異世界ガンダム   作:꒰ঌ流✧星໒꒱

9 / 16
 それは、ワポルム帝国の騎士達との野外訓練を終えた時であった。
須佐達が戻ろうとした時、木々の間から2m以上もある大男が武装した者を数人連れて現れた。

「道は、こっちであっているのだろうな?」
「はっ!この先にございます」
「そうか……ん?」

 大男は須佐達に気づくと、ニッと笑った。

「帝国の騎士共が居るな。ちょうどいい、こいつらを手土産としよう」

 大男、カロン・ド・バールは拳を握ると、須佐へ殴りかかった。

「危ないっ!!」

 生徒の1人が叫ぶのと同時に、須佐はカロンの拳を咄嗟にかわすと、腰に差していた剣を引き抜き構えた。

「ほう……今の一撃をかわすか……」

 カロンは楽しげに笑うと、今度は蹴りを放った。
だが、須佐はそれを受け止めようと、剣を振りかぶる。
しかし、勢いが強く須佐は吹き飛ばれた。

「ぐっ!」
「勇者様!」

 帝国騎士の悲鳴に、カロンは笑みを深める。

「なるほど、お前が召喚された勇者か。お前を倒せば、魔王様もお喜びになるだろう」

 カロンの拳が須佐の顔に迫るが、五井が青い運命の鎧を纏い、攻撃を受け止める。

「うぐぅ!?なんて、馬鹿力だ……おい、須佐!大丈夫か」
「すまない、樹君……」

 須佐はよろめきながらも立ち上がると、すぐに嵐の鎧を纏う。

「勇者様達をお守りしろ!」

 帝国騎士達が駆け寄ろうとするが、それにカロンが吠える。

「邪魔だ!雑魚は下がっていろッ!!」

 カロンはそう叫ぶと、声は衝撃波となり帝国騎士達が簡単に吹き飛ばされてしまう。

「お前達、帝国の騎士共の相手をしろ。邪魔はするなよ?」
「カロン様の言う通りに」

 そう言うとカロンは須佐達の前に出る。

「我が名はカロン・ド・バール!魔王軍戦士団を率いる戦士団長だ!勇者よ!貴様の命、貰い受けるぞッ!」

 カロンが須佐に殴りかかる。
須佐はそれをかわすと、五井と共にカロンに斬りかかる。
しかし、カロンはそれを余裕で受け止める。

「勇者の力とはその程度なのか?うぉおおおお!!」

 カロンは雄叫びをあげながら、何度も拳を繰り出していく。
その衝撃により、周囲の木々が薙ぎ倒されていく。

「ぐっ……!」

 須佐はその攻撃をなんとか凌ぐ事しか出来ないでいた。

(このままではまずい……)

 そう考えた須佐は、剣を振りかざし斬りかかると見せかけて蹴りを繰り出した。
カロンはそれをギリギリで避けるがバランスを崩した。
 その隙を見逃さずに五井と2人でオーラを剣に纏わせ斬りかかると、カロンは避けきれずに肩口に傷を負った。

「ぐあっ!」

 カロンはよろめくが、すぐに体勢を戻した。

「ふふ、ふはははっ!面白い、面白いぞ!勇者よ!だが、まだまだだ!」

 カロンは笑いながら再び拳を振りかぶると、須佐と五井は身構えた。

 魔王軍最強の闘士、カロン・ド・バール。その戦いは、まだ始まったばかりだ。

勇者タカナリ・スサの叙事詩 第5章


囚われのアリス 後編

 アリスが目を覚ますとそこは何も無い広い部屋であった。

周りを見ると、自分の宿る鎧がエルドリッチの鎖によって封じられていた。単独で逃げ出すのは無理だろう。

 

「お目覚めになりましたかな?」

 

 誰かが話かけてきたのでそちらを見ると、そこには1人の女が居た。

 

「お前は誰だ?」

「私は、マーテル様率いる呪術士団の1人、邪術師キケロガ。以降、お見知り置きを」

 

 邪。魔王軍でも邪とつく称号を持つ者は、力・技・魔法を問わず、優れた人物に冠される物である。

 

「マーテル様のご命令により、カロン様を手伝うべく、ソラリと共に参上仕りました」

「精霊を封印する鎖か。大したものを作るものだな」

 

 この鎖に縛られている限り、アリスは魔法力も鎧も使えない。

 

「ええ。マーテル様はもちろん、もう1人の主もお喜びです」

「魔王か」

「それはどうでしょうか?」

 

 含みのある言い方にアリスはキケロガを睨みつけた。

 

「さて、本来はこのまま封じておくのですが、もう1人の主は貴方を恨んでおります」

 

 キケロガが手をアリスに向けると、その手のひらに邪悪な魔法力が集まっていく。

 

「これは、我が主が魔王様の魔法力を元に作り出した精霊を歪める力。これで貴方を闇精霊(ナイトメア)に変えましょう」

 

 キケロガの含み笑いが部屋に響き、アリスは歯噛みする。

 

「凶禍の影、惨禍を呼び、死禍の門を開く。獄禍の鎖、戮禍の刃よ、闇に集え!」

 

 キケロガが放った魔法はアリスを包み込み、アリスの体に激痛が走った。

 

「ナイトメアに成り果てるが良い」

 

 キケロガの笑い声とアリスの悲鳴が部屋に木霊する……

 

------------

 

 それから1週間、ソヨ侯爵達はカロンの率いる戦士団の到着を待っていた。

 

「カロン様の到着はまだか!」

「もうしばらくかかるかと」

 

 苛立たしげに叫ぶソヨ侯爵を執事がなだめる。無理も無い。既に到着予定を5日も過ぎているのだ。

そんなやり取りをしている中、ソラリがソヨ侯爵に話しかける。

 

