魔防隊の貧乳隊員 作:くろさん
いつの間にかアニメ1クール分が終わりますね、ハイ。
\ウソダドンドコドーン!/
「……そりゃあまた、えらいことになったな」
京香からの詳しい報告を聞いて、カグラから真っ先に出た言葉がそれだった。
平坦な口調と感情の読み取りにくい表情であるが、あっけらかんとしたいつもの軽い雰囲気は消え失せ、腕を組んで天井を仰いでいる。
流石に黒野カグラといえども、このような状況でふざけ倒すほど狂人ではない。いつもの変人っぷりは鳴りを潜め、年に数回だけしか見られないシリアスモードへと切り替わっていた。
「まさか、やつらの狙いが優希だったとは……」
「まあ、分からなかったのは仕方ないって。そいつらが明確な知性を持ってるんだったら、普通は組長、もしくは隊員を狙うモンだよ」
「……」
遭難者に偽装した人型醜鬼が救助に向かった日万凛と朱々を強襲。寧がそれを感知し、京香は優希とともに二人の支援に向かったのだが、途中、もう一体の人型醜鬼と遭遇。そこでまともな交戦もせずに、優希だけを拐って忽然と姿を消したという。
結果的に、七番組での重傷者はおらず、増援のもう一体の人型醜鬼と蜘蛛のような醜鬼によって、朱々が手首に軽傷を負った程度。しかし、三体の人型醜鬼と二体の特殊醜鬼は、一筋縄ではいかない敵なのは明らかである。
カグラは重々しく頭を下げた。
「というか、すまん、
「……気にするな。これは、私の失態だ」
全て、カグラが七番組を出ていた時の出来事。
間の悪いことに、任務でカグラが醜鬼を殲滅していた場所と人型醜鬼が出現した場所は、丁度真反対の方角。おまけに、カグラがブツブツと一人猥談を繰り広げた後、百体近くの醜鬼が発生したのだ。
連絡が入ったのは、その大群を片付けている最中。大急ぎで寮まで戻ったのだが、時すでに遅し。事の顛末をたった今話し終えた、というわけだ。
「でも、取り敢えず、みんなが無事で安心したよ」
カグラは大きく息を吐き、脱力した様子で近くのソファに座った。
右手でガシガシと灰髪の頭を掻く様子は、若干気を抜いたように見える。
「……和倉くんも、無事ならいいんだが」
「おそらく、生きている。私の、
「なるほど。じゃあ、今は
「ああ、六番組にも支援要請は出した。すぐに向かってくれるらしい」
「それに、まずは皆を休めないとな」と言い、カグラの向かい側の椅子に座った。瞬間、京香も肩の力が自然と抜ける。
その様子を見て、カグラは少し意外そうな顔を向けた。
「……なんだ」
「いや、失敬。なんというか、案外落ち着いてるんだな、と」
「……そうか?」
「うん。前の京ちゃんだったら、もう少し焦ってたと思う。いつだったか、例の一本角と会った時は結構取り乱してた記憶があるけど」
「それは……そうだな」
確かに、京香の心は、京香自身が思っていたよりも凪いでいた。僅かな不安や焦りはやはり奥底で燻っているが、それに左右されることはない。
指摘したカグラは思い返したように尋ねた。
「やっぱり滝行が効いたんじゃない?」
「だといいがな」
少し前のことだが、京香はカグラを連れて――引っ張って滝行へと赴いたのだ。
以前、一本角と相対した時に京香は一瞬、組長という立場を忘れてしまった。あの時、優希が行動していなければ、最悪の結果になっていたかもしれない。
一度、己を見つめ直し、組長としての責務を再確認するためには、頭を冷やす必要があった。
一方のカグラは――無駄だと思うが――日頃の行いを少しでも改められれば、と思い、首根っこ掴んで連れて行った次第である。今回はカグラは抵抗の姿勢を見せはしなかったものの、死んだ魚のような目をとともに了承していた。
始めた当初は「寒い寒い冷てエエエ!」と叫んでいたのだが、能力を使わずに段々と慣れていったらしい。
最初はマッサージに丁度いいと言い出し、念仏を唱え始め、後に何故か下から火で炙りながら丸太三本を担ぎ、最終的には巨岩を百メートルほど押して運んでいた。もはや滝行とは関係がない。
最後、岩を運び終えた後にぶっ倒れ、危うく死にかけていたが。
一体その馬鹿力と根性は何処から来たのか、普段からそれくらいの気合を出せないのかと言いたいことはあったが、余りにも鬼気迫る状況に、京香は言葉を呑み込んだ。
途中、滝に打たれる京香を見ては、菩薩の皮を被ったオッサンの笑みを浮かべていたときは、迷わず手刀をお見舞いしてやったが。
