魔防隊の貧乳隊員 作:くろさん
お久しぶりです。
今回ちょっと長くなりました。
時間は再び遡る。
「あの二体は神の一部になれたわけだ。光栄だろうな」
「そうだね。彼女達は
八雷神の拠点。
人型醜鬼の
六、七番組と和倉優希の姉・青羽を筆頭とする人型醜鬼との戦いの終盤に介入し、空折の
「これで八雷神が揃うまで残り二柱……」
「廃れ者どもに神罰を下すのが待ち遠しいぞ」
感情を表に出さない壌竜と、交戦意欲を露わにする
そんな中、紫黒はというと、一人思考に耽っていた。
「……どうした、紫黒」
「ん?ああ、ちょっと考え事をね」
「廃れ者どもへの次なる攻撃をもう考えているのか?」
「いや、そういうんじゃなくて、今回ので気になったことがあって」
紫黒の発言に、壌竜と雷煉は首をかしげた。
口に出すべきか否か、僅かに逡巡するが、
「前に雷煉が魔防隊を攻撃したときがあったじゃない。あのとき私と壌竜は遠くから見てたけど、どこからか炎の槍が飛んできたの、覚えてるでしょ」
「……無論、覚えているとも」
雷煉にしては珍しい、苦々しい顔を浮かべながら答えた。あの予想外の出来事は、この中では雷煉が最も思い出したくはないのだろう。
遠巻きに見ていた紫黒ですら、あの炎を見た時、何よりもまず
本能に刻まれた、とでも言うべき原初の恐怖。
炎に対して抱いたものであったが、同時に、恐怖を抱いている自分自身に恐怖した。
現世に浮かぶ太陽の如く
万物を平等に焼き尽くす■■の炎。
あんなモノが、この世界に存在していいのか。
自分たちの存在を棚に上げ、アレこそが人類を滅ぼすのではないか、という考えが頭を掠めた。
アレは、自分たち
事実、生半な攻撃は通さない肉体強度の高い雷煉でさえ、飛び散った火で右腕が燃えた。現在は完治したが、あのときの雷煉の取り乱しようは尋常ではなかった。
紫黒が救出しなければ、六番組の組長にあっけなくやられていたことだろう。
「で、何故今アレの話が出る。もしや、アレを恐れて今後はより慎重に動く、とでも言うまいな、紫黒よ」
「そんなことは……なくもないさ。確かに僕たちはアレを恐れたけど、むしろ、今回はアレの正体を逆におびき寄せるっていう目的もあったんだよ」
「……なるほど。気にかかっているというのは」
壌竜は、紫黒が話し終わる前に言わんとしていることを理解した。
「――そう。今回、あの炎は来なかった」
神が再び姿を現したというのに、あの炎が襲い来ることはなかった。
少なくとも、あの場にいなかったことは確か。ならば再び遠隔地から来るかと身構えた。多少覚悟を持って行き、神としての存在もアピールした。
だが、終わってみれば拍子抜けである。紫黒としては、半ば賭けに出たつもりだったのだが。
「下手に手出しはできない場所だったのでは?」
無論、あの場所が洞窟だったというのもある。どれほどの精密性があるのかは不明だが、あの威力では洞窟が崩壊する可能性が十分にあった。
推定、あの炎の持ち主が魔防隊にいるとなれば、仲間を危険にさらすとは考えにくい。
もしくは前提として神の存在を感知できていない可能性も、あのときに魔都にいなかった可能性もある。列挙すればキリがないが、こればかりは慎重にならざるを得なかった。
「まあ、わからないことを考えても仕方ない。今は出方を伺いながら攻めていこう。姿の見えない敵を無闇に恐れて何もできないんじゃあ、神の名が廃れる」
「そうだな。いつまでも手を拱いていては何もできん」
「フッ、その意気だ、紫黒よ!あんなモノ、今度こそ我が炎と
そう言って調子を取り戻す三柱の神。未知数の
そこで紫黒は思い出したように提案を投げかけた。
「ああ、そういえば、最終的に数人ぐらいなら人間残してもいいよね?」
「なんだ。珍品でも集めるのか」
雷煉の呆れたような問いに、紫黒は妖艶に舌舐めずりをした。
「フフ―――ちょっと、気になるのがいてね」
あの一本角を倒した組長の奴隷。
桃の恩恵を持たない男が、あれほど戦えるとは、紫黒の興味を大いに唆った。
……だが、その心中には、未だあの炎に対する一つの考えが渦巻いていた。
―――あの炎は、間違いなく
それは絶対に揺るがない。
―――けど。
―――あの炎は、絶対に人類の味方なのかな?