「しかし、そのおかげで、鎧に宿る精霊は我らの術中に堕ちました」

「それは、まことか!」

「ええ。キケロガ様のお力により。これで、あの鎧は何時でも自由にお使いになれます」

「そうか、そうか。勇者の鎧が我らの物となったか!」

 

 ソヨ侯爵は満足そうに笑う。

これで、魔法属性しか持たない自分でも、屋敷の倉庫でホコリにまみれたドラケンでは無い、自由に動かせる鎧を手にできるのだ。

 

「ゲロゲロゲロ、ゲ〜〜〜〜ロゲロゲロ!!もう、これで誰も僕を馬鹿にできない!自分を笑ったアイツもコイツも!皆、私の前に跪かせてやるわ!ゲ〜〜〜〜ロゲロ」

 

 ソヨ侯爵が、ひとしきり笑い終わった時である。ソヨ侯爵の保有する私兵が慌ただしく入って来た。

 

「ほ、報告します。我らの屋敷に侵入者が……」

「ほう?さっそく、使う時が来たようだな」

 

 ソヨ侯爵はアリスの鎧が保管される部屋へ行こうとしたが、私兵はそれを必死に止める。

 

「お待ちください!それだけはいけません!!何卒、お止まりくださいっ!」

 

 その必死さに、ソヨ侯爵は訝しむ。

 

「いったい何故だ!理由を申せ!」

 

 苛立たしげに問いただすと、私兵からとんでもない答えが返ってきた。

 

「オム侯爵様が兵を率いてやって来たのです!!」

「…………は?」

 

 この場居る誰もが、その言葉の意味を理解できなかった。

 

 

「ミネイカジーッ!出てこーいッ!勇者様の無念の恨みを晴らしてやるーッ!」

 

 屋敷の外へ出て見れば、壁の向こう側からバンチ・オム侯爵があらん限りの声を張り上げて叫んでいる。

 

「あ、あれはいったい何だ!?」

 

 ソヨ侯爵はこの状況に全くついて行けなかった。

この屋敷は秘密裏に建築され、見た目上も古くて使われていないよう偽装も施した。

 それなのに、屋敷はオム侯爵の兵達が取り囲み、さらに後続も続々と集まって来るのを見てソヨ侯爵らは顔を青くした。

 

「な、なぜ、バンチがここに居るのだ!しかも、あの数はなんだ!?いったいどこから湧いて出た!」

 

 ソヨ侯爵の言葉に、ソラリは冷静に答える。

 

「おそらく、この屋敷の事が露見したかと……」

「なんだと?そんな馬鹿な!何故、露見したのだ!万全を喫した筈ではなかったのか!」

 

 ソヨ侯爵はソラリを怒鳴りつけるが、それで状況が良くなる訳ではない。

 

「と、とにかく。私は、奴と話してくる。何かあれば、すぐ攻撃しろ!いいな!」

 

 そう言い放つと、ソヨ侯爵は屋敷の外へ出て行った。

 

「バンチ侯爵。何をしにここに来た?私は今忙しいのだ。用件があるなら手短かにしてくれないか?」

 

 バンチの姿を見て始めは驚いたソヨ侯爵であったが、ここで弱みを見せてはいけない。あくまで自分は帝国の味方であり、魔王軍の者で無い。その事を示さなければならない。

 だが、オム侯爵はソヨ侯爵を睨みつけながら話す。

 

「やっと出て来たか、帝国の裏切り者め。恥を知れ!」

「恥を知れ、だと?いったいなんの事を言っているんだ?」

「そのままだ!瀕死の兵が貴様に襲撃されたと申してきた。それは本当の事か!?」

「さて?なんの事か……モンスターに襲われたのを勘違いしたのでは?」

 

 ソヨ侯爵は知らぬ存ぜぬを貫くが、オム侯爵は証拠を突きつけるように取り出したのは、ラ・ムール国の英雄の徴とまとめられた髪。

 

 

「貴様に殺された勇者の恨み!これを見てもまだ白を切るか!!」

「ま……まさか……」

 

 ソヨ侯爵の顔から血の気が引いて行く。

 

「そのまさかだ。貴様が殺したのだ」

 

 

 その日、オム侯爵は執務を終えて就寝しようとしていた。そんな彼の所へ執事がやって来た。

 

「いったいなんだ?私はもう寝るのだぞ。用件なら明日申せ」

「そうも言っていられません。何でもソヨ侯爵様の兵に襲われたと申す者が……」

「何?」

 

 モンスターに襲われて、街道警備の兵に助けられたがパニックになっていて勘違いしたのだろうか?

オム侯爵はとりあえずその者から話を聞く事にした。

 

「貴様がソヨ侯爵の兵に襲われたと申す者か」

「はい……」

 

 男の年齢は20代前後だろうか?全身に傷があり、襲撃を受けたというのは嘘では無いようだ。しかし、なぜソヨ侯爵に襲われた等言うのだろうか?

 ミネイカジ・h・ソヨ侯爵は、自己中心的で意地汚く、自己顕示欲は高いが、そんな事をする人物では無い筈である。

 

「自分は、ラ・ムール国から勇者様と共に物資輸送の任務でこちらへ来ました。ですが、途中にあるソヨ侯爵領で、山賊団が出没したのでルートを変えると言われました」

 

 その話も知っている。確か、スサと名乗る者達が討伐した筈だ。

オム侯爵が続きをうながすと、ラ・ムール国の兵は驚くべき真実を語った。

 なんと、自分の領で警備をする兵達も襲撃し、輸送隊は全滅。勇者も討ち取られてしまったのだ。

 

「せめてもと、思い……勇者様の遺髪とその徴を……」

 

 涙を流すラ・ムール国の兵に、オム侯爵の腹は煮えくり返っていた。

そこへ執事が入って来た。

 

「侯爵様、この者が担いで来た兵なのですが、どうやらソヨ侯爵領を警備する兵のようでございます。彼が話すには、ソヨ侯爵の操るドラケンにやられたそうです」

 

