを抑えられれば、大陸への侵攻が楽になる」
「了解した」
「カロンとマーテルは、ラ・ムール王国の動きを監視しつつ、ワポルム帝国とカレスティア王国の侵攻準備を急いでくれ」
「わかった。魔王様の為に、必ずや勝利を捧げよう!」
「では、私はカロンの手伝いをするとしよう。勇者が何かしでかしたら、すぐに知らせる」
3魔団はそれぞれの役割を果たすべく動き始めるのだった……
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流星達が召喚されてから早くも半年が過ぎようとしていた。
その頃には、魔王軍によってフルーシア王国が陥落した事は避難民達から伝わり、王都では市民達から不安の声が多くなっていた。
しかし、それを払拭するかのようにお触れが出た。
「勇者達が魔王討伐に出立する」
このお触れに、国民達の不安の声は消えた。
勇者とは、魔王を倒す英雄なのだ。そんな人達が遂に動き出しのだ。これでもう安心だ! そんな声が王都に広がり始める。
そして、城では生徒達がどの国へ行くか話し合っていた。
「皆も知っていると思うが、ついに魔王軍が本格的に行動を開始したそうだ。ラ・ムール王からも僕達の力になって欲しいと話がきている」
「ついにこの時が来たって訳だな」
「とりあえず、ワポルム帝国とカレスティア王国行く人、ラ・ムール王国に残って防衛をする人。これで分けようと思っているけどどうだろう?」
須佐がそう提案すると、皆それに賛同する。
そんな話し合いを聞きながら、流星はアリスに念話をする。
(魔王軍の規模とかわかる)
(いや、わからない。だが、当時と同じなら、ザビ家の神官が魔王の言葉を伝え、3魔団がそれを実行していた)
(3魔団……雰囲気からして、力と技と魔法の属性を持った凄い奴らの軍団かな?)
(そんな感じ)
思えば、この国にも三星と呼ばれる者達がいる。それと同じ者が魔王軍にも居るという事だ。
(今の状態で、その3魔団とやり合って勝てそう?)
(無理。3魔団は、そんな甘い連中じゃない)
(そうですか……)
念話を終える流星。アリスの装備がほとんど封印されているのは知っているが、それでも魔王の部下くらいは倒せると考えていた。しかし、今の状態では敵わないようだ。
(これは、封印された装備を探しに行かないとかな……)
そんな事を考えいると、話し合いが終わった様だ。
「ワポルム帝国には僕と樹君。カレスティア王国には美音さん。花梨さんは……ラ・ムール王国に残るんだったね」
「うん。……裕太は生きてる。死んだなんて信じない。だから、何時帰ってきても良いようにここを守らないと!」
花梨の決意を聞いて、皆が悲痛な表情や沈んだ表情をする。
あの深穴に落ちて助かる可能性は1%も無い。現実逃避と断じられても仕方ないが、今の彼女には生きる希望が必要なのだ。たとえ、わかりきった答えでも……
それからも、2つの国での行動やラ・ムール王国に残る者の役割について話し合っている。
流星も話し合い参加するが、考えるのは己が1番生き残れそうな場所だ。
「(そうなると、ここかな?)俺もラ・ムール王国に残ろうと思う」
「先生、いいのですか?僕達と一緒にワポルム帝国やカレスティア王国に行かなくても?」
須佐がそう聞いてくる。
「俺はそこまで強くないからな……それに、心配な事もあるし」
「確かにそうですね……」
流星の濁しに須佐がうなずく。今の花梨は何かあれば、自棄になる可能性がある。それを防ぐ為にも彼女と同じ場所の方が良いだろう。
他の生徒達も納得しているようだし、流星はラ・ムール王国に残る事が決定した。
そして、3つのグループが決まり、それに則って行動する生徒達を見ながら、流星はアリスに話かける。
「さて、キミの封印された装備でも探しに行くか」
「この国に残るんじゃなかったの?」
「残るよ。でも、勇者の裁量である程度は自由行動できるから、それを利用して探すんだ」
「そう」
2人の密談は、生徒達に気づかれる事無く進んでゆく……
魔法力で鍛え上げられた鎧。この鎧にも三すくみがあり、使われた鉱石や職人によって、力、技、魔法の属性を持つ。
筋力強化、軽量化、視界強化等が付与されており、この鎧のあるなしが戦力差に影響するとも言われている。
また、自分の属性と反発する属性の鎧を纏うと、性能が下がる。
優れた職人によって鍛え上げられた鎧は、複数の属性や精霊を宿すとも言われ、それらの多くはその時代の勇者達が身に着けた事から勇者の鎧と呼ばれる