魔防隊の貧乳隊員   作:くろさん

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fate要素はそんなに出ません。

おそらく一発ネタ。


ヒラ隊員の話

 

 

 唐突だが、諸君は転生という言葉を今まで聞いたことがあると思う。そう、あの輪廻転生とかいうやつである。

 古くからその概念は伝わってきているが、ここ最近一つのジャンルとして人気を博しているだとか。

 かくいう私も、それなりに嗜んでいた。従来とはまた違った新しい主人公像に夢中になったのは、なんとなく覚えている。

 

 さて、それでは何故私がこれについて語ったかというと。

 

 私が転生したからだ。

 

「事実は小説よりも奇なり」とはよく言ったものだ(私が認識している世界が「現実」だという確証は無いが)まさかこんなことが起こるとは、思ってもみなかった……と驚くのが本筋なのだろうが、生憎事情が違うらしい。

 大概の場合、神様とやらに転生特典を貰って転生したり、突然前世の記憶がフラッシュバックして思い出したりするのがテンプレなのだろう。他にも該当するケースはいくらでもあるだろうが、ここでは生まれ変わる前の記憶があるのか、という点に重きを置こう。

 

 ……というわけで、まあ、何が言いたいのかとうと。

 

 前世の記憶も今世の記憶もハッキリしない私のような存在は、もしかしたら珍しいのでは?という話だ。

 

 

 

 

 ×××

 

 

 

 

 全く、ただの人間に終末の炎は重すぎるとは思わないか?

 

 

 

 

 ×××

 

 

 

 

「最近思うんだけどさあ、みんなおっぱいでっかいよね」

 

 不意に、昼食中に合わない言葉を聞かされた羽前京香(うぜんきょうか)は、思わず口に運ぼうとしていたパスタを止めてしまった。半端に止めたパスタは、巻取りが甘かったのか一本だけするりと皿に落ちてしまった。

 

「……急に何をほざくんだお前は」

 

 呆れを少々含んだ恨みがましい目で、京香は目の前の灰髪の女を睨んだ。くだらない話を真面目な口調でされたのが妙に腹が立つ。

 一方、当の本人は全く悪びれた様子もなく、真顔で続けた。

 

「いやいや、マジな話で。みんなでかいからわからないだろうけど、ホントでかい。どうしてそんなでかいの?巨乳の遺伝子しか残らない奇跡が起きたの?ってぐらいでかい」

「私の胸を見つめながら言うな」

「知らんのかい?巨乳には視線を引き寄せるパワーがあるだよ」

「オヤジ臭いことを言うな」

「……で、どうなん?」

「知らん。そんなの気にしたことが無い」

「ちぇー、これだからでかいやつは」

 

 まったく……と、うんざりしたため息をつきながら。今度こそパスタを口に運ぶ。

 飯を口に入れたため、十秒ほど無言の時間が生まれる。そこでふと、今の話題で京香も相手の胸を見てしまった。

 

 そこには、何も〝無かった〟。

 

 サイズは丁度ぴったりのTシャツで、おそらくブラの類はしていない。

 そこからでもわかるくらい、何も〝無い〟。

 貧乳とも言えない、俗にいう〝まな板〟しかそこにはなかった。

 

「……何で(なして)私の胸を見る」

「………もしかして、お前が〝ない〟だけなんじゃないか」

「グフォッ!?」

 

 頬を殴られるような仕草をしながら、灰髪の女は床に倒れこんだ。

 

「やめてくれ京ちゃん、それはクリティカルヒットだ。私のライフはもうゼロよ」

「なんだお前、気にしてたのか……」

「いや別に。つーか、そんなにあっても多分邪魔だし」

「なんなんだ……」

 

 言っていることの筋は通ってなくもないが、情緒がぐちゃぐちゃでどんな気持ちで話しているのかまったくわからず、正直面倒くさいという表情を浮かべる京香に、灰髪の女は話を続ける。

 

「実際、そんな大きいもの持ってても腕の可動域とか狭くならない?特に京ちゃんみたいなスタイルの人からしたら動きづらいと思うんだけど」

 