 ソヨ侯爵領の警備兵、彼はなんと生きていたのだ。正確には瀕死であった。

しかし、勇者によって助けられ、なんとか一命は取り留めたのだ。

 執事の話を聞き、オム侯爵は立ち上がる。

 

「兵を集めろ!ソヨ侯爵……いや、ミネイカジは帝国を脅かす存在である!直ちに討伐するッ!!」

 

 

 オム侯爵の言葉にソヨ侯爵は冷や汗が止まらない。

しかし、ここで諦める訳にいかない。既に賽は投げられたのだ。

 

「こ、攻撃!攻撃ッ!迎え討てーッ!」

 

 ソヨ侯爵は背中を見せ逃げ出すのと同時に、潜んで居た私兵が飛び出す。しかし、オム侯爵は止める事は無かった。

 

「逃げるかミネイカジッ!この、臆病者めッ!奴の首を取れ!一気呵成に攻めろ!!」

「わかりました!」

 

 ソヨ侯爵を討ち取るべく屋敷の外で待機していた兵達が突入して行く。

 しかし……

 

「ギロッ!」

 

 壁と一体化していた魔法生物、サテライトギャザー達が近づいた事で一斉に起動する。

サテライトギャザーは警備用魔法生物で、侵入者の早期発見と撃退も目的とされ、砦や城、お金があるなら貴族の屋敷にも配置されている。

 

「おのれ、こしゃくな!」

 

 サテライトギャザーから発射される魔法の矢に晒されるオム侯爵達だったが、力属性の者が先頭に立ち怯む事なく突き進んで行く。

 

「うおおおぉぉっ!!」

 

 オム侯爵は力の限り壁を殴りつけると、その部分が弾け飛ぶ。純粋な力の前に、魔法は無力なのだ。

この光景に、さすがのソラリも驚愕する。

 

「なんて力だ……奴を止めようとするなら、キケロガ様レベルの魔法が必要だ」

 

 しかし、キケロガはアリスを堕とすのに魔法力を消耗し、拠点へ一足先に帰っていった。

私兵達も奮闘するが、オム侯爵達相手には長く持たないだろう。

 

「ソヨ侯爵、早く鎧を取りに行ってください!その間、我々が食い止めます」

「わ、わかった。後は、頼んだぞ!」

 

 丸みを帯びた体を転がす勢いで、ソヨ侯爵はアリスの鎧が保管される部屋へと向かった。

 

「……これは、脱出の算段をしておいた方が、いいかもしれないな」

 

 

 

(何故だ……どうしてこうなったのだ?)

 

 ソヨ侯爵は、鎧が保管されている部屋まで来ると、懐から鍵を取り出し扉を開ける。

そして、アリスの鎧を保管しているケースに走り寄った。

 

「よしっ!」

 

 ケースを開け、鎧を手にする。だがその時である。

 

「案内ありがとねー」

 

 背後から軽い声をかけられた。聞き覚えのある声に背後を振り向くと、そこには谷底へ落ちた筈の流星が元気に立っていた。

 

「よっ!久しぶり、元気してた?」

「ば、馬鹿な!貴様は崖に落ちた筈だ!ありえんッ!!」

「ハッハッハ!知らないのか?勇者は体を引き裂かれ、腸を喰らいつくされても、復活するんだぜ」

 

 流星、嘘は得意である。

 

------------

 

 体が寒くなるよう、それでいて熱いような感覚を覚える。意識もぼんやりとしながら流星は起きた。

 

「……何とか生き延びたか……ッ!まずは、手当てだな」

 

 谷底へ落ちたのになぜ生き延びたのか?

答えはワッパの魔法だ。

この魔法は本来、短時間であるが約10m程の高さを飛行可能にする魔法だ。

 流星はソヨ侯爵達が見えなくなったくらいでワッパを唱え、落下速度の軽減をした。

しかし、崖等に打つかり、体を負傷。とくに膝は穴があいて骨らしき物も見えている。

 

「それにしても……魔法便利だな。こんな傷も治せるんだから……」

 

 ミディで傷を治しているが、何かに集中しなければ意識は途切れてしまいそうである。

 

「救急隊員が声かけするのって、こういう事だったのか……」

 

 流星ミディを何度もかけ続けて傷を治しきったのは、月が空の前上にきたくらいであった。

 

「よし、これなら動けるな」

 

 自分の体を確認後、流星は谷底を確認する。

この谷底はかなり広く、今は枯れているが、水も流れていそうだ。

 

「さてと、とりあえず索敵するか」

 

 パックを飲みながら、流星はクッワーイを唱える。

 この魔法は周囲の索敵をおこなう魔法で、動くことなく周囲を見ることができる。ようは霊視や透視、千里眼的な物。術者が望めば、他の者でも術者が見ている物を見ることができる。

弱点は使用中動けなくなる事だ。

 クッワーイの探知範囲にソヨ侯爵達は居なそうだ。流星は使用をやめると、ネモの鎧を纏う。

 

「ミノフスキーとやらも効果切れしてるな。これならなんとかなるか?」

 

ネモの鎧を解除し崖に近づくと、流星は次の魔法を使う。

 

「我が身を空へ、ワッパ」

 

 体が軽くなるのを感じると、そのまま崖を登って行く。ワッパの飛行能力を使った崖登りである。ワッパの飛行高度は約10mであるが、その浮力を利用して崖に掴まって素早く移動する事を可能にした。

 これは、アリスとのブースターユニットを使った訓練で見つけた、ちょっとした裏技である。

 

「待ってろよアリス。今、助けに行ってやるからな」

 

 流星は、アリスを救出すべく崖を登って行った。

 

 

 

 月が落ち、太陽が登ってきた。そうしてようやく崖を登りきった流星は、盛大なため息のあと、そのまま大地に寝転ぶ。

 

