異世界ガンダム   作:꒰ঌ流✧星໒꒱

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 ジ・ンバは、淡いピンクみがかかった金髪の美女と共に、通信用水晶球を使いある人物と話していた。
その者は人というか彫像のような姿をしており、足は流線型でスラっとしているものの、腕は存在していなかった。

「メドザック様、サイコゴーレムの頭部を持ち帰りました」
「良くやりました、パトリシア」
「もったいなきお言葉」

 パトリシアと呼ばれた淡いピンクみがかかった金髪の美女は、メドザックに頭をさげた。

「パトリシアよ、サイコゴーレムの頭部を持って、私のいるカレスティア王国へ来るように」
「それはどういう事で?」

 パトリシアはメドザックに疑問をぶつける。
 本来であれば、サイコゴーレムの頭部は別の部隊に渡して輸送され、パトリシア達はラ・ムール国へ戻り、破壊活動を続ける予定の筈だ。

「ドムリリス達からの連絡が途絶えた」
「それはまことですか!?」

 ドムリリスは魔王軍の中でも諜報活動に優れたモンスターで、ラ・ムール国へ潜入し、 魔王軍にかの国の動向を逐一報告する任務についていた。

「ドムリリスからの最終報告は、ラ・ムール国で勇者に発見され、諜報を打ち切り帰還するとの物だった。その後は連絡が無く、おそらくは……」
「では、ドムリリスの部隊は全滅……」

 メドザッグの言葉にパトリシアは驚いた表情を見せる。
確かに、このまま諜報よりも目立つ破壊活動をするば、自分達も捕まるか討伐されるだろう。

「それと、精霊キャトルウッドに対しての工作もバレたようだ。ここからは、より慎重な行動が求められる」
「わかりました。一度帰還いたします」

 パトリシアがそう言うと、メドザッグは頷く。
メドザッグにパトリシアは再び頭をさげ、通信を終える。

(勇者……多分、あの時の者だな)

 ジ・ンバには、確信があった。特徴的なV字の兜飾りの鎧を纏った者。彼がこの件に関わって居る事に。

(次、相まみえた時に必ず倒さなくては)


囚われのアリス 前編

「……ん?ここは?」

 

 目を覚ました流星が見たのは、見慣れた天井であった。どうやらここは城にある医務室のようだ。

あたりを見回すと、アリスが心配そうにこちらを見ていた。

 

「先生、良かった。目を覚ました」

「アリス……そうか、あの後俺は気を失って……」

「うん。先生を城へ運んだらすぐに大臣達が来て、そのまま医務室で寝かされた。今は深夜」

「そうだったのか……」

 

 流星はベッドから起き上がると、机の上にあるベルを鳴らした。

すると、近くで待機していた医者達が来て流星にいくつか質問をした後、侍女に流星が目覚めた事を連絡するよう言った。

 それからしばらく待っていると、侍女の連絡を受けたフムー大臣がやって来た。

 

「お目覚になりましたかセイゴウ様。起きてすぐなのですが、国王陛下の元へお連れしなければなりません」

「わかりました」

「では、こちらへ」

 

 2人は医務室を出ると、そのまま会議室へと移動した。

そして、玉座に座っているラ・ムール国国王であるヤムク・ラ・ムール王に、シャマル達三星も居た。

 

「目が覚めてすぐですまない。しかし、セイゴウ殿。貴方に聞かなくてならない事がある」

「……勇者ガンダムの鎧ですね?」

 

 そう聞くと、ヤムク王はうなずく。

 無理もない。自分達が管理していた勇者の鎧以外に新しく出てきたのだ。その出どころを知りたいのは当然であろう。

 

「そうですね、どこから説明しましょうか……まず、あの鎧は……」

 

 流星はアリスに聞きながら、当時の魔王ジオングとの戦い。そして封印されるまでをヤムク王達に伝えた。

 

「そのような事があったとは……」

 

 シャマルがそう思うのも無理は無い。まさか、失伝していた勇者の鎧が眠っていたとは思いもしなかった。

 

「しかし、シャマル。それは本当に勇者の鎧なのですか?一度、調べて見てからの方が良いと思うのですが」

 

 トロンの言う事は、もっともだ。ツヴァイもその意見に賛成のようだ。

 

「それもそうだな……陛下はどうなさるおつもりで?」

「私も構わぬよ。セイゴウ殿、申し訳ないがその鎧を貸してもらえないだろうか?」

 