×××
―――歪だ。
その姿を視界に捉える度に、そう思う。
内に眠る■とは正反対に冷めた心。
諦観を以て世界を眺める瞳。
決して本心を語らない口。
―――ツギハギだらけの存在。
あれだけのものを抱えているというのに。
抱えきれないものを落としているというのに。
如何して平然としていられるのか。
如何して日常を送ろうと思うのか。
……異常だ。
口にするのを、なんとか堪える。
己がそれを言ってはならない。理解しなければならない。
他ならぬ
未知は、全貌を見せてはいないのだから。
×××
「――いい匂いね。出来上がりが楽しみ」
「そりゃなによりッス……期待しといてくだせえ」
厨房にやってきた総組長の言葉に、黒野カグラは微妙な顔で答えた。その意は――毎度のことながら――現在の状況に対する疑問であることが伺える。
――組長会議の茶菓子番。
名誉だか不名誉だかよくわらない、カグラの肩書の一つ。
緊急の組長会議を除いて、会議が開かれる度に十番組へ赴いて茶菓子を作り、振る舞う。
「なぁんで私がこんなことしてるんですかね」
「いいじゃない、本当に美味しいんだから。使える人材はしっかり使う……組織の
「使い所間違ってません?」
魔防隊を規模の大きい会社と考えて、社長と幹部たちに手作りの茶菓子を出すヒラ社員。流石にアットホームすぎる職場だ。アットホームすぎて泣けてしまう。
ちなみに材料費は総組長のポケットマネーらしい。
「もしこれで私がタバスコでも仕込んで、ドキドキ☆逆ロシアンルーレットでもやったらどうするんです?」
「私含めた組長全員を敵に回して、あなたは消し炭になるわね」
「めちゃくちゃ大胆な殺人予告ゥ」
ホワイトな職場だ。ミスったらタヒぬだけで。
「いやでも、何故私が作るんでせうか総組長殿。どうせなら老舗店のこだわりの味だとか、高級で美味いもの買えばいいでしょうに。アメリカの大統領が聞いたら耳疑いまっせ」
「あら、別にそんなことなかったわよ。なんなら食べたがってたくらい」
「あら
「それに高級菓子なんて一々買わなくても、もっと手頃に美味しいものが食べられるんだったら、普通はそっちを選ぶでしょう」
「御尤も―――お、」
そこでオーブンが\チーン/と鳴った。扉を開けると、フレッシュで酸味のある柑橘系の香りが鼻腔をくすぐる。中で焼き上がったのはレモンカステラだった。
それを見て、恋は満面の笑みを浮かべる。
「やっぱり、あなたが作って間違いないわね」
「まだ完成じゃないッス。この後冷やすんで、会議までお待ちを……一応確認ですけど、今日は二人分多く作ってよかったんスよね」
「ええ。一番組の新しい組長と、
置いてあったミトンを手に取り、オーブンを覗き込むカグラ。焼き上がりは十分だったようで、レモンカステラは冷蔵庫へ移った。
それではこれで一段落……とはいかない。
最後は最も重要な仕事――切り分けがある。寸分の狂いなく、同質量同体積に、キレイに等分しなければならないのだ。
以前、純粋な配慮で量を少なくしたところ、会議が終わった後に「余計な気遣いは不要です」というお言葉とともに物凄い睨まれた。普段から関係が微妙なだけに、さしものカグラも冷や汗をかいたものだ。
美味しかった、ということでもあるのだが、それ以上に――失礼ながら――食への拘りは軽んじるものではないと実感した出来事である。作っている本人は食への興味は薄いのだが。
「あなた、噂の管理人には食べさせてないの?」
「いや、多分何回か食べてるかと。基本作ったやつは冷蔵庫に置いておくんで。総組長と違って私は優しいですから」
「グーとチョキとパーのどれがいい?」
「げんこつ目潰し平手打ちのどれかってことですか?」
ふと思い立って、手馴し程度に何個か作る。一つはカグラ自身で、あとは誰でもお好きなように、と。大抵は朱々が見つけて食べてしまうのだが。
味覚を半分失って久しい身。キッチンに立つのは、自分に残された感覚と、腕が落ちていないかどうかの確認でしかない。……あとは、まあ、美味しいと言ってくれるのが単純に嬉しかったり。
「まあ、作らないと
「―――……そう」
軽い調子で言いながら、冷蔵庫の扉を閉める。流しへ向かうと、水に浸してあった器具を洗うため、スポンジを取った。