「びゃあ゛ぁ゛゛ぁつかれたあぁ゛ぁぁ゛」

 

 ワッパの効果時間が切れる度にかけなおし崖を登ったが、高さもあり流星の体力を大幅に削った。

 

「もうダメ、少し休憩……」

 

 休もうとした時であった。草陰から何かが這いずり出て来た。

モンスターか?流星は警戒するが、その必要はなかった。

 這いずり出て来たのは、ドラケンの拳を受けた警備兵であった。

 

「お前、生きてたのか!?」

「う、うぅぅ……こ、こんな……所で、死ねる……か」

 

 流星は急いで駆け寄ると、癒しの聖水を取り出し警備兵へ飲ませる。

これは、複数種類の薬草を組み合わせ、僧侶が祈りを込めて作る強い癒しの作用があるポーションだ。

 土気色だった警備兵の顔に生気が戻る。

 

「すまない、助かった……」

「無理するな、今は休んでろ」

 

 流星は警備兵の周りに結界を張ると、彼をそこに寝かせる。

体力の限界だったのだろう。警備兵はすぐに気を失った。

脈を確認するが、とりあえずは大丈夫そうだ。

 

「とりあえず、アリスがどこに連れて行かれたか調べないとか……」

 

 そう考えると、流星はアリスから渡された首飾りをかざす。

 

「アリスはどこ?」

 

 すると首飾りから青い光が一直線に伸びる。

 

「……あっちか」

 

 これはアリスから教わったのだが、この首飾りはアリスの宿る鎧とリンクしており、アリスが存在する限りどこに居るのかを教えてくれるのだ。

 青い光は森の中に伸る。流星はそこに向かい歩いて行った。

 

 どれだけの時間歩いただろうか?流星は喉の乾きを覚えながら森の中を歩き続けた。

やがて、青い光がある所で途切れた。そこは森林の奥地にある屋敷であった。

 見た目的にはモロそうで、壁には草木が茂っている。誰も居らず、閑散としている様子に流星は顔を曇らせる。

 建物に近づき、中を探索する事にした。

しかし……

 

(なんだ?何も居ないのに気配がする)

 

 理由はわからないが、誰も居ないのに気配だけがする。

一旦距離を取ると、流星はクッワーイを唱え、周囲を探る。

 

「……これは!」

 

 驚く事に無人のように見えた屋敷には無数の人が隠れて居た。しかも、姿は見えないが壁にも何かが居る。

それがサテライトギャザーである事を流星はこの時わからなかったが、あのまま近づいて居たら、自分の存在が露見していただろう。

 

「あ、危なかった……。アリスと魔法の訓練をしていてよかった」

 

 しかし、このままではアリスの救出もままならない。

襲撃された場所に戻ると、流星は地図を出して天測航法で現在地を割り出す。

 

「……マジか」

 

 しばらくして、位置がわかった流星だったが、自分の居る場所に驚く。

なんと、オム侯爵領に入っており、しかもオム侯爵の屋敷がある街も近い。

 

「なかなか大胆な奴らだな。……いや、灯台下暗しと言うし、意外と理にかなっているかもな」

 

 だが、これで目的地が決まった。

後は、オム侯爵を説得して屋敷の内部に突入するだけだ。

それを実行する為に、流星はラ・ムール国の兵のフリをし、散髪して残して置いた髪を遺髪と偽り、英雄の徴を見せて信用させたのだ。

 もちろん、警備兵に口裏を合わせて貰うのも忘れない。

 

------------

 

「という訳で、オム侯爵達を利用して屋敷の内部に侵入したのさ」

 

 楽しげに話す流星だが、ソヨ侯爵が怒り始めた。

 

「貴様ッ!それでも勇者かッ!!」

「お?勇者だからどうした?俺は先生だぞ」

「ぐっ……くそっ!」

「しっかし、森であった時は暗くてよくわからなかったけど、酷い容姿だなー。もしかして、それ良くしてもらう為に裏切った?」

 

 流星の言う通り、ソヨ侯爵の容姿はあまり良くない。目はカエルのように離れ、二重顎と、ぽこんとした丸みを帯びた体躯が余計丸く見せている。

 そのせいで、周辺の貴族達から馬鹿にされる事が度々あった。

プライドだけは城壁よりも高いソヨ侯爵には、その嘲笑が許せなかった。

 そんな時にキケロガとソラリが接触して来た。

魔王軍に付き、キケロガの配下になれば、貴族達に一泡吹かせる事ができる。

そして、自分を見下し嘲笑う者達に復讐する為に、ソヨ侯爵はキケロガ達と手を組み、自分の地位を上げる算段をしていた。

 しかし、その計画は流星によって全て台無しにされたのだ。

 

「貴様だけは許さんッ!!」

 

 ソヨ侯爵が怒りに任せガンを抜くと、流星に向かって発射した。しかし、流星は盾を取り出し、それを防ぐ。

 

「おいおい、なんだそよ魔法の矢は?俺がお手本見せてやるよ」

 

 さらにライフルを取り出すと、お返しとばかりにソヨ侯爵を攻撃する。

 

「ひっ!?」

 

 悲鳴を上げ縮こまるソヨ侯爵だったが、その攻撃は彼に当たらなかった。

 

「……へぇ」

 

ソヨ侯爵を守るように、鎧が立ちはだかる。勇者ガンダムが身に着けた鎧。アリスだ。

 

「目標補足」

 

 しかし、綺麗な碧玉色をした瞳は、美しくも怪しさのある紅玉色へと変化していた。

 

「……ゲ、ゲ〜〜ロゲロゲロゲロ。そ、そうだよ。僕には鎧があるじゃないか!どうだ!お前が使ってた鎧が牙をムクのはっ!もう、お前のでは無い、私専用だ!」

「……えぇ、お前と穴兄弟とかヤダよ」

 