 ヤムク王がそう言うと、流星はアリスの方を見る。

 

「私は大丈夫。むしろ、見てもらった方がいい」

「そうなのか?」

 

 流星の問いにアリスはうなずく。

 

「いくら勇者の鎧といえど、整備は必要」

「わかった。アリス……えっと、鎧に憑いている精霊もそう言ってるので、この鎧をお預けします」

「感謝する。セイゴウ殿」

 

 ヤムク王はそう言うと、全員が格納庫へと移動を始める。

そんな時、隣を歩くシャマルが話しかけてきた。

 

「しかし、精霊憑きの勇者の鎧。にわかには信じがたい」

「シャマル教官でも、見えませんか?」

「残念ながら……」

 

 シャマルはラ・ムール国でも最もレベルの高い魔法の達人であるが、そんな彼でもアリスを見る事はかなわなかった。

 

「ですが、他の勇者の鎧とは違う雰囲気はわかります。多分、それが精霊の加護なのでしょう」

「なるほど」

 

 格納庫に着くと、そこでは既に鍛冶師やその作業員達が集まり、ドムリリス達との戦いで壊れた魔法の鎧(MS)の整備がされていた。

 既に話はついていたのか、区画が1つ空いており、そこで待機していた鍛冶師に流星はアリスの鎧を渡す。

 

「では、調べさせて頂きます」

 

 鍛冶師がそう言うと、作業員達と生き残った研究員がアリスの鎧調べ始めた。

 そして……

 

「この鎧は間違いなく勇者の鎧です。しかし、これは……」

 

 鍛冶師は驚いた様子でそう告げると、その続きを研究員が引き継ぐ。

 

「残念ですが、今の我が国ではこの勇者の鎧を整備できそうにありません……」

 

 それは仕方ない事だ。ドムリリス達が暴れた事で研究室は大打撃を受け、職員も多くが死んでいて、少なくない勇者の鎧に関する資料が焼ける等、整備をより困難な物にした。

 しかも、整備に必要な素材等も須佐達の鎧の為に使われ、城にはあまり残っていないらしい。

 

「そうですか……」

 

 流星は落ち込むが、研究員は言葉を続ける。

 

「ですが、望みが無い訳ではありません」

「というと?」

「ワポルム帝国にある鉱山都市グラナダです」

 

 鉱山都市グラナダ。

そこは帝国領の1つで、豊富な鉱山資源があり、良質な鉱石が採掘される事から多くの鍛冶職人達が住まう。

 何か欲しければ、グラナダに行け。と言われる程である。

魔法力を含んだ鉱石も採れ、MSの産地としても知られ、過去には勇者の為に鎧が製造された事もあった。

 

「なるほど……では、そこへ行くには?」

 

 流星がそう聞くと、研究員は地図を持ってきて広げると説明を始めた。

 

「まず、この城から北西へ進みます。すると、大きな山脈にぶつかりますので、それを越えます。そして、そこから進むとグラナダへと行けます」

 

 その山脈の標高は高くなく、山を越えるのは難しい事ではないそうだが、片道でも約2カ月近くかかるようだ。

 

「近々、ワポルム帝国とカレスティア王国へ支援物資の輸送が行われます。その1団に同行できるよう手配しますので、今回はそれを利用してください」

「ありがとうございます」

 

 流星は研究員達に礼を言うと、格納庫を後にした。

そして、城内にある自室に戻ると旅支度を始める。と言っても大したものは必要無く、ただ持っていく物の確認をするだけだ。

 

「今回は長くなりそうだね」

「うん」

 

 この世界に来て、約8ヶ月程。今まではラ・ムール国周辺で活動していたが、異世界に来て初めての外国活動。

もしかしたら、アリスの封印された装備も見つかるかもしれない。

 

「よし、準備完了。後は、出発の日を待つだけか」

 

 窓を見れば、紺色の空を太陽のかすかな光が白く照らす。

眠いという気持ちはとくに無いので、完全に朝になるまで少々暇になる。

 

「アリス。俺は少し散歩してくるよ」

「なら私も……」

「キミは休んでいて。前の戦いで魔法力を消費したでしょ。それに、城の中を歩くだけだからすぐ戻るよ」

「わかった」

 

 そうして部屋を出て1人になると、流星は考える。

ドムリリス達に見せられた、夢幻の悪夢(ドリーミングな世界)