 急にマジトーンになり京香は一旦食事を止めた。おっぱいの話でここまで真剣に話し合うのも馬鹿馬鹿しいが、何やら相手も考えている様子。ここは真剣に答えなければならない。

 

「確かに邪魔だと思うこともあるが……私の型はそういうものを考慮して組み立てている。だから、戦いの最中に気になったりということは全くないな。それに意識をそちらに割いている暇もない」

「脳筋だね」

「お前が言うか……」

 

 サムズアップしてくる目の前の女に、思わず拳を浴びせたくなる衝動に駆られる。折角人が真剣に答えてやったというのに、やはりこの女は話しているだけで疲れる。それなりの付き合いあるからそこは理解しているのだが。

 

「はあ……そんな事考えてる暇があるなら、後で稽古に付き合え」

「え、お断りします」

「組長命令だ」

「職権乱用反対!そんなんだからいい歳して彼氏いないんだよ!」

「そんなものはいらん!」

 

 立派な大人二人が言い争う様は内容も相まって物凄く下らない。今日は偶然、他の七番組の面々がいないからよかったものの、普段はこんな会話が出来るわけではない。

 

「……」

「急に黙るな」

「流石に疲れた」

「……どの口が言う」

 

 目の前の灰髪の女は何事も無かったかのように口にパスタを運んでいく。その姿を見て京香は半目になりながらも、自分も食事に集中することにした。

 

 

「「御馳走様でした」」

 

 そして数分後、大盛だったパスタは全て二人の胃袋に収まっていた。

 近くにあったティッシュで口を拭き、台所に食器を持っていく。皿洗いを済ませれば、午後からまた仕事だ。……「働きたくないーい」とソファーに寝転がりながらうだる灰髪女は無視する。

 

「京ちゃん、そっちは事務作業?」

「ああ、そうだな。……そしてお前は任務がある筈だ」

「へーい……わかってますよ」

 

 渋々といった様子で返事がくる。

 京香は内心で、何度目かもわからないため息をついた。このやる気の無さは入隊した頃から全く変わらない。けれど、最低限のやることはやる。どこまでいってもマイペースなやつなのだ。

 

「お前の実力なら、組長の座も取れただろうに」

「……急に何言ってんのさ」

「少し前まで組長推薦の話が出ていただろう」

 

 そう、この女は強い。階級はただのヒラ隊員だが、実力は魔防隊の中でもトップクラス。組長たちにも匹敵する力をもっているのだ。

 ゆえに、何度か組長にならないかという話は出ていた。

 

「あー、あの断った話か」

 

 しかしこの灰髪女はそういった話を全て断った。

 理由は『めんどくさいから』。それを聞いたとき、京香は途轍もない脱力感に見舞われたのをよく覚えている。

 

「私は向いてないと思うんだよ、上に立つのは。下でちょこちょこ動く方が性に合ってる。京ちゃんも、私が事務作業したり戦闘指揮する姿は合わないと思ってるでしょ」

 

 ソファーから体を起こしながら、のんびりとした口調で話す。

 確かに言っていることは理解できる。この女は上に立つ気質ではない。指示するのではなく、現場で大立ち回りを演じる姿が容易に想像できる。

 組長会議に連れて行くこともあるが、決まって暇そうに欠伸をしている。自分から関わることはせずに、三歩引いた場所で見物しているのだ。

 

「それに、私は七番組が気に入ってるしね」

 

 灰髪女はにやりと笑みを浮かべた。

 

「京ちゃんも日万凜ちゃんも、朱々ちゃんはおっぱいがでかいし、寧ちゃんもかわいいから」

「淫魔滅殺ッッ!」

「ギャーー!!」

 

 関節技をキメられ、床をバンバン叩く灰髪女。「ギブギブギブ!」と喚いているが、緩める気にはならない。

 

「あっ、手がおっぺえに当たってる……」

「フンッ!!」

「ギャーー!!」

 

 やはりこの女は、どこまでいってもマイペースでオヤジ臭かった。

 