 そう流星は言うが、逆にソヨ侯爵がドン引きした。

 

「…………えっ?お前、鎧じゃないと興奮できないの?……うわ」

 

 忘れていたが、精霊であるアリスは普通の人には見えない。

普通に考えれば、アリスと寝る事は鎧と寝るという事になる。

 

「お前の性癖等、どうでもよい。こい、勇者の鎧!」

 

 そうソヨ侯爵が叫ぶと、3機に分離した鎧がソヨ侯爵の体を包む。するとどうだ、彼の体形に合わせて鎧が変形したではないか。

 

(考えてみたら、先代と俺じゃ体格は違うもんな。つまり、これがその答えか)

 

 なんとも場違いな感想を流星は抱くが、ソヨ侯爵は興奮気味であった。

 

「おぉ!凄いぞ!この鎧は!これが勇者の鎧か!ドラケンの数十倍のパワーだ!素晴らしい!」

(……あぁ、こいつアホなのか)

 

 流星は心の中で呟くと、ライフルを構え発射する。しかし、魔法の矢は全て弾かれてしまう。

 

「無駄だよ無駄。私は最強なのさ!」

「いや、それは違うな。その鎧が強いんだ。お前はちっとも強くなって無いさ」

「ふんっ!負け惜しみを」

「なら、試してみるか?」

 

 そう言うと、流星はネモの鎧を見に纏う。

 

「普通の魔法の鎧(MS)ごときで、私に勝とうなど!」

 

 走り出すソヨ侯爵は、勝ちを確信していた。鈍重なドラケンや私兵が使っている魔法の鎧(MS)等よりも、今身につけている勇者の鎧の方が強靭で、素早い動きをする事が可能なのだ。

 それなのに……

ソヨ侯爵は流星に向かって何度目かの剣を振るうが、また避けられる。

 

「ちっ!」

 

 攻撃が当たらない事に苛立ち、ソヨ侯爵は大腿部のガンも織り交ぜ攻撃する。それなのに、流星に攻撃が当たらない。

 

「なぜだ!なぜ当たらん!」

 

 余計な力が入り雑になって来た所へ、流星の回し蹴りがソヨ侯爵に決まり、その衝撃で吹き飛ばされてしまう。

 

「ぐおっ!?」

 

 ゴロゴロと転がるソヨ侯爵を、流星は笑う。

 

「そらみろ。言った通りになった」

「なんでだ!なんで攻撃がかすりもしない!」

「お前、訓練ろくにしてないだろ?動きが素人丸出しで、わかりやすいんだ。ミノなんたらを使わないお前なんて敵じゃないんだよ!」

 

 そう言って流星はさらにソヨ侯爵の事を笑うと、彼の安い堪忍袋が切れた。

 

「ふざけるな!僕は賢い!僕は正しい!僕は強い!誰よりも、誰よりもだっ!目に見えぬものよ、その力によって魔法を妨害し、遮蔽し、障害をもたらせ……ミノフスキーッ!!」

 

 怒りに任せ発動させた魔法ミノフスキー。流星は、それを待っていたのだ。

 

「メットオフ!」

 

 流星が叫ぶの同時に、ネモの鎧の兜をカーゴへしまう。

 

「視界を確保したか。だが、それがどうした?ミノフスキーは展開した。お前の鎧はもう使え……なんだ?なんで、視界が狭くなった。それに動きも悪い……どういう事だ!?」

「アッハハハハ!お前、本当アホだな。今身につけるのなんだよ?勇者とはいえ魔法の鎧(MS)だぞ。そんな所にミノフスキー展開したどうなる?」

 

 ミノフスキーは魔法の鎧(MS)の力を阻害する。つまり、今の状況でこの魔法を使うのは悪手という事だ。

 

「一つ賢くなったろ?」

 

 その言葉と同時にライフルから魔法の矢が発射される。

しかし、攻撃が当たる瞬間に魔法力噴射が行われ回避された。

 ソヨ侯爵は呆然としており、回避ができる状態ではない。それなのに回避行動をできたのは……

 

「装着者の支援を開始する」

「……これは厄介だな」

 

 ナイトメアへとなったアリスの介入。苦しい戦いになるだろう。

 そんな流星の心境を察知し、ソヨ侯爵は先ほどまで弱気だったのは嘘のように強気に出てくる。

 

「そうだ!私の鎧には、精霊が宿っていのだ!おい精霊!どこに居るか知らんが、あいつをじわじわとなぶってからやっつけろ!」

「わかった」

 

 ソヨ侯爵には見えていないが、彼のやりたい事は理解したのか、アリスが鎧を操作し襲いかかってくる。

 拳3連打からの、右蹴り、左回し蹴り、右アッパー。

流星は攻撃を避けようとするも、アリスの方が早く攻撃をくらってしまう。

しかし、ソヨ侯爵が出した命令により致命傷には至らない。だが、流星は徐々に後退させられていく。

 そして、壁際に追い込まれる前にバーニアで飛ぶと、反撃をしようとする。

しかし、それを許す程アリスは甘くない。

 流星の攻撃を避けたかと思うと、彼の足を掴み投げ飛ばした。

ミノフスキーの効果で上手くネモの鎧を扱えない流星は、そのまま地面に激突してしまう。

 

「ぐあっ!……くそ、なんて奴だ」

 

 なんとか立ち上がろうとする流星だったが、アリスは容赦なく大腿部のガンで攻撃してくる。

何とか避け続ける流星だが、このままではいずれやられてしまうだろう。

 そんな時、ソヨ侯爵が高笑いしながら話してきた。

 

「ゲロゲロ!無様だな勇者よ!どうだ?自分の精霊に殺される感想は?」

「……なかなか体験できない事を楽しませてもらってるよ」

「減らず口を!」

 