「まあ、私としても、とても良い経験になったよ。新しい扉が開いた気がする」
「……なら、もっと態度で示してほしいが」
「ああ、違う違う。そういう話じゃなくてね」
「そういう話であれ!!なんのためにお前を連れて行ったと思ってるんだ!」
「フッ……あの程度で人間変われると?まだまだだね、京ちゃん」
ツッコむ京香に、人差し指を立て「チッチッチ」と舌打ちを振りながら言い返す。なんとも、人を苛立たせる仕草である。
「私はね、大切なことに気が付いたのだよ」
得意げに語る語るカグラに、京香は胡乱な目を向けた。早くもこの話が、灰髪女の十八番である下らないものだということを悟ったからである。
カグラは、たっぷり十秒ほど溜めてから静かに言い放った。
「―――やはり『透け』こそ至高」
「……、は?」
それほど大きな声ではなかったが、その声は静かに部屋に響いた。
そしていつの間にやら眼鏡を光らせ、机に両肘をついて口元を隠している。……そういえば、知り合って間もない頃に、眼鏡を使ったしょうもないギャグ?を見せられたことを、京香は思い出した。
だが、そんな京香に構わず、カグラはゆっくりと話し始める。
「『透け』というのは、本来見えなかったモノが見えるようになるということ。それはまさに、禁断の果実……かつて神の掟を破り、知恵の実を食した原初の二人への回帰と言っても過言ではない。いや、そもそも人間の原罪とは、そういった禁じられた道を歩んでしまう背徳的な感情、行動、選択……そういったものに他ならない」
普段より掠れた低い声で話す姿は、何故だか様になっていた。
何やら小難しい話に、京香は押し黙る。
「しかし、人間は可能性の獣だ。現状を打破し、新たな世界を創り出す。それらは人間自身にとって最善の手段となることもあれば、時として最悪の結末を導くことだってある」
妙な緊張感が、一瞬、場を支配する。
カグラは一息ついてから「故に」と前置きし、心の底から清々しい顔で言った。
「透けブラ、透けパン、透けTKB、それら全ては―――最高なのだ」
「南無阿弥陀仏!!」
「ぐはッッ――!!」
脳天に手刀を叩き込む。そこに手加減は一切ない。
まともに食らったカグラは、バコン!という衝撃音とともに、顔面を机に叩きつけた。
その威力は、京香が醜鬼を素手で屠っている時もかくや、というほど。常人が受ければ十中八九脳震盪を起こし、気絶する代物である。
「イッテェよ、京ちゃん!殺す気で今やっただろ!」
「悪いか?」
「うわもう目が据わっちゃってるよこの組長」
「そうさせたのはお前だが?」
しかし、当の灰髪女はというと、鼻頭を赤くしただけで、大したことはなかった。桁違いの耐久力を誇るモノを抱えているだけはある。
「いやだって考えてみなよ!濡れ透けのTKBとパンツ!敢えてふんどしを履かずに、普段使いのパンツを使う!ニッチな層のニーズを満たさない―――そこがいい!そしてこの二つを見て何も感じない人間は人間じゃねえ!!」
「煩い!お前の心は中年男か!」
「ハッハァー残念!ただのアラサー女ですぅ」
何処ぞの
先ほどまでの、わりと真面目な雰囲気は何処へやら。
幸い場は組長室。二人きりで話しているため、他の七番組員はここで繰り広げられている痴態を知ることはない。もし聞こえていたら、とんでもないことになっている。
「大体なんだあのポーズと眼鏡は」
「いやさ、心の中の碇司令がああしろって言うんだよ」
「誰だそいつは!?」
「マダオ」
「ますますわからん!」
京香はこめかみを押さえ、わけがわからないと唸った。当然である。
結局、この茶番はもう暫く続くのであった。
×××
京香の身体が能力の代償によってようやく動き始めた。
各員、精神身体ともに準備は万端。
連絡を聞いた六番組も支援として到着し、いざ出撃という矢先に。
「あれっ、黒野さんは行かないんですか〜?」
六番組隊員・若狭サハラが、大川村寧とともに玄関に立って一同を見送るカグラを見て尋ねた。
皆がいる手前、隊服をカッチリと着用し、感情の読み取りにくい表情を貼り付けている。
「ああ、あいつは留守番だ」
「へ〜、なんか意外ですね〜。てっきり、こいういうときだからこそ出撃すると思ってました〜」
「いや、緊急事態だからこそ、あいつはここに残らなければいかん」
ほんわかとした口調のサハラの疑問に、京香が答える。
カグラは、謂わば七番組の切り札。
それは七番組だけでなく、総組長を始めとする組長全員の認識に相違ない。