カグラの現在の状況としては、早急に些事は片付けて、会議が始まるまで隠れていたいところ。厨房にいれば顔を合わせたくない人物が突撃してくるのだ。カグラとてそのような相手はいるし、だからこそ接触は最低限にしたい。
他人との接触を避けることは得意なのだが、どうしてか見つけてくる。数年連絡すら取っていなかったのだが、それ以前の関わりの中で、カグラという人間を上手く掴んだのか。
顔を合わせても挨拶するだけならいいのだ。それだけならば、態々避けることはない。
けれども、会う度に御小言を頂戴すれば、まあ、会う気は失せてしまうもので。
自身のことなんぞ気にかけないと思っていたばかりに、どうにも居心地が悪い。
音信不通の間に心配をかけていた、ということなのだろうか。自身のことを棚に上げて、わからない人だと顔を思い浮かべた。
「……まあ確かに、あそこでまともに話したのはあの人くらいだしなぁ」
「何?」
「いえ、なんでもありませんよ」
横顔を眺める。
視線の先は、何処か遠くを見つめている。
珍しく、この灰髪女が何を考えているのか、恋には理解できた。
そこで何を思ったのか、恋はカグラへと手を伸ばした。
「ねえ」
「うお」
と。
恋はカグラの顔を両手で掴み、自分へと向けさせる。
「……………えぇ?」
唐突な出来事による困惑の顔。
今日初めて目が合う。
灰と
基本的に雑談においてカグラは恋と目を合わせない。というより、一部を除いてカグラは目を合わせて話さない。一連の会話の通り、話すのが苦手というわけでもないというのに。
大抵の場合、胸を見ている。さりげなく、職人技のように胸を見ている。元々人前に現れること自体少ないため、主に胸を見られるのは組長たち。大半は言及しないだけで、気がついているが。
無論、総組長たる山城恋にそんな視線を向けるのはカグラのみ。
灰髪の女は、山城恋という個人を敬ってもいなければ、畏れを抱いてもいない。それどころか度々おちょくる。
彼女が敬っているのは、あくまで総組長という肩書。権力という、一般人が持っていない力だ。
凡そ、恋が今まで出会った人間の中で、どの分類にも当てはまらない人間。
「気に食わないヤツ」
「
さらに困惑を深める顔を放してやる。今日は一回しかイジってないよな?などと先までの会話を思い出す。
「え、ホントになんスか……?」
「なんでもないわ」
「いやいやいやいや」
「なんでもないって言ってるでしょ」
「えぇ……」
にこりと笑う恋。
頭に「?」を浮かべるカグラ。
「いきなりガチ恋距離は流石にビビるんスけど……」
「何か今、とてもあなたを殴りたい気分だわ」
「気の所為では?」
恋にとって気に入らないのは、
カグラの持つ〝力〟こそ、恋は最も気に入らないのだ。
一体何故、こんな人間にあれほどの力が宿るのか。
一体何故、
一体何故、心の内を明かさないのか。
「―――さて」
何度も繰り返した思考を断ち切る。
「それじゃあ、私は会議の準備をしてくるわ」
「ああ、もうそんな時間スね……って、ああ、やばい。早いとこ逃げねえと――っと、そういや、」
そこでカグラは何か思い出したのか、「ちょいとお待ちを」と恋を引き留めた。
思わず訝しげな顔をする恋だが、カグラは厨房の端にラッピングして置いてあったものを手渡した。
「これ……」
「ちょいとばかし手土産を持ってきたんスけど、渡すのを忘れてました――カップケーキ」
言いながら
「あなた、こんな凝ったものも作れたのね……」
「いやー、中々大変でしたよ」
というのも、そのカップケーキは可愛らしい犬のデコレーションがなされてあったのである。それも三つのうち二つは、恋が飼っている柴犬を模していた。
「まあ、手作りなんで、なるべく早く食べてもらえれば」
「ありがとう。しっかり堪能させてもらうわ」
「眺めすぎて食べるの忘れないでくださいよ」
傍から見るとわかりにくいが、恋はカグラの作ったカップケーキで、見事に上機嫌になっていた。
「カステラ、楽しみにしてるわね」
そう言い残し、恋は足取り軽く厨房から去っていった。
……そう、恋は完全に失念していたのだ。