 本来の効果は、相手の望むモノを見せ、そこから絶望へと突き落とす事。アリスが呼びかけてくれたから戻ってこれたが、誰も居なければそのまま精神を壊されていたはずだ。

 だが、今考えるのは見た夢である。

流星が見た夢は、元の世界で生徒して生活するアリスとの生活。

異性の夢を見るとき、深層心理では、親密になりたい、もっと幸せになりたいという思いがある。しかし、流星にとって異性とは、都合の良い存在だ。

 元の世界では、SNSを通じて多くの異性と関係をもった。中には変わった趣向していた者も居たのも覚えている。

 そんな流星の夢にはっきりとアリスが出てきたのだ。一体、何故なのか。そう考えてしまう……

 

「俺にとって、アリスが大切な存在になりつつあるのか?」

 

 それが吊り橋効果によるものなのか、そうで無いのかはわからないが、自分の中で何かしらの変化があったのはわかる。

 

「ふむ⋯⋯少し大切に扱ってやるか」

 

 そうつぶやきながら、流星は散歩するのだった。

 

 

 流星とアリスがワポルム帝国へ向け出発する事になった日。王都の西門には、流星とアリスの姿以外に花梨の姿があった。

 

「先生、本当に行くの?危険だし、絶対無理だよ」

 

 花梨は不安そうな表情をしながら言ってくる。そんな彼女を安心させるように答える。

 

「あぁ、俺には行かなきゃいけない理由もあるからな」

 

 流星が行く理由。それは、先にワポルム帝国とカレスティア王国の支援に向かった須佐達への追加物資の輸送任務。

……と、表向きにはなっているが、本当はアリスの鎧を整備しに鉱山都市グラナダへ行く事。輸送隊には便乗する形だ。

 

「すぐって訳にはいかないけど、ちゃんと戻ってくるよ」

「……それならいいんですけど」

 

 居なくなった幼馴染の裕太事を未だに引きずったままの彼女。もし、他の生徒達まで居なくなったらと考えると、不安でしょうがないのだろう。

 

「岩城さんが戻ってくる場所をしっかり守るんだろう?そんな弱気じゃダメだぞ」

「先生……」

「それに、支援に向かった須佐さん達の帰って来る場所を守る事にもなる。頼んだよ?」

「……はい!!」

 

 流星の言葉に元気づけられたのか、花梨は元気よく返事をする。

 

「よし。じゃあ、そろそろ行くから」

 

 そう言って、流星は西門を出て広場に集まっていたメンバー達に挨拶をする。

 

「しばらくの間、お世話になります」

「いえ、こちらこそ。勇者様が護衛をしてくれなら心強いです」

 

 そう答えてくれるのはこの部隊の隊長。

その、隊長の言葉に他の兵士達も賛同する。

 ちなみに、アリスの鎧については一部の者の間以外極秘となった。

なので、輸送隊の者達も本当の目的を知らなかった。 

 2人は輸送隊と共に城を出ると、荷馬車で移動を開始した。

 

------------

 

 ノア伯爵領を過ぎ、シナプス伯爵領の途中でカレスティア王国行きの輸送隊と別れた。

 ワポルム帝国はシナプス伯爵領からさらに北西へ行き、途中にあるエイノー侯爵領、カシアス子爵領、ワイアット侯爵領と通過。そして、ラ・ムール国とワポルム帝国を隔てるようにある山脈、ラサ山脈を越える必要がある。

 一行は、エイノー侯爵領、エアーズ街へ消耗品補給の為に立ち寄った。

 

「ここで補給した後は?」

「はい、ワイアット侯爵領のダージリン要塞にて山越えの為の物資補給を行います。その後は、ラサ山脈を越えた先の麓のベッケナー子爵領からワポルム帝国へ入り、物資を送り届けた後は王都へ帰還します」

「なるほど……」

 

 ラサ山脈は標高こそ高くないが、森林地帯でモンスターも多いと聞く。

山越えは中々大変そうだ……

 

「ラサ山脈か……」

「アリス、あそこには何かあるの?」

「ある。あそこには精霊アプサラスが居た」

 

 かつて、ラサ山脈には水の精霊アプサラスが居た。

しかし、魔王ジオングの力によりその存在を歪められ、仕えていたサハリン神官を殺め、山脈の一部も破壊。かつてのアリスの鎧を纏った勇者一行によって倒されたのだった。

 