 激昂するソヨ侯爵だが、流星は冷静さを失わない。その事が面白くないのか、さらに攻撃を激しくしていく。

 

「ルフィラ」

 

 アリスの唱えた魔法の矢が発射され、それが軌道を変えると避けた先にまた飛んでくる。

何とかして反撃しようとするも、アリスの身体能力に追いつけず一方的にやられ続ける流星。

 やがて攻撃を避けきれず直撃を受けてしまう。

 

「ぐうッ!」

 

 すぐに体勢を立て直す流星だったが、背部・カノンが狙っているのに気づく。

盾を構え、スラスターへ魔法力を送り、バーニアで無理やり回避を試みる。

 寸前の所で避ける事ができたが、盾は背部・カノンの余波で一部が溶けた。

 

「うおっ!あぶっ!」

「よし、良いぞ!精霊、もっと攻めたてろ!」

(来たな!)

 

 ついに、本格的に攻撃を始めるようだ。そして、流星はそれを待っていたのだ。

 

「魔法力よ、我に速さを、ホバー」

 

 素早さを上げる魔法ホバーを自分に使うと、ライフルで牽制しながら、後退を始める。

 

「逃げるしか能がないな!」

「その逃げる奴を捕らえられないのが、お前だよ!」

「……ッ!精霊ッ!!あいつをなぶるのは無しだ!そのまま殺せッ!!」

「理解。このまま殲滅する」

 

 ブースターユニットから青白い魔法力の煌めきを出しながら急速に距離をつめてくる。

それに合わせて流星は前進すると、盾を前面に押し出すように構える。すると、アリスが盾に激突した。

 その衝撃で吹き飛ばされるも、アリスはすぐに立ち上がり、追撃してくる。

だが、流星が次に取った行動は、ソヨ侯爵達の周りを周回しながらライフルでの牽制であった。この時、小刻みにジャンプするのを忘れてはいけない。

 アリスの方はついてこれているが、肝心の装着者であるソヨ侯爵に技術が無い為、翻弄されっぱなしであった。

 

「ちょこまかと!!」

「そーら、どんどんいくぞ。イナク、サーベ、パーム」

 

 小さな氷の刃と風の刃が鎧に当たり、足元からは炎が噴き出す。

攻撃され慣れていないソヨ侯爵は完全に恐慌状態に陥る。

 

「な、なんだよお前!この鎧が大切じゃないのか!そんな事したら壊れるぞッ!!」

 

 ソヨ侯爵は口角泡を飛ばさんばかりの勢いで喚き散らす。しかし、流星はそれに落ちついて返す。

 

「いや、大切だよ。でも、敵対してるし仕方ないよ」

「なっ!?」

「俺の世界にはさ、鬼尼斬眈って諺があるんだけど……意味は、鬼でも僧侶でも何者でも斬り伏せるという意味なんだ。侍、要はキミ達で言う騎士の心構えみたいな物だね。俺も見習わないと」

 

 そう言って流星が魔法力を高めると、ソヨ侯爵の恐怖は最高潮に達した。

 

「勇者っていうのは、皆こんな奴ばかりなのかッ!?精霊!何をしても良いから、アレを止めろ!」

「理解。装着者の魔法力も使い、奴を灰に変える」

 

 背部・カノンに魔法力の光が集まっていくの同時に流星は魔法を解き放つ。

 

「魔法力よ、集まり盾となれ、シール!続けて唱える。魔法力よ……」

 

 流星が次の魔法を唱える前に、背部・カノンから魔法力の光が照射され、激流となって襲いかかる。

魔法力で構成された盾シールにぶつかると、周囲に魔法力の光の欠片が激しく飛び散りシールが砕けていく。その後ろにはネモの盾を構えたいた流星が居たが、魔法力の激流はそれさえ飲み込み、全てを消し去った。

 しかし、ソヨ侯爵も無事ではなかった。

彼は魔法属性を持っているが、たいして魔法力を持っていなかった。故に、アリスは彼の生命力を魔法力に変換し背部・カノンを全力で使用した。

 その結果、ソヨ侯爵は干からびたカエルの用な姿になってしまっていた。

 ただ1人残されたアリスは、涙を流す。

 

「……なんだこれは?なんで私は泣い、て?」

 

 

ALICE ALICE ALICE ALICE ALICE ALICE ALICE ALICE ALICE ALICE ALICE ALICE ALICE

 

 

「そうだ精霊。お前が、殺した!」

 

 そんなアリスに魔王の魔法力を元に作られた存在、禍が語りかける。

 

「……私が… ころした……先生を……」

「そうさ。お前だ!お前がやったんだ!」

 

 アリスの心はほぼ闇に染まった。後は、喰らうだけだ。

 

「さぁ、鎧に宿る精霊よ。体をよこせ!そして、ボクに全てを委ねろッ!!」

 

 禍はアリスを喰らおうと襲いかかるが、急に体が動かなくなる。

 

「な、なんだ!?まだ抵抗する力があるとでも言うのか!」

「そう……抵抗、する」

「な、なに?」

「私は、先生を殺してはいない。先生は約束した。迎えに来るって……だから、お前なんかに喰われる訳にはいかない」

「……何を言っている?ボクはお前だ。アイツが消し飛ぶのを見た筈だ!!!」

 

 禍がアリスの心を喰らおうとするも、その体は動かない。いったい何が起きていると言うのだ?