黒野カグラが急にこんなことをするなんて怪しい、という至極単純なことを。
大抵の場合、何か仕掛けているのだろうということを。
カップケーキを手渡される際に浮かべた、カグラのしたり顔を見ていれば気がついたかもしれない。
だが、恋は気がつかなかった。
全てはもう手遅れだ。
たった今、まだ自分は何もしていないと自問しておきながら。
「―――計画通り」
厨房でゲスい顔を浮かべるカグラ。
何故か、そこには途轍もない達成感が感じ取れた。
三つのうち一つ――タバスコがたっぷり入った激辛カップケーキに恋が悶絶するのは、これから一日後のことであった。
×××
数分後。
「……よし、ここなら大丈夫だろ」
カグラは人気のない廊下にいた。
場所は組長たちが集まる会議室から遠く離れた廊下。
十番組の人間でも滅多に寄り付かないような隅の隅。
会議のために来た組長ならば絶対に来ることはない。
身を隠すため、絶賛す◯っコぐらしを満喫中だった。
とはいえ柱の影から周囲を伺う様は、忍び込んだ泥棒のようで、落ち着きの欠片もない。
「急に顔を掴んできたきときは、実行する前にバレたかと思ったが……うんうん、結果的に総組長おっぺえがちょっと当たってたからいいか……制服越しでも伝わる柔らかさとハリと大きさ、正に優等生おっぺえだな……デュフフ」
修正、変態のようで近付きたくない。
道端にこんな人間がいれば即刻通報ものだ。
だが、あまり騒ぐわけにもいかず、今回はすぐに収まった。
「敵影なし……警戒区域の安全確保よし」
「ふぅー……」
一つため息が木霊する。
カグラが見上げる天井は染み一つない。
京香たちは十番組に向かっている最中だろうか。今朝になって急遽連れて来られることになった優希は、やはり緊張しているだろう。
面倒なことにならなければいいが、まあ、強い心臓で乗り切ってほしいものだ――と無責任に心中で合掌する。
未だ優希とカグラはまともに話していない。用が無いからである。
微かに覚えている前世の記憶と随分違う、女尊男卑の社会。その風潮の中心ともいえる場所で頑張る少年を応援こそすれど、積極的に関わろうとする気もなく。管理人がいることで、もう飯を作る必要がなくなった感謝がある程度。
「
誰に向けてかもわからない嘲笑。
ゆるゆると首を振り、思考を払う。
「あー、トイレ行きたくなってきた」
残ったのは尿意だった。
数秒、我慢するか躊躇ったが、身体によくないと素直に行くことにする。使うトイレも会議室から遠い場所。態々そんなトイレを使う組長もいないだろうと考えた。
よっこらせと立ち上がり、忍び足で向かう。
時折柱の影に身を潜めながら、忍者の如く移動する。
一瞬、Gのように天井でも這ってやろうかとも思ったが、流石に
音を消し、気配を消し、存在すらも消して、ついにトイレに辿り着く。
オレの勝ちだ――そう確信して、
―――むにゅ、
「―――あら」
「―――あ?」
その瞬間、柔らかい感触とともに視界が閉ざされた。
問答無用で全てを包み込む柔らかさ。
触れるものを無条件で安心させる温かさ。
そして、これほどの包容力を生み出す大きさ。
これは巨乳――否、爆乳だ!!
それを確信したカグラは、
「まさか、自分から来てくれるとはね。明日は火でも降るのかしら」
艶のある声がかかる。
波打つ藍色の長髪。
カグラと同じ高さの目線。
仄かに香る〝いい匂い〟
胸元を大胆に開き、スリットを入れた大胆な隊服。
何より、その胸にぶら下げた爆乳。
「相変わらずその調子で、逆に安心したわ」
聖母のような微笑みが向けられる。
しかしカグラは答えず、ただ己の不運を呪っていた。
「久しぶりね――カグラ」
現状、カグラの最も会いたくない人物。
九番組組長にして、黒野カグラの義理の姉――
ぶっちゃけ、カグラは恋のことが苦手です。
能力含めて。
Tips▼
八雷神
未だ絡みなし。当分は虎穴に入らずんば精神。
恋
ご存知地球の答え。相性最悪。
優希
未だ絡みなしその2。主人公だから仕方ない。
カグラ
心はクソガキ。
誤字脱字等ありましたらすみません。
それと今更ですが感想を送ってくださった皆様、ありがとうございます。返信はできませんが、Goodボタンで返させてもらってます。何卒……