魔防隊の貧乳隊員 作:くろさん
「あ゛〜……」
魔防隊・七番組寮の風呂場にて。
湯船に浸かっていた
「…………何ですか」
正直コレはいつもの事なのだが、思わず低い声で反応してしまった。毎回風呂に入るたびに、灰髪の彼女はこんな声を出すのだから慣れてしまえばいいのだが、日万凛はなかなかそれが出来なかった。
反対に隣の彼女は反応が返ってきたのが嬉しかったのか、こちらに話を振ってくる。
「いやあ、毎度のコトながら魔防隊の風呂はいいねえ、という思いが声に出ちまった」
「それは良かったですね……」
「いい湯に隣に美少女おっぺえ……ゲフンゲフン!まったく、極楽には違いない」
「胸ばっか見ないください。セクハラで組長に言いつけますよ」
「スイマセンでしたマジ勘弁してゴボゴボ」
「はあ……」
湯に潜りながら土下座する彼女――黒野カグラに、日万凛はため息を吐いた。
カグラは普段部屋に引きこもってるか、ふらふらと出かけており、おかげで魔防隊内で妙な噂が独り歩きしているのだが、話してみると実際は結構違うところがある。
特に性格は、噂ではおっかない京香のような人物を思い浮かべるのだが、本当はマイペースでどこかオヤジ臭いような、男子高校生のような人物なのだ。特に胸に対しては並々ならぬ何かを感じる。
これを知ってるのは七番組内で京香と、最近知った日万凛、他は組長たちと一部の隊員で少ない。
そして実は、そんな人物像を知る前も今も、日万凛はカグラが苦手である。それも、食事や任務以外であまり顔を合わせないようにしているほど。
嫌いではない……と思う。本当に苦手なだけなのだ。
カグラから何かされたわけではないし、むしろカグラは日万凛が自分を苦手としている事を理解しており、カグラから声を掛けてくることは殆どない。マイペースな性格ではあれど、細かい気遣いは出来る人物なのだ。……胸をガン見するのはやめてほしいが。
「ところで、少年とはどうなんだい?」
「へっ!?」
と、カグラはまともな顔になり訪ねてきた。予想外の質問に――それと途轍もなく恥ずかしい記憶が呼び起こされ――変な声が出てしまった。
「いや、六番組との交流戦の話。京ちゃんの能力使って、少年――和倉くんと一緒に闘うんだろう」
どうやら至極真っ当な質問だったようで、今までの会話との温度差が酷い。
近々行われる六番組との交流戦。そこで日万凛は和倉優希を奴隷にして、姉である
「……まあ、ぼちぼちって感じですけど」
段々と優希とのコンビネーションも取れるようになってきた。今日だって必殺技を開発出来たのだ。あれが決まれば、八千穂だって倒せる筈だ。
絶対に勝って、『東』の連中も見返してやるという闘志が、日万凛には漲っていた。
「そうか、なら良かった」
そんな日万凛を見て、カグラは満足そうに笑った……気がした。
「私は交流戦には出ないし、当日は三番組に行かなくちゃいけないから。まあ、頑張ってくれ」
カグラは今回の交流戦に参加しない。人型醜鬼に手酷くやられ、行動不能になった三番組に応援として暫く出張する予定なのだ。彼女は魔防隊において『特例』という役回りらしく、同じことが何度かあった。
けれどそれがまた誤解を生んで、噂になっているようである。
事実としてカグラは強い。同じ任務をこなして、そのときに見たあの強さと苛烈さは、一握りの猛者である組長たちと遜色ない。あの姿は、到底普段のカグラとは思えなかった。
そんな一面が、日万凛がカグラを苦手としている理由の一つなのだが。
「
そしてもう一つが、カグラが東家の人間であり、日万凛の伯母にあたるということ。
だが血は繋がってるわけではなくあくまでカグラは養子であり、更には本家と仲が悪い。だから名字が『東』ではなく、元々の『黒野』なんだとか。