今回、優希を奪還するにあたって、魔防隊の手札を簡単に見せるわけにはいかないのだ。
無論負けるつもりはないが、何かあった場合の最大の保険として
「それに、相手が三人だけとは限らないしね。もし四人目が潜んでいて、七番組寮に襲撃してきたら、対処する人が必要だ」
「なるほど〜」
他の組から応援に来てくれるとはいえ、相手は今のところ未知数。
絶対的な戦力を残す必要があった。
「折角、噂の黒野さんの戦うところ見られると思ってたんだけどな〜」
「……やめておけ。そんなに楽しいものでもない」
「……そうね。見ない方がいいわ」
「え〜、なんで?」
残念そうに呟くサハラを見て、遠い目をして止める
「それじゃあ、皆さん気をつけて」
「お気をつけて!絶対に優希さんを取り戻してきてください!」
そんな彼女たちを横目に、カグラは不安など一切感じさせない声をかける。寧も、ふんす!と力を入れながら激励の言葉を飛ばした。
「うん、行ってきます」
「留守を頼んだぞ。寧、カグラ」
「お任せあれ」
頼もしい組長二人の返事。ここでカグラに、寧に変な事を吹き込むな、と釘を差さず。さしものカグラも、天使の写し身の如き美少女相手に下品なことは口に出来ない程度の良識は持ち合わせている。YESロリータ NOタッチ。
ひらひらと振られる手を背中に、七番組・六番組の共同戦線は戦いへと赴いていった。
×××
―――そうして、時間は飛んで
「そういえば、黒野さんって出かけてるの?」
夕食の席で、この場にはいない人物を心配して和倉優希は疑問を投げかけた。
席についているのは、日万凛、朱々、寧、そして優希の四人。京香は組長会議の準備のため、早々に夕食を済ませている。
特に何かを喋ることは少なく、いつもいるはずの場所に黙々と箸を動かす姿はない。
元々、今日の夕食はカグラ自身から、一人分準備する必要はないと言われていた。しかし、何故いないのか、その理由は言われなかったのである。
「ふーん……なんも言われなかったんだ、ユッキー?」
「うん、特に何も。だからちょっと気になっちゃって」
優希が七番組寮の管理人となって、それなりの時間が経つ。今や七番組の日常にすっかり溶け込んでいるが、ただ一人、カグラとはまともな交流がなかった。
話すことはあっても、距離感があるというわけではないが、いまひとつ掴みどころがない。
先日の出来事だが、優希が七番組へ帰還し、日万凛と朱々が退院した日は、なんとカグラが台所へ現れた。
なんでも京香から、久々にお前の手料理が食べたい、と言われたらしい。
カグラが料理が出来たことに驚きだが、それ以上に実際に食べて美味しかったことに驚愕した。出されたのは鮭のホイル焼きと、白身魚のカルパッチョ。それぞれ手際よく調理し、鮭も小ぶりなものが使われていたため、あくまで優希の料理がメイン、という細かな配慮が伺えた。
食べ終わった後、どうやって料理を覚えたのかと尋ねると、
「随分昔に料理が得意な友人と、その後輩に教わった」
と答えてくれた。
しかしながら、料理が好きというわけではなく、優希が来る前の七番組でも滅多に腕を振るうことはなかったという。本人は手軽なお菓子を作るほうがいいらしく、それで時たま冷蔵庫にクッキーやタルトが置かれているらしい。
それからなんとか話題を作ろうとするも、機会すら作れず、さてどうしたものかと悩み中なのだ。
そんな優希の心情を知ってか知らずか、日万凛がぶっきらぼうに答えた。
「そんな心配する必要ないわ。あの人は十番組に行ってるだけだから」
「十番組に……っていうと、組長会議と関係が?」
「関係があるもなにも、あの人も出席するのよ」
「へぇー……じゃあ、噂は本当だったってことか」
やっぱり何者なんだ……、と優希は心の中で疑問符を浮かべる。
けれども翌日、急遽組長会議に招集された優希は、黒野カグラという人物を僅かながらに知ることとなるのであった。
台所強襲。イベントかと思いきや、何も起こらない!
▼プロフィール
所属:魔防隊七番組隊員
身長︰170cm
年齢:28歳
誕生日:7月4日
血液型:不明
バスト:垂直(AAカップ)
【挿絵表示】
読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。
これ短編じゃねえな、と思い連載に切り替えました。これからもよろしくお願いします。
誤字脱字等ありましたらすみません。