 

 

ALICE ALICE ALICE ALICE ALICE ALICE ALICE ALICE ALICE ALICE ALICE ALICE ALICE

 

 

「そうら、捕まえた!」

 

 聞こえない筈の流星の声が聞こえ、禍が驚愕する。

 

「馬鹿な!?どうやってアレから生き残った!?」

「何、簡単なトリックだよ」

 

 

「魔法力よ、我が分身を生み出せ、ダミー」

 

 流星が続けて唱えたのは、ダミー。子供の落書きのような者を出し、身代わりにする魔法。

アリスが攻撃すると同時に呼び出し、盾をダミーに渡して横へ逃げてアリスに接近したのだ。

 そして、倒したと思わせて、油断した隙に背後へ回り込んで捕またのだ。

 

 

「くそっ!離せっ!!」

 

 振りほどこうと暴れるアリスだったが、動けないように両手両足を首飾りから取り出した鎖で拘束する。

 

「こ、この鎖は、エルドリッチの……なんで、お前がこれを持って……」

「ドリュアスを封印してたやつをコッソリいただいたのさ」

 

 精霊を堕とす禍は、その性質上精霊と似た存在である。エルドリッチの鎖で拘束されてしまっては、為なす術がない。

流星はアリスの鎧の中で干からびていたソヨ侯爵を取り出すと、僅かにだが息をしている彼に驚く。

 

「魔法力使い過ぎるとこうなるのか……気をつけよ」

 

 微妙な勘違いをしながら、流星は干からびたソヨ侯爵を逃げられないようロープで拘束した。

 

「しかし、どうするかな。アリスは救出したけど、なんかまだ変な感じがするし……」

 

 エルドリッチの鎖で拘束されたアリスの瞳は、未だ紅玉色に変化したまま。雰囲気も何時もと違う。

 

「……薄い本みたいに、ヤれば治るか?」

 

 変な考えがよぎったその時、流星はある物を思い出した。

 

『これは、我が森に咲いていた花の花弁を加工して作った物です〜。何かあれば役に立つでしょう』

 

 精霊キャトルウッドのドリュアスから渡された綺麗な花びらの宝石。これを使えば、どうにかなるかもしれない。

 

「精霊キャトルウッドのドリュアスから作られし花弁よ。この者を浄化したまえ!」

 

 花びらの宝石をアリスの鎧に落とすと、そこを中心にバラの花弁が広がる。

 

「な、なんだこれは!?まさか、浄化しようとでも!?」

「そのまさかだよ!」

 

 モンスターの菌糸でカビていた森を浄化できるドリュアスの力が宿る花びらの宝石だ、アリスを蝕む存在を浄化できそうな気がした。

 

「あ、ああ……やめろ!やメろおおおお!」

 

 禍が浄化されまいと抵抗しようとするも、エルドリッチの鎖に拘束された状態では何もできない。

 そして、花びらの宝石は輝きを増していき、その光がアリスを包み込むと、彼女の瞳は紅玉色から元の碧玉色へ戻り、嫌な雰囲気もなくなった。

 

「良かった。元に戻ったみたいだね」

「せ、先生……私はいったい……」

「話は後。今はここを脱出しよう」

 

 流星がアリスの鎧を持ち上げようとした時である。突然、出入り口が開いたのだ。

 

「あまりに遅いと思って見に来れば……貴様、生きていたのですか」

 

 そこには、ソヨ侯爵領へ入ったばかりの時に会ったソラリ・ルショーンが居た。

彼は車椅子を器用に操り、流星達の前に進み出る。

 

「なるほど。黒幕登場か……」

「どうやって生き延びかはわかりませんが、ここで消さないといけないみたいようです」

 

 そう言って彼が手を挙げると、出入り口が塞がれる。

ここで確実に仕留める。その気迫が伝わり、流星は気を引き締める。

 

「先生、私も……」

 

 戦おうとするアリスを流星は手で制する。

 

「キミは休んでいて。あんなやつ、すぐにかたづけるから」

「自分をかたづける?そう簡単にいくかな!?」

 

 ソラリが車椅子に魔法力を送ると、車椅子から鎧が飛び出し、ソラリに装着され、車椅子は立派な戦車に変形する。

 

「キケロガ様から賜った、このザク・チャリオットは、山賊共に渡した兵士の鎧とは訳が違いますよ!」

 

 チャリオットは、全身から魔法力の光を放ち、起動する。

 

「負けないさ。戦車が相手ならな!」

 

 流星もネモの鎧をあらためて装着すると、バーニアで素早く移動する。そして、すれ違いざまにザク・チャリオットにライフルで攻撃するが、傷1つつかない。

 

「その程度ですか?では、こちらも行きますよ!!」

 

 ソラリが巨大な斧槍を持ち上げると流星に向かって振り下ろされるそれを咄嗟に横へ回避する。

 

「戦車なら負けないですか。その程度の攻撃で?笑わせないでください」

「なら、これでどうだ!雷よ、ファン」

「甘い!」

 

ザク・チャリオットの車輪が高速回転し、天空から降る稲光と手から迸る雷は簡単に避けられてしまう。

 

「我が魔法、受けてみよっ!ムービルフィラ〜ッ!」

 

 詠唱破棄で唱えられたムービルフィラ。その数10。ソラリがいかに優れた魔道士であるかが伺える。

流星は負けじとライフルを連射し半分近くを相殺すると、残りをシールで防ぐ。

 

「ほう……なかなかやりますね」

 

 ソラリは流星の意外な実力に少し驚いたようだった。

 

「先生!くっ……」

 

 立ち上がろうとしたアリスだったが、エルドリッチの鎖に拘束された状態では動く事もままならない。

 

「心配するなアリス。問題ないよ」

「この状況で、まだそんな大口が言えますか」

「言えるさ。何せお前には時間が無い。違うか?」

 

 流星の言う事は正しい。ソラリ達は劣勢にある。

カロンの戦士団は、予定を過ぎても未だに来ない。

秘密にしていたこの場所をオム侯爵の兵達に攻められ、起死回生の策として勇者の鎧を取りにいったソヨ侯爵は戻らない。

自分達は見捨てられたのだと、士気を失う者が出始めた。

 ソラリはカードダスに封じていたモンスターを゙全て出し、契約によって逃げれない筈のソヨ侯爵を探しに来れば、いつの間にか侵入した流星によって倒され、勇者の鎧も浄化されていた。