つまり、噂の一つ『九番組と関係がある』というのは事実なのだ。
実はそれを知ったのはつい最近であり、全く実感が無いのだが。
「〝伯母さん〟はやめてください。違和感が凄いです」
「ハハ、そりゃそうか。悪かったね」
バツが悪そうにカグラは頭を掻いた。
少しして、カグラは先に風呂を上がった。
その身体は、良く言えば無駄が無く引き締まっており、悪く言えば〝平ら〟だった。
それを見て、日万凛は自分の胸を見て、自分の姉を思い浮かべて、案外血が繋がっている可能性もあるのでは?なんて思ったりもした。
……だが、本人が気にしている体型よりも日万凛の目に留まったのは、
×××
時間は数日前に遡る。
「ところでさあ、魔防隊にギャグ要員って少なくないか?」
黒野カグラは、唐突にそんなことを言い出した。
同じ場に居たのは羽前京香と、情報交換も兼ねて七番組に訪れていた六番組組長、
突発であったが七番組と六番組で交流戦を行うことが決まり、諸々の詳細を決めた後での発言だった。
ちなみに何故カグラがその場にいたかというと、件の人型醜鬼にやられたという三番組の状況を天花から聞き出すためであった。
「また下らないことを……」
いつもの事ながらトンチキな発言に頭を抱える京香。
「ふむ……その心は?」
興味を抱いたのか、なぞかけのように尋ねる天花。
それに対してカグラは、よくぞ聞いてくれたと言わんばかりに話しだした。
「魔防隊って結構カッチリしたイメージじゃない。だから何かこう、もうちっと世間に親しみあるようなのがあってもいいんじゃないかなー、なんて思ったりした次第で」
「それは一理あるけど……私は地元のPR動画出たりしてるよ」
「うーん、ちょっと違うなあ。どっちかって言うとそれは天ちゃんのイメージなワケだし」
「じゃあどんなものを求めてるの?」
「ここぞっていう時にボケとツッコミが出来る人たち」
「複数形なんだ」
どんどん話が進んでいく状況に、京香はこめかみを押さえた。
性格は似ているところが少ないが、カグラは自由人で、天花はノリが良い。おかげで二人が一緒の場にいると、中身があるようで無い適当な会話が坂道を転がっていくように止まらなくなるのだ。今も会話は止まることなく続いている。
「……何となく心当たりがあるかも」
「マジで?誰!?」
「君と京ちん」
「ダニィ!?」
「私を巻き込むな!」
京香がこの会話を止める術は無いと諦めていたところ、思わぬ流れ弾が飛んできた。
「では、なにゆえ?」
「いや正直、自覚無い?君たち以外にギャグ要員って有り得ないと思う」
「〝有り得ない〟とは何だ天花」
「いいじゃない京ちゃん、『魔防隊ギャグ要員一号二号』、略して『魔ギャグ』爆誕だ!」
「勝手に名前を付けるな!センスが悪い!」
「うん、そういうところ」
けらけらと笑う天花に「どこがだ」と視線を向ける京香。確かにカグラといるとツッコミを入れることが……とても多いが、芸人になる気なぞ皆無である。
もしや、カグラの実態を知る他の組長たちも同じような認識を持っているのだろうか。だとしたら早急に否定せねばならない。妙な焦りが京香の中に生まれる。
「まさに凸凹コンビって感じ」
「―――ん?」
と。
空気がぴしりと固まった。
具体的にはカグラ周辺の空気が。
流石にその変化に天花も気づいたらしい。「どうしたの?」と不思議がっている。
「……天ちゃん」
「な、なんだい……?」
俯きながらゆらゆらと立ち上がるカグラ。
気のせいか、後ろに『ゴゴゴゴゴ』という文字が浮かんでいる。
京香には何となく、天花がカグラの地雷持ちネタを踏んだとわかった。
そして次の瞬間。
「貧乳はステータスだぜえええ!希少価値だああああ!!」
カグラは天に向かって叫んだ。
京香と天花はポカーンと口を開けていた。