「彼と一緒に召喚された勇者シロウは、良い人だった」

「まさか、その戦いで……」

「アプサラスの攻撃からサハリン神官の妹を助ける為に、四肢の一部を失った」

 

 戦線を離脱した勇者シロウであったが、彼は自分のできる事を続けながら戦い続けた。そして、魔王ジオングが封印された後は、この世界に残ったという。

 たまに日本語のような物を見るのは、彼の影響があるのかもしれない。

 古の戦いの一部を聞き、やはり生き残るのにはアリスの鎧が必要だと流星は感じた。

流星達は補給を済ませると、ワポルム帝国へ向かう為、再び出発したのだった。

 

 

 モンスター達を蹴散らし、ラサ山脈を越えた一行は、麓にあるベッケナー子爵領で休息を取った後、帝国領を進んで行く。

 ワポルム帝国でのルートは、マンデナ男爵領、ダニンガン男爵領、ソヨ侯爵、そしてオム侯爵領で帝国の兵に支援物資を受け渡して、王都への帰還。流星はグラナダへと向かう予定だ。

 一行は順調に進み、無事にソヨ侯爵領へ到着。

そんな輸送隊を出迎えてくれたのは、車椅子に乗った者であった。

 

「ようこそ、ソヨ侯爵領へ。自分は、ソヨ侯爵の名代でやって来たソラリ・ルショーンという者です」

 

 車椅子に乗ってはいるが、腕利きの魔道士なのだそうだ。

 

「早速ですが、支援物資の方を確認したいのですが……」

「受け渡しは、オム侯爵領であった筈では?」

「実は……」

 

 ソラリが言うには、オム侯爵領へ向かう途中で頭部・胸部・前腕部の衣服や鎧を黒く塗った黒い山賊団なる輩が暴れていたが、彼らは一月前程にここを通った須佐達によって退治されたそうだ。

 しかし、万全を期す為にソヨ侯爵領からも兵を出す事になったそうだ。

 

「その為に支援物資の方を確認したいのです」

「わかりました。では、こちらへ」

 

 輸送隊の隊長はそう言うと、ソラリと話をする為に離れた。

流星達は隊長とソラリが戻ってくるのを待った。

 

「車椅子なのに、凄い人だな」

「……」

「アリス、どうした?」

「なんでもない。ただ、あの車椅子からイヤな感じがしたから……でも、それが上手く言えない」

「わかった。気にしとくよ」

 

 そして、戻ってきた彼らは部下達にどのようなルートで進むのかを説明する。

 

「えー、今回補給物資輸送ルートだが、街道から少し離れたルートになる」

 

 隊長が説明するには、街道から少し外れた道を通るそうだ。

これは山賊団が暴れていた道を通らないようにする為との事だ。

 主要なメンバーは捕まえたが、生き残りが居ないとは言いきれない。

 

「道中、ソヨ侯爵の兵達と行動するからといって、油断のないように!では、出発するぞ!」

「はい!!」

 

 それを合図に輸送隊は出発した。

街の外へいくと、そこには、十人の兵達が待っていた。彼らはソヨ侯爵領の警備兵達だそうだ。

 ソラリが言うには、ここから先はこの警備兵が案内をしてくれるという。

 

「では、我々はこれで」

「ここまでありがとうございました」

 

 隊長はソラリにお礼を言い、あらためて輸送隊はオム侯爵領を目指した。

そんな輸送隊を街の外壁からフードを被った者達が監視していた。

 

「目標は予定のルートに向かった。これより作戦を実行する」

「了解」

 

 フードを被った者達は、流星達を尾行するのだった。

 

------------

 

 ソヨ侯爵領を出てから1日ほどすると、一行は峡谷へと入っていく。

 薄茶の枝木が体毛のように生える崖、山裾一面に広がる黄色い花、それらが風で揺れる……そんな風景の中を進む。

峡谷に入って2日目も何事もなく過ぎていく。

 このまま峡谷を抜けるのだと皆が思っていたその時だった……

 これまでの道中、ソラリが説明してくれた通り、モンスターに遭遇する事もなく順調に進んでいた。

夕方になり、夜営できそうな場所を探していたそんな時であった。

 

「止まれ!!」

 

 突然、警備兵の一人が大声を上げた。

その声に輸送隊の面々は足を止め、隊長が警備兵に聞く。

 

「どうした?」

 

 その時である。轟音と共に地面が揺れたのだ!