 

 

 

 ×××

 

 

 

 

 

 魔防隊七番組隊員・黒野カグラ。

 

 魔防隊において、いろんな意味で有名な人物。組長でさえその名を聞けば、反射的に微妙な顔になるとまで言われるほどの人間。

 

 だがどんな人間かと聞かれれば、答えられる者は少ない。

 何故なら彼女は人前に出ることが滅多にないのだ。任務でも交流戦でも、姿を現すことの方が少ない。組長たちは何となくその人となりを知っているが、交流は少ない。噂では、組長会議に一般隊員であるにも関わらず出席しているとか。

 

 そんな珍獣みたいな人物が黒野カグラである。

 ちなみにそのように語られていることを本人は知っている。その上で面白がっている――

 

 

「――と、黒野さんについてはこんな感じかなー?」

 

 駿河朱々(するが しゅしゅ)の口から語られた黒野カグラという人物に、和倉優希(わくら ゆうき)は思わずゴクリと喉を鳴らした。

 

 今は仕事の真っ最中。具体的には朱々の肩揉みという仕事である。

 京香の奴隷兼寮の管理人として働いていくために、七番組の面々について軽く知っておこうと聞いてみたところ、思った以上の話であった。

 

「そ、そんな凄い人なのか……?黒野さんて」

「う〜ん……凄いっていうか独特な人なんだよねえ」

 

「アタシもよく知らないんだ」と朱々も困ったように言う。

 優希は今のところカグラと軽い挨拶しかしていない。その時は美人だな、ぐらいしか抱いた印象はなかった。

 

「いろいろ噂があってね。実は東家――九番組の人たちと親戚だとか、前の総組長と決闘して勝ったとか、羽前組長と同じように醜鬼を素手で倒せるとか……目からビームが出るなんてのもあったな〜」

 

 どうやら話題に尽きることのない人物なようで、朱々は次々と噂を挙げていく。

 

 特に気を引いたのは、京香と同じように素手で醜鬼を倒せるという話。

 まず人間が醜鬼を素手で相手取るというのは、普通は不可能である。

 しかし京香は能力の使い勝手が悪く、厳しい修行の末それを可能にしたと聞いている。ならばカグラも同じような境遇で、同じ方法で力を手に入れたのだろうか。

 

「まあ、あくまで全部噂ね。ホントのところは誰にもわかりませ〜ん」

「おいおい、仮にも同じ組の人だろ……」

「仕方ないじゃん、黒野さんって大体部屋に引きこもってるか、どっか行っちゃてるんだから。ユッキーもその内わかるよ」

「そんなことまで言われると、いざ話すとき緊張しそうだよ……」

「ダイジョーブ!悪い人じゃないと思うから」

 

 ケラケラと笑う朱々だが、それでも物怖じしてしまいそうだ。

 確かにカグラとは、まだまともに話したことは無い。食事はみんなと一緒に食べているが、すぐに済ませてフラっと何処かへ行ってしまう。優希にとって不思議な人であった。

 

「もしかして俺、避けられてる?」

「いや、あの人はそいうことはしないよ。アタシだってユッキーと似たような感じだし」

 

 もしやとその考えが一瞬頭をよぎったが、そういうことではないらしい。ほっと安堵のため息が出た。

 

「……逆に、黒野さんと仲が良い人っているの?」

「いるよー」

「誰?」

「組長」

「京香さんが!?」

 

 思わず聞き返してしまったが、考えてみれば驚くようなことではない。組長と隊員、特に京香のような人物であれば信頼関係は重要だろう。

 

「確かあの二人、同期だって言ってたかな〜。組長にしては珍しい、軽い仲だったよ」

「京香さんと、軽い仲……」

 

 正直言って、全く想像出来ない。

 京香との〝軽い仲〟とはどんなものなのか。やはり体育系のノリなのか。そうするとカグラも同じような性格なのか。だがこれまでの話を聞く限り、そうは思えない。

 

 カグラについての謎は深まるばかりであった……。

 




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