そんな二人を置いて、カグラは熱弁を奮い始める。
「凸凹ってのはそういうことだろ!まあ確かに言いたいことはわかる!京ちゃんのデカくて柔らかそうな胸と私のまな板、山と地面だろうさ!……でもなあ、流石に谷ではねえええ!」
意味のわからないことを狂ったように語るカグラ。その光景に二人は若干引いていた。
「何だテメエらはでけえの見過ぎて平らなのは凹んで見えんのか!この世界の人類は巨乳以外は目が節穴になんのか!巨乳以外はエロく見えねえんか!」
頭をワシャワシャと掻き毟り、床に転げ回るカグラ。
「ああそうさ、巨乳はエロい。めっっっっちゃエロい。いつも心の中で『えっっっっど』とか言ってる奴は私さ。けど別に何もしてない。なのに、なんで神は私におっぺえを与えなかったんだ」
おそらくそれは魂の叫びだったんだろう。
だが、それを理解することは、二人には出来なかった。
一通り叫び終わったのか、カグラは元の場所に座り、何も無かったかのようにため息を一つ吐いて、口を開いた。
「明日、東京は雨だって」
「「頭大丈夫?」か?」
二人して同じことを言ってしまう。それほどまでにカグラが頭おかしい発言をしていたのだが。
当の本人はというと、涼しい顔をしてお茶を飲んでいる。
「今日は特に激しいね、君」
「シツレイな!私は何時だって変わらないぜ」
「会話をする気はあるのか……?」
「あるに決まってんじゃん」
いつの間にか、カグラには先ほどまでの頓珍漢な雰囲気は消え失せ、代わりになんだか真面目な雰囲気を纏っていた。
この女はやはりよく分からないと、京香だけでなく天花も思った。
「そもそも私がここにいるのは、三番組を襲撃したっつう人型醜鬼について詳しく聞くためだからね」
「……そういえばそうだったね」
「お前が変な事言うから、頭から抜け落ちてたぞ」
「まだ通達は来てないけど、多分三番組に行くことになると思うから」
本来なら組長同士の話に一般隊員が挟まることは無い。
だが、この女は――肩書はそうであるが――〝一般隊員〟とは違うのだ。だからこそ組長推薦なんていう話が上がるし、組長会議にも出席する。本人は乗り気ではないが。
「一つ聞くけど、何で私から話を聞こうと思ったのさ」
と、人差し指を立てながら、不敵な笑みを浮かべながら訪ねた。
確かに、同じ話は京香からカグラに伝えてある。あえて天花からも聞く必要性は少ないだろう。
「いやさ、単純に天ちゃんは
にやりと笑いながら天花を見つめるカグラ。
「オッケー、そういうことね。でも、それはハズレかな。京ちんと私に、情報の差異は無いと思う。組織間で外敵に対する認識の違いがあったら大変な事になる。総組長はそんな非合理的な事はしないよ」
「……まあ、そりゃそうだな」
しかし正論を突きつけられ、簡単に納得した。
「じゃあ私の要件は終わりだ」と言い、早々に席を立った。こういうところはやけにアッサリした女である。さすがの天花も拍子抜けした表情だ。
「いいのかい?何なら私の方からも改めて話すけど」
「いいよ。ヒラ隊員に組長が気を使うモンじゃあない」
ひらひらと
「そういや、冷蔵庫にこの前作った苺タルトがあったハズ。食べたいなら適当に取ってってねー」
そう言い残し今度こそ部屋を出ていった。
後に残された京香と天花はお互いに顔を見合わせる。
「カグラのやつ、いつの間に苺タルトなんか作ってたんだ……」
「あんな性格だけどお菓子作りは得意なんだよねえ」
黒野カグラの特技の一つ『お菓子作り』。時には組長会議で出されるほど、その味は絶品である。
主人公は前世が一般人ですがそれなりにそれなりです。
主にSN組とちょっと関わりがあります。
ですが中にいるやつとの関係は薄めです。
誤字脱字等ありましたらすいません。