あまりの事に驚いた馬達が騒ぎ始める。

 それと同時に、フードを被った者達が行動を開始したのだった。

 

「敵襲!」

 

 隊長が叫ぶの同時に輸送隊の兵達と流星は一斉に魔法の鎧(MS)を身に着けた。そして、武器を構え、襲撃者達を迎え討とうとした時である。

 

「目に見えぬものよ、その力によって魔法を妨害し、遮蔽し、障害をもたらせ……ミノフスキー!」

 

 襲撃者の誰かが魔法を使うと、流星の視界は急に悪くなり、鎧の重量が増した。

 

「なんだ、何が起きた!」

 

 しかもそれだけでは無い。周囲に居る輸送隊の兵達にも同じ事が起きていた。

しかし、襲撃者達はお構いなしに襲いかかってくる。

 

「ぐわぁ!!」

「ぎゃっ!」

 

 輸送隊の兵や警備兵達が簡単に倒されていく。それが、混乱に拍車をかける

 

「皆!落ち落ち着くんだ!」

 

 隊長は動揺する皆を落ち着かせる為に声をかけるが、襲撃者達はそれすらも許さない。

 

「ぐはっ!」

 

 隊長も倒され、残るのは流星のみとなった。

 

「くっ!このままでは……」

 

 そんな時である。ファイター、ブレイカー、ガンナーの3機が飛び出した。

 

「先生!!」

 

 アリスは素早く流星を包み込むと、その装甲で襲撃者達の攻撃を防ぐ。

しかし、流星は違和感を覚える。

 

(なんだ、アリスの鎧がいつもより重い。それに動きも悪い)

 

 ここにきて、整備不良が発生したのだろうか?

 

「先生、よく聞いて。敵の展開した魔法は、魔法の鎧(MS)の力を阻害するみたい」

「なんだって!」

「普段より魔法力を多く消費すれば、なんとかなるけど……」

「魔法力が切れるのも早くなるか」

 

 逃げるにしても視界は必要だ。アリスに頼み、視界と身体能力強化だけしてもらうと、状況を確認する。

 襲撃者達は流星を包囲する様に展開しており、逃げ道を塞いでいる。

このままではジリ貧だ。そんな時、重たい音が聞こえてきた。

 

「今度はなんだ」

 

 流星が警戒していると、正面に約3m程はある巨大な人型が現れた。

最初の轟音の正体は、コイツが出した音だろう。

 

「あれは、ドラケン?なんであんな骨董品のゴーレムが?」

 

 ドラケン。かつては戦闘の花形であったゴーレムの1種で、頭部に搭乗して操作球で行う。

だが、作る為の素材も多く、場所を取るドラケンよりも、コンパクトな魔法の鎧(MS)が登場してからは使う者も居なくなり、今では展示されるか、倉庫でホコリを被っているそうだ。

 しかし、こんな骨董品みたいな物でも今の流星達には危険な存在である。

慎重に相手の出方をうかがっていると、ゲロゲロと不快に笑いながらドラケンの搭乗者が言った。

 

「見つけたぞ勇者!」

「お前は誰だ?」

「私を知らない?良いだろう答えてやる!私は、ミネイカジ・h・ソヨ侯爵だ!」

 

 ミネイカジ・h・ソヨ侯爵。ワポルム帝国の貴族であるが、そんな彼がここに居る理由。そんなもの1つしかない。

 彼は魔王軍と通じているのだ。

始めから輸送隊を護衛する気等なかったのか?しかし、自分の所からも警備兵を出している。

 流星がそんな事を考えていると、ソヨ侯爵が再びドラケンで攻撃を仕掛けてきた。

 

「先生!回避して」

 

 考え込んでいる暇は無い。流星は攻撃を避けるが、やはり動きが鈍い。

 

「ミノフスキーを受けて、まだそれだけ動けるのか!?」

 

 どうやらこの現象を起こしている魔法は、ミノフスキーというようだ。

 

「ラ・ムール国に送ったスパイは勇者が来るとしか言っていなかったが、こんなに強いとは……」

 

 じゃっかん引腰なソヨ侯爵に向かって、大腿部のガンを撃って牽制する。

 

「今のうちに撤退を」

「わかった!」

 

 流星は、大腿部ガンを掃射しながら後退する。

 

「おのれ小癪な!!」

 

 ソヨ侯爵も負けじとガンを取り出し、取り巻き達と共に応戦。互いの魔法弾が飛び交う。

流星は攻撃を避けながら後退するが、やはり動きが悪く上手く振り切れない。

 そんな時である。足元で何かが切れる音が聞こえてきたのだ。

 