 既に、勝敗は決まった用な物。せめて、目の前に居る勇者だけでも……

などと、ソラリは考えていない。彼の目的は勇者の鎧の回収だ。

 

(アレさえ回収できれば、キケロガ様の力でまた堕とす事もできる。なんとしてでも、あの鎧を……)

 

 ソラリ自身、オム侯爵の兵達との戦いで魔法力を消費している。

幸いなのは、勇者の鎧はエルドリッチの鎖で動けず、この攻防で流星にザク・チャリオットの装甲を破壊できる力が無いのがわかった。

 上手く出し抜いて鎧を回収すればソラリの勝ちだ。

ソラリはザク・チャリオットを走らせ、斧槍を振り回して流星を攻撃するのを流星はバーニアを使って回避しながらライフルを撃ち込む。

 一進一退の攻防を繰り広げていた2人であったが、僅かな隙を見逃さなかった流星の攻撃が当たり、ソラリの手から斧槍が落ちる。

 

「終わりだ!」

「それは貴様だ、勇者!」

 

 ザク・チャリオットの正面を流星に向けると、車体に取り付けてあるマジックガンへ魔法力を送る。

すると魔法の弾丸が連続で撃ち出され、流星に直撃する。

 

「ぐわあっ!」

 

 魔法弾による連続攻撃は、ネモの鎧でも防ぎきれなかったようで、流星は床に倒れた。

 

「先生!……よくも……」

 

 アリスがソラリを睨みつけるが、彼は余裕の表情を崩さない。

 

「自分のザク・チャリオットを舐めたのが敗因です。さて、早く勇者の鎧を回収しなければ……」

 

 ソラリはザク・チャリオットを操作し、アリスの鎧に近づくと、カーゴの込められた腕輪で触れようとした。

 

「な〜んてね。氷刃よ伸びろ、コールドイナク」

 

 倒れていた流星が手を伸ばすと、氷の刃が飛……ばなかった。

 

「ハハハッ!魔法力切れで発動しなかったか!残念だったな!」

「いいや、ちゃんと発動したさ。足元を良く見るんだな」

 

 ソラリが足元を確認すると、ザク・チャリオットの車輪の間に氷の刃が伸びており、車輪が回らなくなっていた。

 

「しまった!ヒーター!」

 

 解氷魔法ヒーターで急いで溶かすが、それよりも早く起き上がった流星が迫る。

 

「風の刃よ切り裂け、ムービサーベ!」

 

 突き出された左手からは、今度こそ風の刃が飛ばない。それならば迎撃は間に合う。

そう考えていたソラリだったが、アリスの鎧から何かが飛び出した。

 それを流星は掴むと、青く光り輝く刀身が現れる。流星が何をしたいのか察知したアリスがビームサーベルの柄を投げたのだ。

 

「覚悟!」

 

 未だ車輪に氷刃が挟まり動かないソラリの上半身と下半身をビームサーベルで両断した。

しかし、流星の手には妙な手応えが帰ってきた。

 

(なんだ、この手応えは?)

 

 獣の解体をした事があるので、肉を切る感触はある程度知っている。なのに、返ってきたのは骨よりも硬いナニカ。

これはいったい?

 

「ば、馬鹿なぁ……自分が負けた……だと……?」

 

 上半身が床に落ちたソラリは起きた事に驚愕した。

その声に流星は思考を切り替える。

 

「だから言ったろ、戦車には負けないって。さあ、大人しくするんだな」

 

 流星はそう言うと、ライフルを突きつける。

 

「……こうなれば」

 

 何かをしようとするソラリを止めようとするが、それよりも早くソラリが行動した。

 

「我が身に流れる生命力よ、その全てを魔法力へ……収束せよ……」

 

 悪寒を感じた流星は、アリスと干からびたソヨ侯爵を回収して急いでソラリから離れる。

 

「爆ぜろ、吹き飛べ……メガ、バズ」

 

 ソラリの魔法力が凝縮し上半身が輝くと、一瞬の後に大爆発を起こした。

 

「ゴホっ……まさか、自爆するなんて……」

 

 ソラリが放った魔法は部屋全体を吹き飛ばしていた為、流星達は爆風で飛ばされた。幸いな事にアリスの鎧と干からびたソヨ侯爵を回収できたが、ソラリの遺体を確認する事はできなかった。

 

「先生!大丈夫?」

「ああ、なんとかね」

「あの……ごめんなさい」

「何が?」

「私のせいで先生に迷惑を……」

「気にしなくていいよ。こうして、無事に戻って来てくれたから」

「でも……」

「なら、こうしよう。キミはこれから、俺と一緒に行動するんだ」

「……え?」

「アリスが居ないと、この世界で生きていけなそうだ。だから、俺の為に一緒に居てくれ」

「先生……うん、わかった」

 

 こうして2人は、無事再会した。

今回の事を報告するため、そしてオム侯爵へ自分の本当の身分を話した。

この事にオム侯爵は大層驚いたが、勇者が無事であった事を喜んだ。

 そして、同じ貴族であるソヨ侯爵のやらかした事の清算の為、オム侯爵はソヨ侯爵を拘束。

 これにより、ソヨ侯爵によるクーデター計画は未然に防がれ、事情聴取の後、ソヨ侯爵家の取り潰しが行われた。

その一連の出来事を見届ける事なく、流星達は本来の目的地である鉱山都市グラナダを目指した。




エルドリッチの鎖

 精霊の力を封じこめる事のできる鎖。対勇者の鎧として魔王軍で開発された。
本来は、ドリュアス等の自然界に居る精霊を無効化し、ナイトメア化して魔王軍の手下にする作戦であったが、何者かによってより広い効果を発揮できるよう改良された。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。