「先生!」

 

 アリスの警戒の後何かが流星を強打し、地面に倒れ込む。

流星を強打したのはメイスであった。

 それはブービートラップの1種。丈夫な枝の先端にメイス等の凶器を取り付け、十分にしならせたらロープで固定。後は、ロープが切れると、しなった凶器が襲いかかるという仕組みだ。

 アリスの鎧だから耐えられたが、普通ならミンチである。

 

「勇者が倒れたぞ。今だ!」

 

 ソヨ侯爵の声に数人の襲撃者が、なんとか立ち上がる流星に向かって鎖を投げる。

 

「なんだっ!」

 

 鎖が巻き付くと、アリスの鎧の出力が急激に低下する。これもミノフスキーか何か?

 

「いや違う。これは、精霊を封じる鎖!?」

 

 一度だけ同じような事があった。精霊キャトルウッドを封印した鎖を取ろうとした時だ。

 

「ゲ〜〜ロゲロゲロ。エルドリッチの鎖を知っているか!こいつは、対勇者の鎧として魔王軍で開発された物だ!こ〜んな鎧1つ封じるのは、簡単なこった!」

 

 ソヨ侯爵の言う事は事実なら、アリスの力が使えない今。どう切り抜けるか? そんな時である。

 

「うおぉぉぉ!!」

 

 倒れていた警備兵の1人起き上がり、剣を持って突撃して来たのだ。

 

「馬鹿者!何をする!!」

「侯爵様、貴方は何をしているかわかっているのですか!」

「知れたこと。魔王様に媚びを売る為よ。もうすぐこの地に、カロン・ド・バール様率いる戦士団が到着する!そうなれば、いくら皇帝の軍隊といえど、ひとたまりもない。そうなれば、我がソヨ侯爵家も無くなってしまう!そうならないよう、私は魔王軍の為に、魔王様の為に働くのだ!」

「ふざけるな!!そんな事の為に、俺の仲間達を犠牲にしやがって!」

 

 警備兵はソヨ侯爵に剣を振るが、彼はドラケンを操作する。

次の瞬間、ドラケンの拳によって警備兵の体が空に舞って地面に叩きつけられた。

 そんな光景を目の当たりにした流星は……

 

「アリス、俺の魔法力を渡す。何とか抜け出せそうか?」

「……やって、みる……」

 

 逃げ出す算段をしていた。

幸いにも鎖の締め付けはそれほど強くない。アリスは流星から魔法力を受け取ると、無理やりエルドリッチの鎖を振りほどく。

 

「しまった!」

 

 ソヨ侯爵が気づいた時には、アリスは鎧を3機に分離し、流星をファイターに乗せ飛び立つ。

 

「よし、このまま……」

 

 逃げようとした時、再び鎖が飛んできた。襲撃者のように投げたのではない。明確に意識を持って鎖が動いている。

 それにより、ファイター、ブレイカー、ガンナーは鎖に絡め取られ、流星は空中投げ出される。

 

「うわーーーっ!?あ、アリス、必ず助けに来る!それまで何とか頑張ってくれーー!!」

 

 その言葉を残し、流星は谷底へ落下して行った。

 

「先生……」

 

 アリスは流星が落下するのを確認すると、その意識は落ちた。

ソヨ侯爵の取り巻き達の内から車椅子に乗った者が前に出た。

 

「危ない所でしたな侯爵」

 

 彼は、街で別れた筈のソラリ・ルショーン。そう、彼こそソヨ侯爵をそそのかした魔王軍の魔道士だ。

 

「勇者は谷底。今の時期は水も枯れている。万に一つも助かりはしないでしょう」

 

 ソラリの言葉に、ソヨ侯爵は満足気にうなずく。

 

「精霊の宿る勇者の鎧も確保できた。これは魔王様もお喜びになられる」

「ええ。後は、カロン様が到達するのを待つだけですね」

 

 ソヨ侯爵とソラリは、流星が落ちた谷底を見つめ不気味に笑った。




ミノフスキー
 魔王軍で開発された新しい魔法。
魔法の鎧(MS)には、視界確保や身体能力強化等、装着者をサポートする魔法が付与されている。
 その付与を一時的に機能不全ないし能力を低下させる魔法。
敵味方関係なく効果は発揮されるので、使用の際は気をつけよう。
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